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逃走、盾役少女  作者: 善信
第二章 輝ける弓、堕ちた弓
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02 謎の襲来者

まぁ、モジャさんにも主義主張はあるだろうし、服を着ない事にポリシーがあるのかもしれない。

だけど、平穏な旅のためにも、まずまともな格好をしてもらわなくちゃ困るわけよ。

そう理詰めで迫る私と、力ずくで言うことを聞かせようとするウェネニーヴとの、隙を生じぬ二段構えでの説得。

これにはさすがのモジャさんも屈したみたいで、人里に着いたら褌一丁をやめてくれると約束してくれた。

めでたし、めでたし……。って、まだ話は終わってないわ。

よく見たら、モジャさんは槍の《神器》を持っていない。

その事を聞いてみると、「いらねぇし、領主の館に捨ててきた」とあっさり答えた。


ええっ!その辺に捨てられるの!?って言うか、仮にも《神器》をいらねぇって……。

まぁ、確かに彼はせっかくの《神器》もパフォーマンスにしか使えないけどさ。

それはさておき、もしも捨てておしまいっていうなら、わざわざ遠いアーモリーまで行く必要は無いじゃない。

それなら私も、適当な所に《神器(これ)》を捨てようかな。それで、村に帰って平穏な暮らしを……なんて、考えていた時。

何か、遠くから妙な音が聞こえて来るのを聞いた。


んん、なんだろう……?

音の聞こえて来る方向に目を凝らすと、はるか彼方の空に小さな点が見えた。

それは風を切り、どんどんこちらに近付いてきて……あ!

「《神器(やり)》!?」

それを目視した私が叫ぶのと、《神器(やり)》がモジャさんに着弾したのは、ほぼ同時だった!


「はわわわ……」

大地に突き刺さった槍は、モジャさんに直接は当たっていなかった。だけど、大股開きで腰を抜かしている彼の股間ギリギリに突き刺さっていた。

相当な恐怖があったみたいね……すでに半泣きだし。

でも、そのギリギリの差が、心なしか《神器》からの警告にも思える。

つまり、「《神器(じぶん)》を捨てたりしたら、今度は(タマ)取るぞ?」という警告に。


なにこれ……捨てても自動で戻って来るなんて、ほんとに呪われたアイテムみたいじゃない。

やっぱり、天界にもっとも近いと言われる宗教国家のアーモリーまで行って、神か天使に直訴でもしないとダメっぽいわね。


とりあえず、怯えすがるような目のモジャさんを立たせて、改めて私の旅の目的と終着点を告げる。

「俺も絶対にアーモリーに行くぅ!そんで、この槍捨てるぅ!」

よほど怖かったみたいね。

若干、精神が子供に退行したモジャさんも、私の目的に賛同してくれた。

どこまで旅に協力してくれるのかわからなかったけど、目的地が同じになったのなら、少しだけ心強い。本当に少しだけ。


そして、できればこの場に捨てて行きたいなどとブツブツ言いながら、モジャさんは槍を引き抜いた。

お互い、えらい物に選ばれたね……と、彼と私がため息を吐いていた所に、ウェネニーヴが横から声をかけてくる。


「それではお姉さま、ここから先はワタクシに乗っていくのは危険ですので、徒歩で参りましょう」

ん?竜に乗って移動するのが危険……?

むしろ目立つ事を除けば、この上なく安全な気がするんだけど。

そういえば、地上に降りる前もなんだか急いでたみたいだし、いったいどういう事なの?

「簡単な話しですけど、ワタクシの縄張りがこの辺までなんです」

そう、彼女は答えてくれた。

毒竜(ウェネニーヴ)の縄張り……最初に会った山中が中心だとすると、この国境付近までって、かなりの広範囲なのね。

すごいじゃないと誉めると、ふにゃっとした笑顔でそれほどでも……と照れて見せる。あらやだ、すごくかわいい。

だけど、一転してキリッとした顔に戻ると、彼女は飛んでいけない訳を説明し始めた。


「ワタクシの縄張りの外を迂闊に飛んで、他の竜の縄張りに入った場合、おそらく戦闘が避けられないためです」

ウェネニーヴのそれのように、竜の縄張りは人間が思っているよりも遥かに広大、かつわかりやすく線引きしてある訳ではない。

その上で、他所から縄張りに入ってきた同種には非常に好戦的になるのだそうだ。

前にも聞いたけど、竜同士の戦いは殺し合いになる事が大半というくらい激しいし、敗北者は生き延びても犯され、孕まされる。

ウェネニーヴ一人だけならなんとでもなるらしいけど、私 (ついでにモジャさん)を守りながらでは、危険すぎるという事で、自分の縄張りから出そうになるこのポイントで、地上に降りたということなのだそうだ。


「そっか、私達のために……でも、いいの?貴女がここを離れたら、せっかくの縄張りが誰かに取られちゃうかもしれないわよ?」

「かまいません。だって……お姉さまの隣が、ワタクシの新しい縄張りですから」

くっ……それって、つねに私を守るって事なの?

