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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
59/276

馬車が揺れるよ



「ほんっとうに!本当にこんな急な護衛依頼を受けていただいてありがとうございます!可能な限り早く出発して次の町まで商品を持っていかないと赤字でクビにされる可能性があったんです!なのに当日中に受けてくれて、すぐに出発可能だなんて……ありがとうございます女神様!」


「落ち着いて下さい依頼人!拝まないで!」



 護衛依頼を出した依頼人は、やっぱりキャラが濃い人だった。

 ちなみに上の会話は受理した直後に飛び込んで来た依頼人さんとのやり取りである。



「いやあ本当に助かりました!本当は一昨日出発したかったんですけど、私の持っている虫の知らせというスキルが発動しましてね?あ、これ今出発したら死ぬなって思って。それで一日遅らせたらなんと下級ドラゴンが出たとか言うじゃないですか!そのせいで昨日もまた出発出来なくて!下手したらこれで怪我人続出でドラゴンが討伐された後、護衛出来る冒険者も怪我のせいで護衛依頼を受けてくれないんじゃないかと凄い心配してたんですよ!だって私、私一人ですからね!お付きの人が居ないんですよ!同僚も!いえ本当は一緒に来てた奴が居たんですけどいい加減な奴で「グレルトーディアでめっちゃ好みの人見つけたから結婚する事にしたわ。給料いらんから俺仕事辞めるな。チャーオ!」とかほざいてマジで辞めやがって!私はあくまで交渉メインであって戦闘能力が雑魚過ぎるんですよ!なのに商品乗せた馬車あるんですよ!?私が御者やらないと駄目なのに商品と自分の身も守りながらとか無理にも程があると思うんです!ですから本当に本当に受けていただいて感謝しております!しかも複数人パーティだと出費増えちゃうんで困るけど護衛複数居ないと怖い!って思ってたら何とミーヤさんという魔物使い冒険者が受けてくれたって話じゃないですか!基本的に魔物使いに報酬を支払う時は従魔の分も色を付ける必要があるんですが、同じ人数のパーティに支払うより安価で済むので本当に助かります!しかも普通魔物使いって結構レア職業ですし、その魔物使い達はやばい思考の奴等ばっかりだって聞くんでちょっと心配だったんですけどミーヤさん本当ちゃんとした真っ当な良い魔物使いで心の底から安心しました!護衛よろしくお願いしますね!」


「ハーティさん喉渇きません?」


「長話と早口は私の通常運転ですのでご心配無く!」



 ご心配っつか聞いてて酸欠になるレベルの早口だったんですけど。息継ぎどこ?

 ちなみにハーティさんとはこの商人さんの名前である。茶髪をオールバック風に纏めている若い男性なのだが、とにかく話がマシンガン。今も凄いマシンガントークだったしね。

 あ、私達は商品が詰まれている馬車に乗ってます。一応ちゃんと座る用の椅子も設置されてた。その椅子に座って馬車に揺られる。コンだけは自分は偵察に向いてるからと自ら馬車の屋根に上ってったけどね。確かに獣人の五感は頼りになるし、毛皮のお陰で強い風もへっちゃららしい。頼もしいなコン。



「でもまあ、悪い人間じゃ無さそうだから良かったわぁ」


「うん、それは確かに」



 イースの言葉に私は頷く。

 話してる時もミサンガが光らなかったんだよね。トークがマシンガンなだけで普通の商人さんらしい。というかこっちの住人キャラが濃くない?気のせい?



「ミーヤ様、護衛依頼は結構良い依頼ですね」



 同じ様に椅子に座っているハニーが微笑みながらそう言った。



「ん、どして?」


「こうやって馬車に乗れますから」



 ハニーは馬車の中を見回しながら言う。



「護衛依頼は護衛対象である依頼人と商品を守らなくてはいけないのが大変ですが、私達は数が多いので役割分担が出来ます。そして魔物に襲われたり盗賊に襲われたりは旅をしていれば当然のもの。そう考えると馬車という移動手段がある分、護衛依頼はかなり便利なのでは無いでしょうか」


「ハニーの考え方凄いね」



 大変と言われる護衛依頼を馬車にタダ乗り出来るチャンス扱いしてるよ。

 ハニーのその言葉に、イースがくすくすと笑って訂正を入れる。



「普通はそうもいかないわよぉ?」


「そうなのですか?」


「ええ」



 ハニーの問いにイースは頷く。



「依頼人が一人、そして善良な人間だったからそう思っちゃうだけよぉ。依頼人…というよりも、護衛対象の人間が複数居ると面倒よぉ?それぞれ性格も違うしプライドも違うものねぇ。従魔とはいえ魔物に護衛されるなんて!って言う人間が居るのも事実だものぉ」


