もうダンジョンでのアイテムゲット依頼は受けない
一つ目の宝箱、オープン。
「アレックスが開けた方の宝箱に入ってるのは薬草ねぇ。普通なら一つしか入ってない薬草が二つ入ってるのは運が良いわぁ。そしてミーヤが開けた宝箱に入ってるのはぁ、「聖女のドレス」って名称よぉ。説明は「神々しい光を纏った光属性のドレス。光属性を持っている者が身に纏うと、触れるだけで相手の呪いを浄化する事が可能。悪霊すらも即座に消滅。光属性を持っていない者が身に纏うと効果は半減するが、一応即死の呪いを具合が悪いかなというレベルまで抑えこむ事は出来る」ですってぇ」
二つ目の宝箱、オープン。
「アレックスが開けた方の宝箱に入ってるのは回復薬。あと四つで依頼達成出来るから助かるわぁ。ミーヤが開けた方の宝箱に入ってるのは名称「魔性の剣」。説明は「見た者全てを魅了する魔性の剣。これに魅入られてしまうと肉体の所有権を奪われ、死ぬまで人を斬り殺し続ける。しかし例外として、剣の美しさを理解出来ない者は魅了されない。魅了されていない者がこの剣を所有すると魔性の剣の魅了効果が一時的に失われる」って書いてあるわぁ」
…み、三つ目の宝箱、オープン。
「アレックスが開けた方の宝箱に入ってるのはさっきと同じく回復薬ねぇ。これで後三つゲットできればオッケーよぉ。ミーヤが開けた方の宝箱に入ってるのは…名称「伝説のマスターキー」。説明は…「性根の悪い勇者がノリと悪ノリと酔った勢いと貴族の乗っていた馬車に泥を引っ掛けられた恨みで作成したアイテム。とてつもない魔力が込められており、この鍵を鍵穴に差し込んで回せば王宮の宝物庫だろうとオープンザドア☆作成した勇者が本気で魔力を込めた為、やろうと思えば神様の宝物庫だろうと開けれるが流石にそれはおすすめしない」って……流石の私でもぉ、これはちょっと頭痛がするわよぉ…?」
よ、四つ目の宝箱!オープン!
「…色々と諦めたわぁ。アレックスの方は皮で出来た盾。ミーヤの方は名称「邪神の面」。説明は「装備する事で邪神と会話が可能。もし実際に邪神と会話をした場合、信者だと邪神に肉体と命を奪われ、聖なる心を持つ者は闇に堕ち、普通の精神を持つ者は邪神の信者となる。例外として、信仰心を持ちながら信仰心を持たない特殊な精神の持ち主のみは、邪神の崇高さも恐ろしさも理解出来ない為普通に会話が出来る。ただし普通に会話をしたが最後、邪神に気に入られてとても困る事になる」らしいわよぉ」
……ぐすん。五つ目の宝箱、オープン。
「アレックスの方の宝箱に入ってるのは回復薬……アレックス、本当に今は貴方だけが頼りだわぁ。そしてミーヤ、残念だけどぉ……名称は「毒の牙」。説明は「毒を持っているドラゴンの牙から作った短剣。短剣にしようと衰えないその毒は、少し掠っただけでも五秒で相手を毒死させる。上級ドラゴンレベルになると何度か攻撃を与えなくてはならないが、まあ大体殺せる。ちなみにだが、斬ったりしなくても刃の部分に数分間触れているだけで皮膚が爛れて大変な事になったりする。油断していると普通に死ぬので取り扱いには注意」よぉ」
泣いてなどいない。六つ目の宝箱、オープン。
「アレックスはこれで四つ目の回復薬ねぇ、本当にありがたいわぁ。……ミーヤのは、名称「エルフの秘伝薬」。説明は「エルフだけに製法が伝わっている伝説の飲み薬。魔力や魔法関係の状態異常はこれを飲めば即座に完治。魔王の呪いだろうが何であろうが完全に解除出来る優れ物。魔力が無いと死に掛けてしまう上級ドラゴンやユグドラシルが魔力の枯渇を起こしていても、これを与えればたちまち元気に!ただし一般の方が大量に摂取した場合どうなるかは不明ですので、もしそれを実行しても責任は持ちません」って表示されてるわぁ。………これ、製法を知っているエルフって今はもう居ないはずなんだけどぉ…」
不穏な呟きなぞ聞こえぬのじゃ!ラッキーセブン!七つ目の宝箱オープン!
