まさか矛先がこっちに来るとは思わなかったんですと供述しており
「暇……」
ごろん、とベルさんに貸してもらった部屋のベッドで寝返りを打つ。
あの後ベルさんが「久々に買出しに行きたい!」と言ったので、イースを除いた全員がベルさんの護衛に付いたのである。いや、うん、何ていうか…ね?ここ数日の間、そのストーカー男が怖くて買出しに行けてなかったらしくて。
そして代わりに買い出しに行っていたベルさんのお父さんである村長さんも最近腰を悪くしちゃったらしくて、重い物が買えなかったんだとか。わっくわくの様子であっち行ってこっち行ってあれ買ってこれ買ってー、ってメモを書いてるベルさん相手に、それ確実に荷物持ち必要ですよね?以外に掛ける言葉が見つからなかった。
うん、数日後に死ぬって言ってた人相手にそれ荷物多くなりません?とかまた違う日にしません?なんて言えなかった。
というわけで、護衛としてハニーとラミィ、荷物持ちとしてコンとアレクがベルさんに同行する事になったのである。
なんかよくわからないけど、アレクは異空間?に荷物を入れる事が出来るらしいから、アレクだけで良く無い?って思ったんだけど、アレクが言うには、
「万が一買った物が光属性だったら僕アウトだから。アンデッドの僕に光は大ダメージ。無理」
との事だった。
確かにこっちの世界では色んな魔石で生活してたりするもんね。水道代わりに水の魔石を使ってるところもあるし、冷蔵庫代わりに氷の魔石使ってたり、明かりとして光の魔石使ってたりもする。そう考えると光属性のアイテムを買う可能性は確かにあるんだよね。
という事で、コンも一緒に荷物持ちとして同行する事になったのである。
ハニーとラミィが護衛なのは、異種族とはいえ同性だから安心出来るんじゃないかっていう判断。あと強いし容赦ない二人だからっていう理由もある。
……うん、ほら、コンはツンデレでちょっとネガティブ入ってるけど精神はかなりまともだし、アレクもちょっと思考回路が変わってるけど元人間だから常識はあるじゃん?だからストーカー相手に出遅れる可能性があるかなーって…。
その点ハニーとラミィは容赦ないから、相手が隙を狙ってこようとも対処出来るはず!という考えである。対人が結構得意な二人でもあるし………やっべ、私二人に相手は殺さないようにねって注意したっけ…?
ま、まあ多分殺しはしないでしょう。多分。きっと。ラミィの人食いの称号がちょっと不穏だけど大丈夫だったら嬉しいな。希望は持ってて損しないアルね。
そんな感じで私は一人でお留守番なのである。本当はイースも一緒にお留守番のはずだったんだけど、
「ミーヤのミサンガを貸してくれるぅ?」
「え、うん。はい」
「ありがとぉ。今からこれにちょぉっと魔法を重ねてくるわねぇ。少し留守にするから不審者には気をつけるのよぉ?」
と言って、ミサンガを持ってどっかに言っちゃったんだよね。
嘘と害意がわかるミサンガに一体何を重ねるんだろう。まさかGPS……は、流石に無いよね?多分無い。無いはず。無いと良いな。あ、でも異世界だしあった方が安心ではあるのか?ううむ考えてると頭痛くなってくるな。
ぼすん、と枕に頭を預けて仰向けになる。
ベルさんが貸してくれた部屋は結構大きめの部屋だった。ベッドはそこまで大きくないから、私とハニーとコンは大丈夫でもラミィの尻尾は落ちるかな…というサイズ。それでも普通よりは大きいんだけどね。コンも結構大きいのに大丈夫な理由については、コンは丸くなって寝るタイプだからである。私は平均より小さいし、ハニーは寝る時ぬいぐるみサイズだしね。ただしラミィの下半身は数メートルなのでちょっと無理があった。残念。
イースとアレクに関しては…うん、あの二人寝ないからね。寝る事も出来るらしいけど、ぼんやりした状態で近くの夢に入り込んじゃうからって言って寝ようとしない。意味はよくわからないけど、肉体を持たない生物独特のアレなんだろうか。
……イースもどっか行っちゃうなら私もベルさんの買出しに付いて行けば良かったな。
ぼんやりするのは好きだけどひたすら暇でしかない。スマホでも見ようかな………あー、うーん、いやでも、今は漫画読みたい気分でも無いんだよね…。文字読む気力がナッシング。てか眠い。
そうだ、ちょっとだけお昼寝をしよう。それが良い。
「というわけでおやすむ…」
よっしゃ寝よう!と思って力を抜くと、私は驚く程あっさりと眠りに落ちた。あれかな、ストーカーの相談を受けてメンタルがちょっと疲れちゃってたのかな?
