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逃走、盾役少女  作者: 善信
第一章 反抗組織と毒竜
16/96

11 再会、そして逃走

            ◆


「申し訳ありません、お姉さまぁ!」

咽び泣き、私の胸に顔を埋めながらウェネニーヴがお詫びの言葉を口にする。

勢いよく飛び込んで来たにもかかわらず、ジャズゴとの戦いで役に立てなかった事を悔いているんだろう。

いいよ、いいよ。ウェネニーヴが操られずに、無事正気に戻っただけでも、本当に良かったんだから。

「この度の失態、詫びても詫びきれません!こうなれば、お姉さまのお気のすむまで、ワタクシを罰してください!」

そう言うと、ウェネニーヴはいそいそと服を脱ごうとした。なぜ、脱ぐ!?

「お姉さまにお好きなように、ワタクシの体を弄んでいただこうかと……」

そんな事を望んだ事はないよ?っていうか、それはむしろウェネニーヴの願望だよね?

どさくさで野望を果たそうとする恐るべき美少女を止めていると、後方からは漢達の慟哭がよりいっそう大きくなってくる。


「忘れろ、忘れさせてくれぇ!」

「ワシゃあ、初めてだったのにぃ!」

「うおぉぉぉっ!男同士だからノーカンじゃあ!」

各々が記憶を消したくなるような恥態を晒していた事を、嘆き続けている。

ううん、大の大人が見苦しい。とはいえ、ショックなのもわかるから、ここは月並みな台詞だけど……。

「まあ、最後の一線は越えてないんだし、野良犬に噛まれたと思って……」

『だいたい同じくらい嫌じゃあぁぁぁっ!』

なんとか慰めようとした私の言葉に、おじさん達はきれいに声を揃えて叫んだ。息ぴったりじゃん……。


「これはいったい、どうなってるんですかぁ!」

ウェネニーヴ、おじさん達に続いて、いつの間にか目を覚ました領主の奥様が頭を抱えて絶叫する。

あー、確かに旦那さんと過ごしてたと思ったら、実は魔族に騙されてて、さらに正気になったら知らない人達が大騒ぎしてる状況じゃ叫びたくもなるわよね。

しかし、このままでは収集がつかないし、下手をすれば私達も捕まっちゃうかもしれない。

ここは、先手を打って動くべきね!


「皆さん、静粛にっ!」

大声で私が訴えかけると、全員の視線がこちらに集まる。そこで私は小さく咳払いをして、静かに語りかけた。

「まずは結論から話します。私はエアル、邪神を倒すべく《神器》を授かった勇者の(元)仲間です」

その証拠として《神器(たて)》をかざして見せると、みんなが目を奪われ、ゴクリと唾を飲んだ。

まぁ、ジャズゴの返り血がべったり付いてはいたけれど、一目見ればそれが《神器》だと悟れるだろう。

その説得力があるからこその《神器》だしね。


さて、これで私の言葉にも信憑性が出たと思う。

《神器》を持つ勇者の仲間……私を見つめる、皆の目が変わったのを感じるわ。

そうして、私は混乱を治めるために、やや虚実の入り交じった説明をした。

つまり、勇者と別行動を取っていた私は、魔族が暗躍している情報を掴み、モジャさん達と一緒にこの辺に棲む毒竜を味方につけて、ジャズゴの野望を打ち砕いた……という設定だ。