「アレックスの方は普通の短剣。さっきの毒の牙は渡しちゃ駄目なやつだからぁ、依頼人にはこっちの普通の短剣を渡した方が良いわねぇ。ミーヤの方は名称「魔王の目覚め石」。説明は「封印されている初代の魔王を目覚めさせる石。目覚めさせるというか、初代魔王の封印を安全に解除する事が出来る、が正しい。使用方法は簡単で、初代魔王が封印され眠っている場所の窪みにこの石を嵌める事で封印が解除される。もしこの石を持たずに封印を解こうとすれば、確実に結界に弾かれ魔物に食われトラップに襲われ奈落に落ちてこの世からさよならばいばいまた来世になるので封印を解く時は忘れ物が無いように気をつけよう!」。…………初代の魔王様ってぇ、神相手に単身で戦いを挑めるレベルのトンデモな方だったって記述がどこかの書籍に書いてあったわねぇ…」
イースが遠い目をし始めてしまっている。八つ目の宝箱、オープン。
「アレックスの方は薬草。…ノーマルなアイテムに安心感を抱く事があるのねぇ。そしてミーヤの方だけどぉ、名称「虹の素」。説明は「袋の中に入っている虹色の粉をその辺に撒くだけで、そこから虹が出現する。量に応じてサイズが変わるので、大きい虹が見たければ惜しまずにばら撒こう」。レアはレアだけど危険度は低いアイテムで良かったわぁ」
なんか色々ごめんなさい。九つ目の宝箱、オープン。
「アレックスの方は火属性の魔石が埋め込まれた指輪ねぇ。火種が無い時なんかには助かるから結構良い値段で売れるわよぉ。ミーヤの方…というよりも代理で開けたラミィの方はぁ、名称「ウロボロスの盾」。説明は「ウロボロスの盾は、この盾に当たった攻撃全てを無効化する効果がある。物理も魔法も呪いも関係無く、この盾に当たった瞬間に全て消え去る。何故ならウロボロスとは無限の蛇だからだ。ブラックホールのような衝撃吸収性を持つこの盾は、いかなる攻撃であろうとも完全に打ち消すだろう」………説明がまともなの、久しぶりな気がするわぁ」
やはり代理でも駄目だった!ラストの宝箱!ここで回復薬出てくれないと嫌だよ!?オープンザ蓋!
「あらぁ、五つ目の回復薬がこれで揃ったわねぇ。………アレックスの方の宝箱だけどぉ」
いっそころせ。
「ミーヤ、心を強く持つのよぉ。ミーヤの方は名称「ジュエリーハンマー」。説明は「その名の通り全てが金と宝石で作られているハンマー。見た目重視の為かなり重い。部屋の飾りにするくらいしか使い道は無いが、持ち上げて使いこなすだけの怪力があれば重量の分とても強い武器にもなる。もっともそんな都合の良い存在がいるはずが無いので、持て余すようならさっさと換金するのが吉」らしいわぁ」
………よし、回想だ。何故こんな事になっているかの回想をしよう。別に現実逃避とかではないからね。説明の為だからね。ほら、順序って大事じゃん?
まず最初に、アレックスを含めた六人でダンジョンを探索し始めたんだよね。そして思ったよりも大量に発生してる魔物を倒しながら、私のサーチでフロアマップを作成。勿論他の皆に教える為にちゃんと紙に描き写したよ!
