従魔契約とイースの驚きステータス
「それじゃあ早速従魔契約しましょうか。これをしないとまだ仲間とは言えないわぁ」
「マジでか」
「マジよぉ」
仲間が出来たと思ったけどまだだったらしいです。天国の両親と元の世界にいるお姉ちゃんに心の中で手紙出したけど回収したい。やだ恥ずかしい。
イースいわく、魔物を仲間にするにはきちんと従魔契約をする事が重要らしい。
契約をしていないとただの魔物同然だからギルドとかで仲間と認識してもらえない。その代わり契約さえしていれば職業は魔物使いとして登録され、契約した魔物も守られるらしい。
ちなみに魔族や獣人の場合はあまり従魔契約の前例は無いとの事だった。
なんでも、普通の従魔契約はバトルして瀕死で弱ってるところを契約で縛って従えさせる、っていうのが通常らしい。そして魔族や獣人の場合は瀕死であっても大半は拒否するんだとか。契約する主人側が相当な強さやカリスマを持っていたりとか、もしくは奴隷にされた魔族や獣人を買って命令して従魔にするってパターンが普通との事。イースには、
「だから喧嘩を売られるかもしれないけど買っちゃ駄目よぉ?」
って言われた。
あとギルドに冒険者登録してるのは基本人間だけど獣人も結構登録してるらしい。魔族は根本的に生活が違ったり価値観が違うからと登録する人は居ないとの事。でも魔族じゃないエルフは普通に冒険者をしてるってさ。え、てかエルフ居るんだこの世界!
「それじゃあ従魔契約の説明を始めまぁす」
「お願いします!」
「まず、従魔契約は基本的に主人側が契約したい!って思った魔物に頷かせるのが大事なのよぉ。従魔契約のスキルを使ってから相手の魔物が「従魔になる」って受け入れないと契約は出来ないわぁ。だから魔物の方が受け入れていればバトルはスキップできちゃいまぁす。私の場合も必要無いから安心してねぇ」
「凄い安心した!」
ガチ強いイースとレベル1の貧弱な私でのバトルってただの負け確じゃないか。このシステムを作った神よ、感謝します!
「そしてぇ、従魔契約を魔物が受け入れたら主人側は好きな所に好きな印を付けれまぁす」
「印?」
「契約印ってやつよぉ。奴隷に焼印をするのに近いかしらぁ?それをする事で契約してる魔物ですよぉっていう証明になるのぉ。じゃないとギルドで騒ぎになっちゃうしぃ、下手したらこっちの子が殺されちゃうでしょう?」
「うっわぁ…契約印めっちゃ大事じゃん」
「大事なのよぉ。それと契約印は主人の魔力で出来てるのぉ。そして印の模様も好きに決めれるから好きに決めちゃってねぇ」
うーむ、そう言われても困る。私正直センスが無いんだよねー。
「イースはこういうのが良い!とかは無いの?」
「私は従魔側よぉ?それに他の子も従魔になるなら私の好みよりもミーヤの好みの方が良いわぁ。あ、それとよくある感じのデザインに、とかは駄目よぉ?魔物なら魔力で判別は出来るけどぉ、普通の人間は魔力の見分けなんて付かないものぉ。特殊な魔道具を使わないと違いなんて見分けられないわぁ。だからそれぞれの主人特有の印を付けれるようになってるのよぉ」
「成る程ー」
「あ、それとぉ、従魔契約での契約印は一番最初の印で固定されるからぁ、これ!ってちゃんと決めておかないともう二度と変えられないから気をつけてねぇ」
「ラジャーっす」
さて、どうしよう。最初は淫魔っぽくハートとか似合いそうだなーって思ったけど、それってよくある淫紋じゃんね。ハートは却下にしても、他の人の契約印の模様がわからないから困る。
うーん、動物とか?猫の模様とか…いや、魔物に付ける印だから止めた方が良いよね。もし犬系の魔物をテイムした時に、その子に猫の模様を付けるのは何か違うと思うんだ。例えるなら犬にタマ、猫にポチと名付けるようなモヤッと感がある。
「んー…。ねえイース」
「なぁに?」
「見分けを付ける為に契約印を付けるんだよね」
「契約しましたよっていう証明みたいなものだけど、まあ基本的には見分けを付ける為って感じねぇ」
「じゃあ、見えるところに付けるんだよね?」
「付ける場所は主人側の好みで良いわよぉ。でも皆見える位置に付けるわねぇ。その方がわかりやすいじゃない?ペットの首輪みたいなものよぉ」
「じゃあやっぱり見栄えが良いのが良いよねー…」
どういうのが良いんだろう。色々な候補を出してはボツにして、足りない頭で頑張って考える。私、貧弱な上に頭も良くないタイプの子でございます。まあ頭の悪さはかなりバレてた気はするけどね。
ふと、周りを見る。草が沢山生えていて、ちょこちょこと花も生えている。そういえば、花なんて花壇の花くらいしか見た事なかったな。花…花は結構良いかも知れない。
花なら綺麗だし、見栄えも良い。本当は翼とかどうだろうって思ったけど、イメージしてる翼はどっちかというと天使っぽい羽の方だからボツにしたんだよね。魔物に天使の翼の印付けるとか陰湿な嫌がらせみたいじゃん?
