称号に気に入られた…だと…!?
ぐったり、とベッドにうつ伏せになって全身の力を抜く。ああもう、何か凄く疲れた。
十五分間従魔達に抱き締められ、解放された後は冒険者達がざわざわと私達に関しての色々を話し始めたりしたせいで本当に疲れた。
チェルシーさんは笑って「お疲れ様」って言ってくれた。あと干し肉をくれた。その日暮らしのメンバーは「仲良いな」とだけ言ってくれた。うん、仲は良いんだよ。愛がちょっと重めだけどね。
そして視線がめっちゃ集まるギルドからさっさと出て、宿屋探しを始めたわけです。まあギルドの三軒隣に宿屋があったし、その宿屋の大部屋が開いてたからあっさり部屋は確保出来たんだけどね。ラッキーラッキー。
色々とあったからか既に時刻は夕方だ。日も落ちてきている。なので精神的に色々と回復する為私はベッドさんとお近づきになっている、というわけである。説明終了。
あー、ベッドが私を包み込んでくれる…。旅の途中での水布団も最高だけど、これはこれでホッとするんだよね。布の感触に安心するっていうか。
「ミーヤったらスライムになっちゃいそうなくらい溶けてるわねぇ」
ベッドに腰掛け、解いた私の髪を梳くように撫でるイースを下からジットリとした目で睨む。
「ギリギリ保ってたのをラストで追い討ちかけたのどこの誰ですかね」
「だって公衆の面前じゃないと牽制にはならないでしょう?」
「そうですネー…」
にっこりと笑ったイースの笑顔に逆らえない何かを感じた。イースって私の従魔ハーレム維持にめっちゃ力入れてるけど何でなんだろう。あ、あれか?お局様だからか?お局様だからハーレム内の色々を責任持ってやってるのか?
「大体合ってるわぁ」
「合ってるんだ…」
イースの撫で方が心地良い。黒く尖った長い爪なのに、髪に引っ掛かる事なく撫でれるって凄いよね。めちゃくちゃ気持ち良くてつい寝そうになる……けど、
「まだやる事ってあったっけ…」
「沢山あるわよぉ?お風呂にご飯に従魔ケア」
うう、確かにそうだ。お風呂は最悪クリーンでどうにか出来るし、ご飯も一食抜いたくらいで死にはしない。いやまあ今日ダンジョンでめちゃくちゃ戦ったから食べないと明日辛そうだけどね。
けれど、一番大事なのは従魔ケアだ。これは欠かしたくない。ブラック魔物使いにはなりたくないでありますよ。それに皆もケアしないと駄目だしね。
ハニーはある程度のスキンシップを取らないと不調が起きるし、ラミィも構わないと拗ねる。コンはブラッシングしないと動きが鈍っちゃうしね。イースに関してはイース自身がいまいち私に要求をしてこないからよくわからない。イースが言うには「ミーヤが私に対して普通に接するだけで充分過ぎるくらいなのよぉ?」らしいけど、人間の私ではよくわからなかった。淫魔独特なあれやこれなんだろうか。
「あ、それとぉ」
思い出したように人差し指を立てて、イースは言う。
「ミーヤのギルドカードも確認した方が良いわねぇ。イルザーミラまでの道のりでレベルが40になってたしぃ、ダンジョンで無駄に湧いてた魔物達を倒したから今はもぉっとレベルが上がってるはずよぉ。色々と確認しておいた方が良いわぁ」
………そういやまだギルドカードの確認をしてなかったね。ごそごそとアイテムポーチからギルドカードを取り出して魔力を流し、ステータスを確認………しようとしたら、
「どうなりました?」
「…見せて……」
「また変わった称号とかゲットしたか?」
「ぐえっ」
イース以外の従魔達に圧し掛かられた。ハニーは軽いから良いけどラミィとコンは加減して!?
