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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
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アレク視点



 まあ、説明しろって言うなら全部話すよ。

 ミーヤのお願いなら生まれた時から死ぬ直前までぜぇーんぶね!え、そこまではいらんって?いやいや、説明するには僕が生まれた瞬間…というより、僕が生まれる前からの話をしないといけないんだよ。

 まず、僕の父親がローゼンベルク家の跡継ぎだったんだ。そして一番目の嫁が僕の母親で、二番目の嫁がアイザックの母親だった。

 うん、これはわかるよね。でも母親の素性が問題だったんだ。アイザックの母親は普通に貴族だったんだけど、僕の母親は娼婦だったんだよね。そう、金で体を売ってる女さ。まあそこは大した問題じゃ…いや、大した問題だったのかな。

 僕の母は権力と金に固執してたんだ。権力と金のせいで全部を失って娼婦になったからだと思うけど、そこはどうでも良いから割愛するね。重要なのは母が権力と金に固執していたって部分だから。

 母は、客だった父との子を身篭ったって言ってゴリ押しで妻の座を得たんだよね。



「ゴリ押しの時点で嫌な予感がする」



 …うん、だよね。

 実際妊娠した日にちを調べたら確かに父の子である可能性が高いって事で、僕の母はそのまま父の妻になったんだ。そこからは結構楽しかったみたいだよ?娼婦の仕事からも解放され、綺麗な服に豪華な食事、夜はふっかふかなベッドで眠れる生活を送れるんだからね。

 まあ、僕が生まれてからは気が狂っちゃったみたいだけど。

 んーと、何て言ったら良いのかな。ほら、子供の見た目って親に似る事も多いじゃない?母親似だったり、父親似だったり。

 生まれた僕は、父にも母にも似てなかったんだよね。どころか、母が父を相手した日の前日だったか後日だったか…要するに、その辺の時期に相手した客の顔にソックリだったらしいんだよ。その人と特徴が完全にピッタリだったからすぐにわかっちゃったみたい。

 母親似だったらまだ誤魔化せたけど、そうじゃなかったからね。出産した当日は荒れに荒れたみたいだよ?安静にしてなきゃいけないのに屋敷を走り回っちゃうくらいには。

 母は元々姑息なやり方も使う人だったみたいだから…つまり悪知恵が働く人っていうのかな?万が一を懸念して信頼出来る口の堅い使用人に手を貸してもらって僕を産んだらしいんだ。だから僕がローゼンベルク家の血を継いでいないって事も、その人と母しか知らない事実なんだよ。

 そこで母は考えた。どうにかしてこの子供をローゼンベルク家の血筋とわかるようにしなければ、とね。



「本当の事は……流石に言えないか」


「元々ゴリ押しで嫁入りしたわけですしね」



 そうなんだよね。

 母は僕という子が父との血の繋がりが無いと発覚したら縁を切られて追い出されると思ったみたい。例え追い出される事が無かったとしても、今までみたいに好き勝手な振る舞いは出来ないって思ったみたいでさ。とにかく僕をどうにかしないとって考えたらしいんだよね。

 まず僕を始末する方向。でも妊娠してたのは周知の事実だし、ここで流産しましたってのはそれはそれで自分の価値を下げてしまう!って考えになったらしくて、僕としてはありがたい事にボツになった。

 次に違う子供を用意する方向。替え玉っていうのかな?その辺で父に似た色合いや顔付きの赤子と僕を交換してもらうとか、金で売ってもらうとか。でも母は他人という信用出来ない存在にそれをやると、その人間から全てが漏れるかもしれない!って思ったみたい。だからこれもボツになった。

 最後に、ちょっとヤバめな方法。ローゼンベルク家は勇者と関係のある家だって言ったよね?だからちょっと変わった秘宝とかがゴロゴロしてるんだ。ダンジョンの管理システムもその一つ。で、母は「領主の妻なら私にだってそれを使用する権利がある!」ってゴリ押しして宝物庫の宝を一つこっそり盗んで僕に使ったんだよね。あ、その宝は使った後にちゃんと戻したみたいだから安心して。



「安心してと言われても」


「俺らの不安要素、そこじゃねえし」



 そう?

