魔法についてのお勉強
「イース、これ何?」
「それはイチゴよぉ。こっちのイチゴは甘いのと酸っぱいのと二種類あるのぉ。赤い方は甘いイチゴだから摘んで行きましょうかぁ」
「酸っぱいと色違うの?」
「酸っぱい方は黄色なのよぉ。赤色のイチゴはそのまま食べても良い色、黄色のイチゴはそのまま食べるの口の中が大変な事になっちゃうのぉ」
イースはクスクスと色っぽく笑いながら、羽を動かさずにすいーっと飛んで高い位置のイチゴをポンポン収穫してアイテム袋に放り込んでいく。
こっちのイチゴはどうやら樹木に生る果実らしい。リンゴみたいに木に生ってて不思議な景色。
ふと、近くの枝に生っている赤いイチゴを取って食べてみる。実食って大事だと思うんだ。だって町でイチゴ食べて違う味だったら怖いじゃん!?
「…あ、普通にイチゴの味だ。しかも甘くて美味しいやつ」
「うふふ、赤色も美味しいけどぉ、黄色の方は砂糖漬けのジャムにすると美味しくなるのよぉ。ジャムは冒険者にも高値で売れるしねぇ」
「え、そうなの?ゴツいおっさんが多いイメージだけど」
「確かにそういう人間も多いけどぉ、冒険者って基本的に町の外で活動するじゃなぁい?料理が得意な人が居ないと常に乾いたパンと干し肉、あとは水ってくらいの粗食なのよねぇ。だからジャムみたいに保存が利く甘い物なんかは大人気なのよぉ。糖分は疲労にも利くものねぇ」
「おおー」
「それにこっちじゃ冒険者はメジャーな職業だからぁ、結構色んな人間が冒険者をやってるのよぉ?男が多いのも事実だけどぉ、男だけって事は無いわぁ」
「成る程」
納得して頷く私の近くにイースは静かに着地する。
そしてアイテム袋から小さめのビンを取り出し、そのビンの蓋を開けてスプーンで中身を掬った。つやつやとした黄色、そして甘くてフルーティな良い香りが広がる。
中身を乗せたスプーンを持ち、イースは目を細めて色っぽく微笑む。
「そしてこちらがその黄色イチゴのジャムよぉ。味見するぅ?」
「したいしたい!」
「はぁい、あーんしてぇ?」
「あーん」
素直に口を開けると、スプーンに乗せられたジャムが口の中に入って来た。そしてその甘さにビックリした。え、凄い甘いよこのジャム!
日本のジャムって少し酸っぱかったりするから苦手なんだけど、このジャムは好きかも!
もう一口食べさせてもらおうと雛鳥のように口を開けたけど、ひょいっと一歩下がられた。
「うふふ、今日はもうだーめぇ♡市販のお砂糖って高いのよぉ?」
「うー…もう一口!」
「だぁめぇ。これ以上食べるとミーヤのお腹にお肉が付いちゃうわよぉ?」
「うぐっ…く、ナイスバディなイースに言われるとぐうの音も出ない」
「アハハハ、この見た目はミーヤの趣味だけどねぇ?」
イースが笑う度に大きいおっぱいが揺れる。凄い。
笑いながら、イースはジャムをアイテム袋に入れてしまった。残念である。
「それじゃあ、イチゴも収穫したしぃ、今日はミーヤのレベル上げをしまぁす!今のレベルじゃ5歳児レベルだものねぇ」
「うっわショック!でもイース先生!」
「はぁい?」
「私雑魚いんで戦闘力0です!」
「魔法で相手の急所をどうにかすれば勝てるから大丈夫よぉ。少なくともスキルの妄想癖を使いこなせればぁ、追尾型のファイヤーボールも撃てるはずよぉ。ファイトォ、オー♡」
