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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
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ファッションやべえ



「ところでミーヤ様、そちらの新入り予定は巨体過ぎて旅のお供にしたら人々の注目の的ではないでしょうか」


「……そもそも、鉱山……から、出れない……」


「そこだよねー」



 あっはっは、と笑ってどっこいしょと地面に座る。え、イケメンは何処に行ったのかって?イケメンはブラック企業では働いてないんだよ。ホワイトだからちゃんと定時に帰宅しました。つまり時間切れですまたのお越しを。あの状態は見栄張ってるだけだからそう長続きせんのじゃよ。

 んー、でもハニーとラミィの言う事も一理どころか百理ある。



「イース、どうにか出来る?」



 おっぱいを強調するかのように腕組みをして立っているイースに私はそう問いかける。



「そうねぇ…」



 イースはチラリと蜘蛛を見て、



「存在を認識出来ないようにしたりぃ、一時的に空間を歪めたりすれば出来るけどぉ……」



 と呟いた。何かようわからんけどとんでもない事言ってない?前者は認識阻害だろうけど、後者。一時的に空間を歪めるってナニ。

 しかし、イースは溜め息を吐く。



「でもこれって結構魔力を消費するしぃ、一時的な処置でしか無いのが問題なのよねぇ」



 そう言ってから、イースは蜘蛛に話しかける。



「ねぇ、人間の姿になれたりはしないのぉ?」


『なれるならとっくになってる。なれないからこの山の中に監禁されているんだ』



 だよね。蜘蛛の言葉に私もうんうんと頷くと、イースはハニーの肩を掴んで蜘蛛の方へ体を向けさせた。



「この子、キラービーっていう種族なのよぉ。この姿は擬態スキルによるものでぇ、本当の姿は蜂の姿。擬態だから腕の数はそのままだし触覚も生えてる。体重だってそのままだから見た目に比べるとすごぉく軽いのよねぇ」



 うん、確かにハニーは軽い。人間姿の時のハニーはキラービー姿の時と同じ体重だから私でも軽々とお姫様抱っこが可能。前に気になったからちょっと試してみたんだよね。めっちゃ軽かったです。



「でも、人里ではこっちの姿の方が便利だわぁ。多少人とは違うところがあってもぉ、わりと人間は気にしないしねぇ」



 イースはボソッと「あくまで人間に害が無ければ、だけどぉ」と付け足した。それ小声で言う必要ある?



「人からの警戒、会話の不便、体の大きさの違い、生活の仕方、見た目から得る印象………今の状態じゃぜぇんぶ難しい事でしょう?」


『ぐ……』



 ふむ、確かに。



「確かにあんな大きい蜘蛛が町中に居たら即行で冒険者に通報されて討伐対象にされるだろうね」


「そもそも、普通の人間の女は虫系を嫌うんじゃなかったか?」


「……それ…が、どうにか、なっても………あのサイズ、を、寝かせる…広さ、の……宿屋、無い……」


「今のままじゃ問題しか無いか」



 上からアレク、コン、ラミィ、私の順番である。

 色々と考えると、確かにイースの言う通り擬態が出来るようになった方が良いと思うんだよね。蜘蛛の姿のせいで警戒される、会話は大体通じない、体のサイズが違い過ぎて巨大怪獣襲来みたいな事になるだろうし、蜘蛛の姿で人間のご飯が食べれるのかもわからない。そして見た目は……うん、一見さんは絶対悪役だって断言するだろうビジュアル。毒のイメージに多い紫や紺っぽい色合いなんだよね、この蜘蛛。



『だが、我にはその方法がわからない』


「簡単よぉ」



 イースはくすくすと笑い、私を指差して言う。



「人間の姿でミーヤを抱き締めるぞっていう、気合」


「おかしくない?」



 気合で出来るもんなの?あと内容もそれで良いの?ここから出たいとかじゃなくて私を抱き締めるで良いの?それモチベーション上がらなくない?外に出て美味しいご飯食べるぞ!とかの方がテンション上がると思うんだけど。



『確かに人間と同じような姿になれば、糸を使わなくても我自身の手で触れられる……!?』


「良いんかーい」



 衝撃!って感じの声が脳内から聞こえるけどそれで良いの?本当にお前はそれで良いの?今まで鉱山の中に閉じ込められてたのは何だったの?