 で、その宝なんだけど、その宝は「変身デキチャーウ」っていう秘薬だったんだ。



「ネーミングセンス何処行った!?」



 あはは、まあ効能は本物だったからそこはスルーで。

 「変身デキチャーウ」は、飲んだ生き物の全てを望む形に作り変える効果があるんだ。例えばリスが人間になりたいって思って飲めば、そのリスは完全に思い描いていた通りの人間の姿になれる。ただしこれ、一回作り変えたらもう出来ないらしくってさ。一回使用したらもう一回!とかが出来ないんだよね。

 で、母は生まれたてホヤホヤの僕に、母乳より先にそれを飲ませたんだ。



「母乳より先にヤバげな薬って常識が行方不明過ぎるよね!?」



 多分その時には既に狂っちゃってたんじゃないかな?

 ちなみにこの「変身デキチャーウ」なんだけど、これ、僕は何かになりたいとかって考えてないわけだよね?赤ん坊だったし。そういう風に、飲んだ生き物が「何かになりたい!」って考えてない場合は近くに居た人間とか飲ませた人間の望みの姿に変える効果があるらしくって。

 …まあ、父親の生き写しかって感じの赤ん坊が出来上がるよね。



「ん…?って事は」



 そう、僕の顔は父と瓜二つなんだ。元の僕自身の顔は僕も知らない。生後数時間足らずでこの顔にされたからね。

 ちなみに母が望んだ僕の姿は「父ソックリの顔」らしいよ。「違和感を抱かない顔」って言った方がしっくり来るかな?血の繋がりが無いって事を知られない為にっていうのが大きかったみたい。

 ま、「変身デキチャーウ」は人間をドラゴンに変える事だって出来るみたいだから、もし願っていれば父と僕との間に本当に血の繋がりが出来てた可能性もあったんだけど……そこは母が焦り過ぎてたって事なのかな。気付かなかったみたい。

 そして父の生き写しレベルの顔になった僕は完全に父の息子だと思われ、母は無事妻の座に居続ける事が出来たわけだ。僕が息子だったのもあって跡継ぎを産んだ!っていう満足感…優越感?にも浸れたみたいだよ。

 でも母は僕が生まれてからずっと思っていたんだ。もしこの子が血の繋がりなんて無いと発覚してしまうような行動や言動をしてしまったら?ってね。

 母がそんな考えに取り付かれたせいで、僕の幼少期は酷かったよ。父のようにあーしなさいこーしなさい。父はそんな事を言わないしない。お前はどうして言う事を聞いてくれないの!?ってさ。アレックスの時に僕が自分の事を「俺」って言ってたのもそれのせいなんだよね。父の一人称が「俺」だったからそれも強制されてた。今はもう良いかなって思って戻したけど。

 僕はいまいち母に対して情を感じた事が無かったから、毎回「あーはいはい」って感じで聞き流してた。しかし、そんな母が本気でやばくなっちゃったのはアイザックの母親がアイザックを産んでからさ。アイザック、結構父似だったからね。



「え?でもアレクとアイザックさんの顔って…似てるって言っても目元が似てるよねってレベルだよね?」



 んー、そうなんだけどさ。僕って父の生き写しなわけでしょ?作り物だけど。そしてアイザックは天然で父とソックリな目元だった。それだけで母の心を追い詰めるには充分だったみたい。

 僕が産まれた時、僕は完全に違う男ソックリの子だったからね。本物が近くに居るって事に焦ったのか、もー酷かったよ。ちょっとでも父がしないような行動を僕が取ったらキーキー猿みたいに喚いてさ。そしてアイザックが父ソックリな行動を取ったらそれはそれで騒ぐし。見た目美人でもあの性格は無いよね。



