獣人ってか、コン凄ぇ
「あの、一体何があったのかをお聞きしても」
「お願い助けて!時間が無いんだよ!クッソあの乾燥させた食材を水で戻した時のような異様な膨れ上がりっぷりを見せる魔物達は何なんだ!」
「回復役であるゾーラは大怪我で気絶したし!俺達ただの足手纏いでしかないし!あり得ねえ数の魔物に襲われて死ぬかと思ったら領主様が助けてくれたんだが、今その魔物の群れと領主様が戦ってるんだ!」
「「頼む銅貨七枚やるから領主様を助けてくれ!」」
「何故値段を上げた」
以上、地下十二階へと向かう階段前での会話である。
とりあえず、そこまで言われて見捨てたら目覚め悪そうだしちゃんと助ける。だからお兄さん達はさっさとその人連れて病院なり教会なり行ってね。
と、言ったら冒険者二人は涙を浮かべた笑顔で「頼んだぞお嬢ちゃん!」と言って階段横のワープくんを使ってダンジョンから脱出していった。行動が迅速。
「あの人達、結構余裕あったよね」
「余裕が無かったからこその言動だと思うわよぉ?ミーヤだって慌ててる時の言動凄いじゃなぁい」
「言わんといてけろ!」
イースにそう言われると否定出来ないのが悲しい。
悲しいがまあ事実でしかないから仕方が無い。悲しみを乗り越えて人は成長していくんだよ。今は悲しみを乗り越えて成長っていうか、悲しむ時間があったら急げよって感じだけどね。全力ダッシュで階段駆け下りてるから許して。
ダダダダダッとコケないように気をつけながら階段を駆け下りてると、後ろのラミィがいつもよりテンション低めな声で言う。
「………ミーヤ、ラミィ、ちょっと……遅れる…。……これ以上、無理…」
「うん無理しなくて良いからねラミィ!ゆっくり安全コースで追いついてくれれば良いから!」
蛇ボディで階段駆け下りるのキツいよね!人間サイズの蛇ボディだからこそ急ぎすぎると踏み外して昔のギャグ漫画のような団子状態になりかねないし。
ラミィが壁に手をつきながら顔を顰めてそう言った時点でかなり負担掛かってるんだなと判断し、スピードを緩めたラミィを置いて走る。ラミィなら魔物に襲われても充分対処可能だろうしね。
「地下十二階到着!」
さて、階段を下りるのが終わって早々に問題発生だ。いや、問題発覚?発覚はしてたから問題がある事に気付いたと言うべきなんだろうか。
「イース!こっからどうしたら良いかな!?」
イースの方に振り向いてそう問いかける。そういやあのお兄さん達から領主様の居る場所聞いてなかったよね!これ適当に探し回ってたらとんでもないタイムロスになっちゃわない!?
「ミーヤ、サーチの魔法はトラップ確認だけじゃないのよぉ?」
「あっ」
成る程。そういやサーチ使った時脳内にマップが出てきたし、皆の反応も表示されてたわ。うっかり他の人と見間違えたりしないようにって表示される点に色付けてたのにね。忘れてたよね。
「まぁ、使わなくても大丈夫だと思うわよぉ?もう既に聞き耳立ててるものぉ」
「へ?」
くすくすと笑ったイースが尖った長い爪で指差した方を見ると、
「……………」
既にコンが耳の後ろに手を当てて、周りの音を聞き分けるのに集中していた。え、やだうちの従魔めっちゃ有能。主である私のポンコツぶりがバレてしまう。隠せてもいないけどね!
……悲しい。
料理も駄目だし武器も使えないし頭も良く無いし……と自分の才能の無さを痛感していると、コンがピクッと耳を動かして叫んだ。
「居た!向こうの方だ!男が一人魔物の群れに壁際まで追い詰められてる!魔物の数は凄く沢山!男が逃げないようにか扇の形みたいになって取り囲んでるな。漂ってくる匂いに人間の血の匂いも混じってるし、さっきの奴等とは違う血の匂いだから怪我してる可能性も高い!」
「コン凄いね!?」
結構距離あると思うんだけどこの距離でそんなにも情報得られるもんかな!?獣人凄い!獣人が凄いのかコンが凄いのかわかんないけど!