 しかし、イースの言葉は蜘蛛のモチベーションを上げるのに適した言葉だったらしい。



『こうか……!?』



 そう言い、蜘蛛はゆっくりと姿を変える。

 8メートル級の巨体は2メートル程まで縮み、毒々しい色をしていた体は引き篭もりのような白い肌になり、赤黒い目玉は白目部分こそ無いが人間の瞳と同じ形になり、八つあった足は二本の腕と二本の足へと変化した。



「…………こんな感じか?」



 高い背に見合う長い腕、しかし人間らしい指にするのは難しかったのか黒く尖った指。蜘蛛はその指を当然のように使いこなし、長い前髪を弄る。

 甲冑の鉄の手袋みたいに硬そうな見た目だけど普通に動かせるんだ…。まあ、見た目も手袋って言ったら誤魔化せそうなレベルで人間の手に近いからかなり良いと思う。むしろ人間の姿になったの初めてなのにそこまで変身出来るだけ凄いよね。

 ちなみに蜘蛛の体の色は髪の毛に行ったのか、蜘蛛の髪は紫のような……あ、紫紺色?これ紫紺色って言うのかな?ごほん、まあとにかく蜘蛛の髪色は紫紺色になっていた。髪の長さは「結んだ方が良くない?」って言いたくなるくらいの長さ。首までの長さなんだけど、前髪も同じくらいの長さなせいで邪魔そうに見える。

 でも顔はイケメンだから凄いなー…。魔物は皆美男美女になるんだろうか。あれかな、誘惑する為とかそんな感じなのかな?

 ふと、蜘蛛がこちらを見てそわそわとし始めた。あ、感想待ち?



「格好良いね」


「良し!」



 クール、もしくはミステリアスっぽいビジュアルの男が思いっきりガッツポーズ。うん、大丈夫。うちのメンバーは皆ビジュアルとの違い激しいから。

 ラミィは見た目ミステリアスっぽいけど大食いマイペースさんだし、コンは大きいし筋肉あるし狐ゆえにか目付きが悪いのに感性普通だしツンデレ、アレクなんて首から下が骨でしかも下半身が無いとかいうホラー物件なのに性格はかなりポジティブという………改めて確認するとイースとハニーのまともっぷり凄いな。

 さて、ではそろそろツッコもうかな。



「ところでさ」


「何だ?」



 何にって?



「そのロック過ぎる服は何?」



 服装についてだよ!!

 蜘蛛の!服装が!ロック過ぎる!!ああ蜘蛛だから柄が蜘蛛の巣柄なのは問題無いですむしろしっくり来る!ただしちょっとツッコミ所があり過ぎるんだよね!服が!

 下半身は問題無いんだよ。靴はゴツめのブーツだし、ズボンもワンポイントみたいに蜘蛛の巣柄が入ってるけど普通の長ズボンだから格好良い。ズボンの種類は知らん。私は短パンか長ズボンかの違いしか知らんのじゃ。デニムもジーパンも違いがわからぬタイプの人間でやんす。

 だがしかし上半身お前は駄目だ!

 上半身は何ていうか……チューブトップ。しかもヘソ出し。蜘蛛の巣柄のヘソ出しチューブトップで、それがずり下がらないようにか左肩辺りをベルトのような物で固定している。腕の長さがわかりやすいナー。

 肌色こそ引き篭もりみたいな不健康そうな白さだけど、背の高さに合わせてか筋肉はあるんだよね…。だから惜しげも無く晒されている綺麗な腹筋が見た目に凄く合ってるけどなんか…なんか、こう……さあ!