もちろん、逃げてきた先での偶然ではあったけど、素直にそんな事を話せばますます怪しまれる。

こんな感じで、それっぽく話を仕上げておけば、《神器》という証拠もあるし信じてもらえるでしょう。


「おそらく本物の領主様は、この屋敷のどこかに幽閉されているはずです」

急いで探して上げてくださいと告げると、奥様は一礼して部屋を飛び出していった。

うん、これでひとまずは安心ね。


「いやぁ、それにしてもエアルが勇者の仲間だったとはなぁ……」

私の話を聞いて、モジャさん達は感心したように頷く。

正直な所、バレてしまったのは痛し痒しだけど、この場を納めるには仕方なかったのよね。

下手に吹聴しないように、口止めを頼まなくちゃ。

「それで、エアルはこれからどうするんだ?」

そんな事を考えてると、不意にモジャさんが尋ねてくる。

「私はこの国を経由して、隣国のマーガータへ行こうと思ってるの」

本当の目的地は北の宗教国家アーモリーだけど、勇者と繋がりがあるとバレた以上、どこかで彼等に聞きつけられるとも限らない。

逃げてる最中の身だし、とりあえずは目の前の目的地しか明かさない方が賢明よね。


「そこで勇者と落ち合うのか?」

「ま、まぁね……そんなところ……」

うーん、あんまり突っ込まれるとボロがでそう。

話を変えるため、私はジャズゴが落ちる時に空いた穴の方を指差した。

「あ、どうやら屋敷の使用人の人達も、正気になったみたいよ!」

床に空いた穴からは、階下のざわめき声が聞こえてくる。

「一応、モジャさん達も活躍したんだから、屋敷のメイドさん達にモテちゃうかもね」

適当な事を言って喜ぶ彼等を尻目に、私は何気なくその穴から階下の様子を覗き込んだ。


そして、そこにいるはずのない人物と、ばっちり目が合ってしまう。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

階下の()と、私の絶叫が重なる!

「どうしたんですか、お姉さま!」

慌ててウェネニーヴが、私の所に駆け寄って来て心配そうな顔で見つめてきた。

「ゆ、ゆゆゆゆ……ゆう……」

驚きのあまり、呂律が回らなくなってる私の言葉を、皆はなんとか聞き取ろうとするけど上手くいかない。

そしてそんな私達の耳に、遠くから複数の人間が階段を駆け上がってくる音が届いてきた。


壊れたままの部屋の入り口から、三人の男女が姿を現す。

あああ……間違いない。

高鳴る《神器(つるぎ)》、輝く《神器(つえ)》、そして確かに受け止める《神器(よろい)》!

「ようやく見つけたぜ……エアル!」

異世界から来た勇者、コーヘイさんを先頭に、騎士アーケラード様と魔術師リモーレ様が、各々の《神器》を携えて私を見据えていた。


「な、なんでこんな所に!?」

「たまたまこの街の近くを通りかかったら、上空に竜が飛んでいるのが見えてな……興味を引かれて立ち寄ってみたら、まさか君がいるとは思わなかったよ」

なんという偶然!……いや、確かコーヘイさんの《加護》一覧には、【幸運】があったはず。

おそらく、そのせいか。


はわわわ……。と、とにかく、隠れなければ!

予想外の再会に、軽くパニクった私は、「勇者?マジで?」といった感じで興味深々なモジャさん達の後ろに回る。

しかし、照れてるの?と聞いてくるおじさん達の頭ごなしに、コーヘイさんが私に呼び掛けてきた。

「エアル、別に怒ってる訳じゃない!君と話がしたいんだ!」

……話?

おじさん達の隙間から、チラリと様子をうかがうが、どうやら本当に怒ってる様子ではなさそう。

うーん、とりあえずいきなり斬首って事は無さそうな雰囲気ね……はっ!

ひょっとしたら、正式に私を解雇してくれるつもりかしら!?

そうよ、ただの村娘な私に《神器》を持たせておくより、他の強そうな人が使った方がいいもんね!

つまり、私を自由にしてくれるって事じゃない!

そう思うと気が軽くなり、話し合いに応じようという気になってきた。


「お姉さま……」

心配そうなウェネニーヴが、私の手を握ってくる。

いやー、大丈夫よ。すぐ終わるから。

これで処罰や手込めにされる心配から解放される訳だし、ちゃちゃっと終わらせちゃおう。

そう、気楽に考えた私は、足取り軽くモジャさん達の前に出て、コーヘイさん達と正面から対峙した。


「お久しぶりです、みなさん。突然の離脱でご迷惑かけたと思います」

先ずは、どうもすいませんと、素直に頭を下げる。

するとアーケラード様達も、いいんだ……と、理解を示してくれた。

「私達こそ、君の苦悩に気付いてやれなくて、すまなかったなエアル」

「あなたの気持ちは、よくわかったから」

アーケラード様とリモーレ様が、やさしく微笑んでくれた。

ああ……わかってくれたのね。やっぱり、私を勇者パーティから解放してくれるんだわ。

「あれから、俺達三人で話し合って決めたんだ。エアル、君の事を……」

うんうん。


「正式に、俺のハーレムに加えよう」


……………………は?

