お前ら全員節穴アイか
「ああ、そういえば山の方から来てたドラゴンね、倒されたらしいよ!」
「マジですか!」
「おう、マジだ。多分依頼ボードに護衛依頼が幾つか貼りだされてるだろうから早めに良い依頼確保しとけよ!出発ついでに護衛依頼受けるんだろ?」
「はい!了解です!助言ありがとうございます!」
以上、本日の朝食タイムでの宿屋のおかみさんと主人との会話である。
昨日ドラゴン退治の依頼に不参加でアルディスと露店をあちこち見て回り、ガッツリと色んな食べ物を従魔全員が買ってもらっていた。結構容赦ないねうちの子達。
そして昨日の今日でもうドラゴン退治されたのか。早いね。まあ長時間戦うってのはあんまり良い事じゃないし出来るだけ速く仕留めるってのは大事なんだろうな。手術も長時間だと患者も医者も体力を消費するからあんまり良く無いって聞いた気がするし。聞いたんだっけ、どうだったっけ。まあどうでも良いか。
そんなわけで朝食を食べ終わってからギルドに来たわけなんだけど、
「あ、あの子だ」
「昨日の……」
「あの凄い推理をして大正解した女の子か」
「凄かったよな」
「マジであの子の言った通りだったとは……」
凄い、視線を感じる。
凄まじい視線を感じる。すぐにイース達がさり気なく盾になるようにして私を隠してくれたけど、え、何?そんなに私悪い事したの?昨日のアレやっぱりまずかった?いやでも聞こえた話は……と考えた瞬間、
「ミーヤ!おはよう!」
「んばっぷ!?」
駆け足で近寄ってきたシルヴィアさんにテンション高めにハグされた。
ほわっつ!?何事ですことよ!?何故私はシルヴィアさんにハグをされている!?うわあシンプルだけど華やかな香りがする!あと胸が!私の顔がシルヴィアさんのおっぱいに埋まってるんですけど!ごめん訂正!埋まっては無い!そこまでのサイズでは無い!でもささやかな丘でありながらもふんわりと包み込むような柔らかさのお胸です!現場からは異常です!違う以上です!あっはーいきなりパニックじゃんけ何事ぞや!?(パニック)
思わず大混乱する私の思考には気付いていないのだろうシルヴィアさんは、思いっきり私の頭を抱きかかえてハグをした後すぐに離れた。しかし興奮しているのか頬を染め瞳をキラキラさせてシルヴィアさんは言う。
「凄いわミーヤ!本当にミーヤの言う通りだったのよ!」
「何がですかね!?」
ちょっと本気でわからないアルよ!
「昨日のドラゴン討伐よ!いつもならもっと時間かかるしもっと被害が出てたの!なのに昨日はいつもの半分以下の時間で!五分の一以下のアイテム消費で!余裕を持って討伐出来ちゃったのよ!」
「お、おおう」
肩をガックンガックン揺さぶられながらそう言われましても困る。酔う。精を付けろって宿屋の主人がサービスしてくれた肉とかが口からリバースしちゃいそうだから揺するん止めてもらえませんかね。
私が揺さぶられてブルーになったのに気付いたシルヴィアさんが揺するのを止めてくれたが、まだ興奮冷めやらぬといった表情のままだ。え、だからどゆ事でやんすか?
「えーと、いまいち私理解出来てないんですけど…」
「昨日ミーヤが下級冒険者を連れて行く事で発生するデメリットについて話したでしょう?」
「ああ、はい、話しました」
それは覚えてる。ただそれとドラゴン討伐めっちゃ上手く行ったぜ!ってトコが私の中で繋がらないだけで。え、アルディスは結局不参加だったけど他の人は参加したんじゃないの?報酬貰えるのは変わりないんだし。
「それを聞いてた冒険者の殆どがドラゴン討伐に参加するのを止めたのよ」
「えっ」
待ってマジで!?やだ私に責任発生しないよね!?責任取りたくない!
「それでプロ冒険者だけでドラゴン討伐に向かったんだけど、凄い効率良く倒せたんですって!いつもよりずっと被害が少なく済んだし!」
はしゃいだ様子でシルヴィアさんは言う。
「プロ冒険者達も最初は不安そうに出発したんだけど、ほぼ無傷で帰って来た時には自分達でも半信半疑って顔してたわ。普段だったら絶対気が抜けない状況なのに、守らないといけないし警戒しないといけない下級冒険者が居ないだけでとんでもなく狩りやすかったって!」
「ま、マジですか…」
私からすると当てずっぽうがまぐれ当たりしたような感じだから私の発想スゲー!って気持ちになれない。二択問題で適当に○付けた方が正解だった、みたいな気分だ。なのでそうはしゃがれても実感無いから反応し難いんだよね!
