表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/276

粘り負けした……!



「おはようございまーす」


「あ、ミーヤ!おはよう!」



 朝早くにギルドに行ってみると、メルヴィルさんが受付に居た。この時間帯もメルヴィルさんの担当なのか。

 いやー……それにしても昨日はうっかり楽しみ過ぎた。屋台で酒飲んでツマミ買ってを繰り返してたら真夜中なんだもん。確実に日付変わってたよ、アレ。串揚げ頬張りながら慌てて宿屋に行ったら、待っててくれた宿屋の主人にめっちゃくちゃ怒られた。



「別に何時までに帰って来いとは言わん!だがせめて先に来て話を通せ!お前に営業時間外まで放置された中年の気持ちがわかるか!?」



 …………思い返すと怒られたとは違った気もするけど、まあ怒られたって事で。

 そんな感じで部屋に通して貰って、お風呂済ませてスキンシップして寝たわけでやんす。またイースが魔法を掛けてくれたらしくて、全員二日酔いも無くスッキリ爽やかなお目覚めだった。

 それと新発見なんだけど、アレクは生前と比べてめちゃくちゃ酒に強くなってた。前は結構酔いやすかったのに、昨日は全然酔わなかった。イース曰く、



「そりゃ酔う肉体が無いものぉ。酒も魔力に分解しちゃってるしねぇ。酔いたかったら霊体も酔う酒かぁ、酔っ払うくらい強い魔力を食らうかしないと無理よぉ」



 との事だった。

 まあとにかくアレクは酔いやすい体質から酔わない体質にチェンジしたって事である。

 あとハイドだけど、ハイドも普通に酒豪だった。がっぱがぱ酒飲んでた。流石というか何というか……でも蜘蛛はカフェインで酔うらしいし、今度イースにコーヒーみたいのがあるかどうか聞いてみよう。酔い方を知っておかないと怖いからね!特にハイドはヤンデレの称号持ってるし!

 さて、それはさておき。



「Eランク用の良い依頼とかってあります?」


「んー、ちょっと待ってね。今探してみるから」



 私の質問に、メルヴィルさんはさらっとそう言って棚から本を……ファイルかな?ファイルを取り出して捲り始めた。……何となく言っただけだったんだけど、こういう風に聞くってやり方もあるんだ。知らなかった。

 良さげな依頼を教えてもらえそうだし、これからは積極的に聞いてみようかな。



「えーと、確かこの辺が手付かずで困ってた依頼だから…」



 ……厄介事を押し付けられそうな気配を察知。もしやギルド職員に良い依頼あります?って聞いたら面倒な依頼を笑顔で渡される可能性があるのか?やっべ、早計だったかな。

 まあ良いか。…しかし……、



「ガランとしてるね」


「はい、昨日はギルドから人が溢れるくらい居たのに……」



 そう、ギルド内が凄くガランとしている。他の冒険者達はちらほらとしか居ない。朝早いとはいえ、町中もかなり静かだったし……どういうこっちゃ。

 うーむ?とハニー達と一緒に首を傾げると、イースが目を細めてくすくすと微笑んだ。



「どういう事かを説明するとぉ、単純に皆真夜中まで騒ぎ通してるからよぉ。昨日のミーヤ達みたいにねぇ」


「成る程」



 夜更かししまくりんぐで皆寝てるって事ね。私達はイースのお陰で早起き出来たけど、他の人はそうもいかない。だから王都に来てる人達の殆どはまだ寝てるんだろう。元々王都に居た人も祭りの雰囲気に流されて飲みまくってるだろうしね。



「……ねえ、ミーヤ」


「はい?」



 呼ばれたままにメルヴィルさんへと視線を向けると、メルヴィルさんはとても真剣な目で私を見ていた。



「ミーヤは、王都の貴族に詳しかったりする?」


「え、いえまったく。正直貴族はグレルトーディアのバーンズ家とフェロール家しか知りません」



 この二つの家名ならハッキリと記憶してるけど、他は知らない。正直にそう答えると、メルヴィルさんは「っしゃあ!」と力強くガッツポーズをした。…え、何?



