待って!!!!
「……恋の、相談ですか」
「はい…」
あー背中に嫌な汗が!やばいって!私乙女ゲームをプレイした事はあってもリアル恋愛ゼロだからね!?表情を笑顔で固定したままイースをチラ見してわかんない時は助けてね!とアイコンタクトしたら顔を逸らされた。
「……っ……ふふ」
笑うな!今私必死!必死に表面取り繕ってんの!心読めるならわかるでしょ!イースは恋愛すっ飛ばした関係が多かったかもしれないけどわからないわけじゃないよね!?ほんっとー私無理だからね!?乙女ゲームはどれだけ簡単なゲームだろうが攻略サイトガン見して確実なルート行く派なんだよ私は!確実性が欲しいんだ!あとゲーム下手だし!わかるか私の駄目さが!今本当必死だからね!?おい肩震わせるなイース!!(パニック)
背中から滝の様に冷や汗を流していると、匂いで私がとんでもなく緊張してるのがわかったのかコンが軽く背中を叩いてくれた。心配されているのが伝わってきたから一旦息を思いっきり吐いて、ゆっくりと吸う。深呼吸を何度か静かに繰り返して……よし大丈夫だ!ありがとうコン!
どうにか精神が落ち着いてきたから、このタイミングを逃さない内にイーニアスに質問だ!
「ええと……恋の相談と言っても色んな悩みがあると思いますが……何に悩んでるんですか?」
まずはこれ!一体何に悩んでいるのか!これ重要!恋っつっても片思いから両思い、昔見たあの人への気持ちとか許婚とか、何かもう無限にあるからね!
すると、イーニアスは膝に置いた左手でドレスのスカートを握り締めた。皺になりそう。そして右手は胸元を握り締める。え、やだ相当思い詰めてるの?
「……もうすぐ、私は成人になるんです。そのせいで両親が……無理矢理にでも許婚を付けると言い出して…!」
「うっわあ」
無理矢理はいかんでしょうよご両親。
「つまり、イーニアスは婚約者を無理に宛がわれるのが嫌だと」
確認の為にそう言うと、イーニアスは胸元をより強く握り締め叫ぶ。
「それだけじゃないんです!私はフェロール家の跡取りであるライナスと恋人関係なんです!」
「恋人有り!?」
ご両親よそれはいかん!家族とはいえ横槍入れると馬に蹴られてしまう!
「えーっと、ちょっと待ってください。ご両親はイーニアスに恋人が居る事をご存知で?」
「……知っている、はずです。私とライナスは幼馴染で、よくお互いの家に遊びに行ったりもしていましたから。ライナスの姉も、よく私達に恋のアドバイスを教えてくれました」
んー?じゃあオッケーじゃないのか?相手のライナスって人もフェロール家って家名があるなら貴族だよね?平民相手だと厳しいかもしれないけど貴族なら良いんじゃないの?お姉さんも協力者っぽいし。
あ、でも、
「もしかしてバーンズ家とフェロール家の仲が悪くて駄目とか?」
「いえ……両親共に仲は良いです。私とライナスの交際も、見て見ぬ振りをしてくれていますし……」
そこまで言って俯いたイーニアスの瞳から大粒の涙が零れ、皺になりそうな程の力で握り締めているスカートにポタリと落ちるのが見えた。
「でも、私とライナスじゃ駄目なんです。私達はそれぞれの家の跡取りだから……」
「え、ええっと……イーニアスがフェロール家に嫁入りするんじゃ駄目なんですか?」
慌ててそう聞くと、イーニアスは顔を上げる。その幼さが残る顔には儚い微笑みが浮かんでいた。
「……駄目なんです。私とライナスでは跡継ぎが作れないから…」
「おっふ」
やっべえよやっべえよ地雷ばっかり踏み抜いてる気がするよ!?えー……まず頭の中を整理しろ私!
良いか?まずイーニアスとライナスは恋人同士だが、子供が作れないらしい。イーニアスかライナスのどっちかが子供を作れない体質なのかも知れない。それは流石に詳しく聞けん。
で、イーニアスの両親はイーニアスが成人するから許婚を付けようとしている。跡継ぎの為との事。……あれ、これだと子供作れない体質なのライナスなのか?
