ゆったりとした朝
ふ、と意識が覚醒した。
瞼を閉じていてもわかる眩しさ。何となく肌寒い空気。
朝だなと思って起き上がると、何故かコンが床で寝ていた。
「………んん?」
あれ、おかしいな?昨日の記憶を辿る。
昨日はどんちゃん騒ぎをしてお酒を飲みまくって、アルディスがすっげー酔い潰れて、知り合いらしい冒険者さんがアルディスを連れて帰って、私達は部屋に戻って、酒飲んだ状態でお風呂は良く無いねって事で光魔法クリーンで綺麗にして、全員でベッドに寝転がって寝た。
……うん、ちゃんと覚えてるな。頭が痛いとかも無い。昨日は結構飲んだけど私本当にお酒強いんだな。全然平気だわ。
さて、何でハニーもラミィもベッドで寝てるのにコンだけベッドの下で丸まっているのかを教えてくれないかな?イース。
「うふふふふ、ミーヤも色々と慣れたわねぇ」
「そりゃあね」
部屋の中に置いてある机と椅子、その机の上にイースは腰掛けていた。何故椅子を使わないのかはわからないけど、机の上に座ってる方が扇情的だからじゃないかな。
前は不思議な気分だったけど、イースが寝ないってのには流石に慣れた。だから眠ってる時でも完全に安心して熟睡出来るんだけど……寝てる間に一体何があったんだ。
「それがねぇ?コンってばミーヤを主にしてるじゃなぁい?」
「してるね」
「だから主と同じベッドっていうのがちょっと落ち着かなかったみたいなのよねぇ。まだミーヤの匂いが完全にコンに馴染んでもないからぁ、ベッドの下が一番丁度良い位置だったみたぁい」
何もわからない。どういう事だ。
「獣人特有のあれやこれ、よぉ」
「ならわからなくても仕方ないね!」
うん!仕方ない!だって私人間だもの!
まあ何となくで察すると、新しく家族になったペットがまだ匂いに慣れてないから落ち着かない、みたいなアレだろう。多分。犬飼った事無いから想像だけどね!
すると、特に大きめの声で会話してはいなかったが人間よりは五感の鋭い皆が目を覚ましたらしい。まずキラービー姿で寝ていたハニーが起き上がり、すぐに人間の姿へと変わった。
「おはようございますミーヤ様!」
「おはよう、ハニー」
「すみません……。従魔なのに主であるミーヤ様よりも遅くに起きてしまうなんて」
「いやそこは気にしなくて良いからね?マジで」
そんな事を言われると甘えて寝坊しそうじゃん。私は遅刻しないレベルでギリギリまで寝る女だぞ。甘やかすとその分甘えるタイプだから程ほどでお願いしたい。
「ん~……クァアァ~」
ハニーと私の会話でなのか、今度はコンが目を覚ました。ベッドの下でグイーッと女豹のポーズのような伸び。そして数回眠そうに瞬きをしてから意識が覚醒したのか、一瞬ビクッと座った状態のまま床の上で跳ねた。
「うわっ!?み、ミーヤいつの間に起きてるんだよ!」
「え、今の間?」
いつの間にって言われても、いつの間にか起きてるもんだと思うんだ。そう思って返すと、コンは慌てて尻尾についた寝癖を手櫛で直しつつ言う。
「べ、別にミーヤより早く起きれなかったとか、従魔なのに主であるミーヤが起きても寝てたとか、思いっきり油断して寝てたとか、毛並みに寝癖ついてるのを見られて恥ずかしかったりなんてしないんだからな!」
「うん、朝からコンは絶好調だね」
朝からそのテンションを維持出来るって凄いと思う。
「おはよう、コン」
「……お、おはよう…」
すると、コンの大きめの声でようやく目が覚めたのかラミィが動いた。
「………ん」
掛け布団の殆どを独り占めしながら少しの間もぞもぞと動き、布団から覗いた腕が伸びの動きを見せた後にラミィが起き上がり、薄い掛け布団はバサリと落ちた。
「………おはよ、ミーヤ…」
「ん、おはようラミィ」
ラミィはうとうとしながらも、起きる気はちゃんとあるのかゆったりした動きでベッドから降りた。これで全員起床だね。
とりあえずまずは、と水魔法で水の球体を浮かせ、それでばしゃばしゃと顔を洗った。うむ、さっぱりであります。顔がさっぱりすると少し空腹感を覚えたがイースが言うには、
「朝食の時間までにはまだあるわねぇ。一時間くらい」