「ヒステリックって奴かね」



 何それ?へえ、病的な興奮状態になる人の事?あはは、確かに合ってるかも。

 で、僕は見た目こそ父似だったけど性格は結構なアクティブ派でさ。アイザックは見た目はそこまで父似ってわけじゃないけど性格が父似だったんだよね。それで幼少期色々あって、父と僕の母とアイザックの母が死んじゃうわけだ。



「待って何が起きた!?」



 色々は色々だよ。僕の母が匿名でアイザックの母の暗殺を依頼して、依頼した相手が結構適当な奴等で、僕の母は依頼の時にターゲットを「父の妻」としか伝えなかったせいで大混乱になってさ。結果父の妻である二人が殺されるっていうね。父も巻き添え食らって死ぬし。

 あ、僕の母と父とアイザックの母を殺した人達は、半分は父に始末されて、もう半分は兵士の人達に捕まったから気にしなくて良いからね。

 いやあ、母が依頼した相手ってのが適当っていうか雑っていうか…プロじゃなかったからさ、仕事終わりに先払いで貰ってた金で酒飲んで全部話しちゃったらしくて。それでお縄頂戴。本当、我が母ながら馬鹿だよね。そんな奴等に依頼して殺されるなんて。

 でもそういう過去を振り返ると、ちゃんとしたプロの暗殺組織に依頼したアイザックは偉いと思うよ。使用人を人質に取りはしたけど、後遺症が残らないようにっていう気遣いのある気絶のさせ方だったもん。

 僕がもっと抵抗してたら流石に使用人にも酷い被害が出てたかもしれないけど、関係の無い相手は出来るだけ傷付けない。プロだよね。ああいう人達に殺されるっていうのは殺される側からしても満足いく死に方だったよ。まあ僕はミーヤと一緒に居たかったから悔いがあったけど。



「そこ」



 ん?



「アイザックさんがアレクを…アレックスを殺す依頼を出したって言ってたけど、どういう事?少なくともアレックスの死を悲しんでるのは本当だったと思うんだけど」



 あー、うん。まあアイザックだからね。そういう性格なんだよ。



「殺そうと思って殺しておいて悲しむって精神が大変な状態過ぎない?」



 違う違う違うって!そういう情緒不安定な感じじゃなくて、真面目過ぎる潔癖って感じの性格なんだよ!……そう、アイザックはそういう性格なんだ。

 まず僕。僕って領主でしょ?父が死んだから自然と繰り上がり式で長男の僕が領主になっちゃっただけなんだけどね。実際は血の繋がっていない僕よりもアイザックの方が素質があると思うんだけど、色々と面倒なアレコレのせいで立場を譲れなかったんだよね。アイザックはアイザックで頭が固いし。

 …アイザックの性格なんだけどさ、アイザックってね?真面目過ぎるっていうか…生真面目が過ぎるんだ。領主ならば領主らしくあれ!とかさ。そしてアイザックはアイザックで、領主の補佐として相応しい存在に!みたいな。

 要するに妥協が出来ない性格なんだ。

 だからこそ、僕よりも自分の方が領主に向いている!って思ったらそこに突っ走って行っちゃうっていうか。え、猪突猛進?あは、何それ。でもアイザックにピッタリかも。

 …………本当、アイザックってば手が抜けないからさ。僕に領主の座を「譲られる」っていうのは許せなかったみたい。きちんとした手順でどうのこうのっていっつもうるさかったし。でも、領主の仕事を適当にやったりやらなかったりで屋敷を脱走しては冒険者としてダンジョンに潜る僕には領主を任せられない!って思ったんだと思う。アイザック、他人にも全力を求めるタイプだから。



「領主をアレックスに任せてはおけない。しかしその立場を譲られるのも許せない、ってか。アイザックさんと接しててその片鱗はあった気もするけど…ちょっと真面目過ぎない?」