「安心しろ、エアル。コーヘイは、私達三人を平等に抱いてくれるそうだ」

「それに、今後仲間が増えても、均等に愛してくれる」

「だからエアル、俺達の所に戻って……」

「違うっ!」

思わず、叫んでしまった。

ちょっと待ってよ、なんでそんな話になるの!?ハーブか何か、やってらっしゃる?

「一人だけ寝床に呼ばれなかったから、自分は必要ないと思い詰めたんだろう?」

「それ以外に、考えられない」

んなわけないじゃない!

小首を傾げるお二方に、思わず怒鳴りかけて、なんとか言葉を飲み込んだ。

くっ、初対面の時はあんなに凛々しかったのに……。コーヘイさんに骨抜きにされて、すっかりピンクな思考になってしまってる。


「私が離脱したのは、純粋に戦力外だと悟ったからです!どうぞ、このまま解雇してください!」

さすがにハーレム入りなんか冗談じゃないわよ、バーカ!とストレートには言えないので、遠回しにそう嘆願する。

しかし、向こうも譲らない。

「君がいないと、フォーメーションに穴があく。それじゃあ、ダメなんだ!」

フォーメーションって、ハーレムの!? 穴を空けないさいよ、そんなもの。

うう、少し離れてた間に、さらにヤバいパーティになってるわね。もっと真面目に、世界を救うことを考えてほしいわ。


「……少し真面目な話をすれば、私達だけでは、戦闘の際に手が足りない。だから、盾とはいえ《神器》を持つエアルが必要だという理由もある」

戦術的な話をアーケラード様は持ちだす。それがどれくらい重要なのかはわからないけれど、戦力不足というなら……。

「それじゃあ、こちらのモジャさんを仲間に加えてはどうですか!こう見えても、彼は槍の《神器》持ちですよ!」

突然話を振られて、自分を指差すモジャさん。

その顔には、ある日突然、運命の王子様に見初められた、乙女みたいな表情が浮かんでいる。


「槍の……《神器》だって?」

おっ、話に食いついてきた?

でも、そうよね。槍なら盾と違って、即戦力に間違いなしだもん。

「モジャさん、ほら例の槍の本当の姿を見せて!」

「べ、別に、俺は勇者の仲間に成りたい訳じゃないけどな……」

安いツンデレみたいな事を言いながらも、いそいそと彼は槍を構える。

すると、モジャさんの手にしたなんの変哲もない槍が、眩い光と共に神々しい槍へと変化していった!


「おお……あれはまさしく!」

「槍の……《神器》」

アーケラード様とリモーレ様の口から、ため息のような声が漏れる。

そして二人は、どうするのかの答えを聞くべく、コーヘイさんの方に向き直った。

仲間になるつもりはないとか言ってたモジャさんも、槍を自在に振り回して見せて、チラチラとコーヘイさんを見ながら、なにやらアピールをしている。


そんな彼等を見て、コーヘイさんが出した答えは、

「いや、ハーレム充実させるには、男とかいらねぇし……」

だった。

なによ、その最低な理由はっ!?

「そうだな!だいたい、なんだその格好は!変態か!」

「体毛が濃すぎるのも無理。勇者の品格が下がる」

コーヘイさんが脚下したとたん、アーケラード様達がボロくそにモジャさんの、主に褌一丁で剛毛な所をけなし始める。

ちょっと、戦力補強はどうしたんですか!

