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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
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ドラゴンを退治せよ(参加は任意)



 グレルトーディア滞在7日目。今日にでも出発かなと思いながら起床した。

 一応おかみさんにはあと一泊分部屋を押さえてもらってるけど、予定通り今日か明日には出発したいところだ。何で今日じゃなくて明日も候補に入ってるのかって?昨日あの後精神的疲労で依頼ボードも見ずに即行部屋に戻って従魔セラピーを開催したからだよ!セラピー受けるの私だけだけど!

 金貨が40枚も入った袋持つだけでめっちゃ心労重なったからね!?庶民に大金持たせようとするの良く無い!皆だっていきなり百万渡されたとしてそれ財布に入れて持てる!?そんな財布怖くて持てんっちゅうねん!私は一体どこの県民なんだ口調がおかしい!

 えー、まあ、そんなわけでギルドに向かっている最中でありやす。

 いやあのね?護衛の依頼って実は依頼人との話し合いとかもあるらしいのよ。前日に色々と会話して翌日出発の時もあれば当日にもう時間無いしさっさと出発するぞ!っていうのもあるらしい。ようするに人による。

 だから受ける依頼によって今日出発か明日出発か変わるんだよね。

 あ、ちなみに今日は最終日予定だったからハニーのバイトは入ってない。というか二日前が最後のバイトだった。花屋のお姉さんはハニーに全力でハグして本気で働いて欲しいと口説いていたがさらっと断られていた。まあ売り上げ上がってたみたいだしハニー良い子だから口説きたくなる気持ちはわからんでもない。しかしうちの子なんでやらんぞ。

 そんな事を思い出しながら、良い依頼人の護衛依頼があれば良いな。ラッキーガールの称号よ気合を入れろ!と念じながらギルドに入ると、何やらざわざわとしていた。いやいつもざわざわしてるんだけど、いつものお気楽なざわざわじゃなくて不穏な空気が漂っているざわざわだ。ざわざわがゲシュタルト崩壊しそう。



「お、ミーヤ。お前も噂聞いたのか?」


「ハロー、アルディス」



 人の群れの中から出てきたアルディスに挨拶。…ん?噂?



「私はそろそろグレルトーディア出発したいから良い感じの護衛依頼ないかなって思って来ただけなんだけど……噂?」


「あれ、知らねえの?」



 私が首を傾げて聞くと、アルディスも同じように首を傾げた。お兄ちゃん属性だけどアルディスの見た目って茶色のウサギだからそういう仕草をするとかなり可愛い。撫でたくなるけどセクハラしたと訴えられたくは無いので我慢である。

 噂って何だろうなーと思っていると、冒険者達のざわざわした話し声が耳に入ってきた。



「おい、あの噂ってマジか?」


「多分」


「もし本当なら損害もデカイけど収入もあるよな」


「ああ。いつも被害は酷いけどその分新人は稼げるし」


「国王とかプロ冒険者達も数で押した方が良いって推奨してるしな」


「めちゃくちゃ人数集めても死人や重傷人が出るのが怖いんだよな…」


「だからって怖気づいて参加しなかったらそっちの方が被害甚大になっちゃうでしょ?とにかく数で押せば良いのよ」


「何属性かの情報とかって出てないのか?」


「まだわかんないけど…よくあるパターンなら火じゃない?」


「知性が無い魔物扱いだからこそ俺達で相手が出来るわけであり、しかし知性が無い魔物だからこそ俺達は戦わなくてはいけないという悲しい運命……」


「お前相変わらず言動が痛いな」



 ……何か怖い話してない?死人や重傷人って言った?え、こわ……。



「とりあえずミーヤ、護衛の依頼は無理だと思うぜ」


「……何、で?」



 アルディスの言葉にラミィが不思議そうに返した。その問いにアルディスは右手の指で頬を掻きながら困ったような顔で言う。



「ドラゴンが出た、って噂なんだ。この町に向かってるって。それが本当だったら町の外に出た瞬間ドラゴンの餌食だ。商人は自分の命と商品を大事にするから、ドラゴンが倒されない限り町から移動なんて自殺行為はしない」



 …ドラゴン、とな?