んー、花、花かあ…。あんまり詳しく無いんだよね。たんぽぽ?微妙。百合?淫魔にはちょっと…。薔薇?似合いそうだけどしっくり来ない。何か、何かしっくり来るのがあるはずなんだ。
体を捻りつつ考える私の視界に、自分の足が映った。正確には靴下が。
私の靴下はふくらはぎまでの長さの普通の靴下だ。色は白だったけど今は少し土で汚くなっている。でも、私の靴下にはワンポイントあったのを今思い出した。
そう、私の靴下には桜の花が刺繍されていた。
「桜…」
桜、桜なら良いんじゃない?日本の国花であり、日本のシンボルでもある桜。
どうせもう帰れないだろうし、名前だって三岡美夜じゃなくてミーヤと名乗るつもりなんだ。でも、それは少し寂しい。私の故郷を思い出す機会が減ってしまうから。
でも、契約印の形を桜にすればいつでも日本を感じられるんじゃないかな?よくある五枚の花弁で表現される桜のマーク。……うん、しっくり来た。
「決まったのねぇ?」
「うん。契約印は桜にするよ。私の国の代表的な花であり、国のシンボルの一つ。春なら桜って言うくらいには浸透してる有名な花。……桜」
花見をした時の光景を思い出す。桜の木々がアーチのようになっていて、風が吹く度に桜の花弁が舞い、窓を開けながら走らせる車の中に飛び込んだりするあの光景を。
多分もう見れないんだろうけど、印として使うなら、良いよね。
イースを見ると、とても穏やかな表情でにこにこと笑っていた。それでも揺らがない色気は凄いと思う。
「じゃあ、スキルを使って、印を付けてくれるぅ?」
「う、うん!……「従魔契約」…!」
そう言った瞬間、何かが発動した気配がした。わかる。わからないけど、本能に近い感覚でどうしたら良いのかがわかる。今、私の指は判子みたいになっているのがわかる。
いや、普通に私の指なんだけど、この指で触れれば印が付くのがわかる。
「どうぞぉ」
両手を広げるイースに近づいて、どこにしようかと考える。見える位置で、見栄えが良いところが良い。
何となく、……否。下心ありでイースの左胸、布に隠れていない鎖骨近くに触れた。ぶわり、と。指先から力が抜ける感覚がした。多分これ、魔力が抜けてるんだと思う。
魔力がするすると抜けていくのと同時に、指先が触れているイースの胸に、桜色で縁取るように、しゅるしゅると桜の模様が描かれていく。魔力が抜け続ける感覚が終わると同じタイミングで、イースの胸には桜の色で描かれた花が咲いていた。
日本では色んなところでよく見かけた、五枚の花弁で出来ている花。
「桜が、咲いたみたい」
「うふふふふ、ミーヤったら、そんなに胸に触りたかったのぉ?」
「うえっ!?」
イースが紫の瞳を怪しく光らせ、ぐいっと私の腰を抱き寄せた。
うおおおおわわわわ胸が!おっぱいが!イースのおっきなおっぱいが凄い押し付けられてる!なんだここは!?おしくら饅頭の会場かなんかか!?(パニック)
混乱していたら、イースはクスクスと笑って離れる。どうやらからかわれたらしい。
「イース…」
「うふふ、ごめんなさぁい。でもミーヤったら頬にでも付けるのかしらぁ?って思ってたら左の胸に付けるんだものぉ。淫魔に心臓は無いのに、まるで心臓を掴まれてるみたいねぇ?」
「つかっ、しんっ!?」
「うふふふふ、これで私はミーヤのモノよぉ。大事にしてねぇ?」
「う、あ、うぅ…」
桜の印が見えるように、胸を強調するポーズで屈むイースに動揺しながらも、必死で息を整える為に深呼吸。ラマーズ法は現在必要としていないのでお帰り下さい。
どうにか息を整えてイースを見ると、まだクスクスと笑っていた。
でも、笑いながらも胸元の桜を撫でてるから気に入ってくれた……んだと、良いな。
「ええ、気に入ったわぁ。クスクス、人間に花を贈られたのは初めてよぉ。ミーヤってば、淫魔である私の「初めて」をどんどん奪っていくのねぇ?」
「言い方に語弊がある!」
