レアアイテムが役立った
「死ぬ前に麗しい天使からの口づけって頼める?」
「あの、腹からめっちゃ血が出てるんですけど余裕ですね。あと天使じゃなくて冒険者です。魔物使いです」
「ボウケンシャ・マモノツカイ?天使は変わった名前なんだね。愛らしい君によく似合っている」
「似合って堪るかこの野郎」
「あいた」
おっといかんいかん、イラッとしてつい領主様の手を叩いちゃったよ。というか叩き落しちゃったよ。手を差し伸べておきながらこれは良くなかったな。でも相手の言動も酷いからお相子、もしくはこっちの方が被害者だと思う。領主様が腹から血をダバダバ出して死に掛けって点を含めると私が加害者になりそうだからさっさと回復させないといけない。私は不利を避けたいタイプです。
ちなみに領主様はとても冒険者らしい服を着ている。ただ冒険者らしい服ではあるけど、防具である鎧が……腹のガードが無いのが悪かったんだね。胸元と肩をガードするデザインなのか腹の部分がら空き。だから腹に致命傷を受けて死に掛けてるのか。まあ内蔵は出てないからアウトとセーフどっち寄りかって言ったら結構セーフ寄りって感じだろう。喋れる余裕はあるみたいだしね。
「とにかく、致命傷を受けてる腹に回復魔法を掛けたいんでちょっと服を捲ってもらえますか?」
「え、いきなり?そんな大胆な……」
毛先を遊ばせるようにセットされた水色の髪を指先で弄りながら、領主様は緑の瞳を潤ませた。……うん、イケメンなのは良いけどこの緊急事態にその態度はちょっとイラッとする。いや、落ち着け私。この人は冒険者のお兄さん達を助けて死にそうになって混乱しているだけなんだよ。
深呼吸をしながら私は心の中でコイツの腹の傷に指突っ込んでやろうかと叫ぶ木の枝持った小学生を必死で宥める。せめて手に持ってる木の枝でやりなさい。指でやったら内蔵の感触とか感じちゃうでしょ。……おっといかん、これ宥めれてないぞ。
とりあえず意識を切り替えなくてはと私はコンの方に視線を向ける。私達を守るように仁王立ちしているコンは魔物が一歩でも私達の方へ足を踏み出したらその瞬間にその魔物を狐火で炭にしてた。強いね。
「コン、私達と魔物を断絶するみたいに炎の壁を作ったりって出来る?」
「え、壁か?うーん……おっと、狐火!」
コンが考え込んだ隙を突いて魔物が突進してきたが、魔物が一歩踏み出した瞬間にコンが一瞬で燃やした。そしてまた考え込んだ。強い。
出会った時なんて通りすがりの冒険者に怯えて威嚇してたコンが頼もしくなって……と、何だか親戚のおばちゃんみたいな感動が心の中で広がった。うん、確かに主だから保護者で間違いないんだけど何か年寄りになったみたいで嫌だな。
結論が出たのか、コンが頷いた。
「十分くらいなら多分大丈夫だ。範囲狭いしな。それ以上は無理」
「充分だよ。お願い出来る?」
「おう!」
ニッと笑って、コンは狐火と叫んで私達の周りに炎の壁を作り出した。おお、思ったよりもしっかりした炎の壁だ。これなら隙間を通って小さい魔物が入ってきたりしないね!
でもこれめっちゃ熱いし空気も燃えるしで私達も危険だよね。よっしゃさっさと領主様を回復させよう。
「じゃあ、あの、さっさと怪我した場所見せてくれませんか?魔法で治すんで」
いかん、ついうっかり適当な口調になってしまった。面倒臭いなコイツって本心が隠しきれなかったぜ。そして私の言葉を聞いた領主様は微笑み、胸元に手をやった。
「君に射抜かれたハートはこの胸の中にあるよ」
「血が足りてなくてまともな考え出来なくなってますね。もう手っ取り早くこっちでいきます」
どっこいしょと私は腰のアイテムポーチから金ぴかの剣を取り出した。そう、回復の剣である。まだ所有者登録してないからこれで傷付ければ領主様治るよね?私スッキリ、領主様助かる、つまり両方の勝利である。
……うん、なんかこの人に回復魔法使うの嫌だなって…思って…。わかってるんだ死に掛けで朦朧としてるって事くらい!わかってるけど死に掛けなのにそんな軽口叩いてるのが!ちょっと!不愉快!混乱しながらも駆けつけた私と!従魔と!通りすがりの冒険者に頼み込む程必死だった冒険者のお兄さん達にさ!良く無いと思うんだよね!