「イースさんイースさん、こっちでドラゴンってどんな扱いか聞いても良いっすか」


「良いわよぉ♡」



 摺り足で近付いてこそっとイースに聞くと、イースはにっこりと微笑んで頷いてくれた。



「まずドラゴンには上級と下級があるのぉ。上級は聖獣扱いされていてぇ、とても優れた知性があるわぁ。人語を理解して会話可能な個体も多いわねぇ」


「ほうほう」



 つまり上級ドラゴンは一般的に想像する神聖なタイプのドラゴンって事ね。わかりやすい。



「そして下級ドラゴンなんだけどぉ、下級は魔物扱いされてるわぁ。下級ドラゴンは上級ドラゴンの……何て言うのかしらぁ?まあ出来損ないみたいな存在ねぇ。基本的に下級ドラゴンに知性は無いわぁ。だから人里に近付いてくるようなら討伐対象ねぇ。今回のもそれよぉ」


「成る程成る程」



 下級ドラゴンは一般的な魔物タイプのドラゴンなのか。知性が無いドラゴンってつまりは火炎放射器をブッ放す幼児みたいなもんだよね。こっわ。



「でも出来損ないって?上級と下級でそんなにも差が生まれるもの?」



 素朴な疑問にイースは楽しげな笑顔で答える。



「上級のドラゴンは純正なのよぉ。純血って言ったほうがわかりやすいかしらぁ?そして他の種族と交わりまくった結果、強い力に呑まれちゃって知性を無くしたのが下級ドラゴンなのぉ。基本的にハーフとかクォーターなら問題無いんだけどぉ、ドラゴン以外の血を混ぜまくるとドラゴンの血が他の血に負けないように主張し出して理性を食い潰しちゃうのよねぇ」



 うっわお、中々に凄い話だね。

 でも成る程、ドラゴンの血だけなら安定してるけど、他の血と混ぜすぎるとドラゴンの血が背伸びし始めて大変な事になるのか。ガキ大将みたい。

 んでもってどうやらドラゴンって種族は血が重要みたいだし、



「つまり知性を無くした下級ドラゴンがそのまま子供を作ったりした結果、知性ナッシングな下級ドラゴンが誕生するようになったと?」


「そういう事ぉ♡知性が無いから下級ドラゴン同士で交尾して子供を作っちゃったりしてねぇ?その血が受け継がれるようになっちゃったのよねぇ。最初は少なかったんだけど気付いたら上級と下級で区別されるくらいには増えてたのよぉ」


「ほっへー」



 何か色々とすっげぇなファンタジー。ファンタジーでドラゴンなのに遺伝子的なあれこれが混ざってるのも凄い。流石ファンタジー世界な現実だ。



「下級ドラゴンってそういう事だったのか…」


「単純にそういうものだって区別してたから考えた事も無かったな…」


「だから上級ドラゴンは神聖な存在扱いで、下級は魔物扱いだったのね」


「ドラゴンなのは同じなのに全然違うんだよなって思ってたけど、そういう事だったのか」


「凄い腑に落ちた」


「あの褐色美人あの見た目で学者だったりするのか?凄い詳しかったけど」



 聞こえる声達にちょっと驚いた。これってドラゴンの常識知識じゃ無かったのね。私ってばすっかりこっちの世界では普通に知られてるような知識かと思ってたんだけど。



「でも知っておいて損は無いでしょう?」


「確かに損はしないね」



 知っておいたら得する知識な気もする。



「で、これからその情報の真偽とか色々をギルド長が発表するんだ。もしドラゴンが向かって来てるのが事実なら稼げるぞ!」



 アルディスがニカッと笑うが、稼ぐとな?でも相手ドラゴンでしょ?私Eランクなんで普通に無理じゃないの?よくわからん。

 どういう事かを聞こうとしたら、ちょうどギルド長が奥から出てきたらしい。ざわざわとあちこちから聞こえていた話し声がピタリと止んだ。



「あー…ゴホン」



 咳払いをした人は、背が高くて筋肉も結構凄い感じのおっさんだった。イケおじだ。日焼けした肌が似合っている。口元に斬られた痕っぽい傷痕があるがそれもまた似合っている。あの人がギルド長かな?