「………………ん?」
コンコン、という音でふっと意識が覚醒した。見えるのは見覚えの無い天井。
響き続ける音を無視してアイテムポーチからスマホを取り出して時間を確認すると、さっき寝てから30分くらいしか経過していなかった。お昼寝って何でこう短時間でも凄くぐっすり寝たみたいな感じになるんだろうね。
「ふあ、あ、あ……」
んー、と伸びをして腕をぐるぐる回し、ちょっと頭もスッキリしたし皆が帰って来るまでスマホで幽霊に関してとか調べようかなー、でも幽霊系って怖いの多いからちょっとなーなんて考えていたら、響いていたコンコンという音が少し強くなった。
「………あっ!?」
そこで私はやっと気付く。この音ドアのノック音じゃん!?と。はい寝惚けていたとはいえノックの音で目覚めた癖にまったく気付かずスルーしていた馬鹿はこちらです。
私は慌ててベッドから降りて扉を開ける。
「すみませんうっかり寝て、て………?」
扉の前に居るのはてっきり村長さんかベルさんだろうと思い扉を開けたら、扉の前に居たのは爽やかなイケメンだった。
銀髪をアシンメトリーにしている緑の瞳の男性は、出てきた私にニコッと微笑む。
「始めまして。俺はベルの夫のクアドラード。君が数日泊まるっていう冒険者の……ミーヤだっけ?」
「あ、はい……って」
ベルさん旦那さん居たの!?
あ、いや、うん、確かにベルさん旦那さんが居ないとは一言も言ってないね。村長の娘である事とストーカーにSAN値ピンチに追いやられてる事と数日後に死ぬらしいって事しか知らんわ私。
うーむ、日本だったらベルさんの左手の薬指見れば既婚者かどうかわかったんだけど、こっちの世界では別にそういうの無いっぽいからなー。ペアリングをしててくれるとわかりやすくて良いんだけど…と内心で溜め息を吐く。
「ん?あれ?何で私の名前を?」
この家には最初ベルさん以外居なかったし、ベルさんと皆を見送った記憶もある。んん?外で会って話を聞いたとかかな?でもそれなら荷物持ちを手伝うんじゃ?
そう思っていると、クアドラードさんは右手の人差し指と中指で挟んだ紙をピッと取り出して私に見せた。
「帰ってきたらテーブルに置手紙があったんだ。女の子が居るけど、泊まりに来た冒険者の女の子だからねって。名前もここに」
「成る程」
途中で会ったわけじゃなくて、帰ってきたら置手紙があったから私の名前を知ってたのか。だから様子を見に来てくれたのかな?
クアドラードさんに渡された紙を見ると、確かに同じ様な事が書かれていた。ベルさん、帰って来た村長さんや旦那さんに私が不審者扱いされないように気を使ってくれたのか……私も自分の事なんだからもっと早く気付けよって感じだけどね。この置手紙は買い物メモの時に書いたのかな?紙が同じっぽいから多分そうだと思う。
すると、クアドラードさんは「あ」と声をあげた。
「そういえば君、今時間あるかい?」
「時間、ですか?」
あるか無いかと聞かれると、
「あり余ってて暇してます」
としか答えられない。するとクアドラードさんはニッコリと笑った。
「それは丁度良かった。実は案内したい場所があってさ」
「案内したい場所?」
「そう。この村の名所なんだけど、村の人はこれのどこが?って感じで売り込もうとしないし、外の人は中々この村に来てくれないしで全然広める事が出来なくてさ……」
はぁ、とクアドラードさんは溜め息を吐く。
「女の子ウケしそうなスポットだから外の人でもある君に感想を聞きたいんだ。改善点があったら言って欲しいし、もし可能なら次の町とかで広めて欲しいしね」
「もしや観光系のお仕事なんですか?」
「うーん、ちょっと違うかな。まあ似たようなものだよ」
あ、流石に異世界だから観光大使的な人は居ないのかな?うっかりうっかり。観光大使って言ってたらアウトだったかもしれないからギリギリセーフ、っと。
こんなんで異世界人だとバレたら大変だから気を引き締めなくては。
「で、どうかな?もし来てくれるなら俺も助かるんだけど…」
「じゃあ従魔の皆に連絡入れるんで、その後」
「その後皆が帰って来てからでも良いですか」と言う前に、クアドラードさんは困ったように眉をハの字にして待ったをかけた。
「それは止めた方が良いかな」
「何でですか?」
「その場所、魔物が入れないように特殊な結界が張ってあるんだ。だからこそ安全な名所として広めたいんだけど……魔物使いの君の場合、従魔が入り口で待機する事になったら嫌かなーって。だからこそ従魔が居ない間にあそこを見せてあげたいんだ」
「おー…」
そんな結界あるんだ。凄いな異世界。
確かに魔物が来ない場所ならそれだけで名所扱いになるかもしれないし…こんだけ村が廃れてると観光名所を一つでも多くアピールしたいって思うよね。
それにクアドラードさん、従魔が居る時だと私が従魔に気を使っちゃうんじゃないかってトコまで考えてくれてるのか。流石はベルさんの旦那さん。気遣いも出来る男。
女の子ウケしそうなスポットって言ってたし、良さげだったらスマホのカメラで写真撮って皆に見せれば良いかな。それなら皆は入れなくても見せてあげる事は出来るし。異世界だから撮影禁止って事は無いだろうし……。
「うん、ちょっと気になるんで行ってみたいです」
「良かった!じゃあ早速行こう!そこまで遠くないから大丈夫だよ」
そう言ってクアドラードさんは玄関に向かって歩き出そうとして、
「あ、言っておくけど性的なアレコレはまったく考えてないから安心して良いよ。俺はベルしか見てないし」
一瞬振り返ってそれだけ言った。ああ、うん、確かにその辺で誤解が生まれるのは嫌だよね…。同じように嫁を愛する夫としてその辺をハッキリさせておきたいって気持ちはわかる。私も生前のアレクに対しては期待を持たせないように告白は必ず断ってたもんね。アーウェルに関しては嫁うんぬんの前だったからノーカウントでお願いします。アーウェルも今頃はツギルクでばんばん魔物狩って同年代の彼女捕まえてるよきっと。
村長の家を出て、クアドラードさんはスタスタと先行して行く。私は周りを見ながらクアドラードさんについて行く。クアドラードさんがちゃんと時々後ろを確認してくれてるから多分はぐれたりはしない…はず!
