この世界の住人、結構面白い人が多いらしい
「貴女、エルフの友人なの?」
「え、あ、はい」
「相手の名前は?言える?」
「メリーじいさん…、メリードさんです」
「……合ってるわ…」
エルフの受付嬢さんにめちゃくちゃ尋問されている。何故だ。私は依頼を請けたいだけなのに。その思いが届いたのか、お姉さんはハッと気付いたように咳払いをして椅子に座りなおした。
「…ごめんなさいね。エルフの友人なんてしばらく見た事が無かったから。ええと……貴女の名前を聞いても良いかしら?」
「あ、ミーヤです。魔物使いの冒険者です」
「ミーヤね。私はシルヴィアよ」
優しく微笑んだシルヴィアさんが右手を差し出したから、私も右手を差し出して握手する。わー指ほっそ!?え、しかも爪めっちゃ綺麗なんだけど凄い!
「あ、あの子何者なんだ…」
「何か凄そうな従魔を従え、アルディスに膝を折らせ、そして氷の受付嬢と呼ばれるシルヴィアの鉄面皮まで崩しやがった…!」
「依頼を達成しようが花を贈ろうが食事に誘おうがうっかり大怪我をしようが崩れなかったあの氷の表情が、春のように優しい微笑みを!?」
「あんた嫌われてるんじゃないの?」
「シルヴィアが微笑んだのも凄いけど、シルヴィアから握手を求めたよ!?基本的に同族であるエルフ以外とは接触すら嫌うのに!」
「おい、シルヴィアが謝ったぞ……」
「ああ、しかもあんなあっさり自然に……」
「あの子騙されてないか?大丈夫か?」
後ろの方から聞こえる声が凄い。シルヴィアさん普段どれだけ無愛想なんだろう。あと少し黙った方が良いと思う。シルヴィアさんが私の後ろに向けている視線が絶対零度。
「……さて…ごめんなさい、何の用事だったかしら?」
「この依頼の受注をしたいんです」
「ああ、そうだったわね。それじゃあギルドカードを提出してくれる?」
「はい」
言われた通りギルドカードを提出する。これは依頼を受ける時に必要な肯定だ。ギルドカードに依頼をインプットさせる事で、誰がどの依頼を受けているのかとかを判別するらしい。期限の日数とかもこれですぐわかるんだとか。
「それじゃあ…花屋の手伝いと老人の話し相手と貴族の内密な相談依頼の三つね。受理します。はい、ギルドカード」
「ありがとうございます」
戻ってきたギルドカードを仕舞う。後は依頼人の人達に従魔でも大丈夫かを確認しに…と思って移動しようとすると、
「ミーヤ、ちょっと良いかしら?」
「はい?」
シルヴィアさんに呼び止められた。一応後ろを確認したが誰かが並んでたりもしてないし大丈夫……かな?後ろに列が出来てるとプレッシャーを感じるのが日本人の特性だから気にしちゃうんだよね。
「どうかしました?」
「その……私とも、友人になってくれないかしら?エルフはどうしても他の種族に壁を作ってしまうから……人間の友人が出来たら、嬉しいわ」
恥ずかしそうに少し頬を赤らめながらのその台詞花丸!私が男だったら落ちてたよ!あー良かった私が女で!女でも結構危ないレベルで可愛かったけどね!
そんな気持ちを無理矢理押さえつけ、笑顔で応じる。
「勿論!私もシルヴィアさんとお友達になりたいです!」
「本当!?…嬉しいわ!人間が相手だとどうしても気が抜けなくて……エルフの友人であるミーヤとなら、安心して喋れるわ」
そう言ってもらえるのは嬉しいが、メリーじいさんの話を思い出すと気が抜けないの意味って…。
「……人間相手で気が抜けないのって、子供が突飛な行動に出て怪我をするんじゃないかみたいな感じですか?」
確かメリーじいさんの話では、エルフにとって人間は子供にしか見えないから凄い心配になるとかじゃなかったっけ。プライドや意地っ張りのせいで厳しい言い方になるらしいけど。
だから気になって聞いてみると、どうやらその通りだったらしい。シルヴィアさんが苦笑いになった。
「…ええ。特に冒険者はすぐに怪我をするでしょう?危ないとわかっているのに同じ様な怪我をしてるのを見ると…つい、厳しくしちゃって。食事に誘われる時も大体酒場が多いから、酔って怪我でもしないか心配で酔えないのよね」
「皆成人済みだから大丈夫ですよ」
「…そうね。でもエルフは百歳で成人とされるから……二十代なんて一番不安な時期に思えちゃって」
「あー…。人間からしたら丁度3~5歳くらいの時期なのか…。それは動きが活発になる時期だからハラハラしちゃいますよね」
