五人目の従魔
「……わざわざそんな事言わなくても連れて行くっての」
「え、じゃあ…!」
ぶわわわっとアレックスの背後に大量の花が舞う光景を幻視した。あれかな、リッチっていう魂だけの存在になってるから感情が目に見えちゃってるのかな。
「あ、でも一応皆に確認は取るからね」
ほんの少しでも背中を押されたらキスしちゃいそうな距離にアレックスの顔があったから、とりあえず左手を二人の顔の間にスッと差し込んだ。振り向く動きをした瞬間にキッス☆とかちょっとアレじゃん?
唇の安全を確保し、くるりと背後に居る皆の方へと振り返る。
「アレックスを従魔にする事に関して賛成の人ー」
私がそう声を掛けると、全員が手を挙げた。
「私はアレックスがリッチになろうかって考えてたのも知ってたしぃ、その上でミーヤの役に立ちそうだからって思って何も言わなかったのよねぇ」
イースは微笑みながら、「だから反対なんてするはずないでしょう?」と続けた。もしかしてアイザックさんに連れて行かれるアレックスを見ながら何か考えてたのってソレ?
「ミーヤ様が決定する事に反対意見などありません」
ハニーは上の右手を挙げ、ハッキリとそう断言した。いや、ちゃんとハニーの考えで判断してね?私も結構頻繁に間違えるから、最近知識をガンガン吸収しているハニーにはストッパーの一人として頑張って欲しい。
「………アレックス、真剣……に、本気の告白……した、から……。ラミィ、認める……」
ラミィは左手を挙げ、いつもよりしっかりした声でそう言った。…うん、そういえば昨日のお昼にそんな事話してたね。
「まあ、拒絶する理由は無いしな。……べ、別に俺の後輩が出来るのがちょっと嬉しかったりなんてしてねえからな!?」
何も言ってないのにコンは自白した。そっか、確かにコンにとっては従魔の後輩だね。
全員の意見を聞いて、反対意見なんてまったく無いねと判断してアレックスへと向き直り、衝立のように間に挟んでいた左手を下ろす。
「皆もオッケーみたい」
そう言ってニッと笑うと、アレックスは頬どころか耳まで真っ赤に染めて私の首に腕を絡めて抱き付いてきた。ぐり、とアレックスの頭部が猫のように擦り付けられる。猫って結構擦り付けるような動きするよね?あんな感じ。
アレックスはぐりぐりと頭を擦り付けながら、嬉しさが滲み出ている声で言う。
「僕の全部を、ミーヤのモノにしてね…!」
「はいよ。アレックスも私の従魔になってね」
落ち着かせる為にぽんぽんと軽くアレックスの頭を撫でる。アレックスの頭っていうか、被ってるローブのフードを撫でてる感じだけど……まあ感触は伝わってるでしょ。魂だけだからなのか触れたり触れなかったりとよくわからないが、一応頭に触れる事は出来たから良しって事にしよう。理解出来ん時はスルーに限る。
「えーっと、じゃあ従魔契約ってして良いのかな?」
「勿論!好きな所にミーヤの印を付けて!」
嬉しそうな声色でそう言い、アレックスは一度離れて全体が見えやすいようにくるくると回った。
……うーん、今のアレックスの体の殆どは骨だし、その骨部分もローブで隠れてるんだよね。契約印って見える位置に付けた方が良いし……そうなると顔に付けるのが一番良いのかな。流石にローブに契約印は付けれないだろうしね。
顔、顔か……額はハニーと被っちゃうから違う場所が良いよね?そうなると……フェイスペイントみたいな感じで目元とかかな?泣き黒子みたいに目尻の辺りに……と考えていると、アレックスが「あっ」と声をあげた。
「そうだ、契約するなら一つだけお願いしたい事があったんだ!」
「何?」
あ、もしかして従魔契約の時の契約内容とかかな?私は基本的にご自由にどうぞスタイルだからあんまり重要性を考えてなかったけど、確かに従魔になる側からしたら重要な点だよね。私が悪い奴だったら自由なんて無いも同然だし。その辺を先にしっかりと確認するのは当然か。何処でも誰でも、契約内容はハッキリさせておかないと危険だもんね。詐欺は危ない。
アレックスは右手の人差し指で自分自身を指差し、言う。
「僕に名前を付けてくれない?」
契約内容とかじゃなかった!ヤダ私のポンコツっぷりが恥ずかしいわ!全然違った!