…正直に本当の事を言うと、ダンジョン入ってすぐに従魔用テレパシーを試して全員で脳内会話を使えるようにしたんだよね。その結果脳内マップ…というかサーチ結果?も伝わってたみたいなんだよね。でも、ほら、アレックスはそうじゃないじゃん?従魔じゃないから無理じゃん?という事で手描きマップを作成したわけでござりんす。
で、宝箱の位置を特定してはその場所に向かって動き、途中で襲ってくる魔物を倒しながら宝箱の場所まで到達してはアレックス、私、の順番で宝箱を開いていたわけだ。あ、宝箱はちゃんと別の宝箱探し直してたからね?宝箱って一回開けたらしばらく空箱状態になっちゃうみたいだし。だったら待つよりも次の宝箱を開けに行った方が良いもんね。
要するにターン制で開けてたって感じかな?あれ、わかりにくいねコレ。交互に順番が……うーんと、例えるならABCの宝箱があるとするよね?まずAをアレックスが開けるんだよ。そして私は次のBを開ける。その後のCは、次のターンとしてまたアレックスが開ける、って感じだったわけです。うん、私の説明がドヘタクソという事しか伝わらなかったね!
まあとにかく、宝箱を交互に開けてた結果、アレックスが居なかったら詰んでたって事がわかった。とても辛い。あととんでもないレアアイテムがまた私のアイテムポーチに収納されてしまった。めっさ辛い。
「……ミーヤって、凄いね」
「やめろその口撃は私に効く」
しみじみとそう言ったアレックスの言葉に、私は心臓の位置を抑えて蹲る。もう何も見たくないアル。
「え、あ、いや悪い意味じゃないよ!?」
アレックスは慌てたように、
「俺が開けたやつは全部普通のアイテムしか出なかったのに、ミーヤの方は信じられないくらいのレアアイテムの連続で凄いなーって!」
フォローのつもりなんだろう言葉で私にトドメを刺した。身振り手振りまで添えられた心からの言葉に私は心が折れそうだよ。うふふ、床って螺旋になっているのね。おっといかん現実逃避をし過ぎて見えちゃいけない世界が見えかけてたぜ。危ない危ない。
「……でも、依頼……の、アイテム……ゲット出来ない、から、アレックス……居なかったら、依頼……失敗してた……」
「ほんとそれね」
ラミィの言葉に全力で頷く。回復薬を納品しないといけないのに肝心の回復薬がゲット出来ないって詰みでしかないもん。正直レアアイテムの使い道も無いから辛いとしか言いようが無い。私はノーマルが良かった。
だって!アイテムがやばいのしかない!
聖女のドレスはかなり良心的だけど、魔性の剣は普通に危険過ぎるよね!?私が剣の良し悪しまったく理解出来ないガールだったから良かったものの、うっかり私に剣の良さがわかっちゃってたらアウトだったよ!魅了されて死ぬまで周りの人を斬り殺し続けるルートだったよ!そんな恐ろしい物をこんな低い階層に置かないでよダンジョン!
どんな鍵だろうと開けれちゃうマスターキーだとか、邪神と会話出来ちゃう面だとか、触るだけでも危険な毒の短剣とか、既に失われちゃってるらしいエルフの薬とか、何かヤバげでしかない魔王の目覚ましとか、虹を発生させる粉とか、防御力チートな盾とか、とんでもなく重い宝石のハンマーとか………明らかにこんな序盤で出て良いアイテムじゃないよね!?こういうのって後半で出てくるもんじゃないの!?ラスボスのアジトで発見されるタイプのアイテムじゃないの!?これ幸運がぐるっと一周して逆に不幸になってる気がするんだけどこれって気のせい!?気のせいだよね!?お願い気のせいと言って!