思わず苦笑い。そりゃエルフも心配症になるわ。最近歩けるようになったばかりでしょ!?みたいな歳の子が魔物と戦って怪我したりして帰ってくるんだから……おおう肝が冷える。氷の表情で固定されちゃうのも仕方が無い。
「え、あれ心配しての言動だったのか…!?」
「俺、何度か夜の方も誘ったんだけど、あれ全部子供の妄言だと思われてたのか…?」
「どんまい。今夜飲もうぜ」
「確かに3歳くらいのガキって信じられない行動に出るからな…」
「こないだ兄さんのトコの子が魔石を口に入れようとしたから焦ったわ。……シルヴィアには私達がそんな風に見えてるのかしら」
「いつも「無謀な行動には出ないように」とか「自分の出来る事や出来ない事くらいわかるでしょう?」とか言ってたのは全部そういう意味か……。めっちゃ怒られてるって思ってたけどあれ全部子供に言うノリだったのか…」
「明らかに無理な事を出来ると思ったからってやろうとするのが子供だもんね……。冒険者も子供っぽいのが多いし……そりゃあたし達と飲みに行ったりするわけないか」
「心労が凄い事になりそうだもんな……今度からは気を付けるようにしねえと」
後ろでざわざわしてた人達がさっきとは違う感じのざわざわ状態になった。うん、まあ、四十代からしたら二十代は子供にしか見えないように、エルフからしたら大体赤ん坊にしか見えないよね。その辺の誤差は仕方ない。
まあでも、シルヴィアさんの誤解?は解けたみたいだから良いかな。こういうのの積み重ねでエルフのツンツンイメージを実はツンデレやオカン属性ってだけなんすよーって意識改変……出来たらエルフも生きやすいんじゃないかな。
「よし、じゃあ私行きますね!依頼達成してきます!」
「ええ、行ってらっしゃい。あ、もしバーンズ家で面倒な事に巻き込まれそうだったら言うのよ?言ってくれれば友人として助ける事が出来るから。……ね?」
「はい!その時は頼りますね!大丈夫そうだったら大丈夫だったってちゃんと言います!」
シルヴィアさんにお辞儀をして、イース達の所へと戻る。後ろに人並んじゃったしね。その人がシルヴィアさんに話しかけるとシルヴィアさんの顔はすぐ無表情になってしまったが、多分本心は伝わるようになる!……はず!
騒いでた外野の人達が理解を示してくれればシルヴィアさんもハラハラしないで済むんじゃないかな。節度を守ってくれるようになれば他の人も安心出来て良いしね。
「ただいまー。あ、アルディス復活してる」
「な?すぐ立ち直るって言っただろ?」
「せめて心配する振りくらいしろよ!ったく……」
ははは、そう言われても落ち込んでたアルディスがいつの間にか復活してるーって感じなんだよね、こっちとしては。
「あ、依頼受注したしさっさと依頼人の所に行こうかと思ってるんだけど、アルディスはどうするの?」
一緒に行くって言われても他言無用な相談依頼のせいで同行は無理だけどね。
それがわかっているからか、そもそもここに来た目的からなのか、
「俺は普通に依頼を見て、丁度良さそうな依頼を受けようと思ってる。失敗しないように気をつけろよ」
と言ってくれた。うるさかったり落ち込んだりとキャラが把握出来ていなかったが、アルディスはお兄ちゃん属性なのかな?軽く頭を撫でてくれたし、良いお兄ちゃんだな。
「あ、そういえばミーヤ達はどこの宿屋に泊まってるんだ?」
「「冒険者の食事処」よぉ。知ってるぅ?」
あの宿屋そんな名前だっけ。疲れてたから宿屋の名前なんて把握してなかったぜ。イースの言った宿屋の場所がわかったのかアルディスは納得したように頷いて、
「ああ、あの持ち込み式のトコか。了解。じゃあ今晩行くからちゃんと待ってろよ!コンの名付け祝いにパァッと酒盛りするからな!」
と言ってコンの背中を軽く叩いて依頼ボードの方へ行ってしまった。
あっさりだね!?ま、まあ私達もこれから依頼人の人のところに行かないとだから助かるけどさ。
「えーと…じゃあ、依頼人のところに行こうか」
「そうねぇ」
「はい!」
「……ん」
「おう!」
私の声に、複数の声が返事を返す。……異世界でも寂しくないのは、本当に従魔達のお陰だな。
まずギルドから出て、バーンズ家は最後として……近いのは老人さんかな。そう思いお家に向かい、依頼人であるお爺さんに私の従魔がお話を聞くという形でも良いかと聞いてみた。
「勿論だとも。相手が人間でも人間じゃなくても、婆さんの相手をしてくれたら喜ぶよ。お友達が遊びに来てくれたりはするけど、初めて会う人と会話するのも良い刺激になるみたいでね」