 その結果がこれなんだよ。真面目過ぎるアイザックは、真面目な手順を踏もうとしたのさ。

 つまり、現領主が死んでの繰り上がり方式。僕が領主になった時と同じ方法。これなら正式な手順で、誰かに譲ってもらったとかじゃなく領主になれる!って考えたみたい。

 それからアイザックは僕を殺そうと慣れないながらに頑張ってたよ。毒を盛ろうと考えたけど毒なんてどこで手に入れるんだ?ってなり、毒をどうにか手に入れたは良いけど料理とかは全部うちの料理人が作ってるから混入する隙が無いし、世話になってる料理人に疑いが掛かったら申し訳ないし、そもそも食べる為に作られた食事に食べられない毒を混入するなんて…!ってなって結局毒殺を諦めたり。



「やろうとしてる事は兄の殺害作戦なのに可愛く感じる」


「……アレク、何で、そんなに……詳しい……?」



 ああ、日記読んだから。

 証拠になる可能性があるのに、真面目だから反省点とか駄目だった点とかを纏める為に「アレキサンダー観察日記」ってタイトルで殺僕計画を書いてたんだよね。頭良いのに馬鹿なのかなってちょっと思った。

 そうそう、母と口の堅い使用人しか知らない僕の衝撃的事実を僕自身が知ってるのも、母の日記に書かれてたからなんだ。見つけた時は他人事のようにこの日記から全部バレたらどうするんだろうって思ったよ。でも日記に毎日の愚痴を書いたりする事でストレス発散もしてたみたいだから仕方ないのかな。

 あ、ちなみに口の堅い使用人も母と父とアイザックの母が死んだ色々の時に巻き添えで死んでるし、件の母の日記もさっさと燃やしたから僕の事実を知ってるのは今や本当に僕だけさ。たった今そうじゃなくなったけどね。

 まあそういう感じでさ、アイザックは僕を殺そうにも中々殺せなかったんだ。僕は僕でそう簡単に殺されたくないから抵抗もするし。で、最終的にアイザックは最後の手段に出た。



「最後の手段って?」



 ………ダンジョンのシステム操作さ。



「え、ああ、そういやローゼンベルク家が管理してるって………え、待ってそれってまさか」



 そう、最近ダンジョンで異常な量の魔物が発生してたのはそのせい。魔物を大量発生させて僕を殺そうとしたみたい。ダンジョンによく潜りに行く僕が魔物に殺されるっていうのは結構ベターな死に方っていうのも合わさってその考えに至ったのかもね。

 僕が不審な死に方をしたらアイザックが疑われる可能性もあるって考えると、冒険者の死因によくある「魔物に殺される」っていうのが一番自然だから。

 一応アイザック本人は無関係な人まで巻き込むのはちょっと…って考えてたみたいだけど、他に方法が浮かばなかったんだと思う。僕に押し付けられた仕事のせいで碌に休めずストレス溜まりまくりだったのも良く無かったかな。



「それアレクの自業自得じゃない?」



 ええ?酷いなミーヤ。僕はただ、僕が領主を辞めてアイザックに全部任せた時にアイザックが全部やれるようにと思って任せてただけだよ。

 そりゃ他の町との関係とかが面倒臭くて丸投げしてダンジョンに逃げ込んでたのも事実だけど。

 そんなわけで……うん、ミーヤと出会ったあの日は本気で死ぬかと思ってた。というか死ぬんだなーって思ってた。

 …本当の本当はね?その日暮らしのメンバーを見捨てるっていう選択肢だってあったんだ。でもそれをしたら彼らは死んじゃうでしょ?僕だって死にたくは無いけど、無関係の彼らが巻き込まれて死ぬのは良く無い。彼らにとっても良く無いし、僕だって巻き込みたいとは思ってないし、アイザックも人を殺そうとは考えても無関係の人を殺してしまうのだけは避けたかっただろうしね。だから庇って囮になったんだ。

 その結果僕は壁の方へと追い詰められ、腹に致命傷を負わされ……あの時、ちょっと走馬灯が見えちゃってたから本当にギリギリだったんだろうね。



「そういえば、あの時「僕の人生もここまでか」みたいな事言ってたよね。それってアイザックさんに命を狙われてるのを知ってたから?」



 そうだよ。色々と抗ってはいたけど、あの状況じゃ流石にもう抗えないかなって。もうちょっと色々やってみたい事はあったけど、ここまで追い詰められたら無理だなあって思ってさ。

