爺さんの友達の従兄弟の孫の旦那の祖父の兄貴ってめっちゃ関係遠いよね
「アンタには、「愛の加護」ってスキルをくれてやろう。ほれ、顔こっちに近づけな」
にやぁっと笑うニヤ猫に不安しかないが、言われたとおりに座っているニヤ猫に顔を近づける。
「ほいよ」
ポン、とニヤ猫の右前足が頬に触れ、すぐに離れた。
「肉球スタンプ。お猫様のスキルの一つでね、他人にお猫様の持ってるスキルをくれてやる事が出来るのさ」
何それ凄い。あと肉球めっちゃぷにぷにだった。
「……ミーヤ、頬………跡、付いてる…」
「跡?」
私の頬を見たラミィの言葉がよくわからず、泉の水面に顔を映すと……おやまあ。私の左頬に肉球スタンプが付いてるわ。え、これ一生取れないとかじゃないよね?流石に一生は困るよ。
「明日の朝には消えてるから気にしにゃくて良い。今アンタに渡したスキルはさっき言った通り「愛の加護」さ。愛してる奴に加護を与えれるスキル。お猫様は昔主に使ってやってたが、主亡き今持て余すスキルだからね。魔物使いのアンタにゃピッタリだろう?」
うーん、正直いまいちピンと来ないけど……確かにありがたいスキル、なのかな?首を傾げていると、イースに背後から抱き締められた。弾力のあるおっぱいの圧が強い。
「ミーヤ、ピンと来ないならギルドカードでスキルを確認してみたらぁ?」
「あ、そっか」
いつも他のステータスを確認する為に見てたけど、スキルだけ確認するならすぐ済むもんね。ギルドカードを取り出して確認すると、こう書かれていた。
愛の加護
親愛であれ恋愛であれ、愛の感情を抱いてる相手に加護を与えれる。このスキルがあると自動的に加護を与える。加護の内容はスキルの持ち主次第で変わるが、基本的に致命傷レベルの怪我が致命傷にならなかったり、状態異常耐性が強くなったりが多い。
……あれ、これ結構良いスキルじゃない?しかもオートで働くみたいだし。確かに魔物使いである私にはピッタリのスキルかもしれない。
「ありがとニヤ猫!」
「にゃはは、お猫様は要らんモンをくれてやっただけさ。お猫様には要らなくて、アンタらには要るもの。これこそ猫に小判、だにゃあ」
ニヤ猫は自分の言葉にケラケラと笑いながら、景色に溶け込むようにスゥッと消えた。
………消えた!?
「え!?ニヤ猫どこいった!?」
「別にどこにも行ってないわぁ。あの猫、この森と一体化してるような存在だったものぉ。だから強いて言うなら神寄りだったんでしょうねぇ」
「お、おお……」
まったくと言って良い程に意味が理解出来ないけど、成る程……。よくわからんけど精霊?みたいな?あれやこれなんだろう。多分。ファンタジー世界のあれこれは考えない方が話は早い。これテストに出るよ。
「……それじゃあ、依頼も達成したしイートピッグもホーンラビットも狩り終わってるし、帰ろうか?」
「そうねぇ」
「そうですね」
「……ん」
「…………」
イース達は頷くが、コンだけがそわそわした様子でこっちを窺ってきた。
「コン、どうかした?」
「…な、なあミーヤ。イートピッグとホーンラビットの肉さ、売るんじゃなくて宿屋に渡すんじゃ駄目か?俺昼飯に肉食いたい」
「朝も食べたよね?別に良いけど」
「良いのか!?」
許可を出すとパァッと笑顔になったが、コンは慌てて顔を引き締めて、
「べ、別にどうしてもってわけじゃなかったし、許可くれて嬉しいとかねだったりして恥ずかしいなんて思ってねえからな!?」
と言った。うん、どうしても食べたかったけどねだったのが恥ずかしかったんだね。
「ねだるっていうか、今のは甘えるでしょ?主としては甘えてくれるのは頼りにされてるって感じで嬉しいし、そのくらいのお願いなら全然良いよ。でも角と鼻をギルドに渡して依頼達成の報告してからご飯ね」
「おう!」
うん、良い返事。あ、あとおかみさんに頼んでまた砂糖漬けのフルーツ出してもらおうかな。高いからか量は少ないけど、ハニーあれ気に入ってたみたいだし。ラミィはお昼が肉になる事を陰でガッツポーズ取って喜んでたからオッケー。イースは……何か食べたいものあるんだろうか。
「そうねぇ、あんまり知らない料理を食べたいわぁ。レパートリーが増えるものぉ」
「イース、本当に優しいよね。ありがとう」
「……うふふ、気にしなくて良いのよぉ?好きでやってるんだから♡」
私達の為にそう言ってくれた事にお礼を言ったら頬に軽くキスされた。ビックリした。というか少し疲労感が増したから今ちょっと魂つまみ食いしたね?じっとイースを見ると、素敵な笑顔でウィンクを返された。そっか、油断するなっていういつものやつね……。