「あー、そういう……」



 確かに居そう。グレルトーディアで冒険者の人達が結構面白い人達だってのはわかったけど、他の人もそうなのかはわかんないもんね。いや、バーンズ家とフェロール家は貴族なのに結構面白い寄りだったけど。



「うふふ、貴族も護衛依頼を出す事があるのよぉ?」


「そうなの?」


「そうよぉ」



 うーむ、まあ確かに言われて見れば護衛依頼っていったら貴族の護衛のイメージも強いね。遠距離を移動する時にボディガードとして雇ったり、みたいなやつ。大体のファンタジー小説だとわがまま言い過ぎてキレた主人公にクールな対応をされて心を圧し折られるか更生するかって感じだったな。

 イースは色んな冒険者達の記憶を思い出しているのか、遠い目をしながらふぅと溜め息を吐いた。



「冒険者とは別で護衛に付いてる貴族の付き人がうるさい時もあるしぃ、貴族のボンボンだからってわがまま放題なガキを子守りしないといけない時もあるわぁ。だから本当、運が良いかどうかよねぇ」


「成る程、ミーヤ様とイース様の幸運のお陰で良い護衛依頼を受ける事が出来たというわけですね」



 納得したようにハニーが頷くが、シルヴィアさんがそういう人を選んでくれたって可能性が高いと思うよ?シルヴィアさん受付嬢だからその辺把握してただろうしね。…そう考えるとありがたい事だな。



「……ミーヤ」



 馬車内で長い下半身をコンパクトにする為とぐろを巻いているラミィが私の腕に抱きつきながら私の顔を覗き込んだ。



「どしたの?ラミィ」


「………この馬車、どの町、行く……の…?」



 ラミィのその問いに、冷や汗が流れるのを感じた。

 やっべそういえばすぐに出発だ!ってなったから行き先聞いてなかったわ。私からしたらどこ行こうが問題ないぜって感じだったのも合わさってすっかり聞くのを忘れてた。この馬車はグレルトーディアの北西側に繋がる道を進んでいるが、この先の町って私知ってるっけ?



「まだミーヤは知らないわねぇ」



 知らないってさ。え、怖い町じゃないよね?大丈夫だよね?何か心配になってきたな。



「あの、ハーティさん!行き先の町って何処だか聞いても良いですか!?」



 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。そう思って私は馬車の中から大声でハーティさんに問いかける。するとすぐにハーティさんから返事が返って来た。



「向かっている町ですか?今向かっている町はイルザーミラという町ですよ!王都程ではありませんが、グレルトーディア並みに大きい町です!」



 ほうほう、イルザーミラって名前の町なんだ。



「どんな町かって聞いても良いですか?!」


「勿論です!イルザーミラはダンジョンが存在する町でして、冒険者の方がよくダンジョンに潜っては戦利品を持って出てきますね!ですから商人からすると回復アイテムなんかが売れ易くて良い町です!」


「成る程!ありがとうございます!」



 長話が再開される前にお礼を言って質問終了だ。

 うーむ、それにしても…ダンジョンとな?



「ダンジョンって?」


「ダンジョンはダンジョンよぉ」



 私が聞くと、イースはそう言ってくすくすと微笑んだ。うーむ、はぐらかされた?

 そう思って首を傾げると、ハニーが下の両腕で腕を組んで、上の左手を支えに上の右手を顎に当てて考えるポーズ。



「ダンジョンとは、確かダンジョンメーカーというスキルを所持している者が作れる特殊な空間…と聞いた覚えがあります」


「特殊な空間」



 ふむ、普通のゲームでよくあるようなあのダンジョンって事で良いんだろうか。明らかに時空が捻じ曲がってますよね的なあの空間。

 ゲームのダンジョンを思い出していると、腕に抱きついていたラミィが抱きつく力を強くした。



「ラミィ…も、聞いた事、ある…」


「そうなの?どんな感じ?」


「ん……と、見た目、遺跡……?」


「遺跡」



 見た目が遺跡か…。どんなタイプの遺跡かで内装も変わるよね。



「見た目、遺跡……で、一階建て…。でも、中入る、と、下への階段………が、ある…って」


「地下に潜っていくタイプなのかな」


「それなら俺もアルに聞いた事がある」



 ぬっとコンが屋根上から馬車内部を覗き込みながらそう言った。お、おおうビックリした…。急に逆さ状態で頭部だけ見るとちょっとビビるね。



「俺が聞いた話では、地下に潜ると明らかに空間が歪んでるんじゃないかって広い空間が広がってるらしいんだ。ちょっとした洞窟みたいな空間なのに色んな魔物が住んでたりとかするって」