お爺さんは快く許可を出してくれた。あー良かった。一応本当に大丈夫なのか、とお婆さんとラミィが会話している様子を少し見ていたが、
「それでねぇ、あの時のお花畑がとっても綺麗だったのよ。私のお父さんが連れて行ってくれたお花畑でね。だからお爺さんにプロポーズされた時にね?私ちょっと意地悪してそのお花畑に連れてってくれたらって言ったのよぉ」
「……そしたら…?」
「そしたらね?お爺さんってば少しの間留守にするって飛び出して行っちゃってね?わがままを言ったから嫌になったのかしらって思ってたんだけど、わざわざ私の実家まで行ってそのお花畑の事を聞きに行ってくれたの。でもそんな事知らないじゃない?だからね、お爺さんが帰って来た時に痣だらけでボロボロだったから、私すっかり驚いちゃってねぇ」
「…うん」
「でもね、お爺さんは私にプロポーズする為に頑張ってくれたんだって、話を聞いてたらわかっちゃってね?プロポーズを受ける条件としてお花畑の話をしたのに、お爺さんってば両親への挨拶を済ませてからそのお花畑を探し出したんだもの。…もう、お爺さんったら私をお花畑に連れて行く前にプロポーズの先の事をやっちゃってるのよ?ふふふ、そういうところを好きになったんだけどねぇ」
と、凄い楽しそうに話していたから安心した。ラミィは嫌そうな顔もせず、時々先を気にするように続きを促すし、お婆さんもそれに合わせてどんどん楽しそうに喋りだしていた。相性良いな。というかお婆さんの惚気が凄い。
隣で様子を見つつ聞いていたお爺さんが段々と顔を赤くしていたから、その辺りで私達は家を出た。何時までも仲睦まじくいて欲しい夫婦だったな。
さて、次は花屋さんだ。商店街っぽい道を抜けると、女の子向けというような小さいが可愛らしい作りのお店があった。奥で椅子に座って休憩中らしい花屋の売り子さんに話しかけると、このお姉さんが依頼人本人だった。
まず、私ではなくキラービーのハニーが依頼を受ける形でも良いかと聞くとお姉さんは、
「本当!?うっそやだ本物のキラービー!?本当に今日一日働いてくれるの!?ありがとううううう!!キラービーが蜜を集めると、その花達の受粉率が上がるのよ!つまり花の世話のプロ!勿論お願いするわ!寧ろ報酬を倍額支払うから是非お願い!うちの店で売ってる花は全部裏にある私の家で育ててるんだけど、最近花の売れ行きが良いせいでそっちの世話が追いつかなくて……子供の手伝いでも無いよりマシと思ってたらキラービーのお手伝いが来てくれるなんて最高だわ!私って何て幸運なのかしら!」
と、凄い喜んでくれた。最後の方は跪いて何かに祈ってたからちょっと引いた。まあ、うん、ハニーのお手伝いをそんなに喜んでもらえて主としては嬉しいけどね。ミサンガも反応してなかったから本心なんだろうし。でも一応交渉に交渉を重ね、報酬は倍額にしなくて良いですと説得した。何で報酬を受け取る側がそんな交渉をしてるんだろうね。
お姉さんは中々納得してくれなかったがハニーが、
「本来の報酬はミーヤ様への報酬となりますから、それは定額でお願いします。どうしても報酬の上乗せがしたいのでしたら、花の世話の最中に花の蜜を沢山吸って持ち帰ってもよろしいですか?」
と言ってくれたお陰でどうにか納得してくれた。キラービーが花の蜜を吸う事で花の増殖率?繁殖率?が上がるらしいからお姉さんはそれは仕事の一部に入るって主張したけど、ハニーの交渉により花の蜜を持ち帰るのが上乗せ分という事で話は纏まった。うんうん、うっかり私達がここで報酬の倍額を貰っちゃうと後々面倒になりかねないからね。こういうの大事。
ハニーの方も大丈夫そうだという事で、ハニーに見送られながら私とイースとコンの三人でバーンズ家へと向かう。ちなみにハニーとラミィは日暮れ前に迎えに行くという事になっているから、それまでに相談が終わってれば良いんだけどね。
「おおー……」
「デカイな…」
「貴族ならこんなもんじゃなぁい?」
到着したバーンズ家は、バーンズ家っていうかバーンズ邸って感じのお屋敷だった。しかも周辺一帯お屋敷ばっかりだし。治安の問題もあるんだろうけど凄い居心地が悪い。
いや、うん、日本のビルとか知ってるけどさ、洋風の大きいお屋敷って何かビックリするよね。というかイースの落ち着きっぷりが頼もしい。
立派な門の近くを見渡すが、誰も居ない。門番とか居ないのか。どうやって来客を知らせるんだろう。大声で呼んでも良いけど、多分依頼人は内密な相談事をしたいんだよね?