 蜘蛛はガッチリムキムキな男版イースやがっしりした筋肉のコンとは違い、どちらかというとアレクみたいな細マッチョ系。だからこそロック過ぎるこの格好もスタイリッシュで似合ってるんだけど……ここ異世界だよね!?そういう服装無い世界だよね!?



「何でそんなパンクでロックな格好をチョイスした……」


「我を閉じ込めた勇者とは違う勇者がこんな服を着ていたから参考にしたんだが」



 顔を押さえた私の独り言に近い呟きに、蜘蛛は首を傾げてそう返した。

 ……そうか、勇者か…。ロックが好きな勇者だったのかな…………。はいそこのイース、蜘蛛の脳内を覗いて「どっちかというとこの勇者ってぇ、ロックよりも厨二病よねぇ…」って呟くのを止めるんだ。厨二病よりはロックって思った方が精神的ダメージは少ない。

 あと似合わない服装だったら私も止めたけど、この服装めっちゃくちゃ似合ってるから何も言えない。流石蜘蛛と言うべきか、蜘蛛の巣柄を着こなしてるんだよね。



「まあ…うん、似合ってるから良いや。アレクみたいに裸ローブじゃないし」


「ちょっとミーヤその言い方だと僕に対して誤解が生まれる!好きでローブだけを羽織ってるわけじゃないからね!?」



 はいはい、とアレクを宥める。確かにその宝石が散りばめられた黒いローブはリッチの制服に近い物なんだろう。でもどうせ骨の体だしなーって考えで裸ローブを継続してるのは事実でしょうに。

 イースが幽霊でも着れる服をアレクに「使う?」って聞いたの知ってるんだからね。すぐにアレクが「いや、下半身無いしどうせ大体ローブで隠れてるから良いや」って断ったのも知ってるんだからね。

 ……深く考えると私の脳内辞書にアレクが露出狂として登録されかねないな。考えるの止めよう。えーと、次に考える事は……あ。



「そういや君って名前あるの?」



 ふと思い出し、私は蜘蛛に問う。脳内では蜘蛛って呼んでたし、実際に話しかける時は蜘蛛さんとか君って呼んでたからうっかりしてたけどまだ彼の名前聞いてないわ。よくまあ名前も聞いてない相手を従魔にしようと思ったな私。警戒心家出してるんじゃねーの?

 私の問いに、蜘蛛はふるふると首を横に振った。



「いや、無い」



 あ、無いのね。



「だからミーヤが付けてくれ」


「…自分で付けたい名前とかないの?」


「特に無い」



 そうか、無いのか……。私ネーミングセンスが殆ど死んでるからアレなんだけど…。ハニー、ラミィ、コン、アレクって並べるとわかるように結構そのまんまなネーミングが多いくらいにはアレなんだけど…。しかも呼びにくいからって理由で四文字以内にしようとする癖があるんだけど…。



「それに」



 蜘蛛は私に近付いてするりと腕を伸ばし、その黒く尖った両手で私の頬を覆うように触れて微笑む。



「ミーヤがくれる名前が良い。我の、我だけの、我だけの為にミーヤが考えてくれる名前が良い。ミーヤが我の事を考えて我につけてくれた名前をミーヤに呼んでもらいたい。ミーヤに名付けてもらいたい。ミーヤに名を付けてもらう事でミーヤに縛られたい。ミーヤが良い。ミーヤから貰いたい。その名を呼ばれる度にミーヤに付けてもらった名を呼ばれているんだと実感したい。ミーヤ。ミーヤ。ミーヤ。ミーヤ」


「落ち着け」



 ヤンデレ暴走し始めた蜘蛛の頭をチョップして強制終了させる。頭が目の前にあるお陰でやりやすかった。

 ……ああそうさ目の前の男は2メートルはある、ってか多分210cm前後はあるだろって巨体さ!そして私は158cm!50cmくらいの差があるのに蜘蛛の頭が目の前にあるのおかしくね?って思うだろうさ!でも実際目の前にあるんだから仕方ないだろ!