「私がこのグレルトーディアの冒険者ギルドのギルド長、バッカスだ」



 合ってた。



「皆ドラゴンが出たという噂を気にしてここに集まっているのだろう?今からその件に関して話をしよう」



 ギルド長であるバッカスさんは話し出す。



「ぐだぐだと順序を追って話すのが面倒だから結論をまず言わせて貰おう。ドラゴンが近くまで来ているというのは事実だ。それが下級ドラゴンであるというのも事実である」



 ああああああマジな話だったのかよ畜生…!ガセネタでありますようにって祈ったのに!こっそりと祈ってたのに!ちょっと出発遅れるって事じゃん!本当に一泊余分に部屋確保しておいて良かった!助言ありがとうイース!



「ドラゴンはグレルトーディアの西側にある山の向こうまで来ているらしい。国王から直々にその下級ドラゴンを始末せよとの依頼も既に来ている」



 一呼吸置き、バッカスさんは大きな声で叫んだ。



「そしていつも通りこのドラゴン討伐の依頼は冒険者の参加自由だ!寧ろどんどん参加しろ!下級冒険者だろうが関係無い!ドラゴン退治には人手が要るんだ!今回もいつも通り国王の下で働いているS級冒険者パーティである「王の剣」が来てくれる!彼らも既にここへ向かっているらしいからあと一時間くらいでドラゴン退治に出発するぞ!誰か質問はあるか!?」



 ……質問っつったら色々あるよね。

 何で強い敵であるドラゴンを討伐するのに下級冒険者まで混ぜるのかとか、その王の剣が来るのに人手が必要なんですかとか、いきなりドラゴン退治かーいとか。

 んー、何か皆当たり前の事のように話し合いを始めてて聞いてくれそうにないし、私が聞くしかないのか。



「すいません質問良いですか!」



 仕方ないので挙手して大声で話しかける。大声じゃないと届かないからね。今のポジション的に。説明すると私はギルドの入り口付近に居て、冒険者達はギルドの真ん中辺りに居て、ギルド長のバッカスさんはギルドの奥側にいるのである。人混みが凄かったからこの距離は仕方ないよね。ラミィの尻尾踏まれそうだったし近寄りたくないんだよあの人の群れ。



「なんだ!!」



 あ、良かったバッカスさんにちゃんと声は届いてるっぽい。前方の冒険者達の視線がめっちゃ集まっている事には目を瞑ろう。意識すると言葉を噛みそうなんだよ。こっちゃチキンハートなんじゃ。



「下級が参加するメリットは無いように思うんですけどメリットあるんですか!?」


「あるぞ!!」



 バッカスさんは叫ぶ。



「まず上級の動きを見て下級が学ぶ!実戦の経験も付く!報酬は参加した奴等で山分けだからドラゴンの鱗なんかが手に入る!それを加工すれば良い武器や防具になるから戦力の増強にもなるしな!」


「下級以外の人にとってのメリットはありますか!?」


「ある!ドラゴン退治は人手があればある程ありがたい!確かに下級冒険者では戦力は足りんが協力すれば大きな力になる!というか前線で戦闘を行うのは「王の剣」をメインとした上級冒険者ばかりだ!下級の殆どは見て学ぶのがメインだ!」


「わかりました説明ありがとうございます!」


「おう!!」



 ふぅ、大声出して疲れた。

 でも何となくわかった気がする。これ社会見学だわ。実績ある人の戦いを間近で見て覚えてね!ちゃんと報酬も出るからね!来ると得だよ!みたいな。

 ……うーむ、でもこれちょっと良く無い気がするよね。



「他に質問ある奴は!?いるか?いないな?いないなら質問タイムは終了だ!一時間後に「王の剣」が来るから参加する奴はここで待機な!敵ドラゴンは火属性らしいから対策だの準備だのは一時間以内に済ませろよ!」