どうすっぺかなーと頭を掻きながら考えているとイースが、
「ここに鐘が吊るされてるでしょう?真ん中に垂らされてる紐を動かして鳴らせば出てくるわぁ」
と言って、門の横に設置されていた鐘を鳴らした。
あ、それチャイムだったんだ。音が他の家と混ざらないのかと他のお屋敷を見回してみると、どうやらそれぞれチャイムが違うらしい。鐘とハンマーがセットになってたり、木の板が吊るされていたりと結構違いがあった。成る程、扉の取っ手をゴンゴン鳴らすのは知ってたけど門の外からだとこうやって来客を知らせるのか。
鐘……鐘っていうかベルかな。ベルの音が響いてから少し待っていると、重厚で凝った作りの玄関扉が開かれた。中から老年と思われる白髪の執事が現れ、
「ギルドから依頼を受けたとの連絡をいただき、お待ちしておりました。準備の為にお待たせしてしまい申し訳ありません。どうぞ、中へ」
と言って出迎えてくれた。あ、ちゃんと連絡は行ってたんだね、良かった。最悪不審者扱いされる可能性があった事に今更気付いて肝が冷えたよ。
開けられた門を通り玄関から屋敷の中に入ると、ホールの中央に少女が立っていた。私より少し幼く見える、綺麗な長い金髪をハーフアップにした緑の瞳の美少女だった。
彼女は清楚系のドレスの裾を掴んで軽くお辞儀をする。映画で見るお上品な挨拶のやつだ!
お金持ち相手の礼儀とか知らないんだけどどうしようと動揺していると、美少女は微笑ましいものを見るかのようにその垂れ目を細めてくすりと笑う。
「お気になさらず。あのような依頼の為に屋敷まで足を運んで下さった大事なお客様にマナーなど強要致しませんから」
そう言うと彼女は少し憂いたような表情になり、
「……あの様に不審な依頼を受けて下さり、誠に感謝しております。どうしても他の方の意見をお聞きしたかったのですが、とてもプライベートな相談で…」
と言って俯いてしまった。
「あ、いえいえ。年頃のお嬢さんなら隠したい悩み事の百や二百はあるって私のお姉ちゃんが言ってましたから」
微妙にフォローになっていない気もするが仕方ない。精神がタフな人達が周りに多くてフォローの仕方がわからないんだよ。イースからそれはフォローになってないんじゃないかって気持ちが込められた視線が背中に刺さっているが無視する。あ、イースとコンは私の背後に居ます。従魔の二人の方が先行するのはしつけがなってないって扱いになっちゃうらしいんだよね。
それはともかく、私のフォローになってないフォローを受けた美少女はきょとんとしたかと思うとくすくすと笑い始めた。
「ふふふ、そうですね。……ありがとうございます。立ち話もなんですから、こちらの客間へどうぞ。お茶とお茶菓子もありますから」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、こちらは相談を聞いてもらう側ですから」
案内してくれる美少女の後ろに付いて行くと、とても豪奢な客間が現れた。現れたって表現はおかしいんだけど、現れたって感じの凄い部屋だった。何かキラキラしてるし眩しい。あとソファとテーブルがめっちゃ高級品っぽい。
勧められるがままソファに座り、イースとコンも私の両隣へと腰を落ち着けた。テーブルにはクッキーとお茶……紅茶かな?が用意されていた。
緊張状態でどう行動すれば良いのかわからずにいると、まず動いたのは美少女だった。
「そういえば、自己紹介もせず申し訳ありません。私はこのバーンズ家の跡取り、イーニアス・バーンズと申します。気軽にイーニアスと呼んでくださいな」
「あ、私は魔物使いのミーヤです。隣の二人は私の従魔で、左側に座っている女性がイース、右側に座っている狐獣人の男性がコンです」
そういえば私も自己紹介をしていないという事実に気付き、慌てて自己紹介。ちゃんとイースとコンの紹介もしておく。美少女……イーニアスは微笑み、紅茶を飲んで唇を湿らせてから話を切り出す。
「早速本題なのですが……私の相談とは、恋の相談なんです」
憂うように目を伏せて睫毛を震わせるイーニアスの言葉に、私は頭を抱えたい衝動を必死に抑え表情を笑顔のままで固定する。やっべえ。私リアルの恋バナは苦手なタイプの人間なんだよね!少女漫画の長い片思いが苦手な私に、相談なんて乗れるのか!?




