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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
75/276

ビックリ系じゃなければホラーは平気なタイプです



「………よしアレックス、質問させてください」


「好きなだけどうぞ」



 本人からの許可が出た。深呼吸して精神を落ち着け、覚悟を決めて私はアレックスに問いかける。気分は明らかにおかしいお婆さんを見た時の赤ずきんちゃんだ。



「アレックスは何故透けているのかな」


「肉体が死んで魂だけの存在になったから。あ、肉体は下に埋まってるよ」



 その追記情報は要らん。というかやっぱり死んでるんじゃないか。

 というか質問したい事が多過ぎて纏まらないな……次何を聞こう。そう思った瞬間、風がアレックスの着ている黒いローブを揺らした。うん、次はこれだね。



「アレックスは何故宝石が散りばめられた豪華なローブを着ているのかな」


「さあ?僕も不思議なんだけど、こういう種族だからなのかいつの間にか着てたんだよね」



 こういう種族ってどういう種族じゃい。あとアレックスがフードを手で摘まんだせいで、ローブの袖に隠れていたアレックスの手がハッキリと見えてしまった。さっきからチラチラ見えてはいたけど見えない振りしてたのに……!



「…アレックスの手は何故骨の手になっているのかな」


「死んだから?まあこれも種族的な特徴だと思うけど。寧ろ生きてた時と顔が変わってないのが不思議なんだよね。確かこの種族って骨だけだから顔もガイコツになるはずなんだけど……失敗しちゃったわけじゃないよね?」



 私に聞くな。まずどの種族なのかすらよくわからんぞよ。

 再び吹いた風がふわり、とアレックスのローブの裾を揺らす。ふくらはぎまで隠せそうな長いローブの裾が揺れ、手と同様に見ない振りをしていたアレックスの足元が改めてハッキリと見えてしまった。



「………アレックスは、何故浮いているのかな」


「足が無いから!というか下半身が無いんだよね」



 そう言い、アレックスは「うーん、見てもらった方が早いかな?」と言った。待て嫌な予感がする!



「ちょっと恥ずかしいけど、ミーヤだしね……♡」



 どういう羞恥の感情なのかがわからないが、アレックスは瞳を潤ませて赤面した。恥ずかしいなら止めろください。しかしそんな言葉にならない祈りは天に届かなかったらしい。アレックスがゆっくりとローブの前をはだけさせた結果、真正面に居た私には今のアレックスの体がしっかりと見えてしまった。



「お……お、う」



 こういう時、どういうコメントをしたら良いのかわからない。

 とにかく私が見たものを説明すると、アレックスの体には骨があった。としか言えない。

 いやそりゃまあ誰にだって骨はあるんだけど!クラゲやヒルには無くとも大体の生物には確かに骨は存在してるんですけど!ただちょっと骨が骨し過ぎてるっていうか!

 ……うん、これじゃ伝わらないよね。わかりやすく説明すると、まず骨格標本を用意します。皆も脳内に骨格標本…あ、成人男性サイズね。それを用意して。

 で、下半身を消します。下半身をどっかに捨ててきてください。今のアレックスは骨盤辺りから下が皆無なので、お尻のあの見ようによってはハートに見えん事もないデカイ骨を取り除いてください。そっから下もです。はい、成人男性の骨格標本さんが上半身だけになりましたね。あ、背骨と繋がっている見ようによっては矢の矢尻に見えない事も無い三角っぽいあの骨は残しておいてくださいね。

 ではここからラストスパートです。まず骨格標本さんの頭部、つまりガイコツ部分を取り除いてアレックスの頭部を設置します。アンパン系ヒーローのアレみたいな感じのイメージでレッツらゴー。あ、でもアレックスの肉のある部分って頭部だけじゃないんだよね。頭部から鎖骨辺りまで肉が付いてる。付いてるってか、生前のままっていうか。端的に言うと頭の天辺から鎖骨までは生きてた頃と変わりないアレックスって事である。首もそのまま。ただし鎖骨辺りから肉が途切れており、綺麗な真っ白い肋骨がこんにちはしている。肩の辺りもギリギリ見えな…見え……付け根部分の骨が見えてんだよ!って感じだ。完全に鎖骨部分までしか肉が付いていない。そっから下は白い骨オンリーだ。しかも透けてる骨。



