コンの幼馴染と爆弾発言
さて、目の前のウサギ獣人に何と言って誤解を解こうかと考えていると、
「あ、アル!ミーヤに酷い事言うんじゃねえ!ミーヤは獣人のしきたりを何も知らなかったのを良い事に俺が名前付けて欲しいって頼んだんだ!」
「は!?お前が!?お前から!?獣人が主を持つなんてどんだけ大変かわかってるのか!?そりゃ良い事もあるけど主自身が拒絶したらお前最悪死ぬんだぞ!?」
「ミーヤは別に良いって言った!」
という応戦が始まってしまった。やっべどうしよ。
「え、何修羅場?」
「あれアルディスじゃね?ホラ、Dランクの」
「ああ、足技食らったら死ぬって噂の」
「俺あいつと酒飲んだ事あるから知ってるんだけどさ、ずっと村に居る同世代の名無しの事気にしてたみたいなんだよな」
「ラブ?」
「いや、普通にファミリーって感じで。弟みたいに思ってるんだとか」
「つまり気付いたら病弱だったはずの弟が健康体になって嫁貰ってたみたいな?状況?」
「真ん中に挟まれてる女の子が凄い困った顔してんだよな……はっ!?今俺が割って入ったらあの子のヒーローになれる!?」
「親の腹から生まれなおして顔面を作り直せばな」
「お前にだけは言われたくねえよ!」
おいこら外野!めっちゃ楽しそう!こっちは謎の修羅場状態だってのに外野めっちゃ楽しそう!ずるい!イースもその会話聞いて笑うの堪えてるし!ハニーとラミィはウサギ獣人が明確な敵意を持ってるわけじゃないからどうしたら良いのかわからないみたいで困ってるし!どうしろってんだ!
もう収まるまで人形の振りに徹していようかと思ったその瞬間、
「そっ、それに俺はミーヤの第三夫人って称号持ってるんだからな!称号だって俺とミーヤが一緒に居るのを認めてるんだ!俺は自分からミーヤに全部を捧げたんだ!!」
と、コンが爆弾を投下した。私は思わず足を折って床にしゃがみ込み顔を覆う。
「…………は?」
呆然と零されたウサギ獣人の低い声が怖い。そしてコン、そういう事は人前で言うもんじゃありません。
「第三夫人?」
「獣人が?女の子が第三夫人なんじゃなくて獣人が?」
「え、でも従魔はあの獣人含めて四体だよね?数おかしくない?」
「やべえめっちゃ面白くなってきた」
「誰か酒持ってねえ?これ酒飲みながら見たい」
おいこら冒険者!外野だからって呑気だなおい!あと最後の奴昼間から酒飲むな!見世物じゃねーぞ!見世物扱いすんならお捻り寄越せこんちくしょう!
ああ、もう、コンは凄いドヤ顔で腕組んでるし、ウサギ獣人は私達の行動で私がコンに強要してるわけじゃないと察したのか耳を垂らして困った顔になってしまっている。宿屋に戻りたい。というか腕の中にある依頼を受注したいだけなのにどうしてこうなった。
「あー……ミーヤ、だったか?何か全部俺の勘違いだったみたいで……その、悪かった。うちの名無し……あー、じゃなくって、コンか。コンが押しかけ女房したみたいで……」
「…いえ、大丈夫です…。まだちょっとダメージが……いや、うん、別に拒否ってるわけじゃないんで大丈夫です。コンは良い子だしもふもふだしブラッシングさせてくれるし強いしで助かってるし」
ウサギ獣人が差し出してくれた手を取って立ち上がりそう言うと、ウサギ獣人はコンの方に視線を移した。コンは自慢げな表情でふわふわの尻尾を揺らしていた。ここ数日でめっちゃ毛並みが良くなったからね。毎日ちゃんとブラッシングしてる成果である。
「…うん、そうか……。ブラッシングさせてるしブラッシングしてもらった毛並みをあんだけ自慢するって事はコンの奴が本気でミーヤを気に入ってるんだな…」
「当然だ!ミーヤは最高の主だからな!」
「…うん、ありがとね、コン。でも第三夫人の称号についてはあんまり人前で言わないでね」
そう言うとコンは何でだ?と言うように首を傾げたから、目立つからとだけ言うと納得してくれたらしい。目立つイコール私と離れ離れの可能性ありって方式になってたお陰で納得してくれて助かった。
とりあえず私が無理矢理コンを手篭めにしたんじゃないか疑惑が解けたから良いとしよう。心にダメージは負ったが仕方ない。必要な代償だったんだろう。多分。
ウサギ獣人はさっきまでの勢いが嘘のように大人しくなり、再び私に手を差し出す。
「俺はアルディス。コンとは同年代で、よく一緒に遊んでたんだ。弟みたいに思ってたから、つい……その、変な誤解をして悪かった」
耳を垂らしてるって事は多分本気で落ち込んでるんだろう。こうなる可能性があるのはわかってたし、寧ろコンの言動でダメージ入ったからアルディスの言動はノーダメージだ。問題無い。
差し出された手を握り締めシェイクハンド。あれ、握手ってハンドシェイクだっけ?前後どっちだ。まあどっちでも良いか。日本の英語は意味が伝わればそれで良いのだ。
「いやいや、心配しての言動だってのはわかってたから大丈夫ですよ。私はミーヤと言います」
アルディスの手を握ると、コンの手とは違い肉球の無い手だった。そういえばウサギには肉球が無いんだっけ。でもふわふわだから満足だ。
あ、そういえばちょっと聞きたい事があったんだった。
「あの、アルディスってもしかしてゴドウィン村長の孫でジークさんの息子さんだったりします?」
「ん?ああ。親父から聞いたのか?」
「聞いたっていうか……話をする機会があったら仲良くしてくれって」
咳払いして隠してた言葉は言わない方が良いかな。
「……あの親父が?本当にそれだけか?何か俺を馬鹿にするような事言ってなかったか?」
おっとジークさん信用が無い!アルディスの目が完全に疑いの目だ!