との事。微妙に時間や暦が地球……というか日本と違うからアレだけど、イース曰く今は日本で言うところの6時くらいらしい。朝食が食べれるのは7時から9時まで。それまではご飯の準備中だから食べれないらしい。もし食べるなら前日に言う必要があるとか。
うーん、それじゃああと一時間もあるし……。
「昨日お酒飲んでそのまま寝たからブラッシング出来なかったし、昨日の分を今の内にやっちゃう?」
そう、昨日はコンのブラッシングが出来なかったのである。毎日ブラッシングしないと不調が起こるって言ってたし、朝の時間がある今やっちゃった方が良いかなという考えだ。
そう考えてコンに聞くと、
「お、俺は別に一日くらいブラッシングしなくったって平気だけど……ミーヤがどうしても俺のブラッシングをしたいって言うんなら仕方ねえな!」
と、顔を赤らめて耳をピコピコと揺らしながら、満面の笑みを浮かべつつ尻尾を振っていそいそと私の前に座った。うーむ、私ツンデレ属性には萌えなかったはずなんだけど、コンと出会ってから扉が開いた気がするなあ。
「うん、どうしてもコンのブラッシングしたいからやらせてね」
「おう!ミーヤがどうしてもって言うんなら仕方ねえもんな!」
私の言葉に、弾んだ声でそう言いながら尻尾が鞭のように振られる。うっかり当たると痛そうだから体勢に気をつけてブラッシングしないといけないなと思った。尻尾に攻撃されないようにブラッシングせよってミニゲームありそうだよね。
「そうです、その調子で表面を出来るだけ球体のまま維持するイメージで…」
「う、ぐ……こうか!?」
「はい。魔物でもないのにコントロールが上手ですね、コンは」
「ほ、褒められたって嬉しくなんか無いんだからな!?」
「うわっぶ、ちょ、コン落ち着いて魔法に集中して!」
「あ、わ、悪い……」
何をしているのかといえば、いまだブラッシング中です。とりあえず全体のブラッシングを終え、ラストの尻尾なんだけど……ここが一番大変なんだよね。
一番やりやすい部位ではあるんだけど、主からのブラッシングは獣人からしたらとても嬉しい事だそうだ。だから尻尾のブラッシングをすると喜びで尻尾の勢いが凄い事になり、尻尾を捕まえておけなくてブラッシングが出来ないという事態になる。対策を見つけるまで本当尻尾のブラッシングが難関だったぜ。
え、対策?それはまあさっきの話でわかるかもしれないけど、魔法の練習をする事。魔法に集中していればそっちに意識を持っていかれるから、その間に私が尻尾をブラッシングするというものである。ただしうっかり魔法を褒めると尻尾ぶんぶんが再開されてしまうから気をつけないといけない。
イースが言うには、コンがブラッシングされるのを当然だと思う程に慣れれば過剰反応も無くなるだろうって話だったけど……早くに慣れてくれると良いよね。
「……よし!ブラッシング終了!」
尻尾の毛並みを整えて、やっとこせ終了だ。コンの毛並みが良いから苦では無いけどね!むしろもふもふを一日一回一時間程堪能出来る素晴らしい時間である。
「……やっぱり、やってもらうと体の調子が良くなるな」
「そっか、じゃあ朝にやって正解だったね」
サボって夜に回してたら今日一日不調だったかもしれないと思うと主として……ね?私はブラック魔物使いにだけはなりたくないんでやんすよ。
サラツヤになった毛並みを確かめる為にコンの頭を撫でると、コンは視線を逸らしながら何度か口を開けたり閉じたりを繰り返して、
「み、ミーヤがやりたいって言ったからやらせただけで、礼なんて言わねえからな!」
と言った。
まあ言った直後に耳を伏せて尻尾が垂れたから、完全にツンデレ台詞でしかないんだよね。獣人のツンデレはわかりやすくてとんでもなくありがたい。
だからいつも通り「そうだね、ありがとね」と言おうとしたが、それよりも前にコンは顔を俯かせてボソリと呟いた。
「………いや、その、いつも凄い丁寧にブラッシングしてくれてるし……。き、嫌いってわけじゃなくて、その………あ、ありがとぅ…な」
「……!こっちこそありがとね!」
「うわっ!?」
照れながらもちゃんとお礼を言ってくれたコンに抱きついてわしゃわしゃと撫でる。いつもより少し乱暴な撫で方だけど良いよね!良いともー!あの番組終わったの寂しいよね。