「じゃあ王族とか、城の関係者とかは?」


「まったく……あ、いや、S級冒険者?の王の剣ってパーティが王様直属とか何とかって話なら聞いた事あります」


「そんだけ?」


「はい」


「王の剣のメンバーも知らない?人数も?」


「え、はい。まったく知らんです」



 関わりたくなかったし。



「つまり、本気でミーヤは貴族系に疎いって事でファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサーですね。え、何でそんな事聞くんですか。不穏な依頼はノーセンキューですよ」



 瞳を輝かせ、口角が上がるのを隠せていないメルヴィルさんから一歩引く。表情は引き顔だ。漫画なら横に出ているウニっぽい心の声用のフキダシの中に「え、何だこいつ……」という文字が書かれているだろう引き顔。

 だって貴族関係の事聞くって事は正体を言う事が出来ない貴族のなんやかんやに巻き込まれそうじゃん!?



「………ミーヤ」



 メルヴィルさんは、至って真面目な顔で私に言う。



「報酬はしっかり払うから、王都を見て回りたいって言うお偉いさんの護衛する気無い?」


「無いです」



 即答。



「待ってもうちょっと考えて!せめて5秒くらい考えて!」


「えー、仕方ないですね」



 いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお。



「遠慮しておきますね」


「熟考したうえでお断りされた!?」



 ははは、流石芸人。ノリが良い。



「まあそういう事で。私は依頼ボード確認して草むしりの依頼とか探しますね」


「いやあああお願い待って!これ信頼出来る冒険者じゃないと駄目なの!貴族に疎いミーヤが適任なんだって!」


「嫌ですよそんな正体不明の不穏な依頼!」



 受付越しに私の手を握らないで欲しい!逃げれないから!



「メルヴィルさんと私は昨日出会ったばっかりですよね?」


「良いかいミーヤ、出会った瞬間に始まるラブストーリーもあるんだよ」



 キメ顔がイラっとする。



「てか出会った翌日にやたら絡まれるのは既に経験済みです。またネタ被りですね」


「マジかよ。ネタ被りはヤダ」



 真顔になったメルヴィルさんにより私の手は解放された。ここまでネタ被りを気にするとは生粋の芸人だなこの人。ちなみに先にこのネタをやったのは私の後ろで浮いているアンデッドである。正確には生前の時に、だけど。

 すると、メルヴィルさんはポリポリと頭を掻いて言う。



「…まあ正直に言うとさ、チェルシーからの手紙にミーヤって子はきちんと依頼をこなすしっかりした冒険者だって書いてあったから。チェルシーは…まあ、顔が良い人間を贔屓する癖はあるけど、でも評価は結構正確なんだ。だから信頼に足ると思った」


「それだけで貴族の護衛任せるに足ります?」


「まあこれだけじゃ普通は足りないんだけどさ」



 やっぱり足りないんじゃん。



「でも、やっぱりミーヤが最適だと思うんだ」



 メルヴィルさんはファイルから一枚の紙を取り出した。



「依頼人は……まあ、詳しくは言えないんだけど、良いとこのお嬢様。まだ幼いけど聡明な頭を持ってる。彼女は自分の家が色んな所にお金を出しているのを知っていて、そのお金がちゃんと届いているか、本当にお金だけで大丈夫なのか、違う物を必要としているのではないか、満足いく生活を出来ているのか、どこかで着服などされていないか、って事を調べたいらしい。だからこその「見て回りたい」って依頼なんだ」


「それ完全に面倒事ですよね?」


「そうとも言う」



 真顔で言ったら真顔で返された。



「ただまあ、良いとこのお嬢様だからさ。万が一悪い奴等に狙われたら大変じゃん?今の王都ってあちこちから客来てるせいで悪人も紛れ込んでる確率高いし」


「ならもうちょっと人が少なくなってからでも良くないですか?」


「見知った人間だけの時だと普段見ない顔を見たら違和感を抱かれる。それが上品なオーラを醸し出していたら、特に。今なら色んなトコから人が来てるし、お忍びで来てる人も居る。そこに観光客の一人として紛れ込んだ方が色々と楽って考えみたい」