オブラートを外すと正直イラッとしたのでちょっとストレスを発散させろや、という意味になります。
「というわけではい軽く刺しますね」
「やっぱり僕は死ぬのか…」
「死にません」
面倒なのでサクッと剣を領主様に刺した。
ごめん訂正。剣を持つのが怖かったので領主様の手を掴んで指をちょっとだけ剣先に触れさせました。流石は金ぴかの剣、切れ味は良いみたいで領主様の人差し指に赤い色が………見えたと思った瞬間に領主様の肉体を謎の金色の光が覆って、次の瞬間には健康的な顔色になった領主様がいた。
……何だ今の。光がブアッてなったと思ったら領主様が回復している。腹から流れてた血が止まってるもん。服は血が付着したままだから、どうやらこの剣は相手の負傷のみを治すらしい。服はセルフで洗濯なのね。
領主様は驚いたように自分の体を見回して、ペタペタと腹の辺りを触り、
「………あれ?痛みが無く…」
そう呟いた直後にサァッと顔色を真っ青にして叫んだ。
「僕死んだ!?」
「炎の熱さと少なくなった空気は現実だろうが寝坊助領主!いい加減に現実を見んかい!」
思わず私がそう怒鳴ると、領主様は座ったままビクンと飛び上がって慌てたようにきょろきょろと周りを確認し始める。私を見て、炎の壁を見て、コンを見て、また私を見てから領主様は静かにすっと立ち上がり、
「………はっはっは天使みたいに可憐な冒険者さん、俺は領主じゃなくてただの冒険者だよ!」
と、胡散臭い笑顔でそう言った。
チラリと後ろを見てコンの表情を確認すると、何とも言えない苦笑いになっている。うん、明らかに嘘だもんね。ミサンガも思いっきり白く光ってるし。白って事は嘘って事だ。害意があったらピンク色に光るけど、白色オンリーって事は嘘しかないって事。はい、確実に領主じゃない宣言が嘘ですね。
「そうですか、領主様じゃないんだったらあの冒険者のお兄さん達から依頼の報酬が貰えませんね。しかもこれからまた領主様を探しに行かないといけないのかー」
白々しく棒読みでそう言ってみると、領主様(仮)は思いっきり動揺した。わたわたと腕を動かし、目線をあっちこっちに泳がせながら彼は言葉に詰まりつつ言う。
「えっ、あっ、ちが、えーと、その…………お、俺は領主じゃないけどその人達には俺が「アレックス」って名前って事を伝えてくれればオッケーだから!それできっとその人達は依頼達成扱いにしてくれるから!ね!?」
「あっはい」
ミサンガはいまだに白く発光してるけど、この人悪い人では無さそうだな。動揺の仕方が善人っぽい。まあ命懸けで冒険者のお兄さん達を助けた時点で悪い人では無いか。
「えっと、お兄さんはアレックスさんで良いんですよね?」
「うん、そうだよ」
あ、またミサンガが白く光った。アレックスってのも偽名か。まあ町の人達は知ってたとはいえ、領主様が実名で冒険者登録ってのは色々と問題があるんだろう。多分。一般人だから権力関係のアレコレはわからんぜよ。
アレックスさんは微笑み、爽やかなウィンクをして言う。
「是非ともアレックスって呼んでほしいな。敬語も要らない。冒険者って事は同僚だもんね」
「あっはい」
うっすらとした笑みを顔に貼り付けて頷く以外、私に取れる行動は無かった。わあ、何だかチャラいぞこの男。そう思ってぼんやりとアレックスを見ていると、後ろから不機嫌な声が聞こえた。
「……ミーヤ!そいつ治ったんならもう良いだろ?炎の壁解除するからな!」
あ、そういえば炎の壁って結構大変だって言ってたもんね。
「うん、お願いね。大変なのに維持してくれてありがとう、コン」
アレックスに背を向け、コンの方に向き直ってそう言うとコンは急に顔を真っ赤に染めた。
「おっ、俺は別に俺の存在を忘れて二人の世界なのが嫌だったとか、その男がミーヤに馴れ馴れしいのが嫌だったとか、その男からミーヤに惚れたって匂いがしてるのが嫌だったとか、ミーヤがそいつに取られるんじゃないかとか、そんな事を考えてちょっと不愉快になったりなんてしてねえんだからな!?」