「……アレックスは何故ローブの下に何も着ていないのかな」


「それは僕だって聞きたいよ!確かに骨だけしか無いから問題は無いのかもしれないけど、せめてワンピースのような服でも良いから一着はサービスして欲しかったな」



 ぷぅ、とアレックスは拗ねたように可愛らしく頬を膨らました。しかしローブの前がはだけているせいで透けている真っ白い上半身の骨が丸見えている。



「…………とりあえず、アレックスの体がボーンになってるのはわかったから前閉めようか」


「え、あっ忘れてた!やだミーヤの前で恥ずかしい!」



 だからそれはどういう羞恥の感情なんだ。骨って見られて恥ずかしいものだったっけ。私の感性では何もわからない。異世界だと骨が見えるって恥ずべき事なんだろうか。いや、それ以前の問題として普通の人が骨見えてたら命の危険だよね。つまり幽霊とかゴーストとかその辺独特の恥ずかしい気持ちなのか………よし、考えるのを止めよう。人間の私が深く考えてもどうにもならん。

 そんな無駄な事を考えている間に、アレックスは恥ずかしい恥ずかしいと呟きながら骨の指で器用にローブの前を閉めていた。…いや、うん、骨の指だし肉が無い分普通より器用なのか…?

 何となく頭痛がした気がして目元を軽く揉みながら、私は言う。



「じゃあ最後の質問」


「うん、何?」


「何でアレックス幽霊になってんの?」



 そう、これが一番重要な質問だよね。透けてるとか体が骨だとか豪華なローブ着てるとか下半身が無いとかよりも、何故幽霊になっちゃってるのか。これが一番の問題だと思う。確かに人質取られて賊に殺されるとか悔いが残って幽霊になっても致し方なしみたいな死因だけど。

 すると、アレックスは透けながらも赤く染まった頬を骨の両手で押さえながら、照れたように視線を彷徨わせてくねくねと空中で揺れた。駄目だ情報量が多過ぎてツッコミ所が行方不明。

 思わず白目になりかけていると、アレックスは潤んだ瞳でこっちを見ながら熱の篭った声で言う。



「………ミーヤと一緒に居たくて…♡」



 ……まさかとは思うけど、私と一緒に居る為だけに死んだわけじゃあるまーに?



「あ、誤解が無いように言っておくと僕が殺僕計画を考えたわけじゃないよ?」



 くねくね踊りを止めたアレックスから訂正が入った。あ、そうなの?良かった。流石に私と一緒に居る為だけに計画練って盛大な自殺をしましたとか言われたらちょっとドン引きだし、アイザックさんに対して土下座するんじゃ足らなくなるところだった。

 ところで殺僕計画って何だ。キルミープロジェクトってか。英語がこれで合ってるかは知らない。英語のテストでは先生に常に「ローマ字と英語は違うものだから。いい加減理解しなさい」と言われていた私である。

 くねくね踊りこそ止めたが、死んでいるはずなのにいまだ熱の篭った瞳で私を見つめながらアレックスは続ける。ただその頬を押さえての赤面、恍惚のヤンデレポーズっぽいから速やかに止めて欲しい。



「…ミーヤと一緒に旅をするには僕の立場とか、僕が持っているもの全てが邪魔になっちゃうなーって。それで丁度良く殺僕計画があったから、それに乗っかって殺されて幽霊になっただけ。これなら立場も全部リセット状態だし、人間から魔物になったからミーヤの従魔にもなれるよね!」


「思考回路がおかしい!」



 そして結局私のせいでアレックスが死んだようなもんじゃないか!死因っていうか死んだ動機が私の従魔になりたいからって何だ!というか従魔になりたい→魔物にならなきゃ→死んで幽霊になろう!ってどうやったらそんな考えになるんだよ!思考回路のナビゲートさんバグってんの!?

 大体、私の従魔になりたいからって死ぬなんて……あ、背水の陣か?背水の陣なのか?



「………よくまあ、幽霊になれる確証も無いのに死のうと思ったよね…」



 本当、私だったらただ天国か地獄のどっちかに行くとしか思えないよ。なのに幽霊になるぞ!って思って死んで実際に幽霊になるとかマジでどういう思考回路してんのアレックス……。



「あ、いや確証はあったよ?」


「え?」


「僕の家、かつての勇者の一人と結婚した人の実家なんだ。だから変わった秘宝みたいなのが家宝として存在してるし、秘術みたいな巻物とかも普通に図書室に置いてあったりしてね」



 あ、ああー……だからアレックスの家がダンジョンの管理とかしてるのね。



「…そういえばローゼンベルク家って勇者と結婚した女の家の名前だったかしらぁ。通りで聞いた事がある名だと思ったわぁ。領主だからかと思ってたけど勇者を調べた時に知った名だったのねぇ…」