「うううイース可愛い…頑張る…!」
あ、ちなみに現在は未だに森の中です。微妙に開けてる場所ではあるけど思いっきり森の中。
イース曰く、
「あそこはどの方向に進んでも人里が遠い場所だったのよぉ。もし従魔契約を断られたらミーヤが死んじゃうと思ってぇ、魂をまるっと全部食べちゃおうと思ってたのよぉ。だって野垂れ死にさせるなんて勿体無いでしょう?契約してくれて良かったわぁ♡」
との事。
凄いドキドキする笑顔で凄いドキドキする事を言われた。知らない間に私は命の綱渡りをしていたらしいです。イースってやっぱり人間じゃないんだなあって実感したよね。
「まずはぁ…狩りの前に魔法の説明ってした方が良いわよねぇ?」
「お願いします!」
「はぁ~い。まず、魔法には属性がありまぁす。属性は火、水、土、風、氷、光、闇の七種類となっておりまぁす。かつての勇者達は木や草の魔法、電気の魔法なんかを使えるのも居たんだけどぉ……これはスルーで良いわねぇ。火から氷までは説明しなくてもわかるかしらぁ?」
「うん、私のイメージ通りなら、多分」
火はつまり炎で、イースが言ってたファイヤーボールとかがこれに当たるんだと思う。あと最初にホーンラビットを燃やしたやつとか、スープ作る時の火とかはこれかな。
水もわかる。鍋に水を入れる時に使ってたし、鍋とお椀を洗う時にも水出してたし。
土は…よくわかんないけど多分ゴーレムとか、土の壁とか、耕したりとか、多分その辺だろう。
風は普通にカマイタチみたいなやつだと思う。
氷は多分氷漬けとかじゃないかな?もしくは冷凍庫代わり。
「ええ、それで合ってるわよぉ」
イースはにっこりと笑顔を浮かべながら、満足そうに頷く。
こういう時に心読んでもらえると助かるな。イメージは浮かんでても言葉として説明するには足りてないから読み取ってもらえると本当にありがたい。
「それじゃあ、まずは光魔法についてぇ。光魔法は基本的に回復や解呪などが可能でぇす。あとは燃える物が近くに無い時に灯りの代わりになったりぃ、ゴースト系の魔物を浄化したりが出来まぁす」
「ほうほう」
「ちなみに魔物は基本的に光属性は使えませぇん。聖獣みたいなぁ、聖なる魔物じゃないと違う血液型の血を輸血したみたいになって内側から死にまぁす」
「こっわ!?え、それだともしイースが怪我した時に私が回復させようと光魔法使ったらお陀仏コース!?」
「ああ、魔物「が」光魔法を使用するとアウトなだけでぇ、魔物「に」光魔法で回復させるのは大丈夫でぇす。だからミーヤは怪我しないようにねぇ。怪我をしても自分で治す分の魔力は確保しておくのよぉ?」
「うぃっす…!」
元々怪我は絶対にお断りだったけど今の話を聞いてお断りの気持ちがより大きくなった。
絶対に大怪我をしてはいけない!もし将来大怪我をして、テイムしてる子が頑張って光魔法を使おうとしたら確実に悲しい結末になってしまう!
オッケー、私の方針が決まったぜ。私の方針は安心&安全第一だ!
心を読んで私が決めた方針を知ったのか、イースが微笑ましいものを見る目で笑みを深くした。いやほら、だって安心も安全も大事じゃんね?