なったのね。
コンは視線を斜め下の辺りに逸らして耳を伏せる。
「そ、それに俺がそんな事を考えてたのにミーヤはお礼を言ってくれて、自分が小さい奴だって思ったりもしてねえし……」
思ったのね。
耳だけじゃなく尻尾も少し下がってしまった。しかし狐らしい鋭い目つきで、コンはギッと私を睨んだ。
「俺はただこの炎の壁を維持すんのが疲れるから、そいつが治ったならもう良いだろって思ってああ言っただけなんだからな!勘違いすんなよ!」
「……うん、コンが色々と心配してくれたり不安になったのはわかったよ。だからそう必死に取り繕わなくて良いって」
微笑み、私はコンの頭を撫でる。……いや、その、私コンのお陰でツンデレにも目覚めたけどさあ…。
「別にそんな程度の事でコンを嫌いになったりしないから、泣きそうにならなくても良いからね」
「…う、うう…っ」
そう、コンの睨みつけるような瞳から涙がね、ちょっとね、潤んでたんだよね。コンの性格がツンデレなのは知ってるけど自分を傷付ける必要は無かろうに。
そう思いながら何度か頭を撫でると、コンは唸りながら腕で涙を乱暴に拭った。目元痛くなるよと言いたいけど獣人は毛があるからどうなんだろうと思って何も言わないでおく。沈黙は金だ。
涙を拭って意識を切り替えたのか、バッと顔を上げてコンは言う。
「じゃあもう解除するぞ!あ、でも多分解除した瞬間に魔物の群れが迫ってくるだろうから…」
「うん、大丈夫。アレックスも体回復したし剣も無事だから戦力になれるはずだよ」
グッとサムズアップして微笑みながらコンにそう言うと、背後のアレックスが反応した。
「あれ、俺も戦力に数えられてるの?」
本気できょとんとしているアレックスの声に私は頷いて返す。
「そりゃ勿論」
「依頼は俺の救助なんだよね?」
「救助対象が無傷なら戦力になれますよね?」
「わあ、笑顔なのに壁と圧が強い」
あっはっはうるせぇ。レアアイテムの連続で精神が擦れてたところに混乱が乱入してきて、その後にコレが仕上げに入って来た状態なんだよ。私の心は闇鍋状態じゃい。宿屋に戻ったらすぐにコンのブラッシングとかをして従魔セラピーを……あれ、そういやまだ宿屋取ってないな。やばいこの町冒険者多いっぽいのにうっかりしてたよ!これは即行で戻って部屋押さえないと駄目だ!
とりあえず、まずは即座に魔物の群れを仕留めなくては。帰る為には魔物を掃除しないと帰れない。
アレックスの治療の際に腰に下げた鞭を再び手に持つ。そして念じる。鞭さん鞭さん、魔力食って良いから手当たり次第仕留めちゃってくださいな。お、グンッと魔力が食われた。よっしゃいける!
「じゃあコン!解除しちゃって!魔物の群れを即行で仕留めるよ!」
「おう!炎の壁、解除!」
コンのその言葉と共に、壁になっていた炎が一瞬ボワッと強い火力になってから消えた。炎って消える瞬間に一際強く燃えるのは何でなんだろうね。
……さて、魔物を狩らないと。
壁が消えた正面側には呆然としている魔物の群れ。サーチして確認すると数はざっと七十体前後。種族はバラバラで、見覚えのあるゴブリンから見覚えの無い魔物まで多数存在。
「…………ふぅ」
息を吐いて、吸う。うん、新鮮な空気では無いけど炎に囲まれてて空気が薄くなってたから、さっきと比べてずっと息がしやすいね。これから炎の壁をやる時は場所に気をつけないといけない。洞窟の中だったらアウトだった。
よし、それじゃあ。
「鞭さんよろしく!」
私がそう言って鞭を振るうと、鞭は空中でぐにゃりと動いて伸び、近くにいた大柄な魔物の首を絞めた。そして鞭はその魔物の首を締め上げながら空中へと持ち上げ、ハンマーのように振り回して周囲の魔物を屠っていく。魔物ハンマーって殺傷力あるんだろうかって思ったけど、よく見てると魔物の角がピンポイントで周りの魔物の目や急所であろう位置を貫いていた。あと人型の魔物相手の時は足元を狙って確実に潰していた。この鞭、知能高くない?
