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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
74/276

イルザーミラ領主、アレキサンダーの死

シリアス「救いがあると思ったか?」



「………冗談とかじゃなくて?」


「冗談じゃないんですよ!今朝、っていうか割とついさっき連絡網が回されてきたんです!」



 泣きそうな従業員さんの声に、これは本当の事なんだと理解した。ミサンガもまったく光らない。こういう時こそ嘘だと伝える白い光を放ってほしいのに、今のミサンガはただのミサンガだ。

 一緒に話を聞いていた従魔の皆もアレックスとは結構仲良く話すくらいには馴染んでいた。だからこそ、皆の表情も暗いものへと変化する。



「侵入した賊、ですか……」



 暗い顔のまま、ハニーは少し訝しげにそう呟いた。うん、その気持ちはわかる。



「……アレックスなら、賊くらいどうにか出来そうだもんね」


「ん……。アレックス、強い……」


「複数相手だろうと引けを取らない実力はあったしな」



 アレックスにはあの大量の魔物相手に戦えるだけの実力があった。実際、近くでアレックスの戦い方を見たりもしていたんだ。だからそう簡単に死ぬような人間じゃないってのもわかってる。

 …………そういえば、屋敷に侵入って言ってた…よね。

 アレックスは怪我人が居たら自分の命よりもその人の救助を優先するタイプだ。出会った時がそうだったから。……まさか、



「…もう、耳に入ってたんですね」


「アイザックさん!?」



 聞き覚えのある声がした方向に視線を向けると、宿屋の入り口から入って来たらしいアイザックさんが立っていた。彼は再び目の下に濃い隈を刻み、酷く疲れた様子で私達の傍まで来た。



「ミーヤさん達は今日出ると言っていましたから、知らせない方が良い思い出のまま旅立てるのではないかと……思ってたんですけどね」



 へら、とアイザックさんは普段なら絶対にしないような笑みを見せた。

 しかし、私にはそれが酷く痛々しく見えた。暗く、そして泣きそうな瞳。深く刻まれた濃い隈。綺麗な薄紫の髪はボサボサになっている。肌も少し荒れていて、カサついた唇は少し血が滲んでいた。そんな状態で口元だけへらりとした笑みを浮かべている。

 ……一番キツイのは、そりゃ弟であるアイザックさんだよね。



「…あの、一体何があったんですか?」


「そうですね…」



 アイザックさんは困ったように眉を顰め、少し周りを確認するように視線を彷徨わせてから、



「あそこ、壁の近くで人気が少ないところで話しても構いませんか?どうせ後で町の皆に話す事になるんでしょうが……今は、まだ他の人に聞かれたくないので」



 と、壁の方を指差した。



「わかりました」



 確かに聞かれて気持ちの良い話題ではない。そう判断して壁の方へと移動する。うちの子達ちょっと目立つけどまあ壁側に居れば大丈夫だろう。多分。

 壁側に移動した際イースとラミィとコンに壁になってもらい、他の人からアイザックさんが見え難いようにしてもらった。多分他の人も気になってるだろうから、アイザックさんを見かけたらすぐに色々聞こうと声を掛けちゃう可能性が高いからね。本当はそういうのを気にしなくて良い個室で詳しい話を聞いた方が良いんだろうけど、今は人気がある程度存在している場所の方が都合が良い。

 いや、うん、確かに人目は気になるんだけどさ、屋敷を襲った賊の狙いがアイザックさんも含めていたという可能性も無くはない。そういう時は第三者の目ってのが重要だ。下手に個室連れてって万が一があったら私達が犯人になっちゃうもんね。

 ちなみにだが、従業員さんは移動の時にさり気なく持ち場に戻って行った。引き際がしっかりしてるから凄く良い従業員さんだよね。客のプライバシーに配慮してくれててありがたい。



「……実は」



 アイザックさんは暗い顔のまま話し出す。



「昨夜、あの後家に帰ったら様子がおかしくて……。使用人達が慌てた様子で屋敷の中を駆け回っていて、その動いている使用人以外の使用人は怪我を負って気絶していて……」



 グ、とアイザックさんは眉間に皺を寄せる。



「話を聞いても、錯乱した様子でアレキサンダー様が、アレキサンダー様がとしか言わなくて。だからすぐにアレキサンダー様の部屋に向かったら、部屋の中で争いがあったような荒れ方をしていて……部屋の中心で、アレキサンダー様が血を流して、死んでいて………」


