表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃走、盾役少女  作者: 善信
第一章 反抗組織と毒竜
10/96

05 やればできるよ、やってやれ

『痛ったぁ!マジ痛ぁ!』

盾の一撃を受けた指を器用に押さえて、竜はブルブルと震えながら痛みを堪える。

多分、釘を打つ時に間違って、自分の指を金槌で打ってしまった時の痛みに近いんだろうか?

いや、《神器》の50トンという重量を考えれば、その衝撃はもっと凄いかもしれない。なんか、身近な例に喩えたせいで、すごく悪い事をしちゃったな……って気になってくる。

でも、痛みに耐えかねて大暴れするかと思いきや、頑張って堪えるとは思いもしなかった。

無様な姿は晒さないという、竜族のプライドの高さを垣間見た気がするわ。ちょっと素敵。

だけど、ここで手を抜く訳にはいかないのよね。


『おのれ、人間風情がっ!』

竜の怒りに燃える目が私を捉える。

よーし、囮としては大成功(・・・・・・・・)

「お頭さん、私が引き付けるから攻撃して!」

私の声に、竜はチラリとお頭さんの方に目をやるが、フッと鼻で笑うだけだった。

ふふん、まんまと引っ掛かってるわね!?

お頭さんの持つ槍が《神器》の仮の姿だと知らない竜は、ただの槍だと思って完全に油断している。

そんなスキだらけな竜になら、一撃で大ダメージを与えて降参させられるかもしれない。と、そんな計画を立てていたんだけど、お頭さんは、私に向かって思いがけない事を言ってきた。


「すまん!まだ腰が抜けてる!」

生まれたての小鹿みたいに足をガクガク震わせながら、お頭さんは真顔で吼える!

……なんで、そんな体たらくで竜を協力させようなんて思ったのよ。

なんて、呆れていても仕方がない。ここは、いやが応にも奮い起ってもらわないと、私達は竜のご飯になりかねないのだから。

だから私は、彼等がもっとも奮起しそうな言葉を口にした。


「あ~あ、竜を屈伏させたら、すごくモテるんだろうけどな……」

「かかってこいや、毒竜この野郎!」

言い終わるか否かって所で、お頭さんの雄叫びが響いた。

震えていた足腰もすっかり立ち直り、わかりやすいくらいにやる気に満ちている。

『まずはこの娘から食らってやろうと思っていたが、邪魔をするなら……』

そう言った所で、竜の言葉が止まった。多分、私と同じ物を見たからだろう。

私達の視線の先、そこでお頭さんが自分の武器である槍を振るっているのだが、それがあまりにも見事だったからだ。

風を斬り、まるで演舞のように滑らかな動きと手つきで、自由自在に槍を振り回す。

攻撃範囲内に入ればタダではすまないと、素人目にも確信できる……まさに達人の動きだった。


『ぬぅ……』

武器は普通ながらも、それを扱う者が警戒に値すると感じたのか、竜の意識が私よりもお頭さんに向けられていく。

この隙に、もう一枚くらい爪を潰せるかもと思ったけれど、さすがに毒を吐き散らかされては困るので、ここはおさえよう。

「いくぞ、毒竜!」

振り回していた槍を腰だめに構え、お頭さんは竜へ向かって突進していく!

その鋭い踏み込みに、竜も対抗すべく身構えた!

だが、何を思ったのか竜の手前で立ち止まると、「えい!えい!」といった掛け声と共に、ド素人みたいな突きを放ち始めた。


『…………』

「…………」

突然の奇行に、私も毒竜も目が点になって言葉を失う。

あの……なにやってるの、お頭さん?

「真面目にやってくださいよぉ!」

「真面目にやってるよぉ!」

抗議の声を上げる私に、お頭さんも反論の声をあげた。っていうか、真面目にやってそれな訳がないでしょう!?

さっきの槍さばきは、竜も一目置くほどの達人っぽかったのに、それで素人だったら詐欺じゃない!

「いや、三十代童貞(まほうつかい)に成ったときに、格好よく杖を振り回せたらモテるかなって……」

詐欺だった!

いや、それなら魔法の一つも覚えようとしなさいよ。なんで、筆回し的な一発芸で格好つける方に行っちゃうのかな!?


『……見た目通りのアホだったか』

竜鱗をサクサク削るも(それも《神器》あっての事だけど)、肉にまでは届かずろくにダメージを与えられないお頭さんに、呆れた声で呟いた毒竜は、フッと毒の息を吹き掛ける。

「ぐえーっ!」

絞められた鶏みたいな声で、お頭さんはバッタリと倒れた。

うん、もうそのまま寝ててくれていい。


『さて、小娘。今度こそ貴様を食らってやろう』

再び照準を私に合わせた毒竜が、私を睨み付ける。

一度気の抜けた状態からまた対峙すると、すごい圧迫感だ。

いいわよ……こうなったら、私がやってやるっつーの!

大丈夫!私には《神器》と、アーケラード様に習った盾での戦闘方法があるんだ。

相手はただの大きな建物みたいな巨体に、すごい牙や爪を持ってるだけ……じゃ……ないの…………って、弱気になるな、私!