「あの……ミーヤ様、大丈夫ですか?」
「だいじょばない」
ハニーが背中を擦りながら優しい言葉をかけてくれるが、まともに返事すら出来ない程度には私の心は磨り減っていた。私、もう、ダンジョンでゲット出来るアイテムを集める依頼、絶対受けない。
「ミーヤ、ちょっと休憩しよう。な?」
私が体育座りで落ち込んでいるからか、コンはしゃがんで私と同じ目線になってから私の頭を優しく撫でてそう言った。
「さっきからミーヤの匂い、悲しいとか辛いとか、落ち込んでるような感じの匂いになってるし…」
「マジか」
「マジだ」
おおう……落ち込んでたのは事実だけど、匂いにまでそういうの出るのか……出るよなそりゃ。もう何か思考回路が鈍ってるのがわかる。私の脳内が全部をシャットしてこのまま寝ようぜ?って誘ってきてるもん。
「そうねぇ……私もとんでもないレベルのレアアイテム達を鑑定してちょっと疲れちゃったしぃ、少し休憩にしましょうかぁ」
レアアイテムの鑑定を連続で行っていたからか、イースが疲れたようにそう言った。
「回復薬と短剣は手に入ったしぃ、ゴブリン十匹も無事討伐は出来たものねぇ。後は帰るだけだからここで一休みするくらい良いと思うわぁ」
「よっしゃ休もう。そうしよう。是非そうしよう」
私は赤べこの如く首を縦に振る。
「そうですね、まだ六階だというのに魔物が大量に襲って来ましたし」
「……ん、賛成…」
「この部屋の中なら、入り口にさえ注意してれば大丈夫そうだしな」
「俺もちょっと疲れたしさんせーい」
他の皆も疲れていたのは事実なのか、床に腰を落ち着けた。うん、まだ十階にすら到達してないのに異様な数の魔物が襲い掛かってきたもんね。こっちは六人も居るし皆強いお陰で被害が少なかったのはラッキーだ。全員掠り傷程度で済んでいる。万が一昨日のアレックスみたいに致命傷を受けていたらと思うと……おおう考えたくない。うちの嫁が死に掛けるとか絶対見たくないっての。
「ふー……」
壁に背中を預けて力を抜くと、何だか頭がスッキリしてきた。うん、レアアイテムしか出なかったのはショックだったけど、出ちゃったものは仕方が無いもんね。どうせ私は色々考えると深みに嵌まって混乱するだけなんだからレアアイテム達については考えないでおこう。その内使う機会があれば良し。機会が無ければアイテムポーチの肥やし。それだけだ。
大体日本に居た時だって、気に入ったアニメを何回も見返したいからってDVD買ったのに一回見て満足しちゃってそのまま棚の中に入れてその後見返す事は無く……って事が何回もあったんだから同じ事だ。自分の手元にあるっていう満足感と安心感でいっぱいになっちゃって見返す気が起きないんだよね。でも所持品の一つではあるわけだし、もしかしたら役立つ可能性もあるんだし、レアアイテムだってそんなもんだよね。使う機会は無かろうとあって困るものでは無し。うん、そういう考えでいこう。
今までレアアイテムってどうしても「竹やぶで拾ったバッグの中に札束入ってた」級にやばい物って印象だったけど、買ったけどあんまり見てないDVDレベルって思えば気が楽だ。レアアイテムってそんなもんだよね、うん。よしどうにか私を説得出来た。これでもうレアアイテムに恐れは抱かん!ごめん嘘多分抱くけどここまでショックを受ける事はもう無いと思う!多分!きっと!抱かなければ良いな!ああ願望だよ文句あるか!?私は無い!無いにしておこう!それが平和!(パニック)
「ミ、ィ、ヤ♡」
「うやっほう!?」
吐息混じりの声が耳元で聞こえて思わず奇声を放ってしまった。え、何々?と耳を押さえながら声のした方に振り向くと、いつの間にかアレックスが私の隣に座っていた。
私の反応を見て、アレックスは愛おしいものを見るような表情で微笑んだ。
「何考えてたの?百面相してたけど」
「え、マジで?」
「マジ♪」
ニッ、とアレックスは口元だけで笑う。
「表情がコロコロ変わってるのが可愛くて見てたらミーヤと話したくなっちゃってさ。で、何考えてたの?」
「別に大した事じゃ……なくはないか」
レアアイテムに関しては結構な大した事だよね。
「まあ、レアアイテムしか出ないのは色々と問題だけど、アイテムポーチに突っ込んで見ない振りしてれば良いかなって考えてた」