あ、いやでもウサギ獣人であるアルディスも結構耳が良かったし、その祖父であるゴドウィンさんなんて村の殆どの音を聞く事が出来るんだっけ?ならやっぱり獣人の五感がめっちゃ凄いって事なんだろうか。音と匂いだけでここまでわかるって凄くない?
っとと、また思考が逸れてた。えっと、多分その男の人が領主様だよね?んでもって囲まれてるし怪我してるしで本当にピンチ状態。……つまり即行で助けに向かわないと大変って事じゃないか!
どうする?私は足そこまで速くないし、イースは私達で出来る事に関しては我関さずだし、ハニーは速いけど力が強いわけじゃないから大勢に囲まれると不利だし……。コンしか居なくない?ラミィも床が平らな場所なら素早いけど、メインの戦い方が絞め技だから敵が大勢ってのは厳しい。何より今はちょっとラミィだけ遅れてるし。速くて力も強いコンが適任な気がする。
「コンは位置がわかってるんだよね?コンに先行してもらって、救助が出来そうなら救助。私達は後を追って」
私達は後を追って、少し時間差は生まれるかもだけど追いついて魔物を殲滅する………と言おうとしたが、言い切る前に首を横に振ったコンに遮られた。
「駄目だ!男の血の匂いがどんどん強くなってる!この沢山の血の匂い……致命傷を受けてるぞ!」
「マジで!?」
「マジだ!」
え、それってすぐにでもどうにかしないと駄目な奴じゃん!?回復魔法……は光魔法じゃないと駄目で、私とコンしか使える人居なくて、コンは光魔法は使えても回復はまだ出来なかったはずだから……私が行かないと駄目って事かね!?
ああああああもう!せめてあと十分くらい時間をくれたらもうちょっと考えれるのに!その時間を使っちゃったら冒険者三人を逃がして自分は残るという英雄的な事をやってのけた領主様が死にかねん!それはアウトだ!
つかそもそも私漫画やアニメで咄嗟に庇って重傷負ったキャラが「先に行け!」って言ってるのに、庇われた方が一瞬動きを止めるの何なの?って思う派なんだよね。お前が足を止めた数秒はお前を先へ行かせる為に命懸けで稼いだ数秒だろうがって思っちゃう。その隙があれば貴様を殺すくらい敵には余裕なんだぞ!って思うんだよね。いや今そんな話してないな。駄目だ慌て過ぎて思考回路はショート寸前今すぐ会いたいよ状態だわ。誰に会いたいんだ私は。領主様でやんすねわかります。あっはっは大混乱か私!(パニック)
「………よーし!後は野となれ山となれ大作戦じゃい!コン!」
「えっ、おっ、おう!目がグルグルしてるけど大丈夫かミーヤ!?」
「大丈夫であります!」
コンがツンデレる余裕が無いくらい私の目がやばいようだが知らぬ!退かぬ!媚びぬ!省みぬ!駄目だまだ混乱してるな私!?いや今そんな事に時間使える程余裕ねーから!教室の中に時間さんの席が無いんだから急ぐしか無いんですよ!時間さんにおめーの席ねーから!をすると大変な事になるってこれでわかったね!平和って素敵!おーけい私はまだ混乱してるな?!
「とにかく今すぐその男の人んトコ行かないとだから!緊急だから!」
「ミーヤってタイムリミットが近いと焦り過ぎて駄目になっちゃうタイプよねぇ」
今そんな話する余裕あった?無いよね!?慌て過ぎて涙が出そうだよ!テスト終了十分前にテンパり過ぎて消しゴムかけた瞬間にテスト用紙を破ってしまったのは私です!先生には「証拠隠滅はバレないようにやれよ」って笑いながら言われたよね!おい待てさっきから考えてるこれらまさか走馬灯じゃないよね!?今走馬灯見そうになってるの領主様だろうが走馬灯を横取りしてんじゃないよ私!