まあでも私のせいで被害が出ましたとかじゃないようで少し安心した。
「プロ冒険者達も、何かがしっくり来ない事には気付いてたみたいなの。でもゴリ押し戦法が一番!みたいな思考でもあったから、このやり方が間違ってるって考えた事が無かったみたいなのよね。だから凄い新鮮な発想だったみたいで驚いてたわよ」
プロがそんな脳筋で大丈夫なのか。脳筋でもプロになれる実力者だから大丈夫なんだろうな。
「今プロ冒険者達は宿屋で休んでるんだけど、起きたらすぐ国王様に今回の件を報告してドラゴン討伐のやり方を変えるように進言するって言ってたわ!」
「ああ、それは確かに進言した方が良さそうですよね」
早めに手を打てばバッドエンド回避出来るだろうし。いやバッドエンド確定してるわけじゃ無いけど、私の考えたルートがちょっと当たってたっぽいから万が一を考えると早めに軌道修正しておいて欲しいじゃん?私の安らぎの為にもさ。ここの国民には色々とお世話になったんでありますよ。内乱は勘弁して欲しい。
うんうんと頷く私の手を取ってシルヴィアさんは微笑みながら言う。
「それで、その人達……「王の剣」の人達がミーヤにお礼を言いたいって言ってたわ」
死刑宣告みたいな言葉を。
………ってちょっと待って!待って待とう待つんだ待ってね待て!ちょっと待って下さいって気持ちが強すぎて五段階の待てが出来ちゃったよ!
えーと、落ち着け私。まずは宇宙の真理とかを考えて……よしクールダウンだ。いつもお世話になってます宇宙さん。…で、お礼?王の剣とかいうS級の冒険者パーティが?国王の下で働いてるっていう人達が?私に?お礼?
「直接会ってお礼したいそうよ。助言で助かったからそれに対しての報酬も支払いたいって。それと他にも新しい発想があるかも知れないから是非お話もしたいとも言ってたわ」
あー駄目!ちょっと駄目!私異世界人だから王様系列の人とはあまりお近づきになりたくない!お硬そうだしさ!私そういう硬いノリの人と話すの苦手なんだよね!
「マジか、凄いな」
「王の剣って確かリーダーが国王の下で働いてるんだっけ?」
「ああ、本職は冒険者じゃなくて騎士団長って聞いた」
「だからこその王の剣だもんな」
「まあ騎士団長だけど王の剣のリーダーでもあるからって普段はあちこちに派遣されてるらしいけど」
「王の剣って美人揃いで目の保養よね」
「色んなタイプのイケメンいるし!」
「おいおい、ここにもイケメンはいるだろ?」
「そうそう、こことかな」
「イケメンはイケメンでもアンタ達はブス専にとってのイケメンじゃない」
「確かに醜い見た目を好む人間が居ないわけじゃないわ。でも私達は綺麗で素敵な香りの花が好きなの。ゲテモノを食う感性じゃないの。……言いたい事、わかるわよね?」
「要するに顔変えてから出直せ」
「ひっでぇなオイ!」
「おい誰かこいつらのオブラート見てないか!?多分こいつらオブラート落としてるぞ!」
「ああ、数年前にオブラートが落ちたの見たぜ」
「屍喰いカラスに食われてたわよね」
「いやイートピッグだろ」
「私馬車に轢かれてもう復活不可能なくらいになったオブラートを目撃したんだけどそれかしら」
「そういや前にニヤ猫の居るデルフトの森の泉で女神みたいな女性が「貴方が落としたのはこちらの隠す気のないオブラートですか?それともこちらの本心を完全に隠すオブラートですか?」って出てくる夢見たわ」
「お前何て答えた?」
「そもそもオブラートを俺は持ってませんって答えたら「正直者の貴方にはエロいボディの嫁と無限に湧く金をやると思ったか?自力で手に入れろ」って唾吐かれた」
「ご褒美かな?」
……あ、うん、この世界の冒険者が皆このノリなら王の剣のメンバーもこんな感じの気安すぎるノリなのかもしれない。それなら会話出来そうだな。
いやいやいや!惑わされるな私!万が一異世界人ってバレるとちょっと危険がありそうなんだよね!民の事を思いやってる国王っぽくはあるけど、最低でも強制結婚させられる可能性がある以上心を許してはなりませぬぞと私の中の執事が囁く!誰だ貴様!