「はいはい、ステータス見たいからってミーヤに乗って押し潰してたらミーヤ自身が見れないでしょう?ミーヤから降りなさぁい」
べっちょりと潰れてベッドと一体化しながらヘルプの念を送っていると、その念を受け取ったらしいイースが助けてくれた。イースの言葉で皆も素直に降りてくれたから一安心だ。あービックリした。肺の中の空気が持ってかれたもん。ちょっと目が覚めたわ。
さて、改めてステータス確認。今回私のステータスはこんな感じになっていた。
名前:ミーヤ(17)
レベル:47
種族:人間
HP:670
MP:1200
職業:魔物使い
スキル:従魔契約、妄想癖、オリジナル魔法作成、魔力感知、愛の加護、従魔用テレパシー、二者択一の勝者
称号:異世界人、(長いので略)、ハッピールートメイカー、称号に気に入られた人間、酒豪、ゴッドハンド、雷魔法の使い手、無欲、魔法の天才、逸脱者のハートキャッチガール、愛され主
……色々とどういう事だ!
私は思わず枕に頭部をダイブさせる。いっそ埋まりたい。
いや、スキル増えてるのはありがたいよ!?従魔用テレパシーってのも何となくわかるし!だが二者択一の勝者お前は誰だ!
それと称号!称号もまたちょっとおかしいよね!?酒豪とか雷魔法の使い手はわからんでもないけど逸脱者のハートキャッチガールってどういう意味かな!?一番気になるのは称号に気に入られた人間って称号だけどね!お前マジで何者だ!?
「………よし」
軽く目元を揉んで感情をリセットだ。荒ぶるな私。荒ぶったら相手の思うツボだからね!
よし、覚悟完了。まずはスキルの詳細確認!
従魔用テレパシー
契約している従魔に魔力を繋げるイメージをすると念話が可能。一対一では無く、複数間での念話も可能。このスキルを使用して従魔全員の魔力を一度でも繋げれば、その後は従魔同士でも念話が可能になる。ただし距離が遠過ぎたり磁場がおかしかったりなど何らかの異常があると繋がらないので気をつけよう。
二者択一の勝者
アタリとハズレという二択の際、このスキルを所持している者は絶対にアタリを引く。ハズレとハズレしかない二者択一であろうとも、このスキルを所持していれば選んだ方が最終的にアタリへと変じる。意識的に発動させればどんなギャンブルだろうと確定勝ちが可能。
「……従魔用テレパシーってのは使えそうで良いよね!皆と念話可能にしておけばかなり助かるだろうし!」
「ミーヤ、目を逸らしても二者択一の勝者ってスキルは消えないわよぉ?」
うっぐ、見ない振りしようとしたのにイースが笑顔で現実を叩きつけてくる…。
「というか本気で何なのさこのスキル…二者択一の勝者ってどっから出てきた?」
魔力感知の時は心当たりがあったし、従魔用テレパシーってのも魔物使いである私のレベルが上がったからって考えが出来る。でも二者択一に関しては本気で心当たりが無い。
うー、と唸りながら考えていると、ハニーが「あ」と声を上げた。
「もしかして、ダンジョン内での宝箱でレアアイテムを連続で出し続けていたからでは…?」
………………それかよ!
「うっわめっちゃ腑に落ちた…」
腑に落ちたが同時に何となく気分が落ち込んだ。手で目元を覆ってはぁ…、と溜め息を吐く。
成る程、レアアイテムか普通のアイテムかっていう二者択一でアタリの方であるレアアイテムを出し続けた結果、絶対にアタリの方が出るスキルが授けられたと………いや意味わからんぞよ!?
「あ、でも時々特定の条件をクリアするとゲット出来るスキルや称号があったりするからぁ、それじゃないかしらぁ?」
どゆこと?