「…………っ」



 改めてアレックスの死を告げられ、心臓がギュウと嫌な音を立てた。知り合い、それも私に好意を抱いてくれていた、仲の良い相手の死。記憶にも残っていない両親の死よりも、ずっと心が痛かった。



「…はは、酔いなんて一瞬で醒めましたよ。その後気絶していた使用人達が意識を取り戻したので聞いてみたら、集団で賊が入り込んだと。最初はアレキサンダー様の命を狙っていたようですが、あの人は実際にダンジョンに潜ったりまでする本物の冒険者でしたから。賊も中々しぶといあの人に手こずったんでしょうね。……だから、あんなにも部屋が酷い有様だったんだと思います」



 アイザックさんは必死で正気を保っているらしい。本気で辛そうな表情なのに時々口元だけの笑顔を作り、そしてまたすぐに悲しげな顔に戻る。……形だけでも笑ってないと、壊れそうなんだろう。



「けれど、アレキサンダー様の部屋に侵入した賊以外にも仲間が居たらしくて。そいつらが夜勤の使用人達を人質に取ったんです。……「こいつらの命が惜しいなら、大人しくしろ」と。使用人達は勿論抵抗したようですが、そこで賊に気絶させられたらしくて……」



 ……やっぱり、人質を取ったのか。

 屋敷なら使用人がいる。殆どの使用人は屋敷の寮とかで生活していたりするんだろう。勿論夜に仕事がある人も居たんだと思う。見回りとか、明日の仕事の準備とか。そういう人達が人質に取られてしまったのか。

 アレックスはきっと逆らえなかったんだろうな。口調こそ軽いけど、情に厚い性格だったから。



「そこからは、何かおかしな音がする事に気付いて起きた使用人から聞いた話になります。不審に思って同室の同僚達を起こして音がした方を見に行ったら、アレキサンダー様の部屋の前で何人かの使用人が気絶して倒れていたと。慌てて部屋の扉を開けると、同じように数人の使用人が倒れていて………」



 アイザックさんは何かに耐えるように、ギリ、と歯を食い縛った。



「部屋の中心で、心臓を貫かれたのか胸から血を流して、……アレキサンダー様が倒れて…………死んでいた、と」



 そして使用人達がパニック状態で色々と駆け回っていたところに、アイザックさんが帰宅したのか。



「アレックス……」


「今日の朝、見送るっつってた癖にな」



 耳を伏せて尻尾を力なく垂らし、コンは落ち込んだ様子でそう呟いた。……そうだね、宴会は来れなくても、見送りには来てくれるかもしれなかったのにね。仕事が忙しくてそれも無理って可能性はあったけど………仕事が忙しいせいで見送り無しの方が、良かったな。

 死んだから見送り不可能だなんて、酷い土産もあったもんだよ。まったく。



「はは、本当にあの馬鹿領主は……」



 アイザックさんは涙を堪えるような鼻声で、乾いた空っぽの笑い声を漏らす。



「アレキサンダー様の部屋に、賊の情報があるんじゃないかって調べたんですよ。色んなところを。そしたら、枕元に手紙が置いてあったんです。……アレキサンダー様の筆跡で書かれた、少し前に書いたと思われる遺書が」


「遺書…?」



 遺書って事は、死ぬのがわかってたって事?アレックスは、死を覚悟していた?



