執事さんのキャラが濃い
いや、今クドウさんは関係無いんだ。それよりも……え?ガチで?マジで?男?
待って今脳内がパナソニック!
「ふっふふふふあっははははは!それっ、ふふ、パニックじゃないのぉ?あはははは!」
「心読んでまで笑わないでイース!え!?じゃあ何!?私だけ騙されてたの!?イースもコンもイーニアスの性別わかってたの!?」
「そっ、そりゃそうよぉ、っふふ。っひ、人の心を読めるんだからぁ……っふっふふふ、さ、最初からっははは!」
「あー……何で女の格好してんのかなとは思ったけど…物語では命を守る為に女装するキャラクターが居たから…。貴族って命を狙われない為に本当に女装するんだなって思ってた…」
「つまり私一人が滑稽だったのか畜生騙された!」
一通り騒いで、ぜーはーと荒い息を整えながらイーニアスに問う。
「はー…はー…。えっと、イーニアスは……女装が好きとかだったりするの?」
「違います」
「あっはい」
めっちゃ真顔だった。あと声が低かった。いや、声が低いって言っても中性的で少年っぽい声なんだけど、さっきまでの声は本当に女の子っぽい声だったからちょっとビビッた。
コホン、と咳払いをしてイーニアスは説明を始める。
「その……バーンズ家の跡取りが同性の相手と交際をしていて、別れるのが嫌だからと相談するのは……その、色々と……外聞が良くありませんので。ですから、バーンズ家やフェロール家に詳しく無い他所の冒険者の方に依頼を…。相談の時も、私が……僕が女の姿をしていれば、最悪相談の内容が他に漏れても誤魔化せるのでは無いかと……思ってたんですけどね」
少し声は低いが、やはり女にしか見えない仕草でイーニアスは微笑んだ。
「まさか匂いで気付かれるとは思っていませんでした。嘘を吐くと見抜かれるかもしれないから、と頑張って喋っていたんですが」
「あー……」
成る程納得した。そりゃ私見抜けんわ。だって、イーニアスは嘘を吐いていなかった。そして私に害意も無かった。だから嘘や害意に反応するミサンガが反応しなかったのか。
イーニアスは、バーンズ家の跡取りと言っていた。長女や一人娘だとは言わなかった。成人になるとは言っていたが、何歳になるとは言っていなかった。子供が作れないとは言っていたが、何故なのかは言わなかった。
私はライナスが男でイーニアスが女で、どっちかが子供を作れない体質なんだろうなと思っていた。だから二人に許婚が充てがわれそうって言葉に疑問を抱いた。
しかし、二人が男だったなら説明は付く。男同士では子は作れない。そして長男ってのは大事な跡継ぎ。だから、ご両親達は二人に「嫁」を充てがうつもりだったという事だ。
はーあ、真実は言ってないけど嘘も言ってない!その術私に教えてくれないかな。今の私に必要だと思うんだ、そのスキル。
さておき、
「真実を知った上で考えると……イーニアスはライナスと同性愛の関係だが、二人共跡取りだった。だから跡継ぎが必要だが、同性だから子は作れない。今まで見て見ぬ振りをしていた両親だったが、家の存続が懸かっているからと許婚の話を始めた……って事ですか?」
「そうです」
イーニアスは頷く。
「…最初から、わかっていた事なんです。男同士では子が作れない事なんて。だから……最初から終わると決まっていた恋だったから、両親も見逃してくれていたんでしょうね」
そう微笑みながら言うが、イーニアスの顔は明らかに苦痛に耐えているような表情を隠しきれていなかった。今にも散りそうなのに懸命に咲く花を連想するような表情だ。
「……でも、わざわざ依頼を出してでも解決策を見つけたかったんですよね?…諦めたく無かったから」
「…………ええ、そうです」
イーニアスは両手で胸元を強く握り締めながら、目を伏せる。その顔はただの美少女にしか見えない。
「……ずっと、ライナスが好きでしたから。転んだ時に差し伸べてくれる手も、短くカットされた藍色の髪も、金色に光る瞳も、泣いてる時に抱き締めてくれる腕も、足の遅い僕に合わせて歩くスピードを緩めてくれる足も、僕に呼びかける時の優しい声も、見つめ合った時の眼差しも、怖い夢を見て泣きついた時に聞かせてくれた心音も」
ふ、と瞼が開き、草原のように緑の色をした瞳が再び現れた。心の底から幸せそうに、イースとはまた違う甘い声で、浸るようにうっとりとイーニアスは言う。
「それら全部が、僕の好きなライナスなんです。他の女や男に、こんな想いは抱かない。だって全部違うから。僕が好きなのは、ライナスなんです。男だからとか、顔が整っているとか、そんなものじゃない」
今度は目を鋭く細めて、熱く燃える想いを瞳に滲ませながら。
「今まで僕を愛してくれていて、今も僕を愛してくれている。そんな人、ライナス以外に居ないんだから」
うわあ……めっちゃ惚気られた。思わず拍手だ。コンも隣で拍手をしている。だよね、やっぱこれ凄いよね?純愛かよ。BLだけど凄い爽やかな風を感じる。
……よし!