「そこで売り払ったり誰かに渡したりって考えじゃなくて見ない振りしよう!ってなるのがミーヤらしいね」
「え、そう?」
「うん。売り払ったりしたらミーヤの噂が広がるだろうし、誰かに渡すってのも魔性の剣…だっけ?あんなのを誰かに渡したら大惨事になっちゃうでしょ?」
うーむ、そこまで深くは考えてなかったんだけどね。そういう考えもあったのか。でも確かにレアアイテムを何個も売ったりしたら顔覚えられそうだもんね。変な噂で命狙われるのはごめんだから違う結論に至ってて良かったと胸を撫で下ろす。
……あれ、そうするとジュエリーハンマーとか売れなくない?まあ良いか。いきなり大金渡されたりとかしたくないしね。
他人に渡すって考えに関しては、欲しがる人が居たら渡したいなーと思ってた。思ってたけど、いまいちパッと出てくる知り合いが居なくてさ……。
というか邪神の面とか誰かに渡したら一発アウトな気がする。冒涜的なストーリーが始まりかねないよね。あの面の説明にあった「信仰心がありながら信仰心が無い特殊な精神」って、多分日本人の事だと思うんだよ。だから他の人に渡したら終わりだと思われる。日本人って神を信じてないとか言いながら神頼みはするし、無宗教って言いながら新年は初詣をするんだよね。信仰心がありながら信仰心が無い、の見本みたいな精神性だと思う。
そんな風にぼんやりと日本人の信仰心を考えていると、隣に座っているアレックスがポツリと呟いた。
「……そういう、誰かにとって都合の良い存在になろうとはしない精神が好きなんだよね」
「そりゃ私は自分の人生を生きてるわけだしね。都合が良いだけの人間になっちゃったら搾取されて終わっちゃいかねないし。それはちょっと嫌だもん」
アレックスの呟きにそう返しつつ、お姉ちゃんも投稿したイラストへのコメント見て叫んでたなーと昔の事を思い出す。「うっせぇ私のカプは私が決める!イラストが好みだけど逆カプなんでこっちのカプ描けとか図々しい!漫画のラストが嫌だったから私の理想のシナリオ送るんで描いて下さい☆とか何様だお前は!私は!私の描きたい私の萌えのみを描く!時々違うのも描くが基本その精神だ!欲しいイラストがあるなら自分で描け!人生はいつだってサバイバルなんだよ甘えるな!」って叫んでは当たり障りの無いコメント返しをしていた。
うん、私が自分の欲望に忠実なのはそんなお姉ちゃんの背中を見て育ったからって気がする。他人の言う事を聞いて真っ当に成長した人よりも、自分の道を貫き通してるお姉ちゃんの方が人生楽しそうだったから私もお姉ちゃんの真似をしちゃうのは仕方が無いよね。だって人生は楽しまないと勿体無いもんね。
お姉ちゃんの事を思い出していると、アレックスの反応が返ってこない事に気付いた。どうかしたんだろうかと思ってアレックスの方を見ると、アレックスは驚いたように目を見開いて顔を真っ赤に染めていた。
「……どしたのアレックス」
不思議に思ってそう聞くと、アレックスは動揺したように視線を泳がせながら毛先を指で弄り始めた。
「いや、うん、ちょっと……あの、さっきの、聞こえてた?」
「誰かにとって都合の良い存在にーってやつならバッチリと。私地獄耳の称号持ってるから耳が良いんだよね」
そう答えると、アレックスは真っ赤になった顔を隠すように両手で覆った。
「……あの、俺はミーヤに惚れてるんだよ」
「らしいね。私の嫁は従魔だけだからお断りルートしかないけど」
私はハッキリとそう返す。浮気はしない。浮気は嫁にも浮気相手にも良く無い行為だからね。
すると、耳まで真っ赤になっているアレックスは顔を覆っている手を少しだけずらして片目でチラリとこっちを見た。
「…愛の言葉はいくらでも言えるんだけど、さっきのは本気で素の心の声だったからちょっと、恥ずかしいっていうか……」
つまり、完成品しか渡す気は無かったのに作成途中の試作品を間違えて渡しちゃって恥ずかしい!って感じって事?お姉ちゃんがよく「あああここの台詞誤字ってた!恥ずかしい!」って叫んでたから多分そんな感じで合ってるはず。
あー、うん、でもアレックスの顔が茹蛸のように真っ赤になってるからフォローした方が良いかな。
「私は普通に嬉しかったから良いと思うけど」
「え、本当に?」
「いきなり赤い糸だの恋人だの言われるよりはね」
「酷い!」
あれ、フォロー失敗した?