 それで諦めて剣を手放したら、何と上の方から獣人に抱っこされた女の子が目の前に降って来た。本当にあれは衝撃だったよ。



「ああ、うん、私もそう思う」


「着地の時の風圧がトドメになったら良く無いなと思って途中で勢いを殺した俺の気遣いを察せ」



 あ、あれ気遣ってくれてたんだ。ありがとう。

 そして獣人から降りた女の子は僕に、「もうちょっとねばって長生きしてもらいますよ」「大人しく助けられてくださいね」って言った。



「言ったね」



 …その言葉がね、僕は本当に嬉しかったんだよ。



「え、何で?」



 長生きしてくれ、なんて…誰かに言われたのは初めてだったから。助けられろなんて言われたのも初めてだった。いや、長生きしてくださいねーみたいな事を言われた事は一応無くは無かったんだよ?でも、こう…家族にそれを求められた事は無かったし、本気で死に掛けてる時に「生きろ」って言われたのが、ちょっと、本気で嬉しかったっていうか。

 ……そうだね、僕は、「生きろ」って言われたのは初めてだったかもしれない。母は父のようであれとしか言わなかったし、父はあんまり接した事が無かったし、アイザックには命を狙われてるしね。

 しかも「助けられてくださいね」って!

 僕は領主だったから助け合いが基本だったんだ。まあ助け合いって言っても、僕は領主だから僕の方が負担は多めだったりするんだよね。

 でも、ミーヤは違った。僕に見返りを求めてるから僕を助けるんじゃなくて、僕以外の人から見返りがあるから生きろって言ってくれた。



「改めて聞くと死に掛けの人間に掛ける言葉じゃないね…」



 僕は嬉しかったから良いの。僕以外の人から見返りがあるから死ねっていうのならともかく、生きろって言ってくれたんだし。

 それにミーヤは僕に対して、生きるか死ぬかを決めろとかの選択肢を与えなかったでしょ?ミーヤは僕に、生きる以外の選択肢を与えなかった。

 僕は今まで自分が望んでいない選択肢ばかりを強要されてきたからさ、僕が望んでいる選択肢を強要してくれたのが本当に嬉しかったんだ。

 だって考えてもみてよ!僕は生まれてからずっと「父の子」であれと母に強要されてきてたんだよ?その母の死後だって「領主」であれと強要されたり、それを拒絶したら「死」を願われたり。

 元々僕は父の子じゃないし、領主だってなりたかったわけじゃない。その座はいつでも譲るって言ってるのにアイザックは譲られるのが許せないって言って僕を殺そうとするし。

 僕だって死にたくは無いから抗ってたけど…でも、今までの生き方のせいでさ、相手にとって都合の良い自分になろうとしちゃうトコがあったんだよね、僕。だから正直、「死にたくない」って思うのと同時に「まあ、死んでも良いか」とも思ってた。僕に対してそうあれと望むなら、そうなった方が良いのかなーって。



「……ん?」



 あ、気付いた?そう、ミーヤの「都合の良い存在になろうとしない精神」が好きって言ったでしょ?それは僕が持っていないものだから、それを持っているミーヤが本当にキラキラ輝いてるように見えたんだ。

 最初はただ、ミーヤは長生きしろって言ってくれたけど、報酬が支払われた後も僕にそう思ってくれてるのかな?って思って会いに行っただけだったんだけどね。もし本当に本心から僕が生きてるのを望んでくれてたら嬉しいなーって思って。

 そしたらさ、ミーヤってば僕に対して普通に接してくれるんだもん。生きててくれて嬉しい!とかじゃなくって、僕が生きてるのが当然みたいに話してくれて。

 最初に助けに来てくれたので一目惚れ、その翌日に色々と話して本気でミーヤの事が好きになった。

 だから、僕はミーヤと一緒に居たいって思いで生きる事にしたんだ。ミーヤと一緒に居続ける事は出来ないかもしれないけど、それでもミーヤとさよならするまでの間は生きていようって。

 …思ってたんだけどね……。まさか最終日にプロの暗殺者雇って殺しに来るとは思わないじゃん?