「わかりました!イーニアスがそこまで相手を好いていると言うのなら!私も全身全霊全力で協力して案を捻り出します!」
「本当ですか!?」
「はい!私一人だけすっかり騙されてたのは不満ですが、イーニアスのそんな素敵な恋心を潰すのも嫌なんで!これもう幸せになってもらわないと私までモヤッとしちゃう!」
私がそう言うと、背後で執事さんがうんうんと頷いた。小声で、
「今まで見守ってきたライイニが悲恋落ちなど嫌ですからな」
と言っているのが聞こえたが無視する。なんでそういう用語が異世界にもあるんだよ。勇者か?勇者が教えたのか?カップリング名まで浸透させんな!
……ごほん。
さておき、解決策を考えよう。ポンコツな頭だが是非とも頑張ってほしいですね。誰だ今の。解説と実況どっちだ。じゃない!いきなり思考逸れてる!
えーっと、まず問題は……同性愛って事はスルーで良いかな。今までご両親も見逃してたって事はそれを嫌悪してるってわけでも無さそうだし。重要なのは跡継ぎ問題だと思われる。
「ライナスはお姉さんが居るって言ってましたよね?妹さんとかは?」
「居ません。ライナスの姉とライナスの二人だけです。……ライナスの姉は、もう嫁に行ってしまったので……代わりに家を継いでもらう事は出来ません」
「そっかー…。イーニアスは、兄弟が居たりは?」
「…非常に残念な事に、居ません。姉も兄も弟も妹も」
「そうかー……」
完全に詰みに見える状況だな、コレ。どっちかに弟でも居てくれればまだ希望はあったんだけどね。一番良いのは両方に弟が居る事。そうすれば家督を譲れるし。
……ん?今何か凄い良いアイディアが脳裏を過ぎった気がする。何だ?何が引っ掛かった?こう……何か、弟が居ればっていうのが凄い良いアイディアな感じが……。
考えろ、私。悲恋やバッドエンドは苦手なんだから頑張れ私の脳みそ!お前ならやれる!ちなみにメリーバッドエンドに関しては割と好き!今そんな話してねえだろ引っ込めメリバ好きな私!
………あ、
「ねえ、イース」
「そうねぇ…。基本的に結婚の平均年齢は18から26くらいよぉ。貴族の場合は跡継ぎを早めにゲットしておきたいってのもあるからぁ、基本は成人したら即結婚ねぇ。ほら、若い方が元気な子を産めるでしょう?」
「流石イース。ありがとう」
こっちでの結婚適齢期って平均何歳なのかを聞く前に答えてくれるイースは流石過ぎる。でも……そうだね、現代日本では少子化問題が起こってたけど、戦争やバトルが身近なこっちの世界では子を作るのを前提に結婚するのか。そりゃそうだ。そういや戦国時代では16で行き遅れだって聞いた事あるし……そんな感じなんだろうか。
で、だ。重要なのはイーニアスとライナスのお母さんの年齢である。
「イーニアス、イーニアスのお母さんの年齢とライナスのお母さんの年齢ってわかる?」
「はい?ええと……」
「イーニアス様のお母様は今年30、ライナス様のお母様は今年34だったかと。イーニアス様のお母様は16でイーニアス様を出産しておりましたし、ライナス様のお母様は17でライナス様のお姉様を出産したとお聞きしました」
「あ、ありがとうございます執事さん」
さらっと執事さんが答えてくれた。助かる。にしても凄いな二人のお母さん。私より年下と同年代で子供産むとか凄い以外の言葉がねえわ。これが時代ってやつか。
んー…でも…30と34ならまだ…多分……。
考え込んでいると、イーニアスがおずおずと問いかけてきた。
「あの……母達の年齢が、どうかしたんですか?」
「ああ、いや……ご両親がまだ子供作れるようなら跡継ぎ産んでもらえないかなーって」
いないなら つくってしまえ あとつぎを。
いや冗談じゃなくて、若いならまだいけるんじゃないかなって。弟とか他に継いでくれる人が居ないから恋を諦めて家督を継ぐ必要がある?ならば親に頑張ってもらって跡継ぎを作ってもらえば良いじゃない!
それに何と言うかさ、跡継ぎ争いってあるじゃん?どっちに家督を譲るかで死ぬ程揉めるやつ。推理漫画なら実際に死ぬやつ。もしかしたらそれを回避する為に産まないでいた説とか無い?
長男生まれた!やった!子供まだ欲しいけどもし男だったら血みどろになる!じゃあここで打ち止めって事で!……みたいな。
まあ流石にそう都合良くはいかないだろうから、他に案を……と思った瞬間。
「そ、そんな手が……!」
執事さんが口元を手で覆って感動したように涙を流した。
……え、何?