「コン!私を抱き上げてダッシュしてその人んトコまで行ける!?」
ずいっとコンに近付いてそう聞くと、コンは反射的にか一歩下がってから慌てたように頷いた。
「だ、大丈夫だ。ミーヤなら小さいし軽いからスピードは落ちないと思うぞ」
「なら私を抱き上げてダッシュよろしく!」
言うが早いか、私は軽くジャンプしてコンの正面からその首に腕を回して抱きついた。当然のようにコンは慌てたけど、ちゃんと受け止めて抱きかかえてくれたからモーマンタイ!
「イースとハニーは後から合流でよろしく!イースなら場所わかるよね!?」
「信頼が凄いわねぇ。まぁわかるけどぉ」
くすくすと笑いながらイースはそう言って微笑んだ。うん、イースなら何でも出来るって私知ってる。
「それじゃあコン、お願いね!」
「わかった。スピードは緩めたりしないから舌噛むなよ?一応揺れないように気は使うか、ら!」
「ヴォワッ」
ら!と言った瞬間に風圧によってコンの胸板に私の顔面がダイブした。服の内側に収納されているコンのふわふわな体毛がクッションになってくれてダメージは小さい。ダメージは小さいけど風圧やべえ。顔上げられない。
現在私はコンの首に腕を回して、コンの二の腕が私の背中を支えて、コンの前腕が私のお尻を支えてる状態である。つまりコンの右腕に抱っこされてる状態。片腕で抱き上げれるとかコンの筋力とサイズ凄いな。もし漫画だったらサイズの違いで遠近感が狂ってそう。
風を切る音が耳元で聞こえて、獣人ってやっぱ凄いんだなーと小学生並みの感想しか浮かばない。本当に駄目だな私は。……というか風圧で顔上げられないから状況の把握すら出来てないぞ!?えーと、えーと、あっ、アレだ!闇魔法サーチ!よっしゃ発動したオッケー!脳内マップさんこんにちは!
うっおマップ内を私とコンが凄い勢いで移動してる。めっちゃ速い。しかもこれ角曲がったりもしてるし。でも私には角を曲がった事による三半規管へのダメージはきてない。コンが調整してくれてるのかな、これ。というか普通にこのスピードで走って余裕なコンが凄えわ。
「ミーヤ!次の角を曲がると広い空間があってそこに男と魔物の群れが居るぞ!」
「マジか!」
「マジだ!」
波紋を広げるようにしてサーチの範囲を広げると、確かに広いスペースが向こう側にあった。壁の近くから人間の反応があるが、凄く頼りない反応だ。マジでやばいんじゃないかな。そしてその周りを囲うようにめっちゃ沢山の魔物がうじゃうじゃと居る。
……あ、魔物は人間を扇状に囲んでるけど、数が多いからか人間と魔物との間に少し余裕のある空間があるな。具体的には人間五人が列になって並んでも大丈夫なくらいの距離がある。うん、これって具体的なのかわかんないね。コンの温もりともふもふでメンタル回復しても素でポンコツだからどうにもならないね。仕方ないね。
まあとにかく、人間の反応が頼りないって事は生命力が弱いって事だ。つまり弱っている。弱ってるって事は命のピンチなわけで、すぐにでも回復させないとやばいという事である。うん、無駄が多いな私の思考。ええいとにかく魔物倒す前に回復させないとやばいって事だよ!