まあ最悪サーチで探すから大丈夫でしょと思いながら周りを歩く人を見る。皆忙しそうに色んな物をあっちに持って行ってこっちに持って行って、あっちは人手が足りないらしいからお前はあっちに…という声も聞こえる。皆凄く忙しそうだな。これが貧乏暇なしってやつ?
…………どうせ持て余してたし、帰ったらベルさんにジュエリーハンマーをプレゼントしようかな。あれ確かめっちゃ金になるっぽかったし。
きょろきょろと周りを見渡しながら、ふと違和感を覚えた。光景にでは無く、さっきの会話に。
クアドラードさんは私を見て冒険者であるミーヤか、と言った。でも留守番組は本当ならイースも居たんだよね。ベルさんの置手紙にはイースの事も書いてあった。でもクアドラードさんはそれに対して聞いてくる様子は無かった。………あれ?
「あの、クアドラードさん」
「何かな?」
「何でさっき、イースが居ないって」
「居ないって事を知ってたんですか?」と言おうとしたら、「あっ!」とまたもや遮られた。声をあげたクアドラードさんは少し距離のある山を指差し、
「あそこが見せたかったスポットだよ」
と言った。
え、でもクアドラードさんが指差した方向にはただの山しか…あ、いや入り口っぽいのがあるな。トンネルっぽいのがある。洞窟?鍾乳洞みたいな感じのスポットなのかな?
ちなみに山はとてつもなくビッグな感じの山。あ、もしや鉱山ってこれかな?だとすると確かに女の子ウケが高い可能性が……いやいや、それだと宝石の原石盗み放題になっちゃうからあり得ないね。
でもクアドラードさん、何でこのタイミングであそこを指差したのかな?まだ山までちょっと距離があるし、でも山はさっきから見えてたしで指を差すには絶妙に微妙な距離だったと思うんだけど…。私の言葉を遮りたかった、とか?え、何で?意味ある?
そんな事を考えていると、
「着いたよ」
「えっ?」
既に山の入り口まで到着していた。おお、結構入り口大きいな。
「中を覗いてごらん」
言われるがままトンネルの入り口から中を覗いて見ると、中はキラキラ光っていた。え、これ宝石?マジで?あ、いやでも岩壁がぼんやりと光ってるって感じで……うーん?
「この山はかなり魔力が強くてね、その魔力を沢山含んだ石や岩なんかが発光してるんだよ」
「へー!」
初めて知った!異世界凄い!
じゃああの辺のぼんやりした光はその魔力による発光で、こっちのキラキラしてるのは宝石なのかな?
「あの辺で光ってる宝石って本物ですか?」
「本物だよ。採るに採れない事情があって放置されてるんだ」
「事情?」
事情って何ですか、と聞こうとした瞬間。
「へ?」
ドンッ、と強く背中を押され、私はコケるようにトンネルの中に入った。うっおビックリした!危うく怪我するトコだったよ何今の!?
レベルが上がったのと今までのバトル経験のお陰で受け身取れて怪我せずに済んだ!と思いながらクアドラードさんの方に振り向くと、
「これで良い……」
「……クアドラードさん?」
クアドラードさんは、ギラギラした目で怖い笑顔を浮べていた。あ、今内蔵がヒュッてなった。
「これで、これでベルは犠牲にならなくて済むんだ……」
まだ立ち上がっていない私を見下ろしてニヤニヤと笑いながら、クアドラードさんは言う。
「お前を身代わりにすれば!俺のベルは俺だけのモノになる!あんな化け物に俺のベルをやるもんか!あいつへの生け贄になる必要が無くなれば、きっとベルも俺の想いに答えてくれる……!」
………………まさか。まさかだよ?まさかだけどさ?まさかまさかのマッカーサーって感じなんだけどさ?
この男、もしや件のストーカー野郎なのでは?
クアドラードの目の色は「緑色の眼をした怪物」を思い出して緑にしました。