イースはにっこりと笑って私の心の声に答える。
「ミーヤにわかりやすく言うならぁ、特定のイベントをクリアする事によりゲット可能なレアスキルって感じかしらねぇ」
「成る程…」
流石はイース、説明がわかりやすい。
つまりゲームでのクエスト何回クリアしたよ!とかのトロフィーみたいなアレって事だよね。この条件をクリアすればこのアイテムのグレードアップバージョンがお店で発売されるよ!みたいな。
うん、まあ、二者択一の勝者に関してはいまいち使い所がよくわかんないけど良いか。あって困るもんじゃないし、福引きとかで役立ちそうだし。
んじゃあ次は称号の詳細チェックかな、と。
称号に気に入られた人間
称号に気に入られた人間に贈られる称号。この称号があるとちょっと変わった珍しいレアな称号がずんどこ手に入る。称号に嫌われているとマイナス効果のある称号ばかりだが、称号に気に入られるとプラス効果の称号ばっかりが手に入る。そのうえ所持している称号全てに最低でも効果が倍は付与される。最高だと無限倍になるからめっちゃ凄い。愛してるぜ!
酒豪
一般よりも酒に強い者に贈られる称号。この称号があるとそんじょそこらの酒で酔い潰れる事は無い。
ゴッドハンド
ブラッシングや撫でるのが上手な者に贈られる称号。この称号があると聖獣クラスにもケアをねだられるかも。その手があればあの子もその子も骨抜きさ!
雷魔法の使い手
本来なら神にしか使用不可能な雷魔法を使える者に贈られる称号。この称号があると雷魔法を使用した時の情報が神に伝わる。もしこの魔法を使って神の名を貶めるような事をすると天罰が、平和な利用法のみであれば神の祝福が訪れる。
無欲
大金を目の前にしても冷静かつ拒絶してみせる程無欲な者に贈られる称号。無欲な者にこそ皆何かを施したくなるのが道理なので、施しは素直に受け取るように。その際、対価として合っているかどうかを見極めるのが大事。欲を出すと真っ逆さまに落ちて地獄death。
魔法の天才
魔法に関した天賦の才を所持している者に贈られる称号。この称号を所持していると魔力量以外で魔法関係に不可能は無い。その気なら隕石大量に降らせて島の一つや二つ滅ぼせるけどいっちょやっとく?
逸脱者のハートキャッチガール
平均と比べて何かが逸脱している者のハートを複数ゲットしちゃったガールに贈られる称号。この称号があると普通じゃない存在に惚れられやすい。魔物使いには良いと思うよ!
愛され主
従魔に愛されまくってる主に贈られる称号。主が与える愛の分が足されて膨らんだ愛がどーんと返ってくる。浮気するとヤンデレバッドエンドコース直行だから気をつけて。
「………………」
私は顔を覆った。もう何も見たくない。
「称号に愛を叫ばれるだなんて私ですら前例を聞いた事が無いわねぇ」
「雷魔法を悪用すると大変な事になるようですが、スマホを起動させる時しか使用しないミーヤ様なら確実に神の祝福が贈られますね!」
「……ミーヤ、報酬、高いの……断る、から、無欲……?」
「魔法の天才ってのは納得だけど、逸脱者のハートキャッチガールって……誰のハートをゲットしたんだ?」
私が知るか!
というか皆さあ!私が顔を覆って見ない様にしてるの見えてるよね!?何でそんなにも現実を叩きつけてくるスタイルなのかね!?
もう本当色々とツッコミたいよ!称号に気に入られた人間って何だ!あと詳細説明が思いっきりふざけてるなと思ったらやっぱりお前中の人居るだろ!?めっちゃくちゃフランクじゃんか!距離感が近いんだよ!愛を叫んできたと思ったら島の一つや二つ潰せるけどいっちょやっとく?ってどういう事だよ!軽い!ノリが軽いのに内容がやばいくらい重い!嫌だよそんな世紀末の魔王みたいな存在になるのは!