「……ミーヤ?」
おっといかん、どう返したものかと考えてたらしかめっ面で無言状態になってたらしい。シルヴィアさんに不思議そうな顔をさせてしまった。でもそんな顔も美人で目の保養ラッキー。
さて、まず顔合わせをさせられる前に断らないとだよね、うん。
「あの、シルヴィアさん。私そのお礼とか挨拶とかお話とか、普通にお断りしても良いですか?」
「え!?直々にお礼と報酬手渡しよ!?王の剣なら相当の額よ!?」
そう言われましてもより一層困るだけなんですが!金貨40枚を渡されても触れるのすら怖くて即行でお返しした人間なんだよ私は!
「いや、えーと、その、ほら私今日にでも護衛依頼受けて出発したいなって!」
「時間はそこまで取らないわよ?」
「ちょ、長時間になる可能性が無きにしも非ず…」
「先に時間を指定すればそのくらい守ってくれるわ」
「お礼の言葉も受け取る理由がなかばってん……」
「何語?」
私にもさっぱりでやんす!これ何処の方言なんだろうね!
あうあう誰か助けてくだされと従魔の方を見るが、イースは笑いを堪えてるし、ハニーは上下の両手を祈るような形で握りながら見てるし、ラミィは見ず知らずの冒険者の方に干し肉貰ってるし、コンはいつの間にか来てたアルディスと喋ってるしで誰も助けてくれない!
つかラミィ!知らない人から食べ物貰っちゃいけません!毒だったらどうすんの!あ、はいラミア自体毒に強い種族でしたねそりゃ大丈夫だわ。
ええい、アルディスもコンと話しながら面白そうにこっちを見てるだけで誰も助っ人になってくれなさそう!どないすっぺや!
「……ミーヤ、もしかして何か王の剣に会いたくない理由でもあるの?」
私の往生際の悪さに、シルヴィアさんが怪訝そうにそう問いかける。
う、うむむ……ここで返答間違えたら私が異世界人だとバレかねない。一応勇者の子孫でしてーという言い訳も用意してあるがそうポンポン使える手じゃないし。…じゃないよね?
というか使えたとしてもあんまり使いたくないってのが本音です。
仕方ない、ここは口から出任せ作戦でゴー!
「………し、死んだおじいちゃんが「ご先祖様は権力関係で死ぬ程面倒な目に遭ったせいでこんなクソド田舎な山奥に避難してきたんじゃよ。お前ももし人里に出るのであれば、権力めっちゃ持ってる奴にはあんまり近付かんようにな。あいつら恩返しとか言いながら無理矢理結婚迫ってくる押し付け野郎共じゃって儂のじいさまも言っとったから。特に王族関係に良い思い出無いつっとったから、関わったら最悪舌自分で噛み千切る覚悟はしとけよ」って……」
視線を明後日の方向に向けながら震え声の私である。明らかに嘘過ぎるよね!嘘ヘタクソ過ぎないかな私!イーニアスよ私に力を!嘘では無いが真実も言わないあの凄い話術スキルをちょっと貸してくれ!
あとおじいちゃん勝手に出演させてごめんね!私が生まれる前に父方も母方も祖父母皆死んでたからキャラ知らないけど!ごめんどっちかのおじいちゃん!異世界で名前勝手に使いました!結構厳つい感じのキャラにしちゃって本当ごめん!
これはもう嘘バレる可能性しか無いなーと死んだ目で空っぽな笑みを浮かべていると、急にシルヴィアさんに抱き締められた。えっ!?ささやかな丘の感触パート2!?
「まさかミーヤの家系にそんな悲劇があったなんて!知らなかったとはいえ無理強いしそうになってごめんなさい!」
あっれー信じちゃった!?待ってどこら辺に信じれる材料があったの!?明らかに嘘百パーセントも良いトコだったよ!?