「そうなの?」


「ああ。その周辺には居ないはずの魔物とかもダンジョン内には居るらしいんだ。あとどれだけ狩っても、一定時間で復活するってさ」



 んん?どういう事?私はてっきり普通の魔物が出てくるものだと思ってたんだけど、もしや倒すとポンッてアイテムやマネーに変わるタイプなのか?



「討伐した魔物を捌いて肉にしてダンジョンの外に持ち帰ってもそのままあるし、捌かずに外に持って帰ってもそのまま魔物は存在してるらしい。でも倒しても倒しても一定時間でまた魔物が復活するらしいんだよな」



 あ、違った。



「でもそれだとどれだけ狩っても大丈夫だから結構助かるよね。食料難の時とか」


「実際そうやって使われる事もあるらしいぜ」



 逆さ状態で顔だけ出して馬車を覗き込むコンの表情は結構楽しげな表情だ。うん、コンって結構冒険の話好きだよね。



「私本気で知識少ないから教えてもらえると助かるよ。皆ありがとね」



 腕に抱きついているラミィの髪を手櫛で梳きながら私はそう言う。感謝の気持ちはちゃんと示した方が良いもんね。実際こうやって教えてもらえるとめちゃくちゃ助かるし。



「私は知識ではそこまで役立てませんが、ミーヤ様にそう言っていただけると光栄です!」


「ん……ラミィ、そこまで、詳しく……無い、けど、ミーヤ……に、褒められるの………嬉しい」


「おっ、俺は別にアルから聞いた話や好きな冒険譚の知識が役に立つぞって思って話に混ざったわけじゃないんだからな!?」



 ハニーは上の両手で両頬を押さえて微笑み、ラミィは私の肩に頬擦りし、コンは慌てた様子で馬車の中を覗き込むのを止めて馬車上からの偵察に戻って行った。あー、うちの子皆可愛い。

 すると、微笑みながら見守っていたイースが口を開いた。



「ミーヤ、ダンジョンについて他にも聞きたい事はあるかしらぁ?」


「うーん……地下何階まであるのかとか、魔物の強さとか?」



 そういうの大事だよね。

 そう思って聞くと、イースは少しだけんーと考えるそぶりを見せ、すぐにそれを知っている記憶を思い出したのかにっこりと微笑んだ。



「そうねぇ、イルザーミラの町のダンジョンは確か五十階まであったはずよぉ」


「結構深いね」



 五十階って到達まで何日掛かるんだろう。



「強さに関しては…そうねぇ、一桁台の階層は低レベルだったはず。十階から下になると20レベルは必要になってくるわねぇ」


「へぇー……五十階とか凄い強さの魔物が出そうだね」


「そうねぇ。でも誰もそこまで行かないわぁ。そもそも皆十九階止まりでしょうねぇ」



 え、何で?



「ダンジョンって事はアイテムが入った宝箱とか置いてあったりするんじゃないの?」



 階層下がってレベルが上がるごとにレア度が高くなっていくようなシステムだと思うんだけど。



「勿論、そういうのもあるわぁ。……ただ、ねぇ?」


「その話なら聞いた事がある」



 コンが再び上からにゅっと頭だけ登場して言う。



「十階、二十階と区切りがあり、その区切りの階にはボスの魔物が居るって。そして二十階のボスは……」



 苦々しそうな顔で、コンは恐ろしい言葉を口にした。



「……おぞましい称号やスキルを山盛りに持った、コックローチの群れだってな」


「ヒエッ」



 待って。コックローチってあれだよね?日本では異様な数の異名を持っている、あの魔物より魔物なおぞましさナンバーワンのあいつ。台所に這い寄る混沌だとか、漆黒の弾丸だとか、イニシャルGだとか、迫り来る黒い恐怖だとか呼ばれるあれ。