風圧凄いけどさっき喋ったら喋れたし、揺れも殆ど無いから喋っても舌を噛んだりはしないだろうと考えて私はコンに指示を出す。
「コン!魔物の群れをジャンプで跳び越えて領主様の近くまで行ける?!」
「…………主持ち獣人なら、余裕!」
触れているところから伝わる振動が、コンは笑ってそう言ったのだと伝えてくれた。うーむ、どうせなら直接コンの笑顔を見たかったが仕方ないか。今顔を上げてもコンの顎しか見えないだろうしね。ダッシュしてる人に対してちょっとこっち向いて!って出来ないもんな。
角を曲がって広い空間にたどり着いたコンは勢いを殺さず走り、こっち側に居た魔物が気付いて振り返るよりも先に魔物の群れのすぐ近くまで走って、私を抱え込むように一気に体勢を丸めて足に力を込め、
「…ッッッッラァ!!」
床を力いっぱい蹴って魔物の群れの上を跳んだ。うわあ、滞空時間がながーい。
風圧がちょっと減ったので下を見ると、魔物が呆然と上を……つまりこっちを見ていた。うん、そりゃ驚くよね。そしてコン、結構高い位置まで跳んだんだね。下が遠くて内蔵が一回りヒュッて縮んだ気がするよ。
……あ、着地予定先に壁に背中を預けて杖代わりのように剣を床に差して立ち上がろうとしている男性発見。領主様ってあの人かな。あの人だろうな。他に人間居ないもんね。
いまだ床よりも天井の方が近い位置を跳んでいる私達に気付いていないらしい領主様は立ち上がる事を諦めたのか、剣から手を放して壁に全体重を預け、床を見ながらボソリと呟いた。蚊の鳴く様な小声だったが、こっちは地獄耳の称号持ちだ。そもそも蚊って結構主張強いしね。だから、天井に近いこの位置でも余裕で領主様の言葉が耳に届いた。
「………あーあ、僕の人生もここまでか。もうちょっと、楽しみたかったんだけどな」
領主様がそう言い終わった瞬間に、私達の空中の旅も終了した。諦めた領主様に襲い掛かろうとした魔物達の目前にコンが着地した。衝撃を和らげる為か空中で一回転し、音も無く着地していた。凄い。何が一番凄いって回転のダメージが私に来てないって点だよ。完全に抱え込まれてぐるんって回ったのに三半規管おかしくなってないもん。凄いなコン。
「よ、っと。大丈夫だったか?ミーヤ」
「うん、快適だった。ありがとコン」
優しく下ろしてくれるコンにお礼を言って、私はコンの腕から下りた。さて、魔物の群れはコンに任せて私は領主様の回復をしないとね、と考えながら領主様の方へ向き直る。領主様は力が入らないのかぐにゃりと歪んだ座り方のまま、驚いたように目を見開いて絶句していた。うん、私も同じ状況だったらそうなるだろうからツッコまない。領主様は普通のメンタルをお持ちなんだろうなとしか思わないぜ。
「さて、領主様……ですよね?さっき死ぬ覚悟をしたみたいですが早とちりです。覚悟を決めたところ申し訳ありませんが、もうちょっとねばって長生きしてもらいますよ」
「え………」
言葉が出ないらしい領主様に対し、一応敵対の意思は無いという事と、別に領主様を助けたからってお礼吹っ掛けるわけでも無いという事を言っておこうかなと考える。そこで誤解されて救助をノーセンキューされると私があの三人に恨まれちゃうかも知れないからね。この世界の冒険者あっけらかんとしてるからわからんけど。
ま、保険は大事だ。私の両親も保険に入ってたお陰で私とお姉ちゃんは生活出来たわけだしね。保険はめちゃくちゃ大事なんです。
だから、私は言う。勇者みたいな善行では無いんですよという意思もついでに表明しておく為に。
「領主様の命を助けると、銅貨七枚になるんですよ。だから大人しく助けられてくださいね」
良し、我ながら完璧な声掛け。微笑んで手を伸ばすだけだと裏が無いって取られるかもしれないからね。裏はあるんだよ!冒険者のお兄さん達からの依頼っていう裏が!銅貨七枚で助けに来たんだから、つまり報酬は別のトコから貰えるんですって事なのだよ!
どういう事かって?僕はここで死ぬんだって強情な態度を取らせない為の保険でありやす。こう言う事によって、お前の問題じゃないんだよ!私と!私に依頼した冒険者のお兄さん達の問題だから!ってゴリ押しが可能になるのだ!
えっへん、私にしては良い考えだよね。語尾がこんがらがってるからさっきまでの混乱が混ざってて頓珍漢な考えな気がしないでもないけど!既に言っちゃった以上はこれでゴリ押しじゃい!後は野となれ山となれ作戦だから!こういう作戦だから!
言っておきながらちょっと不安になって背中に汗を垂らしていると、呆然としていた領主様はよろよろと手を伸ばして私の手を掴み、口を開いた。
「天使がいる……」
おっと、この人相当メンタルが参ってるぞ?