「成る程」



 それは確かに。いつもの面子しか居ない町だと、知らない人って目立つもんね。日本で外人を見るとつい見ちゃう感じの奴だ。それなら観光客が沢山居る時に行けば紛れ込めるぜ!って事ね。把握した。



「ちなみに依頼の内容だけど」


「護衛って言ってもどこに寄るのか、何時までなのかってのがありますよね?」


「しっかりしてるぅ。そういうトコが信頼出来るんだよ。ちゃんと良いと悪いを判断出来るってのは口が堅いって事でもあるからね」



 「ただ、大変な依頼を頼みたい時は一筋縄じゃいかないのが困るけど」とメルヴィルさんはぼやいた。あの、それ盛大なるブーメランです。今メルヴィルさんのブーメランが眉間にガッツリ刺さりましたよ。

 はぁーあ、と溜め息を吐き、メルヴィルさんは口を開いた。



「何時から何時までっていうのに関しては、依頼人と顔合わせしてから日が暮れるまで。まだ幼いから門限があるみたい。だからこそ朝早くの時間帯から頼みたいんだけど」


「それを聞いて、夕方に顔出せば良かったなって思いました」


「酷い!」



 メルヴィルさんはしなを作ってそう言った。うん、やっぱ芸人だねこの人。日本だったら土曜のお昼にやってる新喜劇に出れそうだ。そうでもないか?どうだろ。時々しか見ないからわかんないや。



「で」



 ケロッとした表情で、メルヴィルさんは説明を続ける。



「まあ依頼内容は護衛。これは本当。普通のスリとかも危険だから当然なんだけど。あ、一応ボディーガードも出来るお付きの人も一緒らしいから安心して」



 安心出来るかどうかはその人の性格次第ですね!



「それで詳しいプランだけど……まず町を見て回る。この辺一帯は家とかの修理がちゃんと出来てるかとか、この辺は出来ていないとかの確認をしたいみたい。そういう費用も依頼人の家で一部負担してるからね」


「凄いですね」


「凄いよー。だから色々秘密なんだけど。で、その後は教会へ視察。教会って孤児院も兼ねてるんだけど、今の教会は色々と……まあ、収入が少なくて。だから結構な額を寄付してるらしいんだけど、教会はまったくと言って良い程に状況が改善されてない」


「…それって」


「そう。もし着服している者が居るなら罰さないと駄目だし、寄付金が途中で横領されてるならそれはそれで罰さないといけない。まあとにかくその辺の金の流れを確認って感じ?」



 うーん、それは確かに早めに確認しておいた方が良いよね。孤児院も兼ねている教会。稼ぐ手段がどうやら安定してないっぽいけど、寄付金は出てる。しかし改善されない。

 ファンタジーでよくある感じなら、その教会の代表が悪役だったりするんだけどね。もしくは貴族による横領。貴族による横領、かつ教会の代表が共犯の場合は孤児院に居る孤児達が虐待されたうえで奴隷として売られるコースもあり得る。うっわ、我ながら嫌な想像しちゃったよ。げろげろ。



「そして教会の視察が終わってもまだ時間はあるだろうから、落ち着ける場所に移動して依頼を受けた冒険者の意見を聞きたいって」


「え?」


「一般人の意見って重要でしょ?主観的に見るのと客観的に見るのとでは違うしさ」



 ……イーニアスの依頼を思い出すな。あれも意見を聞きたいって感じの依頼だった。貴族は皆一般人の意見に飢えてるの?どうなの?そうなの?

 単純に違う視点からの意見も欲しいって感じだろうけどね。



「まあ、とにかく聡明なお嬢様なんだよ。だから色々な考えがあるみたいで、だからこそ色々な意見を欲してるみたい。でも頭が良いとされてる人間は皆、本に書かれているような事しか答えないからいまいち満足行ってないって感じかな。そんなわけで、色々なアレコレを一つに纏めた結果の依頼がコレなわけです」


「断っても良いですか」


「ここまで聞いちゃったんで拒否権はナッシングでーす♡」



 くっそ!!そんな気は薄々してたけど!してたけどやっぱりか畜生!笑顔がキラキラしてんなメルヴィルさん!チェルシーさんより良い性格してるよメルヴィルさん!チェルシーさんがスキンシップ過多なお節介焼きのおばちゃんだとしたらメルヴィルさんは近所のちょっと性格悪いおっちゃんだ!この野郎!顔は良いけど!

