イース視点
ひょいっ、と尖った黒い爪が生えている指を振るい、空中に軽い結界を張る。そして自分は人間の姿のまま浮き上がり、その結界の中へと入った。この中なら多少強めの魔法を使用しても問題は無いだろう。外からこの中を目視する事も不可能だから安心して魔法を掛ける事が出来る。
勿論、浮く時に誰かに見られると厄介だから、と認識阻害の魔法も使用してある。
ああそうだ、アレクに認識阻害の魔法も教えなければ。認識阻害はその名の通り相手、または周囲の認識を阻害し感知出来ないようにする魔法だ。サーチ系の魔法が相手だったとしても、この認識阻害があればサーチの認識を阻害する事で相手に気配などを悟られないようにする事が出来る。何より隠れるのに最適な魔法だ。今晩教えるのはこれにしよう。
ふわふわと浮きながら、ミーヤに一旦返してもらったミサンガに阻害系の魔法を何重にも重ねて掛ける。
「王都は有能な冒険者が多いものねぇ…」
だからこその阻害魔法だ。
有能な冒険者という事は、相手の実力を見抜けてしまうという事でもある。何より王都は良い人材も集まる場所だ。ミーヤよりレベルの高い人間が鑑定スキルを持っていて、その鑑定スキルでミーヤの称号を見てしまったら?と思うと不安しかない。
今のミーヤはレベルも上がっているが、やはりプロ相手では劣ってしまう。そのプロに鑑定されてステータスを覗き見られたら終わりだ。異世界人という事が知られてしまう。そして法律的にそれは王族へと伝えられることだろう。そうなってはもう、このツィツィートガルを離れるしか無くなってしまう。
しかしそれはリスクが高い。こちらの情報が知られ、そして広められた後で国外逃亡など悪手でしかない。だからこそ、ミサンガに阻害魔法を掛ける事でそういったスキルや魔法を弾くのが重要だ。
ミサンガなら常に身に着けているし、違和感も少ないアイテムだ。実はこのコブジトゥに寄ったのは、王都に行く前にこの細工をしたかったから以外に理由は無い。
ミーヤに話した通行に関しての問題はただの口実。一応、王都までの道でプロの冒険者に鑑定を使われる危険性があったからという理由はあるが。ミサンガに阻害魔法を掛ける前に関わりを持つのは避けたいからな。
スキルや魔法の阻害魔法をミサンガに重ね掛ける。あとは…サーチ系の魔法も一応阻害しておいた方が良いだろうか。下手に情報を抜き取るようなサーチ系の場合のみ阻害、という形にするのが良いだろう。
あとこの阻害魔法がミーヤの魔法の邪魔にならないようにも細かい修正を重ねて………などと、時間をかけていたのが良く無かったらしい。
(皆!ちょ、やばい命の危険がヘルプ!!)
ミーヤからの従魔用テレパシーが来た。しかも緊急の要件だ。
命の危険、だと?
(ミーヤ?)
どういう意味だと聞く為にそう返すと、ミーヤの魔力は一瞬安心したように緩んだ。
繋がった事に安心したという事は、中々に危険な状態に陥っているらしい。だがミーヤの口調からして余裕はあるようだ。
…………会話がテレパシーにダダ漏れしているな。後でアレクに従魔用テレパシーについてレクチャーしなくては。
(………ミーヤ、何…が、あった………の?)
魔力から、ラミィがミーヤを心配してそう問いかけているのがわかる。…自分含めて、従魔全員ミーヤを心配しているのも事実だがな。
すると、ミーヤは気まずそうに答えた。
(いや、うん、なんというかストーカー野郎がベルさんの旦那って自己紹介しやがったので思いっきり騙されてホイホイ付いて行ったらベルさんの代理として何かの生け贄にされかけてて命のピンチ)
離れたのは間違いだったか!
そうだ、ただでさえミーヤは平和ボケした異世界の住人。しかも未成年!
こちらの世界に来たばかりの頃は警戒心を表に出すくらいには警戒していたが、従魔が増え、こちらの世界の人間達を知り、そしてミサンガというアイテムによって人の嘘や悪意が目に見える状態だった。恐らく、そのせいでミーヤに油断が生まれていたのだろう。
タイミングが悪い事に自分以外の従魔はベルの護衛兼荷物持ちとして出払っていた。自分もミサンガに魔法を掛ける為にミーヤの傍を離れていた。留守番をするだけだし、ストーカー男の方もミーヤよりベルの方へと関わりに行くだろうと思っていたのが仇になったか…!