 予め準備は整えてたから間に合ったけど、僕の準備が完全じゃなかったらリッチにもなれず本気で死んでたよ!アイザックってばせっかちさんだよね!



「…まさか、アイザックさんが私達と一緒に酒を飲んでたのはアリバイ作りの為か…?」


「そうよぉ」



 僕もそうだと思う。



「それともう一つ。アレックスと仲の良かった私達に疑いの目が来ないようにっていう気遣いもあったわぁ」


「え?」


「そうだったのですか?」



 あれ完全にアリバイ作り&僕への嫌がらせだと思ってたけど、そうなの?



「ええ。この町に来て数日で領主様と仲良くなり、滞在最終日に領主様が死亡…。下手したら私達が下手人扱いだったわねぇ」



 んー…でも、アイザックはそういう濡れ衣を嫌うから…。



「そう、だからあの日の夜に私達と飲んでたのよぉ。自分のアリバイと共に私達のアリバイも作ってくれてたわぁ。万が一私達が疑われたとしてもぉ、一緒に酒を飲んでいたって証言が出来るものねぇ」


「気遣いはありがたいけど気遣いの方向性おかしくない?」



 ああ、うん、多分アイザックはミーヤ達が去った後に僕を殺したら、一部でミーヤ達がやったんじゃ?っていう根も葉もない噂が流れるのを懸念したんじゃないかな…。本人が居ないところで陰口を叩くの嫌う性格だし。

 まあそういう感じで、長い話になっちゃったけど結論を言っちゃうと「アイザックが領主の座を狙っていたので僕は殺された」って事なんだよね。

 僕は僕で血の繋がりが無い事を知ってたから領主やってるの苦痛だったし、ミーヤと一緒に旅したかったから肉体とか諸々を捨てて新しい自分になるのに丁度良いなーと思って殺されてリッチになりました。以上!

 だから皆、アイザックの事を悪く思わないでね。アイザックは妥協出来ない性格だっただけだし、僕が死んだのは僕の計画に必要だったから。アイザックはある意味僕の被害者とも言えるんだ。両方加害者だからどっちが悪いとかは無いんだよ。



「いや、うん、話聞いてたらもう何か、全部アレクのお母さんが悪いのでは?って気になってくる話だったね」



 僕もそう思う。



「でも謎は解けたわねぇ」



 謎?



「アレクの顔の謎よぉ。リッチは基本的に骨の姿をしたゴーストなのにぃ、アレクは頭部だけ生きてる時と同じ状態でしょう?その「変身デキチャーウ」の効果が死後にも現れてたって事なのねぇ」



 あっ、成る程!だから顔の部分だけそのままなんだね!



「「変身デキチャーウ」の効果凄くない!?死後まで効果あんの!?」



 正直赤子時代に使っちゃってたせいでミーヤの従魔になる為に魔物になろう!って思っても「変身デキチャーウ」が使用不可能で畜生!って思ってたけどある意味感謝なのかな?お陰でミーヤにすぐ僕だって気付いてもらえたわけだしね。

 にしても「変身デキチャーウ」ってそんなに凄かったんだ。通りでセットした覚えも無いのに毎日髪がこの髪型になってるはずだよ。「変身デキチャーウ」の効果だったんだね。

 …ち・な・み・に、



「ん?」



 冥土の土産って事で、家宝を幾つか持ってきちゃったんだよね。



「………ほわっつ?」



 リッチって凄いね!魔法で自分の魂の内部に物質を仕舞う事が出来るんだよ!自分自身がアイテム袋代わりになるって凄くない!?

 というわけで、こちらが件の「変身デキチャーウ」です。ミーヤにあげるね♪



「いらん!仕舞え!」



 えー、折角持ってきたのにーい。



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