おっとっと、そうじゃないそうじゃない。当てが外れて顔を赤くする場面じゃないから。黙ってたらバレないから黙っていようね私。背後でイースが笑いを堪えてるからイースにはバレてるんだろうけど、まあそれはいつもの事なのでスルーしよう。
「……名前?」
念の為にそう確認を取ると、アレックスは笑顔で頷いた。
「うん。ホラ、僕ってアレキサンダー・シルバ・ローゼンベルクが本名で、冒険者やってる時の偽名がアレックスだったでしょ?」
「そうだね」
「でも、僕は死んでそういうのも全部手放したんだ。領主である僕が死んだ以上、そして冒険者の僕も死んだ以上、その二つの名前はもうリッチである今の僕の名前じゃないんだよ」
「あー、成る程」
リッチとして生まれ変わったようなもんだから新しい名前くーださいって事なんだろうか。
まあでも確かに死んだはずの領主が幽霊になってて、その幽霊を私が「アレックス」とか「アレキサンダー」って呼んでたら「領主様じゃん!?」って正体バレしそうだもんね。別にバレても問題は無い気はするけど、今のアレックスは全部を捨てて新しい生を……死を?楽しもうとしてるわけだし。
「それに、折角だからミーヤに名前を付けてもらいたいなって……」
頬を手で押さえて赤面するのは止めるんだ。有名な恍惚ポーズ思い出すから。いや、目は死んでないからどっちかっていうとヒロインが照れ照れしてる感じに近いけど……男で死んでて幽霊でボディがボーンなヒロインってどういう事だ。
そう思っていると、アレックスは一瞬遠い何処かを見るような虚ろな目になってポツリと呟く。
「僕の「アレキサンダー」って名前、父親の名前を貰って名付けられたものだし、「アレックス」も適当に返事しやすそうな名前として自分で考えただけだから……」
……自分だけの名前が欲しいって感じなのかな?
だがしかしバッド私ってばネーミングセンスさんが皆無なタイプ。どうしましょ。だからって他の子に手伝ってもらうのも何か違うよね?これって私が一人でアレックスの事を思いながら名前を考える流れだよね?
…が、頑張らねば…。
えーっと、まずアレキサンダーとかアレックスの二つは無し、で……。っていきなり言われても無理!アレックスはアレックスじゃん!?いきなり違う名前にしたってこっちが呼べないよ!仮に太郎って名前を付けたとしても、太郎って呼ばれてアレックスが反応出来るとは思えない。そして私も太郎=アレックスって方程式が成り立たない。つまり私は私が呼びやすい名前を考えないといけないって事だ。だって私はポンコツガール。はっはっは知ってた。
そうなるとアレキサンダーとアレックスにちなんだ名前が良いよね。両方最初の「アレ」が一緒だし、そこに一文字か二文字付け足す感じが良いかな。これならそう呼び間違えたりもしないだろうし。
アレキ……アレス……アレクサン…まで言ったらアレクサンダーって呼びたいよね。うーむ困る。私のネーミングセンスの無さとポンコツっぷりが留まるところを知らずに突き進んで行ってるね、コレ。
あ、でも今のアレクサンは何か言いやすかった。アレク…サン………ダー。駄目だ最後に「ダー」を付けたくなってしまう。アレク、サンダー……もう後半のサンダーを取って…いやだから私が反応出来んのだよね。アレク…アレクさん………ん?アレク、さん?アレク……アレクって良くない!?これなら私も反応しやすいしアレックスも違和感少ないだろうし!深く考えるとアレキサンダーの愛称であるアレックス…の、愛称でアレクって感じがしないでもないけど!深く考えなきゃ良いのだよ!