「クスクス、それじゃあ闇魔法の説明を始めまぁす。闇魔法は基本的にブラックな感じの魔法が多いでぇす。病気にさせたりぃ、呪ったりぃ、腐らせたりとかが出来まぁす。あと催眠とか洗脳とかぁ、人の心を操ったりとかぁ……まあ、人道に反してたりするのは大体闇魔法だと思ってくれて良いと思うわぁ」
「おおう、病気にさせたりとかやばいね」
「そうねぇ、風邪を拗らせて殺したりも出来ちゃうものねぇ。でも光魔法でもどうにもならない病気や呪いは、逆に闇魔法で操る事で治したりも出来るのよぉ。何百年か前の勇者はぁ、闇魔法で豆を腐らせてぇ…発酵させて?納豆を作ってたわぁ。臭くてネバネバで最終兵器として使うしか使い道が無いと思ってたけどぉ、アレって食べ物だったのねぇ。ミーヤの記憶を見て始めて理解したわぁ」
何百年か前の勇者よ、納豆を作るだけじゃなくて食べ物だという事をきちんと広めておいてくれよ。健康に良いんだぞ納豆は。確かに慣れてないと臭いがキツいかもしれないけど!美味しいんだぞ!
「まあそんな感じでぇ、魔族が使うのは闇魔法が多いわねぇ。そのせいで人間なのに闇魔法しか使えない子とかは迫害されるらしいけどぉ…まあ、この件は置いておきましょうかぁ」
「そっすね」
そんな異世界のブラック事情を教えられても一般ピーポーな女子高生には何も出来んですよ。今だって従魔であるイースにおんぶに抱っこでお世話になってるんだし。
む、おんぶに抱っこって考えたらイースの笑顔が凄い怪しい感じになった。何故だ。何が淫魔の心をくすぐったんだ。見えないはずのフェロモンが目視出来るレベルになってるんだけど。イースの瞳の奥のハートが凄い蠱惑的に光ってるんだけど。
「んん、コホン。まあ魔法の属性はこんな感じよぉ。慣れてくれば水と火の魔法を組み合わせて熱湯を出したりも出来るからぁ、まずは感覚を覚えるのが大事かしらねぇ」
「おお、お湯が出せるならお風呂入れるね!助かる!」
「……普通の人間は魔法を日常生活に使ったりはしないのよぉ?」
「…ほら、異世界人だし?」
苦し紛れの私の言い訳に、イースは遠い目で何処か納得したらしく頷いた。多分過去の勇者にも似たような人が居たんだと思う。
でも日本人にとってお風呂は大事な事なんだよ!シャワーじゃ足りないんだよ!
私の意識の大半がお風呂に向かっているのに気付いたのか、イースはまた咳払いをして話を戻す。
「あとこっちの世界の人間は違う属性を組み合わせた合体魔法を一人でやるのはかなり難しいとされていまぁす。二人組で一人が火、一人が風の魔法を使って強い攻撃をしたりはするけどぉ、一人で二つの属性を一緒に使用はそれなりにレベルが高い魔法使いしか出来ないからぁ、うっかり人前でやらないようにねぇ?魔族なら問題無いから人前で必要な時は私に言うのよぉ?」
「うっわめっちゃ重要情報じゃん!本当色々お世話になります!」
「うふふ、良いのよぉ。主人なんだから存分に従魔に甘えてねぇ。私もミーヤに甘えるからぁ」
「うぼっふ!?」
滑らか、かつ違和感の無い動きでイースに抱き締められた。
イースは飛んでない状態でも私より背が高い為、頭を抱き寄せられると豊満なる二つの山に私の顔がダイブするんだけどなあ!?わかってやってるのかなコレ!?あ、私の頭を胸に押し付けているイースの両手の力が増したからこれ故意でやってるな!?
「うふふふふ、淫魔だものぉ。淫魔は人の肌がだぁい好きなのよぉ」
あばばばば良い香りでくらくらするんですけど凄い!
あれ、もしかしてコレ…抱き締め返しても良いんじゃね?
いやほら!従魔契約してるし!イースの方から抱き締めてきてるし!これで抱き締め返してもセクハラにはならないよね!?痴漢にはならないよね!?
「ええ、思いっきり抱き締めて良いわよぉ」
蜂蜜のようにとろりとした声を聞いた瞬間、体が勝手に動いた。
だって!だって本人からの許可が出たんだもん!あとわかんないかも知れないけど声とか息遣いとかが本当やばいから!正気保ててるだけ凄いからね!?男だったらぱっくり食われてるレベルの色気だからねこれ!?