自分の縄張りを捨ててまで私に尽くしてくれるなんて、竜がこんなにも情の深い生き物だなんて、思いもよらなかったわ。


「ありがとうね、ウェネニーヴ」

彼女を抱き寄せて頭を撫でる。すると、猫のようにじゃれついてきたので、ますます愛らしくなって、さらに撫でまわしてしまった。

「はあぁん……お姉さまぁ……」

何やらウェネニーヴの言葉に淫らな雰囲気が混ざり始め、私はハッとして彼女から離れる。

危ない、危ない。

これ以上ナデナデして、ウェネニーヴが本気で発情しちゃったら、止めようがないわ。


「よお、百合百合したスキンシップが終わったなら、そろそろ行こうや」

呆れたようなモジャさんの一言に、私達は再びハッとなった。

「百合百合とは失礼な!」

そうよ!誤解しないでほしいわ!

「お姉さまとワタクシは子作りすることを誓った、もっと深い関係です!」

しないって!より誤解を招くような言動は控えてよね!

あと、モジャさんも「お前ら、そこまで……」って顔を止めてください!


「お姉さまはワタクシのものです……勇者(あんなやつ)に渡しはしませんから……」

ああ、勇者が私をハーレム入りさせるって言ってたから、彼女にも火がついちゃったのか。

まったく……竜は情が深いけど、独占欲も強いのね。

それにしても、勇者(コーヘイさん)は本当に余計な火種を持ち込んでくれたなぁ……。

私を捕まえるよりも、さっさと邪神を倒しに行ったらいいのに。

でも、やだ。なんだか彼等の話をしてたら、追い付かれそうな気がしてきたわ。

こういう話をしてると、寄ってくるって言うしね。


「まぁ、しばらく勇者はウグズマ国に留まる事になるだろうから、その間に距離を開けようぜ」

ブルッと身震いする私を安心させようとしたのか、モジャさんがそんな事を言った。

どうしてそんな事がわかるのかしら……?


「あの魔族の蛙人間を倒したのは、エアル個人じゃなくて勇者一行って事になるだろうからな。お礼の形で足止めされて、今ごろは体よく国内の厄介事を押し付けられてるだろうぜ」

なるほど。勇者は、各国の共有財産みたいな所があるもんね。

世界を救う大事はあるけど、目の前の小事も捨て置けないよねなんて事になったら、確かに面倒を押し付けられそう。

それに、アーケラード様やリモーレ様は貴族だもんなぁ。他国の人とはいえ、平民の苦境を見捨てては置かないだろう。


そう考えると、彼等が私達に追い付くのは無理って気がしてきたわ。

のんびりできる訳でもないけど、必死で逃げるほど切羽詰まってる訳でもない。

うふふ、それならアーモリーまでの道中、ちょっとくらいは観光なんかもできそうね。

「よーし!それじゃあ、アーモリー目指して行きましょうか!」

『おー!』

なんだか楽しくなってきて、元気よく呼び掛けると、ウェネニーヴやモジャさんも元気よく返してくれた。


が、次の瞬間。

ヒュッという、軽い音と共に、空気を裂いて何かが私の頬を掠める。

そして音もなく地面に突き刺さったそれは……矢?

ってなに!? 私、射撃された!?


確かにここは山の中で、木々のせいもあってか視界も悪い。だけど、ウェネニーヴに気配も感じさせずに矢を射ってくるなんて、いったい何者なの!

なんて事を考えていたら、続けざまに数本の矢が、さらに飛来する!

「きゃあぁぁっ!」

悲鳴を上げて、大股開きで腰を抜かすモジャさん(・・・・・)

そんな彼の股間ギリギリのポイントに、飛来した矢は着弾していた。……何やら先ほども見たような光景だわ。


「君達……全員、動かないでもらおうか」

とある木の上から、私達に向けた警告の声が響く。

ひとまずは警告(それ)に従い、動きを止めた私達の前に、声の主が姿を現す。

それは、豪奢な弓と矢でこちらに狙いを定める、一人のエルフだった。

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