「その遺書には、ここ最近自分の命が狙われている事、相手が手段を選ばなくなってきている事、相手はきっとボス一人とその部下が複数名といったところだろう、と書かれていました。……そして、相手の狙いは自分の命だけだ、とも」


「自分の命、だけ……」



 つまりその遺書は、アイザックさん宛てだという事なんだろう。自分が死ななければそれで良いけど、もし自分が死んだ時。弟であるアイザックさんにまで被害が及ぶんじゃないかときっと皆考えてしまう。アイザックさん自身も、きっと考える。もしその考えが浮かんだら、寝るのすら恐怖してしまうんじゃないだろうか。

 だって、私ならきっと怖くて仕方なくなっちゃう。お姉ちゃんが殺されたらきっと次は私が殺されるんだって思うもん。でも、アレックスの遺書には相手の狙いは自分の命だけだと書いてあった。つまり、アイザックさんが心配する必要は無いと伝えたかったんだろう。

 アイザックさんはアレックスの事や遺書の内容を思い出しているのかくしゃりと表情を歪め、泣きそうになるのを必死で堪えているようだった。



「本当、馬鹿じゃないんですかあの兄は。もっと色々書く事はあるだろうに、書いてあるのはそれくらいだったんですよ。他に書いてあるのといったら、もし自分が死んだら領主はアイザックに任せるとか、死体はイルザーミラから出て西の方にある一際大きいオレンジの木の下に埋めて欲しいとか……それだけでしたよ」



 「恨み言の一つや二つ、書けば良いのに」と言いながら、アイザックさんは瞳から零れ落ちそうだった涙を親指で拭った。そして一度深く深呼吸して、いつもみたいな微笑みを浮べる。



「…遺書にそう書いてあったから、もう既に兄の遺体は埋めてきたんです。西の方にある一際大きいオレンジの木なんて一つしかありませんから」



 アイザックさんは微笑みを浮べながらも困ったようにハの字にして、



「その間に兄の事が広まっちゃったみたいなんですけどね。本当は私が領主になる手続きとかをもう少し進めて、説明する為の順序とかを整えてから発表したかったんですが」



 そう言い、肩を竦めて「人の口に戸は立てられないとは、勇者様のお言葉の通りでしたよ」と続けた。

 そのことわざ、こっちじゃ勇者の言葉扱いなんだね。



「そうですね、アレックスが……死んだ、っていう事実だけが伝えられた状況じゃ、混乱が起きちゃいそうですし」


「幸い広まってしまったという事を早くに知れたので、昼に私から話すと言って落ち着かせたんです。昼に全ての真偽がわかるという事がわかっていれば、皆その間は混乱せずに済むでしょうし……色々と考える時間も取れますから」



 うん、確かにそうだ。いきなりその情報を教えられたらきっと皆混乱するだろう。さっきの従業員さんとかが良い例だ。……アレックスは、領主としてって感じではなかったけど、町の人達と良い関係を築けてたもんね。

 親しい相手が死んだって事実は、どうしたって動揺してしまう。けれど覚悟を決める時間さえあれば、いつも通りの感覚を掴むだけの時間が確保出来る。その時間があれば、皆がいつも通りの日常に帰りやすくなるだろうっていうアイザックさんなりの気遣いなんだろうな。



「ミーヤさん達に今ここで話したのは、兄と親しかったからです。勿論この町の皆が兄と親しかったですが、ミーヤさん達とは特別親しいって感じでしたから」


「親しいっていうか…」



 親しいっちゃ親しいけど、どっちかというと愛を囁かれていたと言いますか。まあでも従魔達とは友人みたいな関係になってたし間違ってはいない。



「それに今日の朝に出ると言っていたので……昼に皆に話した後だと、皆が兄を埋めた木まで墓参りに行くでしょう。だからその前に、兄の墓参りに行ってやってくれませんか?」



 辛そうな笑顔のままだが、アイザックさんはさっきまでと違って少し温かみのあるへにゃりとした笑みを浮かべた。



「きっと、兄はミーヤさん達だけとの時間も欲しいと思ってるでしょうから」



 ああ、何というか、この笑い方って弟っぽい感じなんだ。今までアイザックさんって大人っぽい微笑みが多かったけど、今のアイザックさんはアレックスの弟として言ってるんだろう。

 そっか、そっか。何だか腑に落ちた。今までのアイザックさんはアレックスの事をアレキサンダー様って他人行儀に呼んでた。それはきっとアレックスの立場とかを考えて距離を取っていたんだと思う。距離っていうか、立場をしっかりさせているっていうか。でも、アレックスが死んだから。もうアレックスは領主じゃなくて、アイザックさんの兄だった人でしかなくなったから。だから「アレキサンダー様」じゃなくって「兄」って言ってるのかな。