「旦那様も奥様も、仲睦まじくはありますがイーニアス様が家督を継ぐ際に問題が起こっては困るからとそれ以来一切そういった交渉をしておりませんでしたが……それが!解禁される日が!!」
「あの、何でそんな赤裸々な事情を執事さんが知ってるんですか」
「使用人ですので。シーツや体調、服やその他諸々で全てわかりますとも!そういった雰囲気になる度に一旦別室に別れて精神を落ち着けるお二人の姿を見て何度涙した事か!」
何を見ているんだろうねこの人は。あとさっきまでずっと背景だったはずなのに無駄にキャラが濃い。最初の執事らしい執事はどこへ行ったんだ。お前もうただの推しカプを語るオタクじゃねえか。
思わず白い目で執事さんを見つめていると、イーニアスが瞳を輝かせて……否、獣のように爛々と光らせて執事さんに問いかけた。
「爺や、答えてくれ。……可能なの?」
その問いに、執事さんもキリッと表情を引き締めて答える。
「恐らく、可能かと。フェロール家の旦那様と奥様もかなり親しいご様子でしたが、二人目で男児が生まれたからと子作りをされなくなったと聞きました。この案は………」
執事さんはキメ顔で、
「全員が満足行く未来へと歩いていける案です!」
と、ハッキリ断言した。
お前どの立場に居る人なの?と思わずタメ口で言いそうになったが、紅茶を飲んでグッと堪える。紅茶と共に腹の中に流し込め、私。今の私は冒険者で社会人なんだから、言いたくても言えない時はこの先沢山あるぞ!頑張って押さえ込め!
必死に耐える私と、私の背中を擦ってくれているコンと、笑い続けるイースと、瞳を輝かせるイーニアスと、生涯に一片の悔いも無いようなポーズを取る執事さんが居る空間。何だこの客間。カオスか?
「そう……イーニアス様とライナス様の仲を引き裂くのは、旦那様と奥様も憚られておりました。しかし家の跡継ぎは必須!だからこそライナス様が15、イーニアス様が14となる今年までその話を切り出しはしませんでした……。しかーし!ライナス様が来年には成人してしまうとなっては、もう目を逸らし続ける事は出来ない!ゆえに両家で許婚の話が持ち上がった、というわけです……」
後半拳を下げ、顔を伏せていた執事さんはバッと顔を上げて荒波を背後に背負って叫ぶ。どっから持ってきたその荒波。
「ですが!新しく跡継ぎを産んでしまえば問題は無いのです!旦那様と奥様はイチャイチャ出来る!イーニアス様とライナス様は別れずに済む!私共使用人は推しカプが三つ共ハッピーエンドで幸せ!これ以上の答えがあるのか!?いや、無い!」
反語を使ってまで!?っつーかもう推しカプって言っちゃってるし!使用人全員そうなの!?主のイチャラブを見て喜んでるの!?ああもうさっきから本当にキャラが濃いんだよこの執事さん!
「唯一の問題は、イーニアス様とライナス様が家督を継げなくなるという点ですな」
唯一ってか一番重要な問題だろうが!
心の中でハリセンを持った私がツッコむが、イーニアスはキラキラな笑顔で言う。
「本当!?ライナスと結婚する事も出来るの!?」
「同意さえあれば性別も数も種族も関係ありませんからな!問題は跡継ぎという点一つのみでしたから……それも可能です!」
「やったあ!!」
万歳して喜ぶイーニアスはやっぱり美少女にしか見えないなー。現実逃避?うん、知ってる。無理だろうなって思いながら言った案なのに何でこんなにあっさり通ったんだろうね。異世界だから?魔法の呪文かよ。納得したわ。
そしてイース、さっきからチラチラこっち見ては笑うのを止めろ。イースもうずっと笑ってんじゃん。この空間で今私の癒しになれるのコンだけなんだけど。心配そうに私の表情を窺ってるコンしか癒しが居ないんだけどどうなってんだ。
「ミーヤさん!本当にありがとうございます!依頼して良かった!」
華やかな……いや、少年のような笑顔のイーニアスに手を握られ、まあ笑ってくれたなら良いかなと思う。諦めた方が楽だぜと耳元で悪魔が囁いてるのが聞こえる。うん、諦めるって大事だよね。何を諦めるのかすらもうよくわかんないけどね!
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「今晩にでも両親に話して、僕の弟を作ってもらいます!!」
ひまわりのように満開の笑顔でそう言ったイーニアスに、私は笑顔で異世界の現代医学によるアドバイスを伝える事にした。
「私の故郷には、子供を作る時に女の人をしっかり気持ち良くさせると男の子が生まれやすいってジンクスがあるから是非伝えておいてね!」
ほら、男の子が生まれてくれた方が話しが早くて良いじゃん?
ちなみに女の人が気持ちよくなると男の子が生まれやすいっていうのは、実際に現代医学がそう言ってたから信用しても良いと思う。あとは祈れ。私からは以上である。イース笑い声もうちょっと抑えて。




