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逃走、盾役少女  作者: 善信
第三章 天使大降臨祭り
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13 再び勇者と出会う旅

ひとまず私を落ち着かせようとしてくれた、モジャさんの慌てっぷりを見て、なんとか冷静さを取り戻す事ができた。

叫ぶ事で多少はスッキリもできたし、何より自分以上に慌ている人を見ると妙に冷静になれるものよね……。

モジャさんにお礼を言い、朝の食事が始まる前に話しておかなければならない事があると、部屋のドアを閉めてもらう。


「それで、話ってなんだ?」

ウェネニーヴとの事なら、おじさんは邪魔する気はないぞと、変に気を回した事を言うので、全力をもって否定する。

「実は……これなの」

そう切り出して、私の手のひら上で死んだふりをしている小マシアラを見せた。

「おお!これは……」

え!もしかして、これがマシアラの成れの果てだと気がついたの!?

「あれだよな、お土産物の定番の『光るガイコツのキーホルダー』だろ!」

どこの定番よ、それは!

「ああ~、エアルは女の子だから、こういうのは買わないか」

何か納得したようで、モジャさんはうんうんと頷いて見せる。うーん、男の子はこういうのをお土産にもらって嬉しいのかしら……?

あ、そんな事より!


「違うのよ、モジャさん。実はこれ……」

そう切り出して、かい摘まんで事情を説明した。

「これが……あのマシアラ!?」

「その通りであります」

モジャさんの言葉に答え、挨拶するみたいに片手をあげたキーホルダーに、彼は驚愕の表情を浮かべた。

そんなマシアラを、いまいちどう扱えばいいのかわからないみたいで、モジャさんは私とマシアラの顔を交互に見る。

「……まぁ、ウェネニーヴが受け入れちゃったから、私としては連れていくしかないかなって」

「そうか……」

うちのパーティの最大戦力である、彼女の発言力は何気に大きい。それでも私がダメよと言えば、渋々は諦めてくれるだろうけど……。

「我慢させてる分、たまにはわがままも聞いてあげたいのよね……」

ポツリと呟いた私の言葉に、「お姉ちゃんしてるなぁ」とモジャさん達はからかうように言った。

確かに、可愛い妹分ではあるからね。


「どれ……エアル、ちょっとそいつを貸してくれ」

そう言ったモジャさんに、マシアラを手渡す。

「野郎同士で、ちょーっとお話しようじゃねぇか」

そうして、少し私から距離を取ると、ヒソヒソと何やら話始めた。

「……どんな……ゴーレム……」

「……バインバインな……容姿も自在……」

なにやら漏れ聞こえてくる声から察するに、ろくでもなさそうな内容っぽいわね。

呆れながらも二人の密談が終わるのを待っていると、どうにか話はまとまったみたいで、握手……というかモジャさんが差し出した指を、マシアラが握っていた。


「よし、話は決まった。俺もこいつを連れていく事に賛成しよう」

これで反対意見は無くなった訳か……正直、少し残念な気もするわ。

「それでな、エアル。時々、こいつの作ったゴーレムを、俺も使わせてもらう事があると思うから、その辺は勘弁な」

「はあぁぁっ!?」

テヘッとはにかんだような顔で変な事を言い出すモジャさんに、私は思わず大声をあげてしまった!

「な、何を言ってるのよモジャさん!」

百歩譲って、竜の本能を抑えたり我慢させてるウェネニーヴが……っていうなら理解できるけど、ついでにモジャさんもっていうのは、容認できない!

うら若き乙女(わたし)もいるんだから、そこは自重してよっ!?