「アハハハハ!でも、これで契約は完了よぉ。今は近くにいるからわかり辛いかもしれないけどぉ、契約すれば別行動をしていても居場所は何となくわかるのよぉ」
「え、何それ凄い」
「凄いわよぉ。ちなみにぃ、鑑定を持ってなくても主人は従魔のステータスを確認する事が出来まぁす。見えるのは鑑定で見るステータス画面と変わりないわよぉ」
「何それめっちゃ凄い!」
「うふふ、見てみるぅ?」
あっさりとイースは見てみるかって聞いてきたけど、良いのかな?淫魔でめっちゃ強いんだよ?勝手に…いや許可は出たけど。見て良いものなのかな、これって。
「良いのよぉ。淫魔って基本的に一夜限りの関係が多いの。人間の方も、淫魔とはあまり親しくなりたがらないものねぇ。でも、純粋な気持ちだけで淫魔である私を受け入れてくれた人間はミーヤが始めてなのよぉ。それがとっても嬉しかったの。退屈もしてたしねぇ?」
「いや、下心もあったけど」
「人の心が読めちゃう淫魔からしたら純粋よぉ。大きいおっぱいが好き!ってだけだものぉ。長生きしてると、その分だけ危ない性癖の人間にも遭遇する事があったのよぉ?」
「うっひゃー、その話は心に秘めておいてほしい。17歳には早すぎる話題だと思うんだ」
「うふふ、そうねぇ。で、ステータス見るぅ?普通に心の中で「ステータス」とか、「ステータス確認」とか唱えれば表示されるわよぉ」
うーむ、人のプライベートを覗き見るのには抵抗があるけど、本人の許可も出てるし…うん!良いよね!よっしゃあステータス確認!!
心の中でそう叫ぶと、目の前に半透明な板が現れた。ゲームでよくあるステータス画面だ。しかし、色々と濃いその情報に、私は目を疑った。
名前:イース(3782)
レベル:793
種族:淫魔
HP:計測不能
MP:計測不能
スキル:鑑定、吸魂、変身、夢渡り、淫魔の誘惑、淫魔の囁き、淫魔の嗅覚、催眠
称号:元魔王軍幹部、淫魔の代表、ラッキーガール、大戦の生き残り、誘惑の悪魔、従魔
………うん、本当はスキルも称号ももっとあったんだけど、いまいちこれ以上の情報は見えなかったんだよね。モザイク掛かってて。多分私のレベルが1だからだと思う。HPとMPのトコの計測不能も多分そうなんだろうね。理解出来る上限を超えてるとかなんだろう。
というか!というかさあ!年齢四桁なのは別に良いんだよ!四桁行ってたら二千でも三千でも変わんないし!でもそれはそれとしてレベル793って何!?レベル1の魔物使いですよこっちは!
あと称号!称号に「元魔王軍幹部」って書いてあるけどどういう事!?私の始めての従魔ちょっとどころじゃなく強すぎじゃないかな!?
「あらぁ、ステータスの全部は見れなかったのねぇ。まあ、基本的に鑑定スキルは自分よりもレベルが高い人は見え辛かったりするから、従魔契約で見れただけ凄いのかしらぁ」
「そうなの!?」
「ええ。私はレベルが高いから大体はわかるけどぉ、レベルが低いと鑑定なんて使い物にならないわよぉ」
「へー…ってかイース!魔王軍幹部なの!?」
「元よぉ?元。今はもう引退したわぁ。飽きたし、退屈だったしぃ。でも引退したらしたで退屈なんだけどねぇ。だから今はわっくわくよぉ?ミーヤと一緒なら飽き無さそうだものぉ!」
「お、おう…責任重大過ぎる。まあ、うん、イースが良いならこっちはありがたいけどさあ。というかレベル793って高いよね?普通じゃないよね?」
「普通じゃないわよぉ。冒険者でも無い一般人の平均レベルはレベル15くらいかしらぁ。冒険者でも、レベル100越えしてる人はSランク以上にしか居ないわぁ。レベル70から上がりにくくなるみたいなのよねぇ」
「そんな中で793レベルまで上げたの?」
「3000年以上生きてるのにたったそれだけのレベルなんてあり得ないでしょう?」
にっこりと笑うイースに、私は凄い人が仲間になったなーと思った。
第一村人だと思ってたら魔族で、魔族だと思ったら従魔になって、そしたらその従魔がとんでもなく強いとか想像もしてなかったよ。
頼もしくて何よりだけど、私の仲間、強すぎじゃね?