本当に?って言った時のアレックスが嬉しそうな笑顔になったからそのまま続けたら何故か落ち込ませてしまった。何故だ。私は正直に言っただけなのに。
……あ、
「そういえばだけどさ、回復薬と普通の短剣はアレックスが出した物だからアレックスの物だよね?結局私が受けた依頼が達成って事にはならなくない?」
「今言う?」
ごめん、でも今思い出したから。
そう言うと、アレックスは仕方ないなとでも言うような溜め息を吐き、笑った。
「ミーヤのそういうところも好きだよ」
アレックスはそう言い、ごそごそと自分のアイテム袋を漁る。
「俺がゲットしたアイテムに関しては、俺には必要無い物だからね。必要としてるミーヤにあげるよ。はい」
その言葉と共に回復薬と普通の短剣が差し出された。あ、いかんお代渡した方が良いよね?そう思ってアイテムポーチに手を伸ばすと、その考えを読んだのかアレックスは少し眉を顰める。
「言っておくけどお代は要らないからね?そもそも、最初っから俺がミーヤに同行する為の条件の一つは宝箱から普通のアイテムをゲットする、だったんだし。だからこのアイテムはミーヤの物だよ」
「いやその理論おかしくない?」
「おかしくない。俺はミーヤと一緒にダンジョンに潜れてハッピー。ミーヤは俺が出したアイテムで依頼達成出来てハッピー。それで良いんだよ」
キラキラなエフェクトを背負いながらの微笑みでそう言われると何だか納得しそうになるな。
「…そういうもん?」
「そういうもん♪あと俺がミーヤにプレゼントして好かれたいっていう下心もある。ミーヤだって最初報酬目当てっていう下心ありで俺を助けたんだから、これでお相子だと思わない?」
あー、そういや昨日そんな事言ったね。それを出されると私は何も言えん。
「じゃ、ありがたく貰うね」
「うん」
アレックスから回復薬五個と普通の短剣を受け取ってアイテムポーチに仕舞う。これで無事依頼は達成出来るね。アレックスが居なかったら依頼失敗で減点されちゃうとこだったよ。
「アレックスのお陰で依頼がどうにかなったようなもんだし、一緒に来てくれてありがとね」
代理でラミィが開けてもレアアイテムだったし、私達だけだったら本気でアウトだった。最初の待ち伏せは正直引いたけど、結果的にアレックスが同行してくれなかったら詰んでたわけだ。
そう思い笑顔でお礼を言うと、
「ミーヤ、ミーヤってやっぱり天の使いだったりしない?今ミーヤの背中に羽が見えた」
「あっはっはアレックスの株が大暴落」
手を握られ、真顔でそう囁かれた。普通にしてる分には好意的に見れるんだけど、そういう口説きは得意じゃないんだよね私!残念!