にへらっと笑いながらコンを撫でていると、コンも撫でられるのは嫌じゃないのかぐいっと喉を見せてそこを撫でるように手を誘導してきた。人間でも獣人でも、喉はかなりの急所だからそこ撫でられるのってどうなんだろう……とは思ったけど本人からの許可だから即行喉を撫でる。
「…ん~~♪」
「………ミーヤ様!コンだけではなく私も撫でて下さい!」
「うおう」
気持ち良さそうに声を上げるコンを撫で続けていると、ハニーが私の服を軽く掴みながら頭を脇腹にグリグリっと押し付けてきた。そういやハニーって甘え上手だったし、それも合わさって甘えたがりなところがあるんだろうか。
勿論可愛い従魔のお願いだからハニーも撫でる。私の両手はコンを撫でていたけど、コンも満足したのか自分から身を引いた。なのでフリーになった両手でうりうりとハニーの頭を撫でる。
「よしよし、ハニーは可愛いね」
「ミーヤ様…!」
可愛いと言ったのが嬉しかったのか、ハニーは嬉しそうな声で私に抱きついた。四本腕のホールドって不思議感覚だよね。でもハニーは私よりも小さいからつい可愛いなーって扱いをしちゃうんだよ。これは仕方ない事だと思う。
「……ん」
「わ、っと。ラミィ?」
「ん………」
ぐり、と背後から圧し掛かってきたラミィが私の頬に頭を押し付けてくる。鱗と同じ神社の鳥居のような赤色をした長い髪からふわりと花の香りがして、ちょっとクラリと来た。うっわ、女性の髪の香りでノックアウトって本当だったんだ!と謎の感動を覚えた。
「……ラミィ?ミーヤに毒術使っちゃ駄目よぉ?ミーヤは普通の人間なんだからぁ」
「…………毒、違う……。これ……香術…」
「うーん、まあ香術なら回復寄りだから良いのかしらぁ」
「待って私今もしかして危険だった?」
毒って言ったよね?結局違ったけどイース今毒って言ったよね?思わずハニーの頭を撫でる手が止まる。いや普通毒使われた可能性あったって知ったら手も止まるわい。
しかし、ラミィは軽く首を横に振った。
「ん…ん。これ、香術……。香り……で、誘惑、回復、する……」
「あ、そういう?」
良かった、別にラミィに毒を使われる程嫌われたとかじゃなかったみたい。アロマテラピー的な感じなんだろうか。
ふむふむと頷きながらそう結論を出すと、机の上で足を組んで座っているイースは顔に少し影を落とし、よく見えないその瞳を怪しく光らせた。
「……でも、抜け駆けしちゃ駄目よぉ?」
にっこりと微笑んでいるが、影のせいでちょっと怖い。しかも少し声が低かった。え、何の抜け駆け?私殺害計画?勿論そんなの懸念すらしてないってわかってるでしょ脳内でふざけるくらい許してよイース!その微笑みをこっちに向けて無言の牽制止めて!
「む………わかった」
はぁ、と溜め息を吐いてラミィは私と背中合わせに座り、上半身の体重を私に乗せる。
……えっと、結局どういう事かね?
そう考えているのが表情に出ていたのか、ハニーが答えてくれた。
「そうですね……端的に説明しますと、ラミィがミーヤ様のナンバーワンになろうと惚れ薬を使ったようなものでしょうか」
「やだ危ない」
というか普通にあんな寝起きで惚れ薬のような効果のある香りを出せるってのも凄いなラミィ。
「ラミィ?」
「……ん」
「私従魔の皆の事が大好きだから、順位付ける気は無いのね」
「ん」
「だからそういうの使わなくても、普通に私は皆大好きのままだから。心配しなくても愛するさ」
「ん…!」
すり、と肩の辺りに頭が擦り付けられるのがわかる。
うーむ、不安にさせちゃってたんだろうか?あ、イースが違う違うって手を横に振ってジェスチャーしてる。じゃあ違うんだろうな、うん。イースは心を読めるから私の直感より信頼度が高い。
「うふふふふ、そんなミーヤだから私達も大好きなのよねぇ」
「え、ありがとう?」
突然何だ。いきなりそんな事言われると驚いちゃうじゃないか。どうにかお礼は言えたけど疑問系になっちゃったよ。
けれどそれも面白い事なのか、イースは影を消したいつも通りの色っぽい表情でくすくすと笑った。
「まぁ、ラミィはちょぉっと悪夢を見ちゃってたみたいなのよねぇ。あんまり良く無い夢だったから途中で割って入って違う夢を見せたはずなんだけどぉ……覚えてたのねぇ」
………うん、ツッコまない。流石はイースとしか感想が無いね!淫魔って凄いね!