 ボソッと言ってるけどイース、何か地味に怖い事言ってない?勇者を調べた時に知った名って元魔王軍幹部が言うってめっちゃ怖くない?今のイースは引退済みだから良いけど。

 イースの呟きが聞こえていないのか、聞こえながらも無視しているのか、アレックスは微笑みを浮かべながら続ける。



「その書物の中に「死んでも生き続ける方法!肉体なんて飾りです」って本があったんだ。そして僕はそれを実現させる為に準備をしておいた。例えばこの木の下に魔力を込めた魔石を埋め込んでおいたりしてね」



 ……ん?つまりそれって、



「遺書を見つけたアイザックが僕の死体をちゃんとこの木の下に埋めてくれて助かったよ。お陰で僕は肉体から離れて魂だけの存在になれた。人間として色々なものに縛られていた僕は人間を止める事が出来た。ミーヤの従魔にだってなれる、魔法にも長けたアンデッド、リッチになれたんだよ!」



 両腕を広げて嬉しそうに微笑むアレックス。それは良いけど今さり気なくアイザックさんも利用したような事を言っていたような……スルーしよう、うん。兄が弟に幽霊化の片棒を担がせた可能性には気付かないままで居たい。

 ……あれ?



「リッチ?」


「?うん。リッチ」


「幽霊じゃなく?」



 透けてたり浮いてたりするし、魂だけの存在にうんたらかんたらって言ってたからてっきり幽霊になったとばかり思ってたんだけど……もしやちょっと違う?



「はぁい、じゃあここでリッチについて説明しまぁ~す。ハニー達も聞いててねぇ」



 リッチとは何ぞや。私の脳内辞書にリッチと登録されてるのは金持ちさんしかおらんですよと困っていたら、イースが挙手してそう言った。待ってましたイース先生!イース先生はぶわりと黒い靄を纏って一瞬にして色っぽい女教師風の衣装へと変化した。



「リッチっていうのはアンデッドの一種よぉ。アンデッドっていうのは不死の魔物……有名なのだと死体の状態で動くゾンビだとかぁ、骨だけで動くスケルトンとかかしらぁ?肉体が無くて魂だけの存在は幽霊、つまりゴーストって呼ばれたりするわねぇ」



 ふむふむ、私がよく知ってるアンデッド達だね。

 でも今のアレックスはどれでも無い。幽霊のように透けているのに骨だし、なのに頭部だけ肉付き。おっと言い方が骨付き肉みたいになっちゃった。まあ良いか。



「そしてリッチなんだけどぉ、リッチはアンデッドの中でも結構特殊な存在なのよねぇ」


「そうなの?」


「そうなのぉ♡」



 にっこりとイースは微笑み、空中にホワイトボードを出現させた。前と同じく幻覚で見えてるホワイトボードだろうけど、画像で見るのと頭の中で考えるのとじゃ理解度が違うもんね。お世話になってます。



「まず普通のアンデッド」



 イースの言葉と共に、ホワイトボードにデフォルメされた人間っぽいのが映像として浮かび上がる。人間っぽいのっていうか、多分既に死んでる人かな?アレ。両手を胸の前で組んでるし、頭の上に十字架マークが浮いてるから確実に死んでる人だね、アレ。

 そしてその人から矢印が三つ程出現した。矢印の先にはゾンビとスケルトンとゴーストが新しく登場している。



「死人が土葬された後に術者によって死体を操られたりぃ、死体に魂を放り込まれたりするとこのゾンビになりまぁす。肉体が腐敗しちゃってるアンデッド=ゾンビ、ねぇ」


「ふむふむ」


「……腐肉……嫌い…」



 イースの説明にラミィが顔を顰めた。確かにゾンビは腐った死体だもんね。でもラミィは完全にゾンビを食い物かどうかで考えてたね?

 ……辛うじて腐った肉は食えるもんじゃないという事を知っていてくれただけ良いと思うべきなんだろうか。魔物の食生活がよくわかんないからあれは食うなこれは食うなって言えないんだよね。イースには頻繁に魔物の授業をしてもらっているが私の頭がポンコツ過ぎていまだに理解しきれていないのが申し訳ないぜ。



「そしてぇ、そのゾンビの肉が劣化しきっちゃって骨だけになったりぃ、既に肉体が完全に無くなっていて骨だけだった死体を術者が操った場合なんかはスケルトンって呼ばれるわぁ。つまり骨のアンデッド=スケルトン、よぉ」


「わかりやすいですね」


「骨か……腐ってる死体ってのは腐敗臭がキツイから、戦う時は出来るだけ骨の方が良いな」



 イースの説明にハニーは真剣に頷き、コンは頭を掻きながらそう呟いた。確かに死体ってハエが集ってるイメージが強いから臭いキツそうだよね。ニュースでも異臭で死体発見とかよく見たし。