 そう言いバッカスさんは再びギルドの奥へと戻って行った。

 バッカスさんの姿が見えなくなってからすぐに冒険者の皆がざわめき始める。



「マジでドラゴンか~…お前ら経験あるよな?どうだった?」


「超怖い。プロは動きでブレスか炎か区別付くらしいけど、あの状況でんなもんわかんなかった」


「とにかく逃げる。安全地帯など周辺にあると思うな」


「油断した瞬間燃えるから。じゅおって。あと逃げる方向間違えるとプロ冒険者の助けが間に合わなくて死ぬ」


「何それ怖い。でも報酬は?」


「旨いんだよな…」


「ドラゴンの鱗なんて一枚でも結構な金額で売れるし、材料が足りたら武器になるし」


「俺らは囮役って感じだよな。めちゃくちゃ魔法撃ってもドラゴンの鱗の魔法耐性高すぎて効かねえもん」


「私は参加するけどアンタどうする?」


「そりゃ俺も勿論参加するに決まってんだろ。下級冒険者じゃドラゴンの一部なんざそうそう手に入らないしな」



 ……何だろうな、このモヤッとする感じ。これ私が異世界人だからなのかな?そう考えていると服の裾が引っ張られた。振り向くとハニーが私の服の裾を掴んで首を傾げていた。



「ミーヤ様、ミーヤ様はドラゴン退治に参加されるのですか?」



 正直参加したくないよね。こういうのでうっかり参加すると色々とバレる恐れがあるって私知ってる。主にファンタジー小説で知ってる。



「私は……私は置いといて皆は?先に皆の率直な意見が聞きたい」



 私が先に行きたく無いって言ったら気を使わせちゃいそうだしね。もし皆が行きたいようなら行くつもりだから聞いておきたい。

 しかし皆は結構クールだった。



「私はパスねぇ。下級ドラゴンって知能が低いからつまんないんだものぉ」



 本気で退屈そうな表情でそう言うイース。



「特に参加する必要性などを感じませんし、ドラゴンの鱗を必要ともしておりません。正直参加した際の怪我などを考えるとデメリットの方が大きそうなので不参加が良いと思われます。勿論ミーヤ様が参加するおつもりなら全力を出しますが」



 真面目にそう答えるハニー。



「……鱗、食べれない…から、興味、無い……」



 食事にしか興味無いらしく、本気でどうでも良さそうな表情でそう言ったラミィ。



「獣人は基本的にドラゴンと相性が悪いからな…主に戦闘スタイルのせいで。正直無傷で戦える自信が無いからパス。……ミーヤに心配させたくねえし」



 頭を掻きながらそう言い、最後にデレ台詞をボソッと呟いたコン。

 結構意外だけど全員乗り気じゃないのね。参加したくない派である私からすればありがたいけど。

 するとさっき質問の為に大声を出した瞬間に距離を取っていたアルディスが戻ってきていたらしく、スマートな動きで肩を抱かれて近距離で不思議そうに質問された。



「参加しねえのか?メインで戦うのはプロ冒険者ばっかりだし、俺らはおこぼれ貰えるしでかなり良いぞ?」



 本気で不思議そうな声色だ。つか顔が近い。アルディスって結構距離感近いよね。



「うーん」


「ほら、俺も参加するし!ミーヤも参加しようぜ!それに名無しじゃ無くなったコンの実力を間近で見たいんだよ!」



 そう言われるとちょっと悩むが、



「いや、止めとくよ」



 やっぱりデメリットの方が大きいもんね。そう思って断ると、



「え!?何で!?」



 何故か凄い驚かれた。



「え、今止めとくって言ったのか?」


「何で?」


「ドラゴン討伐は確かに大変だけど、身の安全はある程度プロ冒険者に守ってもらえるのに?」


「それに国王直々の依頼でもあるから回復アイテムがかなりの量支給されるお陰で怪我しても問題無いしな」


「かなりオイシイ話なのに断るなんて…」


「俺ドラゴン討伐を止めとくって言った下級冒険者初めて見た」


「レアだし拝んでおくか?」



 おい最後拝むのは止めろ。

 しかし他の冒険者達まで信じられないものを見る目でざわざわとし始めている。私は何かおかしい事を言ったのかな?



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