否、それ以前の問題だろう。自分はベルの心を読んでストーカー男の顔も名前も知っていたが、よくよく思い返してみればミーヤはそれを知らない。ベルはストーカーのバーバヤガ野郎としか言わなかったからな。見た目の特徴すらミーヤは知らないはずだ。
ああまったく!我ながらなんてザマだ!一番平和ボケしているのは自分ではないか!
…違うな。今はそれを考える時ではない。後悔は時間がある時にするものだ。今はとにかく、ミーヤの居場所を聞かねばならない。魔法でミーヤの居場所を探るくらいなら一瞬だが、それを妨害する魔法を使用されている可能性もあり得るからな。
(まだ無事よねぇ?現在地はぁ?)
(山のトンネル。宝石キラキラ。魔力たっぷりの光る岩)
ミーヤは即答した。どうやら自分の怒りや苛立ちが魔力を通じて伝わってしまったらしい。この苛立ちは自分に対してのものだが……まあ、油断して怪しい人物に付いて行ったミーヤにも非があるからな。あえて誤解は解かないでおこう。
しかし、山のトンネルに宝石、そして魔力が含まれた光る岩がある場所……。
(生け贄って事も足すとあの鉱山ねぇ?)
きっとあの山だろう。アレが住むとされている鉱山。
かつては様々な種類の黒や紫の宝石が採れると言われ、それに集まって来た人間達によりコブジトゥはかなり栄えていたなと思い出す。まあ、アレがその山の中に住み着いていたせいで駄目になったが。
確か、宝石を採る為にトンネルを掘り進めていたら大きな空洞がある空間まで掘り進めてしまい、そこに居たアレが目覚めてしまった……とかの話だった気がする。当事の者達の魂は運悪く食えなかったせいでその辺りの事情は知らん。全て伝聞だ。
しかし、そのせいでアレが目覚めてしまい、鉱山はアレの支配下に置かれた。無断で宝石を採ろうとすれば鉄より硬い糸に絡め取られアレに食われるとか何とか。結果コブジトゥは一番の……いや、唯一と言って良い名産品を奪われ衰退していった。
その結果がこの現状……と言いたいが、この村に訪れた災厄はそれだけではなかった。
アレは生け贄を求めたそうだ。生きた人間と、人間が生きるのに必要とする物一式を寄越せと。それ以来、数年だか十年だか数十年だか置きにこの村は生け贄を捧げているらしい。
…アレは巨体過ぎるがゆえに山から出られない。だからこそ無視しても問題無いのではという案もあったらしい。だが、それは無理だった。
生け贄を捧げるのを無視し、締切日から数日が経ったある日。村のあちこちに蜘蛛の巣が張られていたらしい。その蜘蛛の巣を作り上げた糸の出所は、やはりトンネルの奥だった。山の中に居ようともお前達を殺すくらいは容易い事だと言わんばかりのその光景に、村人達は逃げる気力すらも失ったとさ。
確か昔読んだ話ではこんな話だったはずだ。要するに、この村は名産品も奪われたうえで他にも定期的に捧げなくてはならない状況だという事だ。生きた人間も捧げるには惜しいモノだが、人間が生きるのに必要とする物一式も中々に厳しい。食べ物から服、その他全て生きるのに必要な品を捧げなくてはならないのだからな。
それを何代にも続けた結果、この村は廃れきってしまったのだろう。何故なら自分達が生きるのに必要な品も全て奪われ続けているのだから。
しかし、だからといってミーヤに手を出すとは。主犯は殺す。共犯者も居るようならそいつも殺す。村ぐるみだったなら村ごと燃やす。いや、待て。怒りに飲まれてはいけない。今はまずミーヤを食おうとしているアレを殺し、ミーヤを無事保護する事を最優先で考えなければ。
(すぐにコブジトゥに戻るからそれまで無事で居られるぅ?)
ミーヤに問いかけるが、返事は無い。何かあったのだろうかと思いながら結界を解き、村人に目撃されないように認識阻害をしながらコブジトゥに降り立つ。
……何かあったのだろうか。
契約印に反応は無い。主に何かあったならこの契約印が主のピンチを伝えるはずだ。だからまだ怪我などはしていないはずだが……。
(いやあああああヘルプ!)