えっと、それで、子供が作れないんじゃ二つの家から跡継ぎが居なくなるって事に等しい………って事?それで今までは交際を見て見ぬ振りをしてたけどもう大人になるんだからって事?ああんよくわからんぜよ!私推理ゲームでどれだけ詰んだと思ってんの!?お姉ちゃんが攻略無しでやれって言ってきたからやった推理ゲームではチュートリアルで付いていけなくなったレベルですよ!どうもポンコツですよろしゅうな!(パニック)
私が思考のラビリンスに捕らわれて脳内で咆哮をあげていると、イーニアスはその緑の瞳から玉のような涙をほろほろと流し、両手で顔を覆った。
「このままでは、私にも、ライナスにも、よく知りもしない許婚が充てがわれてしまうんです…!両親の言っている事が正しいのもわかってるんです!私達はバーンズ家とフェロール家を支える大事な跡取りだという事も!…でも、でも……!私は、ライナスと一緒に居続けたい……!」
「イーニアス……」
イーニアスの必死の嘆きに、私も思わず心が締め付けられ………え、待って?今何かおかしくなかった?今確実に何かの矛盾あったよね?え、待とう?ちょっと待とう?何か決定的に私見逃してるよね?何かを見逃してるよね?え?
………えっと、待ってね?少し俯いて眉間を指で押さえる。考える人のポーズだ。今イーニアスの姿を視界に入れると決定的な何かを見逃しそうだからちょっと目を瞑るね。
あの……ライナスにも許婚って言った?言ったよね?でも、あの、イーニアスも許婚を充てがわれそうなんだよね?……で、二人の間に跡継ぎは作れないんだよね?
……おかしくね?私てっきりイーニアスかライナスのどっちかが子供作れない体質かと思ってたんだけど、違うの?やっべ混乱してきた。
「……あの、イーニアス。ちょっと聞きたいんだけど良いですかね?」
「…?はい、何でしょう……?」
ずっと背後で壁と同化するように立っていた執事さんから手渡されたハンカチで目元を拭っていたイーニアスは、少し鼻を鳴らしながらも返事をしてくれた。
が、私はそんな彼女に酷な質問をしなくてはいけない。あー嫌だ。
「あの………なんでイーニアスとライナスでは子供作れないの?」
「……っ!」
あーやっぱり地雷だった!
イーニアスはぎゅっと唇を噛み締め、瞳に涙を滲ませて俯いてしまった。体を震わせるイーニアスに、何かフォローを入れて……あと本当に申し訳ないけど説明を求めなければ!と考えた瞬間。
「え、ミーヤの故郷では男同士でも子供が作れるのか?」
隣に座っていたコンから思いがけない言葉が飛び出した。
「……え、男同士?」
「?ああ。相手のライナスって男なんだろ?姉が居るのに跡継ぎって事は男だよな?」
「そ、そうだと思うけど…」
すると、コンは心底不思議そうに首を傾げて言う。
「イーニアスも男で、ライナスも男だろ?魔物ならともかく、人間のオス同士じゃ子供は作れないんじゃないか?」
「……イーニアスが、男?」
「ああ。服装は女物だけど、匂いが男………だ、から……」
絶句する私の態度に、コンも私の誤解をようやく悟ったらしい。恐る恐るといった様子で私の顔を窺いながら、言う。
「……まさか、ミーヤ………イーニアスを女だと思ってたのか?」
その言葉に、とうとう私は爆発した。
「思うに決まってんじゃん!?え!?は!?待ってわかんない!わかんない!世界の全てが今は疑わしい気分だけど!?え!?は!?」
頭を抱えて叫びながらイーニアスを見ると、イーニアスは俯いたまま顔にハンカチを当てて黙り込んでいた。背後に佇んでいる執事さんはマジックのネタがばれたマジシャンのようなあーあ顔。そしてイースはソファの肘掛けに上半身を預けて必死に声を殺して笑っていた。イースお前私の混乱もイーニアスの性別もわかった上で黙ってたな!?
「よし、よし、うん、大丈夫、大丈夫だから落ち着け私のハート」
はあーーーー……と大きく息を吐き、精神を落ち着ける。宇宙だ。宇宙の事を考えろ私。私の動揺を察したのか、コンが軽く背中を擦って声を掛けてくれた。
「あー……ミーヤ?大丈夫か?」
「大丈夫。ありがとねコン。………で、えっと……イーニアス?」
声を掛けると、イーニアスはハンカチを下ろしてこっちに顔を向けた。目元と鼻が赤くなっているが、やはり美少女にしか見えない。
「……はい」
「大変不躾っていうかアレな質問なんだけど……性別、お答え願えますか?」
声が震えているのを自覚しながら口にしたその質問に、イーニアスは頭を下げて答えた。
「……騙すような真似をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。……私、イーニアス・バーンズは………男です」
嘘やろクドウ!
この世界の獣人は五感が鋭いのでどれだけ見た目を取り繕おうと男女の違いは本能的にわかるし、正直言って性的な経験があるかないかすらもわかっちゃったりします。




