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セレスとタバサ



「まあ!貴女がわたくしの依頼を請けてくださった方なのですね!」


「あ、はい」


「ふふ、私、今日という日が来るのをとても楽しみにしていたんです。きちんとした冒険者様という護衛が居なければ王都を見て回る許可は出せない、ってお父様が仰るから。しかも武道大会が始まるまでの間、という約束だったから今日がその期限だったんです。諦めるしか無いのかしらと思っていたから、本当に良かった!感謝してもし足りませんわ!」


「はーいお嬢様、はしゃぐのは良いけど自己紹介もせずにいきなり手を握るってーのはハシタナイってやつじゃないっすかね」


「あ、それもそうね。申し訳ありません、つい、興奮してしまって……」


「いえいえ、お気遣い無く」



 良かった!良い人達だった!雰囲気が何かこう、良い人達だ!良かった!

 正直言って、聡明って情報だけだったから怖かったんだよね!人のミスに目を光らせてるタイプじゃ無かろうかって!でもそんな事無かった!めちゃくちゃしっかりしてるお嬢様だった!頭でっかちじゃなくて、綺麗なタイプの頭が良い人だった!私は何を言ってるんだろうね!どうもポンコツです!

 お付きの人も良い人っぽくて凄く安心した。前にイースから聞いてた話で、お付きの人=貴族ルール持ち出してくるクソの可能性高いって思ってたから……あー、本当に良かった……。安心した……。

 緩くウェーブしてる長い銀髪をツーサイドアップにしているお嬢様は、シンプルで飾りは無いが絶対最高級の生地ですよねって感じのワンピースの裾を摘まみ、軽く頭を下げた。



「私はセレスティ……コホン」



 お嬢様は小鳥の囀りのように可愛らしい咳払いをした。そして仕切り直しとでも言うように、有無を言わせない圧がある大輪の花のような笑顔で言い直す。



「セレスと申します。おわかりの通り偽名ですが、立場上名前を明言する事が出来ないんですの。どうかお許し下さいませ」



 セレスと名乗った彼女は、お嬢様だというのに本当に申し訳無さそうに頭を一度下げた。こっちの世界、貴族の頭低過ぎない?もうちょっと頭を高くして、どうぞ。

 続けて、付き人の男性が眠そうな半目のまま手を挙げた。



「で、俺がセレスおじょーさまの付き人兼ボディーガード兼その他諸々をやってるタバサ。さん付けされると鳥肌立つから、気軽にタバサって呼び捨てにしてくれ」



 そう言い、タバサはウェーブしている自分の黒髪を掻き上げた。

 あ、長めの前髪が無くなったから今わかったけど、タバサの目って水色なんだ。慣れたつもりでも日本に無い色彩を見ると一瞬ビックリしちゃうな。黒髪だったから油断してたわ。

 全体的にひょろりと…っていうか飄々とした雰囲気のタバサは、人差し指でお嬢様を指差す。



「そんで、怪しまれないようにお嬢様の事も呼び捨てで頼む。俺は付き人だから帰った時に呼び捨てにしてたのがバレたらマジ叱られるんで無理だけど、アンタだけなら問題無いはず」


「今思いっきり指差してましたけど」


「護衛してくれてる間の食事代とか全部こっちで負担するんで黙っててください」



 即行で頭を下げられた。

 さ、さっきから思ってたけど結構適当だな、この人…。気難しいよりは取っ付きやすくて良いけど。

 おっと、私の方も自己紹介しないとだ。今更ながら私はソファから立ち上がる。お嬢様とお付きの人を立たせて私は座り続けてるとか何様だ私は。良かったこの人達がその辺口うるさくない人達で!

 出来るだけ綺麗な角度を意識しつつ、頭を下げる。



「私は冒険者で魔物使いのミーヤです。それと……」



 ここは私が紹介した方が良いよね。



「褐色肌の彼女がイースで、こっちの多腕の子がハニー。さっきからお茶菓子を頬張り続けてるのがラミィで、ソファの陰に隠れようとして隠れきれて無いのがコン。ふわふわ浮いてるローブの男がアレクで、ソファの後ろから背もたれを肘置きみたいにしてるデカいのがハイド。全員私の従魔で、嫁です」


「まあ!」



 紹介の最後に付け足した嫁という言葉に、お嬢様……セレスは頬をピンクに染めた。



「とても素敵ですわ。見ていて相思相愛なのがわかる程、従魔の皆様はミーヤ様に心を許しているのですね。種族も数も関係無い純愛………まるで物語のようで、憧れてしまいます」