「グルルルルゥゥゥウウッッ!」
コンは魔物の群れへと飛び出し、近くに居た魔物の喉笛を食い千切った。そして横にいた魔物の頭部を左手の爪で裂き、奥に居た魔物の頭部を右手でアイアンクローのように鷲掴んでから肩と首の間に食らい付いて顎と手の力でぬいぐるみを壊すかのように頭部と胴体を離婚させていた。
「ガルッ、狐火!」
その隙を突いてコンの背後に回った魔物が居たが、その魔物がコンに攻撃する前に気付かれ狐火で魔石だけ残して燃やされた。
……これは、終わった後にクリーンの魔法を掛けないとだね。コンが返り血塗れでとても大変な事になっている。
「わっ、おっとと、危ないなぁ。……よっ、と!」
アレックスは魔物の攻撃を軽く避けながら、相手が攻撃して出来た隙を狙って確実に一匹ずつ魔物を仕留めている。具体的には剣を振りかぶってきたゴブリンの攻撃を避け、がら空きになった脇を狙って腕ごと首を落としていた。
足元を狙って来るような小さい魔物はステップを踏むように避け、良い位置に来た時を狙って勢い良く踏み潰している。ついでに潰した後の残骸をトラップにして、襲い掛かる魔物に踏ませてバナナの皮を踏んだ芸人の如く滑らせて眉間を貫いていた。時々踏みつけた残骸を蹴り飛ばして目潰しに利用していて、この戦い方をこれからの戦いの参考にするべきかちょっと悩む。方法が外道だけどやり方が確実なんだよね。
……………うん、まあ私の戦闘センスじゃ無理だから良いか。考えないでおこう。
「!ミーヤ!上気をつけろ!」
「上?」
コンの言葉で反射的に上を見ると、群れの上をジャンプして私の方へ跳び掛ってきている魔物達が居た。さっきの私とコンを見てるみたいだ。まあ私とコンは映画のCMにありそうなポーズ、魔物達は世界一の大泥棒風ダイブという圧倒的な差があるけどね。
うーむ、鞭さんは私に向かってこようとする魔物達を仕留めてて忙しいから………良し!
「君!そこにいると危な……っ!」
私の状況に気付いたらしいアレックスが声を上げるが、お気遣いなく。日本人たるもの、一石二鳥狙いはデフォルトだよねと考えて私はニッと口角を上げる。
「氷魔法、氷岩!」
そう言って魔法を発動すると、ジャンプして跳び掛かろうとしていた魔物達(ざっと十匹程)がバキンッという派手な音と共に凍った。十匹前後の魔物が一つの氷の岩に閉じ込められるように。
そして、私は凍らせただけである。氷を浮かせたりはしていないのだ。凍った魔物達は私にたどり着く前……つまり魔物の上を跳んでいたという事も合わせて考えてみよう。
つまりどうなるかといえば、十匹前後を纏めて凍らせたビッグサイズの氷の塊が重力に従って下にいる魔物の群れを潰すというわけである。
あ、よっしゃ魔物潰れた。でも五体くらいしか潰れなかったか。逃げ足の速い魔物達め。
「まあでも結構減ったしオッケーだよね!」
うん、と一人で頷いていると、剣の柄で魔物の脳天をカチ割ったアレックスがヒュウッと口笛を吹いた。
「君、魔物を従えなくても余裕なんじゃない?」
「いや、従魔いないと日常生活の方がアレなんで」
日常生活の殆どが従魔頼りだからね、私。大体イース頼りだけど。
「というかアレックス、私の名前はミーヤって言うんだ。君じゃなくて名前でよろしく」
「え、良いの!?末永くよろしくミーヤ!」
「距離感の詰め方がエグい!」
お互い名前呼びになっただけで末永くって普通言わないよね!?うっわアイツ絶対リア充だ!あ、いやでも今の私もリア充か。しかもハーレム。……深く考えると非リア充に爆破されそうだから考えないでおこう。
そして私達は、七十体前後だったはずなのにどこかから増えていく魔物の群れを相手に戦った。途中でイース達が到着し参戦してからも増え続けた魔物を全て倒すのには、全員の力でも三十分程掛かったのだった。
尚、バトル中イースはサポートに徹した模様。