しかし、彼はいたって真面目な表情を作ると、落ち着いた口調で説明を始めた。


「いいか、これは冒険者パーティによくある事なんだが、そういう性欲のトラブルから解散、あるいは全滅っていうのはあるんだ」

ええ~、そんな馬鹿な……。

「いやいや、俺も一応は冒険者の資格を持ってるからわかる。長い旅や、緊張状態の続くダンジョン探索なんかを男女混成のパーティで過ごしてると、そういった物が顔を出すんだよ」

例えば……と前置きして、モジャさんは様々な事例を話してくれた。

他にも、冒険者達の斡旋所……いわゆる「ギルド」のある街には、たいがい娼館なんか豊富にあるのもそういう訳なんだとも教えてくれる。


な、なるほど……。

田舎育ちの私は、早い段階で性知識をそこそこ身に付けてるつもりだったけど、旅という特殊な環境が絡むと、発散するのも大切なのね……勉強になったわ。

でも、そういう理屈を知ってるなら、モジャさんはとっくに童貞じゃなくなっててもおかしくないのに。

「ばっか、お前ぇ!初めての相手は本当に好きな女性(ひと)じゃねぇと嫌だろうが!」

乙女かっ!

女の子なら慎重になるのもわかるけど、男の人がそんなにこだわるものかしら?

村の年頃の男の子なんかは、大人の手伝いで街に行った時に、大人の階段を登って来てたもんだけどなぁ。


「でも、そういう事なら、ゴーレムを使うのはいいの?」

「無機物相手だからセーフだろ」

そういう物なのかしら。

しかし、そんなモジャさんの主張に、マシアラは「わかる~」と乗ってきた。ま、まさか、あなたも……。

「左様、小生も童貞でござる」

左様て……。

「なにせ、生きてる間は魔法の研究一筋。死んでからは、この身でありますからな」

あー、なるほどね。そう言われると、そんなタイプに見えるわ。

「ですから、小生はこの身が朽ち果てるまで愛する方にお仕えして、その人が幸せに暮らし、やがて天に召されるまでお側にいたいのでござるよっ!」

「尊い!尊いよぉ!」

主張するマシアラに、モジャさんが両手を合わせて賛同する。

恐ろしく拗らせてるなぁ。やはり気持ち悪いわ。


「わかったわ。でも万が一、マシアラが裏切った場合はどうするの?」

「そうさせないためにも、監視を兼ねて俺の《神器(やり)》にキーホルダーとしてぶら下げておこう」

なるほど、それならモジャさん槍を伸ばすだけで遠くに追っ払えるわね。

「グフフ……できればウェネニーヴ様のおっぱいに挟まれて過ごしたいだけの余生でしたが、現状では仕方ありませんな……」

そう……何言ってんの、あなた……。


それから、今のマシアラが作り出せるゴーレムの数と持続時間を聞き出した。

ふむ、同時に三体ぐらいで、約六時間ほどの持続時間ね。それと危ないから、アンデッド系の能力は外してあるとの事。なるほど。

よし、ひとまず現状の把握はすんだ。

あとは……。


「モジャさん、マシアラ……そして、後でウェネニーヴにも言っておくけど、今後の旅において二つだけ約束してほしい事があるの」

「ん?なんだ?」

私の話を聞いてくれる体勢になった二人に、守ってほしい条件を告げる。


「ひとつ!ゴーレムを使って……いわゆる発散をする時は、私の目の届かない場所でやること!」

なんだかんだ言っても、私だって嫁入り前の娘だ。夜毎、近くでそういう事をやられたら、精神衛生上よくないからね。

「なるほど、ごもっとも」

「それで、もうひとつはなんでござるかな?」

納得してくれたモジャさん達に、私はもうひとつの条件を口にした。

「あの、その……つ、作り出されたゴーレムの外見を、ぜったい私の姿を模した物にしない事っ!」

昨夜、私が破壊した「私そっくりなゴーレム」の姿が頭に浮かぶ。竜のウェネニーヴならともかく、他の人に私そっくりなゴーレムがあんな事やそんな事されるかもなんて、想像するだけで耐えられない!