考え込んでいたからかいつの間にか下を向いていた顔を上げ、私はアレックスに言う。
「名前、アレクってどう?」
「アレク?」
アレックスは「アレク……アレクか…!」と私が考えた名前を何度か口に出し、
「うん!すっごく嬉しいよ!アレキサンダーもアレックスも僕の生前の名前!死後である今の僕の名前はアレクだ!ありがとう、ミーヤ!」
「ぐえっ」
とても喜んでくれたらしく、頬を染めたアレックス…じゃない、アレクは私の首に抱きついた。
骨の腕なのに勢いが強かったせいか力も強く、私はカエルが潰された時のような声が出た。その声ですぐにアレクが慌てて離れてくれたから少しゲホゲホと咳き込みながらも呼吸を整える。私ってば呼吸困難と縁があるんだろうか。ほら、水難とか女難みたいな感じで。
「ごめんね?ミーヤ。大丈夫?」
「だ、大丈夫…。呼吸困難には慣れてる…」
ぜーはーと呼吸を整え、ふぅ、と息をついた。何か呼吸を落ち着けるの慣れてきちゃったな。
「それじゃあ、従魔契約しよっか」
「うん!印の場所決まった?」
「決まった」
私は目の前にあるアレクの顔を両手で包むようにして、左手の親指でアレクの目尻に触れる。
「ここならよく見えるかなって。どう?」
「お好きにどうぞ…!」
何故かアレクは胸の前で両手を祈るように組み、湯気が出そうなくらい赤面した。待って?さっきもっと近距離だったよね?思いっきりハグしたり囁いたりしてきてたよね?どういう事だ。
……まあ良いか。
「「従魔契約」っと」
スキルを使用すると、左手の親指に魔力が集まるのを感じた。ふむふむ、やっぱりこれって指先ならどの指でもオッケーなんだね。新発見だ。
私はそのまま親指でアレクの目尻に触れる。漫画とかでよく泣き黒子がある位置だ。ちなみにアレクからすると右側、真正面から見ている私からすると左側の目元である。
触れた瞬間、しゅるりと私の親指から魔力の糸が出てきてアレクの目元に桜の刺繍を施していく。一枚、二枚と花弁が増えていき、五枚目の花弁が完成すると同時に親指から出ていた魔力の糸がプツンと切れた。次の瞬間、アレクの目尻に咲いた桜が強く光る。よしよし、魔力が定着したね。
「これで契約完了!よろしく、アレク」
「うん!よろしくねミーヤ!」
ぎゅうっ、と再びアレクにハグされる。今度は背中に腕を回すタイプのハグだったお陰で首が絞められる事は無かった。ぽんぽんと軽くアレクの背中を叩く。あ、やっぱり触れるね。さっきも顔を両手で包んだ時普通に触れたし、リッチって結構普通に触れるのかな?幽霊イコールすり抜ける印象だし、今のアレクは色が透けてるから不思議な気分だ。
「先輩達もよろしくね!」
顔を上げたアレクが私の背後に居る皆にそう言うと、皆も笑って頷いたらしい。サーチの動きでそれがわかる。
「リッチって事は魔法に優れてるしぃ、睡眠を取らなくて良いものねぇ。暇な夜中は魔法をたぁっくさん教えてあげるわぁ。ミーヤの役に立つ為にも頑張ってねぇ♪」
イースは機嫌良さげにそう言って微笑み、
「わからない事があったら早めに聞いてくださいね。先輩として、そして後輩が問題を起こさない為にもきちんとお答えしますので!」
ハニーは可愛らしく気合を入れながら真面目にそう返し、
「………ん、よろしく……アレク…」
ラミィは今更朝食抜きだった事に気付いたのか鳴きだした腹を擦りながらそう言い、
「お、俺は別に後輩が出来るのが嬉しかったり、アレックス…じゃなくて、アレクが生きて…はないけど、俺達と一緒に旅出来るのが嬉しかったりなんてしてねえからな!?ちょっとだけだ!ちょっとだけ!」
コンはツンデレながらも少しだけ本心を認め、嬉しそうに尻尾を振っていた。
うん、皆問題無さそうで良かった。アレク…というよりはアレックスの時、一番最初は大変だったからね。殺し合いが始まるんじゃなかろうかとハートがドッキンドッキンだったよ。