 どういう事かと言えば、蜘蛛は私の頬に触れながらゆっくりと目線を合わせようと動いていた。多分顔と顔の距離がデカかったからだと思う。そして最終的に蜘蛛は地面に膝を着いてあの台詞を言っていた、というわけである。だから頭が目の前にあったんだよね。

 ……………蜘蛛は膝を着いたのに、それでも私と目線が同じくらいって……何だかなあ…。身長の差ヤバ過ぎない?

 んー、でも……。



「名前、ね…」



 呟いてうーんと首を傾げて頭を捻る。呼びやすくて変じゃない名前が良いよね。

 うーむむ、と唸っていたら知らず知らず顔を顰めてたらしい。蜘蛛が少し悲しげな表情になってしまった。いかんいかん、悲しませるのは駄目だ。甲斐性のある主を目指してるんだよ私は。

 とりあえず目の前にある顔を両手でうりうりすると、蜘蛛の表情は少し和らいだ。良し。

 蜘蛛の頬に触れながら、細身だからあんまり柔らかくないなーと思いつつ私は名前を考える。

 闇毒スパイダーにちなんだ名前…とは思うけど、闇も毒も縁起がねー…あんまりねー…。良し、スパイダーから連想ゲームみたいに考える事にしよう。どうせ今までも連想ゲームでしか名付けてないんだからオッケーだよ多分。私のネーミングセンスはたったの5であるます。

 スパイダー…。スパイ……は駄目。スパはお風呂だか温泉だかが連想されるからこれも駄目。ス…パイダー……パイダー…。パイって続くと食べ物のパイよりも胸の方のパイが連想されるでいかんね。おっとまずい、私はどこの地方の人なんだって感じに口調がごっちゃになって来たぞ。口調の乱れは精神の乱れだこんな事でパニックになるなよ私!

 ぐにぐにと蜘蛛の顔に触れ、歯はギザ歯なんだなーと思考の片隅で思いながら私はまた名前の案を捻り出す。出すんじゃない。捻り出すんだ。それはもう捨てる直前のマヨネーズの少ない残りを頑張って捻り出すように。ケチャップでも可。私は何の話をしてるんだ。

 えーと、えーと、スパイダー……ハイダー…。ハイダーって何となくSFチックだな。黒いヘルメット被ってシュコシュコ言ってる人が連想される。何故だ。イダーの部分だけで判断してるのか私は。ポンコツ過ぎるぞ私の脳みそ。

 じゃ!な!く!て!

 ハイダー…は駄目だからハイ…ヂはあかん!もっとあかん!えーと、次はハイヅ…も駄目だね。住宅っぽい。ハイデ……ハイディ?でもハイディって女性名な気もする…気のせいかも知れんけど。だから私は落ち着けっての。さっきから何処の県民だ私は。

 んで次は…ハイドか。…ん?ハイド?ハイド……ハイドなら結構良くない?外国っぽいし、男の名前っぽいし。



「ハイドって名前はどう?」


「ハイド…」



 蜘蛛は何度か復唱し、満足気に微笑んだ。



「ハイド…これが、ミーヤに貰った我だけの名前…!」



 あ、良かった気に入ってくれたっぽい。

 蜘蛛……ハイドは頬に触れている私の手に黒く尖ったハイド自身の手を重ね、嬉しそうに笑った。…こうやって普通に笑ってると可愛いんだけどね。



「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」



 本心だ。本当に気に入ってくれて良かった。私ネーミングセンスも無ければ名前を考える脳みそも無いからね。安堵によってちょっと上がったテンションのまま、私はハイドの手が重ねられていない右手でハイドの長い前髪を横に流す。いや、だって見え難くないかなーってずっと思ってて…。