デルフトの森からグレルトーディアの町のギルドに戻ってシルヴィアさんに依頼達成したよの報告をした。指定部位もちゃんと売ったよ。
「……ニヤ猫の依頼、達成されてるわね。大丈夫だった?引っ掛かれたりしてない?」
ギルドカードを確認して早々、シルヴィアさんはとても心配そうに私の顔を覗き込んでそう言ってくれた。
「あはは、見ての通り大丈夫でした」
「そうみたいね。スタンプって事はかなり良いブラッシングの腕だったって事でしょうし……。でもやっぱり心配したわ。怪我が無くて良かった」
「……ありがとうございます」
うーむ、美女にこうも心配された後に安心したように微笑まれるとちょっと心臓に悪いな。同性なのにときめいちゃうぜ。
「マジか……ニヤ猫のブラッシング依頼を達成するなんて!」
「お前昔やった時、マジギレされて全身に爪跡が1ヶ月くらい残ってたもんな」
「ああ、風呂が地獄だった」
「私は上出来って言われて宝石貰ったのよね。かなり良い宝石だったらしくて、お陰で家の借金全部返せたわ。ニヤ猫様様ね」
「俺はまあまあって言われてお金貰ったけど、スタンプってどのレベルだ?」
「最低は噛まれたり爪跡、まあまあはお金、上出来なら宝石、最高ならスキルをくれるんじゃなかったっけ?」
「スタンプってどれにも一致してなくね?」
「いや、確か俺の爺さんの友達の従兄弟の孫の旦那の祖父の兄貴がスキル貰ったらしいんだが、その時丸一日スタンプが額に付いてたって話だ」
「めちゃくちゃ遠い情報だなおい」
「寧ろよくそんなの覚えてるわね。もう一回言ってみて」
「俺の爺さんの友達の従兄弟の孫の旦那の祖父の兄貴」
「お前凄いな!?」
本当によく覚えてるな今の人!背後にいる人達の中から聞こえてきた声だから誰なのかわかんないけど、本当凄いな!?関係性遠いってか普通に他人だよね?!
思わず振り返って顔を確認しそうになったけどぐっと堪える。変人の称号は持ってるけど積極的に変人である事を広めたいわけではないのだよ。
ギルドに依頼達成の報告後、宿屋に戻って狩った魔物を渡して食事タイム。お肉三昧なのが嬉しいのか、肉食系二人はとても喜んで食べていた。ハニーも果物の砂糖漬けを気に入ったみたいで幸せそうに食べてた。イースは宿屋のおかみさん特製ソースの味を解明してた。イース凄いな。
食事の後、またギルドに行って簡単な依頼を幾つかこなした。
そんなわけですっかり夜です。
風呂もブラッシングも終わってあとは寝るだけなんだけど、寝るにはちょっと早い時間なんだよね。
「…ラミィ、早寝……も、良いと…思う……」
「確かに早寝も良いんだけどね」
寝る気満々のラミィの頭を撫でて苦笑い。
早寝をするのは良いんだけど、日本に居た時はスマホとかで色々見て遅寝遅起きそして寝坊のセットだったからこう規則正しい生活をしてると不思議な気分に襲われる。嫌な気分じゃないから良いんだけどさ。
「スマホで色々検索が出来たらもうちょっと助かるんだけどね」
取り出したスマホに今日の色々をメモしながらぼやく。
一応カメラとか、撮った写真とか、メモ機能とか、音楽とか、電子書籍とかは無事なんだけどね。でもそれはそれとしてアニメの最新話とかが見たいわけですよ。旅行先でワイファイ繋がらなくてウボァアーーー!って気分になった事ない?あんな感じの気分だ。
あと検索が出来るって事は電波が通じるって事だから、色々見れるって事でしょ?私は魔法を使う時イメージに頼りきってるからイメージをハッキリさせる為にもイラストとか漫画を見たい。ごめん嘘吐いた。普通に役立たなくても漫画とか読みたいです。
スマホに入っている電子書籍を読み返しながら溜め息を吐く。これのアニメが途中だったんだよね……好きなキャラがまだ出てなかったのを思い出してダメージ倍ドン。
そんな私の様子を見ていたイースは頬に手を当てながら首を傾げて、
「出来ると思うわよぉ?」
と言った。
………ん!?
「え、出来るの?!」
思わずイースに駆け寄って肩を鷲掴み真顔で問う。
「マジで?」
「マジよぉ」
くすくすと笑いながら、イースは至近距離で私の顔を覗き込んで妖艶に微笑んだ。
「昔そんな事をやってのけた勇者が居たから出来るんじゃないかしらぁ?」
「マジでか…」
「マジよぉ」
衝撃の事実と色気にノックアウトされて腰が抜けた。まあ下は普通の床だから気にしなくて良いけどね。てか、え?マジ?マジでスマホの電波通じさせるとか出来るの?
出来るなら色々と見て今の内にスクショ撮っておきたい!