「えーっと……面倒事を頼むとしぶしぶだけどやってくれるから都合が良い子だと…」
「あんの猫被り親父が!ウサギの癖に猫被りやがってあの親父!毎回大荷物をグレルトーディアからコルヴィネッラまで、コルヴィネッラからグレルトーディアまで運んでんの俺なのにあの親父!!」
いかんアルディスが切れた。右足が足ダンしちゃってるよ。これスタンピングって言うんだよね?不満やストレスがある時にする行動なんだっけ。やっぱ言わない方が良かったかな?
しかし、いつもの事なのかアルディスは深い深い溜め息を吐いて自分を落ち着けたらしい。
「ふぅーーーー……」
「気にするなよ、ミーヤ。アルはちょっと感情の波が激しい奴なんだ」
「あ、うん、それは伝わった」
そうコンと話していると、アルディスはコンを見つめて感慨深げに言う。
「……コン、名無しじゃなくなったからか変わったな」
「は?そりゃ前より堂々としてるとは俺も思うけど……」
「いや、そうじゃなくて。性格。前はそんなに素直に好意を口に出したりなんかしなかっただろ」
あ、いかん。アルディスの言葉でコンがさっきまで自分がとても恥ずかしい言葉を口に出していたという自覚を持ってしまった。コンは全身の毛を膨らませ、
「なっ、ちっ、ちがっ!別に俺はミーヤが大好きだとか凄い大事だとか沢山恩返ししたいとかなんて思ってないんだからな!さ、さっきは最高の主だって言ったけど嘘だからなアレ!そりゃブラッシングは凄い気持ち良いし魔物狩ったら褒めてくれるし俺の知ってる知識を教えたら凄い喜んでくれるのは嬉しいけど!でもブラッシング以外ではスキンシップがちょっと少ないとか肉球にクリーム塗る時は気遣ってるのか凄い優しい触り方でくすぐったいとかの不満だってあるし!!」
と叫んだ。凄い惚気を聞いた気がする。思いっきり抱きついて毛並みを堪能したいし肉球を揉んだりしたいという欲望を抑えていただけなんだけど不満だったなら今日からは欲望のままに堪能させてもらう事にしよう。決定。
ちなみにアルディスは遠い目をしながら耳を押さえていた。押さえるっていうか、耳の先を握って顔の下まで引っ張って聞こえないようにしてる。
「惚気か」
「ラブラブじゃない」
「端から聞いてると惚気でしか無いぞアレ」
「最早あの黒髪の女の子、母親なんじゃないだろうか」
「母親は原初のエロスって言うもんな」
「言わねえよ」
「ブラッシングとかスキンシップとか肉球マッサージとか羨ましいその位置変わってくれ」
「ああ、お前犬獣人だもんな。こないだ獣人だからって理由で女に振られたんだっけ?」
「毎日構わないと機嫌悪くなるの面倒臭いって!何故なんだカーナ!」
「そりゃ毎日は面倒臭いわよ」
「女って結構冷たいよな……」
冒険者達の会話が凄いテンポ良いんだけど。犬獣人さんは良い彼女見つかると良いね。ファイト!
すると、イースが軽く両手を合わせて音を鳴らし注目を集める。
「はぁい、お話は終わったかしらぁ?ほらミーヤ、早く依頼を受注しなさいなぁ。時間は有限よぉ?」
「あ、それもそうだね!」
「あー……時間使っちまって悪かったな」
「いえ、大丈夫ですよ。コンを心配しての行動だったし」
「そうか、ありがとな」
わしわしと頭を撫でられる。こっちの世界に来てからめっちゃ頭撫でられるけど、人によって結構撫で方が違うんだね。知らなかった。
「あ、それと俺に敬語は使わなくて良いからな。ミーヤはコンの主なのに、その主が俺に敬語ってのは変だろ?」
確かに。言われてみるとコンとアルディスがタメで話してるのにコンの主である私がアルディスに敬語って変だよね。
「じゃあ普通に話すね。ありがとアルディス!」
「いや。俺は基本的にこの町に居るから、何か困った事あったら俺に言えよ。耳が良いから大体の弱みは握ってるし」
「アルディスめっちゃジークさんソックリだね」
私が笑ってそう言うと、何故かアルディスは両手と膝を床について落ち込んでますポーズになってしまった。あれ、禁句だった?
どうしようとおろおろするとコンが、
「いつもの事だから大丈夫だ。アルは立ち直るのも早いしな」
「あ、そうなの?」
仲の良いコンがそう言うなら大丈夫なんだろう。多分。
私はそう判断して受付に並ぶ。場所を取るから皆には依頼ボード近くで待っててもらう事にした。
受付嬢はエルフのお姉さん。白っぽい金髪が綺麗な無表情のお姉さんだ。前に並んでいる男の冒険者からの褒め言葉をクールにスルーするお姉さんだった。
「次の方、どうぞ」
「すみません、この三つの依頼を受注したいんですが」
「……はい、かしこまりまし…っ!?」
お姉さんは目を見開いてガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、私の顔を凝視し始めた。
え、何?怖いんだけど。何が起きた。
「エルフの友人…!?」
あ、顔じゃなくて胸元に隠してあるメリーじいさんに貰った首飾りの魔力を見てたのね。