 すると、ハイドはビクンと怯えたように硬直した。



「わお」



 私も思わず声を出してしまった。何にって?ハイドの額に驚いて。

 私はてっきり、ハイドが人間の姿になった時に腕と同様に目の数もどうにかしたんだろうなって思ってたんだけど……前髪の下の額には、三対の赤黒い瞳があった。蜘蛛っぽい目じゃなくて、ちゃんと人間っぽい…何て言うんだろう。アーモンド?アーモンドか?まあとにかく人間と同じような形の目が、ハイドの額には六つ存在していた。人間の顔に合わせたらしいメインの目も合わせると合計八つ。三つ目もビックリ。

 まあ元々八つだったし、腕と違って目だもんね。流石に数は変えれないか。いやよく考えると腕の数を変えれただけ凄過ぎるなハイド。

 まじまじと額の目を見てみると、下にあるメインの目とあまり違いは無いっぽい。メインと同じく白目部分が無い人外っぽい目だ。でも蜘蛛みたいな目じゃなくて人間っぽい形の目だから嫌悪感は無い。蜘蛛っぽいボコッとした目は流石にビビるけど、こっちは日本人だからね。三つ目は結構よく見るし、日本妖怪の百目やら百々目鬼なんて体中に目があるんだよ?それに比べりゃ可愛い可愛い。

 あ、成る程。じっと見つめてて気付いた事がある。私が下の目をメインの目って言ってたのは人間の顔だとこの位置が目の位置だからだと思ってたけど、違うわ。下の目の上…ややこしいな。まあとにかくメインの目の上にはちゃんと眉があった。額の目に眉は無い。成る程成る程、だからこの目がメインだなって無意識に認識してたのか。

 ふむふむ、とハイドの目を観察していると、ハイド本人が顔を青褪めさせている事に気付いた。



「え、あれ、ハイドどうかした?」



 もしやまじまじと見られるのが嫌だったとか…もしやじゃねーわ。誰だってまじまじと顔見られたら嫌だわ。馬鹿か私は。

 従魔兼嫁だからか、皆は私が見つめても嫌がらない。それで変な癖付いちゃってたんだなと反省しつつごめんねと謝って顔から手を離すと、力強く両手を掴まれた。

 手のサイズも結構違うから、ハイドの手の中に私の手がすっぽりと収まった。そして力強いせいで痛い。圧が強い。でも手のサイズが同じくらいだったら尖った指が刺さってたかもしれないと考えるとラッキーなんだろうか。どうなんだろうか。

 そしてこの状況は何なんだろう…と考えて現実逃避をしつつ、ハイドの動きを待つ。



「ミーヤは…」



 ハイドはただでさえ血色が良く無い顔を青褪めさせながら、



「わ、我の目が多くても嫌わないか……?」



 と言った。

 ……………んん?



「えーっと、蜘蛛って目が八つあるもんだよね?元の姿も目が八つあったよね?」



 数は変わってないし、一体何の話だ?と思ってそう言うと、ハイドは落ち込んだ様子で答える。



「…我を閉じ込めた勇者は、「目が多いのが一番無理!」って叫んでたから……」



 「だが目の数は流石に変えられなくて、とりあえず髪を長めにして隠してたんだ……」とハイドは続けた。………うん、本当に同郷の勇者がごめんなさい。

 んー、でも私も最初はめっちゃ怖かったけど、今のハイドは普通に好み。ファッションセンス凄いなとは思うけど異世界ならまあ良いだろう。多分。日本だってコスプレイヤーの祭りに参加すればこの程度ゴロゴロ居るだろうし問題無い。

 しかし本当に厄介な種ばっかり植えていったな蜘蛛嫌いの勇者め…。ハイドの人格に…蜘蛛格?まあ人格で良いや。人格にも多大な影響を及ぼし、トラウマまで植えつけていくとは…!