考えつつ、ミーヤの元に行く前にベルと共に居るだろうハニー達と合流しようと居場所を探っていたらミーヤの悲鳴が脳内に響いた。
(これあかんやつだ!今現在私謎の糸によって全身拘束されて蓑虫状態!しかもトンネルの奥の方に引き摺られてるっぽい!あとストーカー野郎であるクアドラードがトンネル前でめちゃくちゃ高笑いしてるであります!)
…………ハニー達だけじゃ鉱山の場所がわからない可能性があると考えて先に合流しようかと考えていたが、先に鉱山へ行ってその男を八つ裂きにした方が早いようだな?
(ごめん今の訂正!クアドラードの奴どっか行った!走ってどっか行った!今トンネルの中私だけ!ずりずり奥の方へ引き摺られてる!)
チィッ!面倒な!
だが男がトンネル前から移動したという情報が得られたのは幸いだ。
ぶわり、と足元から魔力を発して村全体をサーチする。……トンネルから離れるように走っているのは…コイツだな?
サーチした反応の中に、一つだけ他と違う動きをしているものがあった。これが恐らくその男だろうと目星を付ける。ではこの男の首を…落とすのはミーヤが嫌がるな。一先ず気絶だけさせるかと考えた瞬間、その男が向かう先に気付いた。
……この男、ベルの方へと向かっているな。
丁度良い、こちらもハニー達と合流しておきたかったところだ。
「ハニー!ラミィ!コン!アレク!」
「……!イース…!」
「イース!ミーヤがピンチだ!」
「わかってるわぁ!」
男の目的地に先回りし、皆と合流する。……良し、主のピンチだからといって依頼人を見捨ててミーヤの元へ向かっていくという愚かな行いはしてないな。少し安堵した。ここで依頼人を見捨てるのは冒険者であるミーヤの信頼に関わってきてしまうからな。きちんと依頼人にも話を通すのが冒険者としてのルールだ。
…ミーヤのピンチだというのに落ち着いているな、と思うか?当然だ。万が一に備えてミーヤにはこっそりと身代わりアイテムを持たせてある。一度だけしか効果は無いが、死ぬレベルの大怪我などを代わりに受けてくれるというアイテムだ。
もしミーヤが致命傷を受けたなら、そのピンチは契約印が伝えてくれる。例え身代わりアイテムが代わりに壊れた場合であってもだ。そこで初めてミーヤの身に本当の危険が訪れた、という事になる。だからそれまでは大丈夫の範囲内だ。契約印は、まだ反応していない。
ミーヤもラッキガールの称号を所持しているし、他にも生き残るのに使える称号を複数所持している。魔力の繋がりは維持されたままだし、契約印が反応していない現状はまだ余裕がある。
(引き摺られている速度はどのくらいですか!?遅いのであれば今からでもまだ)
ハニーがミーヤにそう問いかけた瞬間、ミーヤの魔力に焦りが生じた。
(あばばばまってまってそくどあげるのまってゆっくりからそくどあげるとかジェットコースターか貴様ああああああああ!!)
聞こえてきた悲鳴に思わず眉を顰めてしまう。契約印に反応が無いことから恐らくまだ引き摺られているだけのはずだ。何か攻撃をされたとか、食われかけているとかでは無いだろう。……そのはずだ。
だが、下手にアレの元まで引き摺られては手遅れになる可能性もある。アレはとても巨大な魔物と聞くからな……。
(ミーヤ!頑張ってその場所で耐えれる?!)
トンネルの途中で踏ん張るなりして、完全に引きずり込まれる前に綱引きのような状態で耐えられないかとミーヤに伝えるが、
(……?何!…ノイ………い……?)
乱れた魔力によるノイズ音と、途切れ途切れのミーヤの声。そして次の瞬間、ブツンと従魔用テレパシーが切れたのがわかった。
…………あの鉱山の魔力のせいか!
元々強い魔力を含んでいた鉱山と、強い魔力を所持しているアレのせいであの鉱山はとてつもない魔力を有している。普通なら小石がぼんやり光る程度でしかない魔力の光があちこちで光っているのが良い証拠だ。
本来あの光は明かりの代わりになるから便利としか思っていなかったが……強い魔力があちこちにあるせいで従魔用テレパシーの魔力に乱れが生じたのか…!