「………!」
うおわわわ、抱き締めたは良いけど凄い。抱き締め心地がふわっふわしてる。細いけど抱き締めた時に肉感はあって、凄い満足感。なのにぬいぐるみみたいに柔らかくもある。なんだコレ!?人間なのか!?いや淫魔だわ!相手の好みに合わせて体作り変わる種族だったわ!凄いな淫魔!!
「うふふ、素直な心の声で気持ち良いわねぇ」
「そうだったイースには心の声漏れてるんだった!」
「また忘れてたのぉ?………そ、れ、よ、りぃ」
「んむ?」
私の顎に華奢な手が添えられ、クイっと上に、イースの顔の方へと顔の向きを動かされた。アレ!?これ顎クイじゃない!?初めての顎クイを淫魔のお姉さんに奪われた!?
と、思ったら、
「ちょおっと、味見しても良いかぁ?」
ペロリ、と舌なめずりをするイケメンが居た。
あれ!?いつの間に性別変わった!?顎に添えられてる手もさっきまでのほっそりした華奢な手じゃない!ガッシリした男の手になってる!というかいつの間にやらイースの男らしい左手が私の腰を抱き寄せてるんだけど!?うっわ筋肉で体ガッシリしてるし驚異の胸囲で分厚いのに腰だけ細い!腰だけキュッてなってる!凄い二次元体型!いやそうか二次元をモデルに変身してるからかな!?(パニック)
男のイースは、腰に響く低い声でありながらも女のイースと同じように語尾を延ばした喋り方で、甘く優しくとろけるように言葉を紡ぐ。
「せっかくのチャンスだしなぁ?男の俺に慣れるのと、俺の食事。一石二鳥になるだろう?」
「いや、あの…」
「ああ、ちゃあんと額や頬にキスするだけだから安心しろってぇ。いきなり唇を奪ったりはしねぇからぁ」
「あばばばばば」
イケメンが!イケメンが目の前に!イケメン耐性が無いから目が潰れそう!
ん?あれ、今イース、食事って言った?淫魔の食事って魂を舐める…ん、だよね?
待て、昨日は魂を舐められて気絶したよね私?正直言ってお世話になってるから幾らでもどうぞって感じだけど、気絶を繰り返すのは駄目だ!せめてもうちょっと人里に距離を縮めておきたい!
「す、す、ストップだイース!後で食べても良いから、気絶しない為に先にレベル上げさせてください!」
「えー?……ま、そっちが本題だったしなぁ。オッケー、んじゃあこの辺の魔物を狩って…そうだな、体力が三桁まで上がったら俺の食事開始って事でぇ♡」
「りょ、了解でっす…」
イケメンがエッチな表情なのに笑顔ってリアルで見ると凄い。
セクシーが爆発してる感じだ。
というか、うん、私も早く男のイースにも慣れないとだよね。お世話になってる癖に性別が変わったくらいで態度を変えるのは良くないし!
「………そうやって、無理せず素直に受け入れてくれるとこが気に入ったんだよなぁ」
ぼそり、と囁くような声で呟かれた声を私の耳が拾う。
「え、何いきなり。小声で言われてもこの距離だし私難聴系主人公じゃないから普通に照れる」
「賞賛は素直に受け取っとけよぉ。んじゃ、早速そこらにいるホーンラビットや昼間コウモリ、草食ヘビに屍喰いカラスとかを狩ってみなぁ」
「待って、最後に凄い怖いモンスター居たよね今」
「………狩る前に、この辺にいる魔物の説明が先の方が良さそうだな?」
「お願いします!」
狩る前に、モンスターの情報は大事だと思うんだ。
というわけで、モンスター狩りの前にイース先生の授業が始まるよ!