落ち着いて狙い通りに行ければ(・・・・・・・・・)、勝てなくても手痛いダメージを与える事はできるはずだ。

そうだ、アーケラード様から、戦闘の初歩は勝つまでのイメージと戦略をしっかりと構築する事だと以前教わっているじゃない!

自分の持ち味を生かし、巨大な敵に打ち勝つには……それの戦略を頭の中で組み立てて、私は竜を睨み返した。


『生意気な面構えをしよって……』

少しイラッとしたように、竜が前足を振りかぶるようにして、私を蹴りつけようとする!

だけど、私はその攻撃を読んでいた。

毒のブレスが私に効かない以上、肉弾戦で来ることは想定内。

だから私は、盾の重量を最大に設定したまま、迫りくる竜の爪先へと突進していった!

次の瞬間、軽い衝撃と激しい金属音が響き渡る!

『ゴアァァォッ!』

そして竜の苦痛の声。ヨシッ!

盾が衝撃を散らしてくれたから、私にはたいした衝撃もなかったけれど、毒竜には手痛いカウンターになったみたい。

あらゆる攻撃には、最大の威力を発揮するポイントがある。

敵の攻撃がそのポイントに達する前に、間合いを詰めて攻撃を潰すのが盾での戦い方の一つだと、アーケラード様は言っていた。

町の付近でゴブリンや野性動物で行っていた、特訓の成果がでたわ。

ありがとうございます、アーケラード様!


『小賢しい真似を……』

憎々しげに竜は唸り声をあげる。

私みたいな小粒な存在を粉々にできなかった屈辱と、それをさせなかったなんらかの力に、警戒をしてるんだろう。

さすがに戦い慣れしてる竜だわ。逆上してくれた方が、突け入り易いのに。

うまいことカウンターになる形で竜にダメージを与えはしたけど、こちらからはやたらと攻める事はできない。

少しの間、お互いに決め手にかけるチマチマとした攻防が続いた。

『グルルル……』

苛立ちのこもった竜の唸り声が、徐々に大きくなっていく。

よーし、いいわよぉ……。

『……ええい、ちょこまかとうっとうしいわ!』

叫びと共に、竜の前足が踏み潰そうと高く振り上げられた!


やはり来た!

人間みたいな小さい相手に、巨体な竜が出す最も有効な攻撃。それが踏み潰すという行動。人間だって、虫みたいな相手にはよくやるもんね。

ブレスが効かなくても、攻撃の衝撃が打ち消されても、圧倒的重量で踏み潰してしまえば、竜の重さに耐えられる人間などいない。事実、まともに受けたら、私もぺちゃんこだろう。

だからいつか、この攻撃がくると思っていたんだ。

そう、足を振り上げたせいで、体のバランスの崩れる(・・・・・・・・・・)この攻撃がねっ!


私は一気に竜の懐、振り上げられた足の対角線上にある後ろ足へ向かって走り出す!

『ぬっ!』

竜はそんな私を追って、振り上げた足の落とし所に狙いをつけてくるけど、田舎者の脚力をなめないでよね!

攻撃に気をとられ過ぎた敵の体勢がどんどん崩れ、バランスが保てなくなる形になっていく。

「いっけえぇ!」

私は走りながら狙いをつけて、竜の体を支える軸足目掛けて、最重量にした盾を思いきり横薙ぎに叩きつけた!


『グアッ!』

最重量の《神器》による打撃に竜鱗が砕け、肉の奥にある骨まで衝撃が届いた感触が伝わってくる!

案の定、軸足へのダメージと足を刈られてバランスを保てなくなった毒竜が、地響きを立てて大地に転がった。

『お、おのれ……』

苦痛を抑えてすぐに起き上がろうと毒竜だったけど、そうはさせない!


「お頭さん、いまよ!竜の目を狙って!」

私の呼び声に、竜は過敏に反応した。

きっと、目を狙うような指示が飛んだ事もあるだろうけど、ひょっとしたらお頭さんも毒の効かない人間(わたし)みたいなのかもしれないと、警戒していたせいね。

しかし、そちらに向けた竜の目に写ってるのは、いまだに毒を食らって倒れているお頭さんの姿だけのはず。

そして私の真の狙いは、首を伸ばしたせいで顕になってる竜の喉元なのよっ!

昔、おじいちゃんから聞いたある伝説に記された竜の喉元にある弱点、それが逆鱗(・・)だ。


「うわあぁぁ!」

知らず知らず口から飛び出した雄叫びと一緒に、盾をブーメランのように投げ放つ!

回転しながら飛翔する《神器》は、狙い通りに逆鱗を砕いて、竜の喉へと突き刺さった!

『ゴハッ!……なん……だと……』

血を吐き、驚愕に染まった瞳が私を捉え……グルリと白目を向く。

そのまま意識を失った竜の頭は、再び地響きを立てながら地に伏して動かなくなるのだった。

「はぁ……はぁ……」

肩を揺らして息をしながら、私は静かに呟く。

「……勝った」と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