チッ、と舌打ちをし、ベルに向き直る。ベルも何となくだが事態の深刻さを察しているらしく、顔色が悪くなっていた。
「簡潔に言うわよぉ?ミーヤが身代わりとしてトンネルに放り込まれたらしいわぁ」
「トンネル……身代わりって、まさか!」
それだけで全てを察したのか、サァッと顔を青くしたベルがふらついた瞬間、
「ベル!」
ベルに声を掛けるゴミが来た。
「ああベル!やっと見つけた!もう大丈夫だよ!あの化け物への生け贄はあの子に代わってもらったからさ!これでベルは心置きなく俺と付き合えるんだ!あの化け物への生け贄にならないといけないからって断られてたけど、これでもう俺の愛を拒絶する理由なんて無いだろう?だってもう生け贄は捧げたんだから!あの子の命は失われたけど、まあ俺とベルとの生活に比べたら些細な事だ。そうだ!お義父さんにもこの事を教えなくちゃいけない!お義父さんもベルが生け贄にならないといけない事には心を痛めていたし!お義父さんは俺とベルの交際を駄目だって言ってたけど、俺がベルの為にここまでしたんだから、きっと認めてくれるはずだよ。だって俺の愛は本物なんだから!」
ゴミは怒涛の勢いでそうまくし立てた。ベルの反応など見ようともしないこの態度に、ふつふつと腸が煮えるのがわかる。このゴミは随分と鈍感のようだ。自分を含めた従魔全てが殺意を向けているというのに、いまだ顔に笑みを浮かべる事が出来るのだからな。
「お、お前……お前が……!」
「どうしたんだい?ベル。震えたりして。ああ!そうか!そうだ!そんな野暮な事は聞くべきじゃなかった!そりゃベルだって生け贄になる必要が無くなって、しかも俺と結婚出来るなんて事が現実になったら震えて泣きそうになるのも当然だ!でも泣く必要なんて無いよ、ベル。俺達の門出は常に光が差してるんだから!」
そう言ったゴミがベルに触れた瞬間、ベルはゴミの股間を膝で勢い良く蹴り上げた。
「っっっっっっ………!??」
「……っお前が死ね!クズ野郎!無関係の子を巻き込むなんて……!」
「…う、うううううう……っ!」と、ベルは座り込んで泣き出した。ゴミはゴロゴロと地面を這い蹲っている。……ミーヤが見たらパニックになるだろう光景だな。
…ふむ、ベルが蹴り飛ばしたお陰でハニー達の怒りは二割程消えたが、まだ八割の殺意が残っている。自分の場合は十割の殺意がいまだに残っているが……無残に殺すのは、ミーヤが嫌がるだろうからな。
足音も立てずに自分はゴミへと近付き、転がるゴミの頭を砕かないように踏みつけた。
「…「オールドレイン」」
「あぐぅぁっ!?」
八割程奪い、残りカスになったゴミを軽く蹴飛ばして転がす。これでもうあのゴミは終わりだろう。
「……じゃあ、さっさと鉱山に行ってミーヤを迎えに行くわよぉ」
振り向いてそう言うと、何故か全員が目を見開いて絶句していた。
「…………イース様、あの…今、殺すよりも惨い事をしませんでしたか?」
「したわよぉ?それがぁ?」
「あ、いえ……」
「何でもありません…」とハニーは答えた。殺さない、けれどそれより酷い目には遭わせる。そのくらい当然だろう?自分が惚れ込んでいる夫を殺されかけたのだから。
……いや、ミーヤが豪運だから無事なだけで、普通の人間ならば確実に死んでいてもおかしくない事をこいつはやったな。つまりミーヤが死んでいなかったとしても、殺された時と同等の罰を与えるのが正解か?……だがこれ以上は本当に死ぬだろうから良いか。放置しておけば死ぬよりも辛い苦痛を勝手に味わうだろう。
「ベル、それはもう誰かを害する事は出来ないただのゴミよぉ。……だからちょぉっと護衛が居なくなるけどぉ、良いわよねぇ?」
「勿論!私のせいであの子が巻き込まれたんだもの…!私なんてどうでも良いから、今すぐに行ってあげて!」
「物分りが良い子は話が早くて良いわぁ」
ベルの瞳には、すぐにミーヤを助けてやって欲しいという思いが込められていた。聞こえる心の声も、生きて再び会って謝罪をしたいという気持ちのみ。