「そしてどっちでも無いゴースト。これは魂だけの存在ねぇ。死ぬに死に切れなかったりぃ、現世に強い後悔や執着がある人間がなる魔物よぉ。中には話が出来る良心的なゴーストも居るけどぉ、大体のゴーストはそれなりの恨みでゴーストになった人間ばかりだから殆ど悪霊ねぇ」


「ほうほう」



 ……現世への強い執着って点ではアレックスもそうだと思うんだけど。



「そしてここからがリッチの変わった点よぉ。今説明したアンデッドはぁ、皆好きで魔物になったわけじゃないのねぇ?一部のゴーストは好きでなったのかもしれないけどぉ、大体は他人によって魔物にされてるわぁ」


「確かに」



 ゾンビとスケルトンは術によってお墓からハローだもんね。ゴーストも突然の死のせいで魔物にされたと言えるかもしれない。



「けれどリッチは自らなろうと思わないとなれないのよねぇ」


「……ん?」


「リッチになるにはぁ、本人が生前の内に色々と準備をしないといけないって事よぉ」



 理解出来なくて首を傾げた私に、イースは簡単な説明をしてくれた。成る程、そういやアレックスもそう言ってたね。このオレンジの木の下にどうとかこうとか。



「そう。普通はそこまでして魔物になろうとする人間は一握りしか居ないわぁ」



 一握りは居るのか。特殊性癖を患っちゃってる人達かな?



「違うわよぉ」



 違った。



「その一握りはねぇ?死んでも魔術の研究をしたいっていう魔法使い達なのぉ。「たかが数十年の生じゃ研究が満足に出来ない!しかし人は死ぬ!どうしたら良い!?そうだ!死んでも研究を続ける事が出来ればそれで良いんじゃないか!?」ってねぇ。研究に魂を注いでるタイプの魔法使いが研究以外はどうでも良い!って考えだったせいで生まれたのがリッチなのよぉ」


「それにゴーストなんかと違って、リッチは生前の記憶も自我もちゃんと引き継いでるしね!」



 えっへん、とアレックスは胸を張った。生前に比べると体の厚みがかなり減った胸だなあ。



「あー…納得した」



 成る程、そういえばゲームとかで見た事あるかも。やたら強いボスとかがリッチだったりしたようなしなかったような。確か大技な魔法をどんどこ撃って来る腹立つ奴だ。しかも自分の目的しか見てないから周囲への迷惑を顧みずとんでもねえ大事件を起こしたり……あ、だから魔物なのか。



「まぁ、リッチの説明は大体これで終わりよぉ。他に追加する情報があるとすればぁ、リッチは種族柄魔法に長けた種族と言えるわねぇ」



 そう言い、イースは黒い靄を纏い一瞬でコスチュームチェンジした。まだ人里が近いからか人間バージョンのイースのままなんだね。ちなみにホワイトボードもイースの着替えと同時に消滅した。



「そんなわけでさ、ミーヤ」


「ん?」



 アレックスはふわりと浮いて私に近付き、骨の両手で私の頬を優しく包んだ。あ、ちょっとひんやりしてる。骨の冷たさっていうよりは悪寒に近いひんやり感だね。

 特に振り払ったりもせずそのまま視線を合わせると、アレックスは背景に花が舞っているようなキラキラシャイニングな微笑みを顔に浮かべた。



「僕を従魔にして?僕、役に立つよ」



 ああうん、確かにアレックス強いし頼もしいけど。私としては死んだと思ってた相手とさよならばいばいしなくて良いっていうメリットがあるからこっちとしても断る理由は無いんだけどね?

 …アレックスは本当にそれで良いんだろうか。折角領主とか権力とかから解放されて色々な事に挑戦出来るチャンスなのに。

 そう考えて返事をしないでいると、アレックスはキスが出来そうな程顔を近づけてきた。死んでいるからか、魂だけだからなのか、アレックスの吐息は私には掛からなかった。

 うっとり、と表現するのがしっくり来る潤んだ瞳が私の視界を占領する。緑色だった瞳は透けているからか薄緑色になっていた。青かった髪は水色になっており、さっきから私の顔に毛先が触れているがまったくと言って良い程に感触が無い。なのに頬に触れる骨の感触はしっかりとある。リッチって凄いね。



「……僕ね、リッチになりたいって思った理由は全部ミーヤなんだ。だから…」


「だから?」



 鸚鵡返しして続きを促すと、アレックスは目を細めて満面の笑みを浮かべた。



「拒否されても、ミーヤが死ぬまで憑いて行くからね♡」


「ヤンデレか」



 断る理由を作らないで欲しい。



裏話ですが、ここ数日イルザーミラ編が中々進まなかったので後半は殆ど「アレックスを今日こそ殺す!」って思いながら書いてました。

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