まあ私の二者択一の勝者のせい……いや、お陰なのかな?で、結構良好な友好関係を築けてたから良かったけど。平和で良かった。ありがとうハッピールートメイカー。
「えーと、じゃあまずはステータスの確認ってしても良いかな?」
私の言葉に、アレクが笑顔で「もっちろん!」と答え…る前に、イースがそれを遮った。
「それは後にした方が良いと思うわぁ」
「何で?」
「あんまりこの場所に長居するのは良くないからよぉ。まだお昼まで時間があるとはいえ、フライングでここに来ちゃう町の人が居ないとも限らないしねぇ」
「あ」
そっか、そういやここアレクのお墓だったわ。アイザックさんもお昼には皆に全部話すって言ってたし、皆に言った後だと墓参りする人でいっぱいになるだろうとも言っていた。万が一鉢合わせたら大変だ。
主にリッチになってるアレクと、そのアレクと契約しちゃってる私とかを見て町の人達がパニックになりかねないって意味で。
質問されたとしてもポンコツな私が相手の満足いく答えを提示出来る気もしないしね。
「じゃあちょっと歩いてここから移動…しよう、か……」
そう言いつつ私は西の方を指差したが、ちょっと待って?アレクって今幽霊だよね?いやリッチっていう魔物だけど、要するにアンデッドだ。アンデッド=日に弱いってイメージがあるんだけど、アレク大丈夫なのかな?
「それなら大丈夫よぉ。基本的にアンデッドは日を嫌う傾向にあるけどぉ、別に致命傷になるわけじゃないものぉ。久々に外に出て日差しに「ウッ」ってなる程度のものよぉ」
「うっわめっちゃわかりやすい例え…」
修羅場明けのお姉ちゃんがよくなってたやつだ。お姉ちゃん、「日差しが私を殺しに来てる…」って玄関でよく蹲ってたな。だからあれ程サングラス常備しといたら?って言ったのに。
まあそれはさておき、アレクは日差し大丈夫って事だよね?なら安心だ。
「それにミーヤと契約して従魔になったからぁ、光魔法への耐性も出来てるはずよぉ」
「えっ、何で?」
「契約したアンデッドタイプの従魔が他の冒険者の光魔法の流れ弾に当たって消滅しちゃったら大変でしょう?だから従魔契約の力で最低限は守られるのよねぇ」
「従魔契約凄いね!?」
アンデッドに光魔法への耐性を付属するとか凄いな従魔契約!あ、それの効果もあってアレクは日差し余裕で大丈夫っぽいのかな。さっきからオレンジの木の下から出て日差し浴びてるけどケロッとしてるし。
……まあ、良いって事にしておこう!
細かくて難しい事は思考の隅に放り出し、私達は歩き出す。ここでだらだら時間を経過させて町の人との無駄なトラブルが起きるのは御免だからね。
「そういえば、アレク本人がここに居るならアレックスを殺した賊の正体とか掴めるのかな?」
掴むっていうか、普通にアレクが目撃してると思うけど。
私は顔だけで背後をふよふよと浮いて付いて来ているアレクの方へと振り向き、聞く。
「復讐とかしたい?」
「別に?」
即答だった。
「僕は僕で得したからね。むしろ僕としては協力者みたいなものかな」
アレクの私と違うタイプの突飛な思考回路は死んでも変わらないという事を実感した。死ぬのも計算の内だったとはいえ、自分を殺した相手を協力者扱いって中々出来る事じゃないよね。
私がそう思っていると、アレクは微笑みながら続けた。
「それに、あれは賊じゃなくてちゃんとしたプロの暗殺組織だったからね。仕事を真っ当しただけの相手に復讐しようなんて思わないよ」
「へー……え?」
プロの暗殺組織、とな?
「大体、彼らに僕の殺害を依頼したのはアイザックだからさ。恨むも何も無いんだよね」
………はっはっは、移動中だから時間はたっぷりあるんだよね。
「全部説明してもらえる?」
「え、何かおかしかった?」
何かっていうか全部がよくわからんわ!ケロッとした表情で首を傾げるな当事者!