加害者は始末したようなものだからベルはもう大丈夫だろうと思い、自分はハニー達を連れてトンネル内部へと突入した。…やはり中は蜘蛛の巣だらけだな。アレの支配下だからだろうが……。
「燃やすか?」
口から火を漏らしながらコンがそう言ったが、それは良く無い。
「この蜘蛛の巣は本体と連動してるわぁ。燃やしたりすれば向こうに伝わる」
「じゃあどうするの?」
「こうするのよぉ」
アレクの質問に、パチンと指を鳴らし鉱山全体に魔法を掛けて答える。
「認識阻害魔法の応用。こうすれば邪魔な蜘蛛の巣を燃やそうが、邪魔な魔物を屠ろうが、どれだけ奥へ進もうが相手に知られる事は無いわぁ」
「……イース、リッチとしての本能がこれ下手すると神業級だって伝えてくるんだけど」
アレクはまだ慣れていないからか言い方が大げさだな。
「この程度はまだ魔王級よぉ。神業だったら国ごと覆えるわぁ」
山一つを魔法で一時的に支配下に置いたくらいでは神業とは言わない。魔王様程度でしかないだろうとそう返すと、アレクは引き攣った表情で息を呑んだ。……将来的にはアレクにもこのくらいは出来るようになってもらいたいが、先は長そうだな。
まあそんな些細な事はどうでも良い。今はとにかく、奥に進むのを最優先にしなければ。そう思い足を踏み出した瞬間、足元にミーヤの鞭が転がっているのが見えた。
…………ほう。
鞭を拾い上げてアイテム袋に仕舞う。さて、アレはどうやら調子に乗っているようだ。腹が立ったから久々に前に出て、邪魔者を始末しようか。
邪魔な蜘蛛の巣、邪魔な岩、邪魔な魔物、邪魔な壁、全てを消して奥へと進む。背中側はハニー達が居るから気にしなくても良いだろう。前だけに集中出来るのは良い事だ。
「……イース、凄い…」
「アレク、あれ何やってるのかわかるか?」
「多分闇魔法で空間を捻れさせて、「何も無い」を生み出して邪魔な物を消し去ってるんだと思う」
「流石はイース様、私達には理解不可能な事をやってのけるのですね」
そんなにも難しい事だろうか。ミーヤの世界風に言うならブラックホールを闇魔法で作り上げているだけだ。何も無い空間を手の平に作り上げる事で、手の平が触れた場所は何も無い空間になるだけ。何故なら手の平のブラックホールによって全てが消え去るから。
それだけの事だが、確かにミーヤの記憶を見るまで考えた事も無かったやり方だ。面白そうだったから試しにやってみたら出来てしまった魔法。こういう時短したい時には有用だな。まあ広めると危険な魔法である事に違い無い為あまり人前では使えそうに無いが。
「……!イース!そこの道塞ぐような蜘蛛の巣!その向こう側からミーヤの匂いがする!」
コンの言った方向を見る。成る程、糸を扉代わりにして侵入を防いでいるのか。しかも糸で出来ているから、そこから糸を操る事も可能。
だが今の怒りに満ちた自分相手にそんなものが通じると思うのか?
「邪魔ねぇ」
ブラックホールを解除した手の平を口の前に持ってきて水平にする。そして糸の扉に向かってフゥッと息を吹きかけた。
次の瞬間。
吐息に混ぜた火の魔力が糸に触れた瞬間に、糸の扉は炎上した。ついでに風魔法でボールを作り、燃えている糸の扉に向かって投げる。
風で出来たボールが燃えている糸の扉に触れると炎はより勢いを増し、糸を完全に焼き切った。
道が開いた。
「ミーヤ!」
罠が仕掛けられていない事を魔法で確認してから、中へと踏み込む。
すると、
「あ、イースやっほー」
『…………』
空洞の中には、巨大な蜘蛛のすぐ目の前にケロッとした様子で座っているミーヤが居た。呑気にもこちらに手を振っていたが、目が笑っていない自分に気付いたらしい。ヒエッと肩を跳ねさせた。
「……ミーヤァ?何があったのか、説明してくれるぅ?」
「ひゃい…」
無事だったのは何よりだが、一体何があってそうなった。
イース視点は中性的にしたかったんですが、気付いたら男性的な心の声に。多分人里続きで女の姿が多いから、バランスを取る為に中身が男寄り状態なんじゃないですかね。