 まあとにかく、目が多いのは嫌う理由にはならないって伝えないとね。率直、かつ簡潔な言葉でトラウマ持ちのハイドに伝わるようには……。



「私は人外好きの称号持ってるし、多眼系も性癖の範囲内だから問題無し!むしろ好感度アップのポイントだからね!」



 ……あれ、何か選ぶ単語を間違えた。

 性癖って何だよ性癖って。確かに多眼系は守備範囲内だけどそれ真正面から言う言葉じゃなくない?普段なら大慌てになる脳内ですら自分のとんでもねえ言動に戸惑い過ぎてクールになってるよ。賢者タイム入ってるよ。

 これ励ますどころか嫌われる理由になるのではと背中に冷や汗を掻いた瞬間、



「本当か!?」



 ハイドが満面の笑みでそう言った。

 …あ、オッケーなんだ。



「そうか、ミーヤは我の目が好きなのか。ふふ、ふふふ、ふふふふふ。そうかそうか、それは良い事を聞いた。だからあんなにもまじまじと見つめてたのか。良いぞ、我の目も含め全てがミーヤのモノだからな。好きなだけ見つめて良いぞ!」


「アリガトー」



 嘘は言ってないけど精神的ダメージが酷い。多眼系も守備範囲内なのは事実です。しかし本人にそうあっさり笑顔で受け止められるとどういう反応すりゃ良いのかわからんぜよ。

 ……ハイドが元気になったから良いって事にしておこう…それが一番平和だ……。

 一度頷いて無理矢理自分を納得させ、改めて私はハイドの目を見る。うーむ、見事に多眼。



「でも腕は多腕じゃないよね?」



 ハニーはそのまま多腕だし、ハイドも目は多いまま。なのに何故ハイドの腕だけ人間と同じ二本の腕?と首を傾げて聞くと、ハイドは私に黒く尖った手を見せた。



「我は蜘蛛だからな。爪はあるが人間の手程関節は無い。そこを調整するのが面倒だったのと、あとは人間の体型で足が四つだと歩き難いんじゃないかと……」


「ああ、腕四つ足四つみたいな感じなんだ」


「そうだ。だから二つを一つに纏め、一緒にする事で関節の数を増やして人間と同じ様な指にした。元の関節の数がある程度あれば調整も楽だからな」



 まったくわからん。私勉強出来ないポンコツなんですよね。



「イース先生!」


「何かを作るにはその材料が要るのと同じ事よぉ。人間の手を作るにはぁ、元の材料である蜘蛛の足では関節が足りなかった。だから材料の数を一つ増やす事で関節の数を増やしたのぉ。そうやって自分の持ち物で賄えば補充は少なくて済むでしょう?」


「成る程!」



 私の心をお見通しの上での解説ありがとうございます!

 ふむふむ、机を作ろうってなったけど材料が足りないから別の木材で賄うって感じなのね。そうすれば買い足す分も少なくなるから楽…と。それを自分の体でやってるのが凄いな。人間には絶対出来ん芸当だよねコレ。

 まあ簡単にわかりやすく言えば、蜘蛛の足二つに少しの関節を足し算する事で人間の手一本になるという……簡単じゃないけどこういう事だよね、多分。良いんだよフィーリングで何となく察してればどうにかなるんだよ。日本人は空気を読んで流されるのが特技です。おーけい?



「ところでさー、ミーヤ」


「ん?」



 アレクの声に振り返ると、アレクは軽く苦笑いをしていた。え、何?



「名前付けてのほほんとしてるけど、まだ従魔契約してなくない?」


「あ」



 そういやまだ契約してなかったわ!何でこんな重大な事をド忘れしてんだ私の脳みそ!



ミーヤとイース以外の従魔達の身長。

ハニー→擬態姿は143cm。

ラミィ→下半身が凄く長いので身長は可変。基本的には170cmくらいかな?

コン→190cm。

アレク→生前は178cm。

ハイド→擬態姿は209cm。

………ハニー以外デカいな。

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