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逃走、盾役少女  作者: 善信
第三章 天使大降臨祭り
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01 エルフの国へ

よーし、いったん落ち着いて状況を整理しよう。


とりあえずは、なにやら私達を勇者と勘違いしてた魔族に「私達は勇者じゃないよ」というのは伝わったはず。

だけど、調味料を作って喝采を浴びてる勇者よりも、竜を使役して魔界十将軍を倒す私達の方が、よりヤバいと認識されている……と。

ダメだ!なにも好転してない!


良くなるどころか、悪化している状況に頭を抱えていると、ウェネニーヴがスリスリと体を擦り寄せてきた。

「お姉さまぁ……ご褒美をください」

うーん、確かにベルウルフ達を驚かせて隙を作った時、そんなことを言ったけど、こんな時になんて呑気な……。

それに、さっき彼女が言ってきた条件は、ご褒美の範疇を越えている。

「先程の『お姉さまの処女』といったご褒美は、我ながらガッつき過ぎだったと反省してます……」

そ、そうね。あと、あんまりそういう事は公言しないでもらいたいわ。


「ですから、もっと簡単なお願いにしました」

そう言ってウェネニーヴが提案してきたのは、『私は十秒間だけ目をつぶって、何をされても抵抗しない』というものだった。

あ、怪しい……。

あからさまに訝しむ私に、ウェネニーヴは慌てて詳細を説明していく。

「お姉さまが無抵抗の間、性的行為や過度のスキンシップは無しという事でいかがですか?」

んん……まぁ、彼女にはよく助けてもらったし、それくらいなら……。

仕方なく私が了承すると、ウェネニーヴは飛び上がって喜んでいた。

そこまで喜ばれると、不安はあるけどご褒美の甲斐があるというものよね。ほんとは、こんな事してる場合じゃないけど。


「では、お姉さま。よろしくお願いします」

「ええ、わかったわ。さ、どーぞ……」

期待に瞳を輝かせるウェネニーヴと対称的に、私は義務的に彼女へ向かって腕を広げる。

ふぅ……どうせ、胸とか揉まれるんだろうなぁ。

まぁ、それくらいなら我慢するかと、そんな事を考えながら心の準備をしていると、不意に「チュッ……」と柔らかい物が私の唇に触れた。

って、これはまさかっ!?


思わず目を開けると、眼前には視界いっぱいに広がる美少女の顔。

夢見心地な表情で、ウェネニーヴは自身の唇を私の唇に重ねていた。

な、何をしてんのよ!あなたは!

突然の事に動揺していると、口中に侵入してくる柔い感触があった!

「舌を入れるなぁ!」

叫びながら、私はウェネニーヴを引き剥がすと、ペイッ!と空に向かって放り投げた!

そのまま、猫のように上手に着地する彼女に私は近づく。

「過度のスキンシップは無しじゃなかったの!」

「あれくらいなら、軽い挨拶の範疇かと……」

くっ、人間と竜の意識の差なんだろうか。だけど、キ……キスなんて、やりすぎだ!……初めてだったのに……。

だけど、ある意味事故だし……女の子同士なんだから、ノーカンよ、ノーカン!


とはいえ、彼女を放っといたら、また同じような事をされるかもしれない。

ここはガツンと、私が怒っていることを伝えねば!

私は、ウェネニーヴを見下ろして睨みつける。しかし、俯いていた彼女が顔を上げた時、そこに浮かんでいたのは、策がハマった軍師のような微笑みだった。


「フフフ……申し訳ありませんけど、一服盛らせていただきました」

え?そういえば、何か口の中に甘い感覚が……な、何を盛ったっていうの!?

「ワタクシが体内で調合した『ガッチガチにお堅い聖職者も、まるで十八禁小説(ノクターン)みたいに「らめぇ♥」って発情しちゃう淫毒』です!」

な、なんですって!『ガッチガチにお堅い聖職者も、まるで十八禁小説(ノクターン)みたいに「らめぇ♥」って発情しちゃう淫毒』ですって!?


「お姉さまが悪いのです……ワタクシを焦らしてばかりいるから」

いや、そんな事言われても……。

「ウフフ……まずは淫毒の効果で感度三千倍になったお姉さまに、たっぷりと性の喜びを知っていただいて、それから本番といきましょう」

クネクネと悶えながら、ウェネニーヴは表情を蕩けさせて私に変化が訪れるのを、心待にしている。っていうか、「感度三千倍」ってなに?

竜ならいざしらず、人間なら普通に死ぬやつじゃないの、それは?


「グフフ……優しくしますよお姉さま」

い、いやぁ……どうなっちゃうの、私。

ウェネニーヴは虎視眈々と、私は戦々恐々として淫毒の効果が出るのを待っていたが…………はて、なんともないよ?

一向に平然としている私に、ウェネニーヴも「おや?」と首を傾げる。

『あ!』

そして、私達は同時に答えにたどり着いた。


そうだよ、《加護》のおかげで、私に毒は効かないじゃん!

いやー、いやらしい系の攻撃だったから焦ったけど、そもそも()なら無効化できてもおかしくないわよね。

あー、ホッとした。


「ジイィィィ……ザアァァァァァス!!!!!」

しかし、渾身のミスを犯したウェネニーヴは、絶叫しながら崩れ落ちた。

「うわぁぁぁ!こんなチャンス、滅多にないのにぃぃぃっ!」

号泣しながら地面をバンバン叩く美少女の姿は、なんだか異様な悲壮感をもたらす。

ちょっと可哀想な気もしてくるけど、私の貞操を狙っていたのだから、大いに後悔と反省をして欲しい。


「おーい、レズ漫才は終わったか?」

私達の話に区切りがついたのを見計らって、モジャさんがそんな風に声をかけてくる。

何よ、レズ漫才って。

「まぁ、案の定ウェネニーヴが策に溺れたみたいだな。ところで、そろそろあっちも話をつけてくれないか?」

あっち?