 そう言ってセレスはふふっと微笑んでから、軽く両手を合わせて音を響かせる。



「それでは自己紹介も終わった事ですし、早速参りませんか?」


「はーい、まず先に確認しないと駄目なんで駄目でーす」



 キラキラと瞳を輝かせてそう言ったセレスを引き止め、タバサは私に手を差し伸べた。



「ちょっと手を貸してもらえます?ああ、手首から切り落としたりとかしないんで」


「どういう安心のさせ方?」



 まあ良いけど、と私は右手をタバサの手の上に乗せる。こっちの世界の人、結構ユーモア凄いよね。日本人ここまで面白くは無かったよ。いや、ツイッターとかだとこんなノリか?

 タバサは乗せられた私の手を……というか、手首を掴んだ。まるで脈拍を調べる時みたいだ。



「じゃあこれから簡単な問いかけをアンタの目を見ながらするんで、正直に返答よろしく」


「はい」



 どういう問いかけだろう。

 そう思って首を傾げていると、タバサはフリー状態だった左手の人差し指をピンと立てた。そして真剣な表情で口を開く。



「アンタは俺、もしくはお嬢様に対して嫌悪感を抱いてたりします?」


「いえ、別に」



 即答。

 想定してたイメージ図に比べてめちゃくちゃ取っ付きやすそうな二人相手にどうやって嫌悪感を抱くんだ。皆も想像してみ?すっげぇ面倒臭い性格のお貴族様とお付きの人が来るんじゃねえだろうなって思ってたら、めちゃくちゃ可愛くてマジで聡明って感じのお嬢様と、雰囲気も口調も緩くて適当さが滲み出てるお陰で話しやすいお付きの人だった。

 そんなわけで、想像を良い意味で超えてくれた二人相手に嫌悪感抱く理由ある?って感じだ。私には無い。



「………………」



 タバサは無言のまま私の目を見つめ続け、



「脈拍も瞳孔も嘘吐いて無いっす。アタリですよお嬢様!」



 そう叫び、本日初めて見る明るい笑みを零した。

 あ、この人ヘラッて笑顔以外の笑い方も可能なんだ。ヘラヘラ笑いしかしないタイプの人かと。

 そしてタバサの言葉に、セレスも笑った。一瞬一面の花畑が見えた気がするくらいには華やかで可愛らしい笑顔だった。幻覚症状が起こる笑顔とか凄いな貴族のお嬢様。



「良かった!お父様ったら、もし相手が私かタバサのどちらかを嫌がるようなら即座にキャンセルして戻って来なさいって仰るんですもの。でも問題無いならこのまま出発して大丈夫よね?」


「そっすね、ミーヤはかなりのアタリっすよ!」



 二人は何やらきゃっきゃしながらはしゃいでいるが……。



「あの、今のってつまりどういう事だったんですかね?」



 それだけの会話じゃ何もわからん。一聞いて十わかるのは天才だ。十聞いて十わかるのは普通だ。そして私は十聞いて五わか……わか…多分、何となく、わかったような、気がする……?ってレベルのポンコツだ。要するに理解不能なんで説明プリーズ。

 本気で私が今のやり取りを理解出来ていない事に気付いたのか、さっきまでと比べてちょっと気持ち明るい表情になったタバサが説明してくれた。



「嫌味こそ無いとはいえ貴族貴族してる性格のお嬢様を嫌がるようなら信用出来ない。それって貴族を嫌ってるって事になるんで。そして全体的に適当だし軽いし立場とかを軽んじてるかのような俺を嫌うようなら新しい発想は期待出来ない」



 ふむ、貴族寄りの思考でも貴族嫌いな人寄りの思考でも無い人間を探してた……って事かな?確かに色んな意見を聞きたいっぽかったし、偏った考えの人は嫌だったのかな。

 ……私は臨機応変って言うより、後は野となれ山となれって感じの性格だけど。



「で、まあどっちかを嫌がるようならソイツの思考は硬い。イコール良い意見は求めれないだろうからさっさとキャンセルして帰って来いっつー……命令?約束?だったんだよ」


「ほうほう」


「そしてミーヤはパーフェクトで審査を突破。どっちかを嫌がる素振りは無かったし、嘘も無かった」



 タバサはヘラリと笑い、さっきまで私の手を掴んでいた方の手をヒラヒラと振る。



「本当は不穏な事を言った俺に躊躇う事無く手を預けた時点で「あ、大丈夫だ」って思ってたんだけど、一応確認だけはしないとだったからさ。ほら、命令してきた相手雇い主だし。でもそれも余裕で突破してくれて助かった」