「あの子にそんな過去が!?」
「あの子の過去っつかあの子のご先祖様の過去っつうか…」
「権力者に死にそうな程の酷い目に遭わされて、権力者には関わるなって言われてたんだろ?それなのに困ってたバーンズ家の相談に乗ったのかって考えるとやばくね?凄くね?」
「ウッ、ちょっと待って泣きそう」
「俺犬獣人だから鼻が利くんだけどさ、あれ嘘の匂いなんだよ。嘘の匂いだけど、目の動揺っぷりとか汗から慌ててる匂いとかは本物なんだよ。つまりさ」
「ああ、つまりあれ、本当はご先祖様のお話でもっとキツイ過去があったのかもしれないよな…。狼獣人である俺にもそう匂うぜ」
「人間関係で大変な事になってクソド田舎の山奥って称するレベルの人里離れた場所に逃げ込んだんだろ?そう考えるとあの子が俺らにめちゃくちゃ笑顔で挨拶してくれる事実が凄い奇跡って事じゃ……ウッ」
「人は皆運命の奴隷……しかし運命という名の奴隷の首輪を外し新しい道を歩き出した乙女…!」
「お前のその格好つけたポーズ何なの?」
「舌を自分で噛み千切る覚悟が要るってさ、ご先祖様がそんくらい酷い目に遭ったって事じゃ……あ、駄目だ涙腺が壊れた」
「いや、このツィツィートガルじゃなくてバーバヤガの王族に酷い目に遭わされたって可能性が無くは無いし他の国って可能性も……あるけど被害者からしたら全部同じなんだよな」
「ああ、冒険者に酷い扱いされたら冒険者なんて皆同じだ!ってなるやつな」
冒険者の人達まで節穴アイか貴様らは!というか獣人!嘘って見抜いたのに何故そこで誤解を作成したのかな!?鼻詰まってんの!?いや助かるよ!?私からすると助かるんだけど心配にもなるよ!?変な宗教に騙されないように気をつけてね本当!
あとイースが風魔法使って音を遮断しながらめちゃくちゃ笑ってるんだけど。そんなに面白いかこれ。うん、客観的に見たらめっちゃ面白いねこの状況。ただし渦中にいる私は面白く無いんだよね!
「わかったわ!王の剣にはミーヤは会いたくないって言ってたって言っておくわね!」
「いやあの待って。私はただ目立ちたくないだけでしてね?そういう言い方はちょいと勘弁してプリーズって感じなんでありますよ」
というかシルヴィアさんキャラ変わってない?初期の氷の受付嬢何処に行ったの?
「…そうね、これだと悪い印象を与えかねないわ。…そういえばミーヤは護衛依頼を受けて出発する予定だったわよね?」
「はい」
「じゃあすぐにでも出発したい商人の出した「行ける準備が整い次第出発」って護衛依頼があるんだけど、それ受ける?依頼を受けて出発しちゃったのでって事にすれば、私達ギルド側に責任は無いしミーヤは依頼をちゃんと優先出来るしっかりした冒険者って扱いになるわ!」
わあ、なんて好都合。グッと両手を握り拳の形にするシルヴィアさんが可愛くて目の保養だな。二重の意味でありがとうラッキーガールの称号。私の心が砂漠の様になっているのは無視の方向でお願いします。
「じゃあそれでお願いします」
「わかったわ!すぐに依頼を受理するわね!」
そう言いシルヴィアさんは依頼ボードから一枚の紙を引っぺがして受付に走って行った。本当に初期の氷の受付嬢は見る影も無いな。お世話好きなエルフのお姉さんキャラになってるよ。
「じゃあもう即行で出発って事か?寂しくなるな」
「うおっ」
急に頭が重くなったと思ったらアルディスが私の頭に圧し掛かっていた。アルディスって結構距離感が近いよね。もふもふだから良いけど。
「うん、シルヴィアさんの話では今日中に出発出来そうだしね。アルディスにも色々お世話になっちゃった。ありがとね」
「どういたしまして。俺こそコンが凄い世話になったみたいだし、これから先も世話になるからな。基本俺はグレルトーディアに居るから、何か用があったら言えよ?」
「あは、ありがと」
頭を顎でぐりぐりされながらの会話。絶妙な力加減のお陰で痛くないから止めてって言い難いな。どういう技術だ。アルディスの言葉にコンが小声でツンデレてたけど尻尾が振られてたから喜んでるって事だよね。仲が良い幼馴染で何よりだ。
さておき、今日でグレルトーディアともお別れだ。随分と駆け足な最終日になっちゃったな。