 多分アイザックさんからしたら無意識の事かもしれないけどね。

 でも、身内の人にそう言ってもらえるのは嬉しい事だ。日本なら「短い間だったけど、あの子は皆さんと一緒に居て楽しかったみたいだから……良かったら上がって、お線香でもあげていって」みたいな感じかな。



「……はい、すぐにイルザーミラを出るつもりでしたし」



 そう、出るつもりだったのだ。だから昨日アレックスと別れてダンジョンに潜って、ギルドに依頼達成の報告をした時に挨拶は終わらせていた。スムーズに出発出来るように。

 挨拶した時、チェルシーさんには凄く惜しまれて締め技のようにハードなハグをお見舞いされた。その日暮らしのメンバーは「折角仲良くなったのに残念だ」と言いながらも「まあ他の町で会うかもしれねえし、そんときゃよろしくなー」と結構あっさりしていたから本当にチェルシーさんのハグはハードだった。背骨持ってかれるかと思ったよ。

 まあそんな些細な事は置いといて、



「アレックスに、顔見せて来ます」



 そう言って、私もニッと笑ってみせる。いつも通り笑えている自信は無いが、まあ赤点では無いだろう。多分。きっと。



「……ありがとうございます」



 私の返事に、アイザックさんは幼い子供のような笑顔でお礼を言った。良かった、ちゃんとした笑顔になってたみたいだね、私。



 その後、すぐにアイザックさんは屋敷へと返って行った。色々とやらなければならない事があって忙しいらしいが、最後に「良い旅を」と言ってくれた。律儀な人だ。

 私達はイルザーミラを出て西の方に歩いていく。遠くに見えるあの木かな?一際大きいオレンジの木って。



「多分あの木で間違いないわねぇ。周りの木よりも二回りくらい大きいものぉ」


「ああ、あの木の下からアレックスの匂いもする」


「そっか、ありがとね」



 へらっと笑ってお礼を言うと、目を逸らしたコンに頭を撫でられた。え、そんなに私酷い顔になってたの?そうなの?

 でも皆もアレックスの死には結構なダメージを受けていると思う。私は勿論だけど、ハニーも少し落ち込んでるし、ラミィもいつもなら朝食抜きの現状に騒ぐだろうにその事をまったく口にしないし、コンも耳と尻尾がテンション低めだ。唯一イースはいつも通りだけど、イースはイースで色々と思うところがあるんだと思う。ま、私が勝手にそう思ってるだけだけどね。



「…………一際、大きい、オレンジ……の、木……」


「ここですね」



 ラミィとハニーの言葉に足を止めて前を見ると、いつの間にか到着していたらしい。コンに頭を撫でられながら下を見て歩いてたから気付かなかったよ。危ない危ない。

 ……あ、よく見ると木の根元に土を掘り返したような跡がある。ここに、アレックスが居るのかな。



「………アレックス」



 ポツリ、呟く。アレックスとの出会いから今日までの六日間。イルザーミラでの思い出はアレックスとダンジョンばっかりだったのに、ラストでアレックス一色に塗り替えるとはとんでもない奴だ。死ぬ事で思い出に一生居続けるとか言うんじゃないだろうなあの野郎。

 ……死んでるから、言うもなにも無いのか。そう思って涙が零れそうになった瞬間。



「うん、呼んだ?」



 聞き覚えのある声が真正面から聞こえた。

 知らず知らず下を向いていた顔を上げて前を見ると、掘り返された跡がある土の上に、アレックスが居た。何故か宝石がふんだんにあしらわれた豪華なローブを身に纏い、そのローブのフードを浅く被った状態で、アレックスがそこに居た。



「本当は僕からミーヤの元へ行こうかと思ってたんだけど、ミーヤから迎えに来てくれるなんて嬉しいな!」



 にっこりとアレックスはそう言って笑う。しかし私はアレックスが居る事を無邪気に喜ぶ事が出来ない。いや、確かに普通なら両手をあげて万歳して生きてて良かったーって叫ぶところだよ?でもね?

 …………アレックス、全体的に薄いっていうか、透けてない?



コメディ「俺参上!」

シリアス「ゴヴァッ」

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