 そしてタバサは苦笑いしながら、「約束の期限、今日までだったからマジでミーヤを逃したらアウトだったし」と小さく零した。



「お父様が私を心配してくださっているのはわかるのですが、本来視察に行くべきであるお父様がお仕事で忙しくしているから私が行こうとしているのに………」



 ぷう、とセレスは可愛らしく頬を膨らませた。

 お父さんのお仕事私も手伝うーってやつかな?微笑ましい。



「えーっと、それじゃ護衛依頼はキャンセル無しって事だよ……ですよね?」


「あ、敬語は無しで。怪しまれたくないし」


「助かる。ありがとう」



 タバサに対してグッとサムズアップ。敬語は出来んでも無いけど崩れやすいのよ。



「護衛依頼はキャンセル無し。早速だけど、これからおじょーさまの護衛についてもらう。護衛以外の依頼内容は説明されてるか?」


「町を見て回って、教会兼孤児院の様子を見に行って、時間が余ったら私の意見を色々と話す、だっけ?」


「そうそう。ちゃんと理解してるっぽくて、説明の手間が短縮された俺は嬉しい」



 そう言い、タバサも私に対してサムズアップ。やっぱこの人取っ付きやすいな。



「……?」



 と思ってたらセレスが首を傾げながらサムズアップをしていた。待って。それお嬢様がするハンドサインちゃうねん。慌ててサムズアップしている小さな手を包んで下ろさせる。



「これ、言葉を横着してる人間が使うハンドサインなんで使うのはあかんです」


「そうなのですか?見ていたら良い意味のハンドサインのようだったのでやってみたのですが…」


「確かに「良くやった」とか「ナイス!」とかの意味ですけど」



 「でもセレスのお父さんから苦情寄越されたくないんで覚えないで欲しい」と正直に言うと、セレスは「わかりました」と微笑みながら頷いてくれた。幼いのに理解が早くて助かります。



「んじゃ、出来ればもう出発したいんだけどミーヤは大丈夫か?ソッコで出発可能?」


「はい、大丈夫ですよ」



 笑いながらタバサの言葉にそう返し、私は皆の方に振り返る。



「じゃ、皆行くよ。……ラミィ、出されてるお茶菓子は食い尽くさなくても良いから。一気に五個頬張るのは止めなさいね」


「……ん、っん。お茶……で、流し込めば……余裕…」



 そこじゃないんだけどね。出されたお茶菓子は食い尽くすルールだと思い込んでないかな、ラミィ。まあ良いけど。とりあえずそのままお茶を飲み干してからお茶菓子が入っていた皿をひっくり返してお菓子が残っていないか確認し始めたラミィを引っ張る。

 他の皆はすぐに立ち上がったのにこのマイペースさんめ。



「ところで、セレスは身分を隠してるんだよね?帽子とか被らなくて大丈夫?」


「ご心配ありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。今の私はタバサの光魔法によって髪の色と瞳の色を変化させていますから」


「ほわっつ?」



 どういうこっちゃ、と私はラミィを引き摺りながら首を傾げる。というか下半身が数メートルあるラミィを私が引き摺れるって事はラミィ自身で動いてるって事でしょうが。甘えるのは良いけど今は自分で動いて欲しい。

 セレスは微笑みながら、私にわかるように簡単に説明してくれた。



「光は色を変えるでしょう?光によって色の見え方が変わったように見える錯覚のようなものですが……それの応用ですね。要するに光魔法による幻覚、という事です」


「まあ光魔法の幻覚じゃ色の錯覚とか、遠くに蜃気楼見せたりとかしか出来ないっすけどね。まあ髪色と目の色が違えばほぼ別人なんで、変装としては充分かと」


「確かに」



 髪の色と目の色が違ったらもう別人だよね。にしてもその魔法、お姉ちゃんのお友達のコスプレイヤーさん達が羨ましがりそう。カラコン要らずだし。



「それではミーヤ様、私の護衛、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」



 笑い合いながらギルドを後にする。

 さーて、簡単にこの依頼が終わるように神様に祈っておこうかな!簡単じゃなくてもせめて平和的ルートで頼むぜ神様!私からのお願い!



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