ああ、酒豪とゴッドハンドは良いよ?全然オッケー。かなり常識の範囲内だし。無欲もまあ、貢がれ上手と重なったら大変な事になりそうな気がするけど良いとしよう。最後の地獄deathが不穏だがスルーだ。日本人の本領発揮頑張れ私。
だがしかし他!他変わった称号ばっかり過ぎない!?雷魔法の使い手は仕方ないと思うよ!?ああ雷魔法使えるしスマホ見たいしって使った私が悪いさ!でも使用した時の情報が伝わるってナニ!?スマホか!?スマホで調べた情報が神様にも伝わるってか!?神様も蜂の生態や狐の習性調べた結果が伝えられても困るでしょうがよ!
魔法の天才!?魔法の天才って何だよ一体!私!魔法とか無い世界でだらだら生きてた女子高生!ザ☆一般人!こっちの世界で生きてくにはめちゃくちゃ助かるだろうし、正直武器を碌に扱えん私としては神に感謝するレベルでありがたいよ!?でもそれはそれとしてうっかり異世界人ってバレた時に怖い事になりそう感が満載になって怖い!こんなにオプションあると絶対逃げられないコースじゃんかヤダー!
それと逸脱者のハートキャッチガール!お前だお前!お前は何なんだよマジで!逸脱者のハートキャッチした覚えなぞ無いわ!そりゃまあイースは言葉に出来ないくらい凄いし、ハニーもキラービーのスペック遥かに超えてる気がするし、ラミィはマイペースだからわかりにくいけどあっさり入浴剤魔法を完成させたり出来るくらいには優れてるし、コンなんて出生から今に至るまでとんでもないストーリーだし身体能力凄いしで確かに皆逸脱してるけど!けど!正直言って他にハートキャッチしたのはアーウェルだけだ!アーウェルは13歳で冒険者やってて妹であるリーンちゃんと二人暮らしでちょっと貧乏で、と特徴はあるけど逸脱してはいなかったよ!?本気で何故ゲットしたんだこの称号!
ラスト愛され主に関しては構わん!私も従魔達を愛してるし!最後のヤンデレバッドエンドコースがとんでもなく恐ろしい気配しかしないけど浮気しなければオッケーって事でしょ?モーマンタイ!
「………よし、脳内でツッコミ終わった。寝よう」
脳が疲労による眠気を訴えている。これは大人しく屈するが吉なり。
「お風呂とご飯と従魔ケアが残ってるわよぉ」
「そうですた…」
ガックリと項垂れる。めちゃくちゃ一眠りしたくて仕方が無いけど、従魔ケアだけは何が何でもやらなくては。ホワイト魔物使いとしてそこはしっかりしておきたい。
……うん、まあ、スキルは良いのが多かったし、称号もツッコミ所しか無かったとはいえ内容は良かったし。トータルで考えればものっそい得してるわけだし。…ああもう深く考えるの止めよう!どうせ私の脳みそはそこまでスペック高く無いんだから!無理して色々考えたってオーバーヒートで脳が疲労して眠くなるか熱出すだけでやんす!既に眠いしね!
「…うん、落ち着こう私。ハニー、まずキラービー姿のハニーを抱っこさせてくれる?」
「ヴヴヴヴヴ!」
「反応が速い!」
言った瞬間に胸元にキラービー姿のハニーが突進して来た。流石というか何というか、ハニーって結構素早さが高いよね。
思いっきり突進されたからちょっとビックリしたけど、契約印があるハニーの額を撫でながら抱き締めていると心のモヤモヤが晴れていく。ああ従魔セラピー最高。ふわふわの産毛は癒しだし、大きな目はつぶらだし、すりすりしてくるのも可愛いし、ふわりと香る花と蜂蜜の匂いは落ち着くしで今日一日で磨り減った私のメンタルがどんどんどこどこ回復していっているのがわかる。うちの子超癒し。
その後ラミィの下半身によって全身巻きつかれたり、コンのブラッシングをしたり、イースに頭を撫でてもらったりした。従魔ケアと同時進行で私のメンタルケアも行われたお陰で、宿屋の晩御飯の時には既にすっかり回復していた。