言われて、モジャさんが示す先にいたのは、セイライとプルファのエルフ兄妹。

まぁ、確かに元魔界十将軍のセイライの存在は無視できないけど、なんで私に聞くかなぁ。


「いや、だってお前……このパーティのリーダーじゃないか」

うえっ!?いや、別にそんなつもりはないんだけれど……。

「だけど、《神器》の破棄なんて計画を立てたのはお前さんだし、言い出しっぺだからな。ここはそういう事にしておけ」

ううん、それを言われると反論できない。でも私なんかがリーダーでいいんだろうか?

「ワタクシは、お姉さまの指示にしか従うつもりはありません」

「困ったら相談すればいいさ。気楽にやっとけ」

二人はそう、即答してきた。

最初は一人でやろうとしてたけど、ウェネニーヴやモジャさんが居なかったら、すぐに死ぬか勇者に捕まってたかもしれないしなぁ……頼りないかもしれないけど、私が代表って形でみんなが納得するなら、それでいいかな。


「よしっ!それじゃあ、早速……」

リーダーとしてお仕事しますかと、気合いを入れてエルフ兄妹のところへ向かう。

「さーて、セイライ。まずはあなたがこれからどうするのか、聞かせてもらおうかしら?」

「……一度は魔道に堕ち、光に背いた俺に、今さら勇者と共に戦うなどという、虫のいい話はできない」

意外にもセイライはそんなことを言ってきた。てっきり、自分を裏切ったベルウルフ達を倒すため、勇者の所に行くと思ってたのに。

うーん、でもそうかな?

ちゃんと改心して世のため人のために働くなら、別にいいと思うんだけど。

いや、むしろ何か償うなら、献身的に戦うべきでは?


「フッ……そういう問題じゃないんだ。気持ちを確かめるためにも、少し時間がほしいのさ」

まぁ確かにややこしい事情ではあるもんね。心の整理をしたいって気持ちもわかるわ。

「ははぁん、さてはあれだろ?『どちらにも属さない一匹狼でありながら、主人公がピンチの時に颯爽と助太刀するタイプ』になろうとしてるな?」

え?ただのキャラ付け?

「は……はぁ?ぜ、全然違げぇし!?」

モジャさんの指摘に、分かりやすいくらい動揺したセイライは、とにかく話は終わりだと言わんばかりに、私達に背を向けた。

これは図星だな……。


「また、何処かで会うこともあるかもな。じゃあ……」

『じゃあな!』と言おうとしたんだろう。しかし、そう言い切る前に、セイライの動きが止まる。

何事かとよく見れば、彼の足首辺りに植物の根のような物が絡み付いていた。

「……兄ちゃ、どごさ行ごうってんだ?」

植物魔法を発動させて、セイライを捕らえたプルファが、静かに問いかける。


「い、いや……だから、心の整理を……」

「だげっちょ、その前に村さ帰って《神器》盗んだごどを弁明せねばなんねぇべ?」

「そ、それは……お前を危険にさらさぬために……」

「その気持ちは嬉しいべ。んだげど、それはそれ、これはこれだべすた?」

ああ、そうか。そういえば、プルファがセイライをおってきたのはそういう訳だったわね。

一度は、兄妹で命のやり取りをしてまで掟を果たそうとしていた彼女にとって、今セイライを行かせる訳にはいかないのだろう。


「お前、もうちょっと融通を効かせろよ!」

「些少だけんど、兄ちゃの弁護はすっから、安心してくんつぇ」

慌てるセイライを尻目に、プルファが再び魔力を送り込むと、兄エルフに絡み付く植物はどんどん増えて、変なアート作品のような外見になってしまった。

「ならぬ事はならねぇ……それがエルフの掟だべ」

兄を捕らえた妹は、厳しい顔付きで小さくそう呟いた。


「さて、エアルさんに皆さん。良かったら(いがったら)私達の国さ来てみねぇがし?」

プルファの国……それって、エルフの王国ってこと?

「国って言っても(つっても)、村の寄り合い所帯みだいなもんだげっちょね」

ちょっと照れながら、プルファはそんな事を言う。

前に聞いた話では、確かいくつかの村の寄り合い所帯っぽくはある。とはいえ、人間の国でいう地方領くらいの規模があるはずだし、それにエルフの王様がいて、それを治めてるんだから立派な国だと思うわ。


「うーん。お誘いは嬉しいけど、私達も早く《神器(これ)》を手放したいし……」

「それですよ!」

やんわり断ろうとした私の言葉に被せるように、プルファが食いついてくる。

「それ?」

「そう、その《神器》の破棄。もしかすっと、私達の国ででぎっかもしんねぇんです」

な、なんですってー!?

「あの弓の《神器》。アレもかつての持ち主が、自ら資格を取り消すて、ウチの国に奉納すてったって言い伝えがあんだがらし」

なんて事かしら……それが本当なら、すごくありがたい!

遠い上に確実性の低い、アーモリーまで行かなくても、厄介な《神器》を捨てられるかもしれない。

そう思った私達は、是非とも彼女の……エルフの国へ同行させてもらう事にした。

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