「……は、はあぁ?別に、断られる以前に、勇者の仲間になんか、最初からなる気は無かったんですけど?」

泣きそうなのを堪えながら、強がるモジャさんの姿が悲しすぎた。


「おうおう、勇者だかなんだか知らねえが、さっきから聞いてりゃ好き放題言ってるじゃねぇか!」

「そうだ!だいたい小僧のくせに、ハーレムとか羨ま……十年早いんだよ!」

「エアル嬢ちゃんも嫌がってるし、うちの大将も泣かせてんじゃねぇぞ!」

事の成り行きを見守っていた『裸がユニフォーム』のメンバー達が、私達を庇うようにコーヘイさん達との間に立ちふさがった。

「エアル嬢ちゃんを連れていこうってんなら、まずは俺達を倒してからにしてもらおうか!」

褌おじさん達は、かっこいい(と思っているのだろう)ポーズを決めながら、勇者相手に啖呵を切る!

これで、この場にいる女子の反応をうかがう姑息さが無ければ、本当に格好良かったのになぁ……。


「倒す……か。その必要はないかな」

立ちふさがるおじさん達を物ともせず、コーヘイさんがこちらに向かって歩を進める。

それを止めようとおじさん達が動いた瞬間、その変化は現れた。


「……でも、あれだよな。勇者がハーレム作っても、戦意が上がるならいいことじゃないか?」

「それに、英雄は色を好むっていうし……」

「エアル嬢ちゃんも、そっちの方が幸せなんじゃ……」

突然、彼等は勇者の意見に賛同しはじめた。

な、なに?どうしたの?

訳がわからぬ私に、低い唸り声を漏らしながら、ウェネニーヴが話しかけてくる。


「お姉さま……どうやら、勇者(やつ)からは、人心を惑わす匂いのような物が発せられてます」

その言葉にピンと来るものがあった。

勇者の《加護》の一つ、【好感度上昇】。

勇者フェロモンと呼ばれる物を振り撒いて、周囲の人間からの好感度を上げる物だったと記憶してるけど、あれにこんな即効性は無かったはずなのに……成長しているというの……(ゴクリ)。


しかし、操られるように勇者サイドに付いてしまったおじさん達に囲まれ、進退窮まってしまう。

不味いわ……捕まったら、強制ハーレム一直線じゃない。

そんなのは絶対に嫌だし、勘弁被りたい。

なんとか逃げる手段はないかと考えていると、ウェネニーヴがニコリと微笑んだ。

「お姉さま、ワタクシにお任せください」

え、何かいい考えがあるの?

「はい!」

そう言った継ぎの瞬間、小柄な彼女の体が、膨れ上がった!


館の壁を破り、天井をぶち抜いて顕現したのは、彼女の真の姿である巨大な竜!

彼女が巨大化した余波で、褌おじさん達は皆気を失い、勇者一行も度肝を抜かれてポカンとしている。

『乗ってください。お姉さま!』

頭に響くようなウェネニーヴの声。

ちょっとやり過ぎな気もするけど、確かに逃げるチャンスだ!

私が乗ると同時に、ウェネニーヴは上昇していく。そんな中で、私はもう一度、コーヘイさん達に私の事は捨て置いてくれと告げた。


「そうはいかねぇ!どこに逃げても、絶対に捕まえてみせるからな!」

そんなん、悪役の台詞じゃないですか!

あまりの執念に恐怖感を覚えつつ、やがて彼等の声も届かないほどの上空まで到達した。

「ありがとう、ウェネニーヴ。助かったわ」

『いいえ、お姉さまをハーレムに入れようなんて、絶対にさせません!(お姉さまと(つが)うのは、ワタクシなんですから!)』

ん?何か言った?

なにやら小声で呟いた気がするし、ちょっぴり背中がゾクッとしたんだけど……。

『きっとこの空の寒さのせいなのでは?』

そうかな……そうかも……。


『それでは、お姉さま。どちらの方角に向かいますか?』

勇者の狙いがわかった以上、何がなんでも「選ばれし者」を辞めたい。だから、その手がかりがあるかもしれない、アーモリーのある方向へ。

「北へ向かってちょうだい!」

『了解しました!』

ウェネニーヴは一度、大きく吠えると、翼をはためかせて進んでいく。

こうして、再び私の逃走劇の第二幕が始まるのだった。

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