「……完全にこっちの世界で役立つかもしれない知識確保の為なのねぇ」
「え、そりゃ当然でしょ?」
こっちで生きていくんだし、こっちの世界で役立ちそうな知識を確保出来るなら確保しておきたい。私勉強はポンコツだったから何も役立てないんだよね!
料理くらい知ってれば作れるんだけど、それすら知らんポンコツである。
何でそんな事を言うのかなと思っていると、いつの間にか背後に居たハニーがこっそりと耳打ちして教えてくれた。
「ミーヤ様、おそらくイース様はミーヤ様が元の世界と繋がる方法を得たら帰る方法を探ろうとするのでは?と懸念していたのではないでしょうか」
「え、マジで?」
小声で聞くと、今度はコンがこっそりと答える。
「マジだ。イースの匂いにも少しだけ不安が混ざってたし、ミーヤの答えを聞いた後には安心の匂いになってた」
二人の言葉を聞いてイースの方を確認すると、イースは少しだけ頬を赤らめて視線を逸らしていた。えっイースが照れてるの新鮮!可愛い!
「……ミーヤ?淫魔に可愛いはあんまり褒め言葉じゃないわよぉ」
いやいや、拗ねたようにそう言うところが可愛いんだって。
心の中でそう反論すると、イースは弁解するのを諦めたらしい。溜め息を吐いてから体を黒い靄で包み、突然女教師スタイルになった。
「はぁい、じゃあエッチな女教師モード♡解説ついでにお着替えよぉ。これなら可愛い系じゃあ無いでしょう?」
そんなに可愛い扱いが嫌なの!?でも確かにセクシー路線めちゃくちゃ似合ってます!
心の中でそう叫ぶと、イースはにっこりと満足そうに笑った。
「よろしい。じゃあささっと説明するわぁ。勇者がそういったスマホとかの電波を繋げてたのは、大体神の恩恵ねぇ」
「アウトじゃん」
出来るかと思ったら出来んタイプやったでござる。神様の恩恵は持ってないっす。
「大体って言ったでしょう?他にも方法があったのよぉ」
イースは色っぽい褐色の指で私を指差す。
「前に出来てたでしょう?雷魔法。あの魔法の雷だか電気だかをスマホに通すと電波が通じるようになるらしいのよねぇ」
「マジで!?」
「マジよぉ♡」
ハートマークが目に見えるようなにっこり笑顔だった。
えー、そんな方法が……ショートするとかじゃないの?
「……試す…?」
あら、もう寝たかと思ったら起きてたのねラミィ。しかも興味津々っぽい。
………もし本当に通じたらめちゃくちゃ助かるよね。
「よっし!まずはやってみよう!雷魔法発動!」
発動の為に目を閉じて集中だ!最初はまず、電気を纏うイメージをして……。
「あ!ミーヤ様また雷を纏ってますよ!」
「改めて見ると、光魔法とは違った光り方なんだな」
よし、ハニー達の言葉に出来てると確信して目を開く。あ、本当だバチバチしてるわ。明るいけど光魔法とはちょっと違って電気感があるね。
そしてこう……手だけに集中、かな?
「あ、よし上手くいった」
上手い事スマホを持っている左手だけに電気が集中した。めっちゃバチバチしてるから怖いけどね!漏電してるコンセントみたい!見た事無いけど!
……スマホ、死んでないよね?
不安になりながら電源を付けて再起動すると、スマホの上のところに電波通じてますのあの……ワイファイマーク?名称は知らないけどあのマークが出てる!
早速何かを検索して本当に電波繋がってるかを確認……何を調べよう!?えーと、えーと、じゃあ勇者で検索!
「うわ出た!繋がった!」
勇者って調べたらバッチリ検索結果出てきたよ!あ、勇者って「勇気にあふれる(勇気ある行いをした)人」って意味なんだ…。初めて知った。とりあえず記念にスクショしておこう。
スマホの電波が繋がった事に感動していると、服を引っ張られる感覚によって現実へと意識が呼び戻された。
「あの、ミーヤ様。異世界の言語だからか私には読めないのですが、繋がってるんですか?」
あ、成る程。異世界言語だと読めないのか。だから画面を一緒に見てたハニーとコンが眉を顰めてたのね。イースは普通に覗き込んでたけど、イースに関しては私の魂や他の勇者の魂を食べて知識があるから多分理解してるんだと思う。イースは色々と規格外だからチートである事を気にしてはいけない。
とりあえずちゃんと繋がっているという事を伝える為、私は笑顔で頷く。
「バッチリ繋がってる!これで蜂の生態とか蛇の生態とか狐の生態とか色々調べれるよ!ブラッシングの仕方も検索出来るし、肉の加工法も色々わかるよ!」
知識が無さ過ぎるせいで、皆への対応の仕方が合ってるのか心配だったんだよね!これで安心だ!
そう思って言っただけなのに、何故かイース以外の全員が顔を覆って数分間動きを停止してしまった。え、何で?そしてイースは何故笑い転げてるんだ。
主なら従魔の生態を知っておきたいって思うのは当然じゃない?