「そうよぉ。ちなみに解説するとぉ、イルザーミラのダンジョンを作ったのは勇者なのよねぇ。それで簡単なのを作ったらぁ、クリアした冒険者が「雑魚いなこのダンジョン。もうちょい強いのかと思ったら(笑)」って言っちゃったのよねぇ」


「…地雷が踏み抜かれちゃった感じです?」


「感じでぇす♡」



 にっこり♡と、乱舞するハートマークが見えるように素敵な笑顔だった。



「そのせいでキレた勇者がダンジョンの内部を作り直してぇ、五十階までの道のりをすっごぉく大変にしちゃったのぉ。でもその時点ではまだコックローチは配置されてなかったわぁ」



 ………まさか。



「でもその大変な状態にしたダンジョンもクリアされちゃってねぇ?自棄になったみたいなのよねぇ。もう誰にもクリアさせない!ってキレちゃったみたいでぇ、人間サイズのゴキ……まあ、アレを作り出したのよぉ」


「待ってイース。言い切らないという気遣いには大感謝だけど、あの、今作り出したっつった?」


「言ったわぁ。ダンジョンメーカーってスキルでダンジョンを作る時にぃ、内部で好きな魔物を作れるらしいのよねぇ。それで今までこの世界には存在しなかったあの生物をモデルによりおぞましいのを作っちゃったのぉ」



 何してくれとんじゃダンジョンメーカー勇者!!いやこの場合その勇者を煽った冒険者に対して恨みを放つべきなのか!?まあそれはそれとして何てモンを生み出しやがった!



「最初はその気持ち悪さがこっちの世界の住人には伝わらなくってねぇ?そのせいでどうしてもこの魔物の恐ろしさを皆に気付かせてビビらせてみせる!って勇者が張り切っちゃったのよぉ」


「何て迷惑な事を……」



 というか勇者本人も恐れる存在をよく作ろうと思えたな。己の恐怖するものイコール他の奴も恐怖するって考えたんだろうけど、結果的に自分の首絞めてないかな?



「そして、勇者はそのコックローチに色んなスキルと称号を付与したわぁ」



 ふ、とイースの瞳からハイライトが消え失せ、どこか遠い所を見るような遠い目になる。



「……具体的には、見るだけで吐き気や恐怖、生理的嫌悪感などが湧き上がるようなスキルや称号ばかりをねぇ」


「こっっっっっっわ!!」



 何それ怖い!見た瞬間気絶するだろソレ!

 思わず私がそう叫ぶとイースは遠い目でふっと微笑み、次の瞬間にはハイライトが戻った瞳で私を見ながらいつも通りの微笑みを浮かべた。



「そのせいでコックローチを倒せる者は居なくなり、皆十九階まで行ったら帰るようになったのよぉ。今ではコックローチと言えば恐怖の代表扱いされてるわねぇ」


「そりゃ魔王より怖いもんね……」



 実力が違い過ぎるからって恐れさせる魔王よりも、とにかく無理!って感覚を呼び起こす存在の方が対処出来ないから怖い。魔王はまだ話通じるから救いがある。

 そしてイースは、至極真面目な表情で私に言った。



「だからミーヤ、絶対に十九階で終わるようにするのよぉ?そこから先に良い事なんて無いわぁ」


「わかった!」


「うん、良い子ぉ♡」



 ぐいっとハグされてにっこりとした笑顔になったイースのおっきいおっぱいに私の顔が埋まった。もう動じん!動じんぞ!



「アイテムに関してはぁ、時々上の方の階層の宝箱にもレアアイテムが出る事があるのぉ。運が良ければ出るからぁ、わざわざ下に潜る必要は無いわぁ」


「な、なふほほ……」



 おっぱいに埋もれて上手く喋れないが、それなら安心だ。

 ……いや、そもそもダンジョンに行く必要性も無いのか?別に欲しいアイテムとか無いし。そう考えた瞬間にイースからダンジョンへ行く必要性の説明をされる。



「イルザーミラの依頼の殆どはダンジョンで狩れる魔物の討伐やぁ、ダンジョンにある宝箱のとあるアイテムとかだったりするからぁ、依頼を受ける以上ダンジョン潜りはすると思うわよぉ」


「はんほ」



 うーん、まあダンジョンなら異世界人バレの危険は無いだろうし、イースもハニーもラミィもそこまで興味無さそうだけどコンが結構楽しみにしてるみたいだしね。

 到着したらダンジョンに行ってみようかな。私もちょっと気になるし!



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