しかし、そんな私の心配を吹き飛ばすように、二人から返って来たのは爆笑の声だった。

「わははははっ!お、お前は、自分がどんだけイケてる外見って思ってんだよ!」

「冗談は、もっとおっぱいが育ってから言ってくだされ!」

ゲラゲラ笑う彼等を前にして、羞恥と怒りで顔が熱くなっていく。

「そんなに笑うことないでしょうがあぁぁっ!」

笑い続ける二人に平手打ちをお見舞いし、私は恥ずかしさを誤魔化すためにウェネニーヴの所に行ってくると吐き捨てて、部屋から駆け出していった。

まったく、これだからデリカシーの無いおっさんは……。


            ◆


たくさん運動した後(・・・・・・・・)のようにスヤスヤと夢見心地で眠っていたウェネニーヴを起こした後、私達はプルファの一家と朝食を共にする事になった。

しかしその席で、ウェネニーヴが私に寄り添ってくる度に、プルファの御両親が複雑そうな顔を見せていたのが忘れられない。

昨日までは、ほのぼの姉妹を見てほっこりしてた風だったのに……。

微妙に緊張した空気に居たたまれない気持ちになるし、出来ることなら逃げ出したいわ。

とはいえ、勇者達の情報が届くのは二、三日後との事だったし、耐えるしかないのよね……。


……なんて思っていたら、その日の昼にエルフの城から呼び出しがかかった。

え、もしかして勇者の情報が手に入ったのかしら!?

半信半疑で登城すると、そのまま王様達の元へと通された。

「おお、よぐ来だな」

迎えてくれた王様や長老に挨拶を済ませると、早速呼び出した理由を聞かせてもらった。


「おう、あれだ。勇者の居場所がわがったぞ」

本当に!でも予想以上に早かったわね。

「まぁ、それもそのはずでよ、勇者達がいんのがウグズマ国のクロウラーっちゅう街なんだ」

「はぁ?」

王様の言葉に、すっとんきょうな声をあげたのは、私ではなく隣にいたモジャさんだ。

でもまぁ、それも無理はないわよね。だって、その街は私達が初めて魔界十将軍と戦った所であり、モジャさんの古郷だもん。

「ちょっと待て待て!それじゃあ、それなりの時間が経ってるのに、勇者一行(あいつら)は何してたんだよ!?」

そうよね、確かに色んな雑用はやらされるかもしれないけど、本来なら私達よりも先に行っててもいいのに。


「その疑問については、こちらに……」

王様達の近くに控えていた、半分顔を隠す諜報員らしきエルフから、数枚の紙の束を受けとる。

それらにザッと目を通すと、見慣れぬ文字が飛び込んできた。

「……勇者教?」

なにこれ。

「文字通り、勇者を教祖とした宗教団体です」

諜報員エルフの言葉に、私は思わず紙の束を落とした。


な、なにやってんのよ、勇者あぁぁぁぁっ!

この世界にはちゃんと神様がいるのに、新たにこんな宗教を立ち上げるなんて、神様にケンカ売ってるの!?

「さすがにその報告書を見だ時は、『嘘ぉん!?』って思っだげんじょな」

そ、そうよね。人間(わたしち)よりも精霊や神に近い彼等から見ても前代未聞だもんね。

「ま、俺達は神様にケンカ売るつもりはねぇがらよ。邪心どの決戦の時に組むっちゅうなら、まずは勇者をなんとかすてけれ」

まったくもって、その通り……。


「こうなりゃ、戻るしかねぇな」

モジャさんの言葉に、私達はコクりと頷く。

そう、次の私達の目的は、邪神と戦う前に神様にケンカを仕掛けかねない、勇者を止める事だ。

……次から次へと面倒な事態を引き起こすわね、あの異世界から来た勇者は!

準備をするため、王様達の謁見の間を出た私達は、何を考えているのかわからない勇者の愚痴をこぼしながら、ズンズン進んだ。

「……それにしても、宗教か」

「ええ……最悪の場合、信徒という一般人とも揉めるかもしれませんね」

怒りも少しずつ収まり、今後の話に移行していたのだけど、最大の懸念が議題に上がった時、みんな一様に黙ってしまった。

「そうね……でも、中心にいるのは勇者なんだから、とにかく彼を捕まえて説得しましょう。それで、もしもダメだったら……」

ウェネニーヴ達に笑いかけながら、私は言った。


「逃げよう」


そう告げた、やや現実逃避的な私の言葉に、二人は思いきりいい笑顔で賛成してくれるのだった。

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