 はぁぁああああ……と肺の中の空気を全て吐き出すレベルの大きな溜め息を吐いてから、背後で私をだまし討ちした事に対して怒っている皆を片手で制止して宥める。

 仕方ない、仕事が忙しい社畜は手段を選ばんのだ。特に仕事関係に関して。

 お姉ちゃんが社畜キャラに嵌まった時に社畜の研究してたから知ってる。情報が偏っている気もするし、間違っている気もするし、そもそも解釈が違っている気がしないでも無いけど考えないでおこう。間違っててもお姉ちゃんの言葉が間違ってたって事でファイナルアンサーだ。



「………わかりました、受けますよ」


「ヤッターーーー!!」



 メルヴィルさんはジットリとした私の視線を大胆に無視し、勢い良く立ち上がって万歳をした。この野郎。受付という壁が無かったらそのがら空きの脇をくすぐって泣かせてやったのに。

 と思ったら危険を察知したのか真顔でサッと腕を下ろした。危険察知のプロか?



「じゃ、すぐに向こうに連絡するから!依頼人の子、この依頼を受けてもらうのめちゃくちゃ待ってたからすぐ来ると思うよ!他の職員に個室に案内させるから依頼人達が来るまでそこで待っててね!お茶菓子食べてて良いから!」



 それだけマシンガンのように言い残し、メルヴィルさんは一昔前のギャグアニメのような素早さで奥へと引っ込んで行った。

 ……本気で動きが芸人なんだよね。しかも一瞬足元がうずまきっぽいアレになったように見えたからマジでヤバイ。ギャグ世界の住人は色々と危険度が高いからメルヴィルさんには芸人止まりで居て欲しいな。いやガチで。マジで。



「あ、では個室に案内しますね」



 遠い目をしてメルヴィルさんが消えた方を見ていると、横からお姉さんに話しかけられた。さっき言ってた案内してくれる他の職員さんかな?



「お願いします」



 美人なお姉さんだったお陰でちょっぴりメンタルが回復した。



「皆も行くよ。お茶菓子あるって」



 お姉さんについて行く前にそう言うと、



「……仕方ありませんね」


「…ん」



 言葉通り、仕方ないという感情が出まくっている表情でハニーはそう言った。少しだけ微笑んでいるのが、何か、子供のわがままに仕方ないなー、って言ってる母親のようだった。ごめんね頼りない夫で。

 そしてラミィはお茶菓子に釣られまくっているのか、尻尾をご機嫌に揺らして頷いた。……ラミィには後でお菓子貰っても知らない人には付いていかないようにって言った方が良いかな。



「ミーヤが良いなら良いけどよ」


「まあ、教会兼孤児院に関しては確かに早く確認した方が良い案件ではあるしね」



 コンは諦め混じりの溜め息を吐きながらそう言い、アレクは苦笑いの後に真面目な顔でそう言った。



「……蜘蛛でも無い癖に我の、我達のミーヤを絡め取るような真似を……あの男、どうしてやろうか」


「どうもしないわよぉ。別に損はしないだろうから放置しておきなさぁい。気に食わないからって始末してたらキリが無いでしょう?」


「……それもそうだな」



 ハイドはボソボソと小さな声で不穏な事を呟いていたが、冷静なイースの言葉によって頭が冷えたらしい。一瞬にしてクールダウンしていた。ありがとうイース。危うくメルヴィルさんが蜘蛛の糸殺人事件の被害者になるトコだった。じっちゃんの孫や小さいけど大人な子供が来てたらメルヴィルさん終わってたよ。あっぶね。

 とりあえず後ろ手でイースに向かってサムズアップ。それに気付いたイースはくすりと微笑んでパチンとウインク。ここでウインクを返すのがイースだよね。色っぽくてとても素晴らしい。



「………………んー…」



 さて、依頼人とそのお付きの人が良い人なら良いんだけど。



今更ですけど、多分王都編は長くなると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