勇者の子孫(嘘)
「えーっと……まず私は迷い込んだだけで勇者ではない。これだけはハッキリさせておくよ」
「お、おう…」
「で、異世界人なのかって点に関してはイエス。帰り道歩いてたはずなのに気付いたら森の中で横になってた」
「……じゃあ、昨日契約する時に故郷に帰れないって言ってたのは」
頷く。
「故郷が異世界だからなんだよね」
異世界への帰り方無いみたいだしね。まぁ個人的にはこっち来てからの方が楽しいから正直帰る方法があっても帰る気無いけど。
「………コン」
「な、なんだよっ!?」
なんだよじゃ無いでしょうがよ。何故そんな涙目になるんだ。イースは苦笑いだしハニーは普通にしてるしラミィは眠そうなこの状態で何故涙目。
「べ、別にミーヤは故郷に帰りたいんじゃないかとか、帰る手段があったら俺を置いて帰っちゃうんじゃないかとか考えて泣きそうになったりなんかしてねえからな!?」
「ああ、そういう…」
だから涙目だったのか。
確かに考えなかったわけじゃ無いけど、
「大事な従魔、それも嫁達を置いて一人で帰るわけないでしょ。正直もう帰れないだろうからそれに関してはさっさと諦めてるし。……私、嘘吐いてる?」
聞くと、コンは鼻をスンと鳴らした。
「……正直の匂いだ」
「でしょ?私が何言っても信じれないかもしれないけど、自分の鼻なら信じれるっしょ。だからだいじょーぶ」
「う、疑ってなんかねえし!………そうだよな、ミーヤが俺を置いていったりするわけ無いもんな…」
「うん、置いていかないから安心してね」
「き、聞くなよ馬鹿!」
安心させる為に言った言葉で馬鹿呼ばわりされるとは思わなかった。馬鹿だけどさ。あと聞こえたんだから仕方が無い。私は耳が良いんだよ。
まあとりあえずコンの頭をよしよしと撫でながらハニー達に振り返り、
「二人は私が異世界人って聞いてどうだった?主が異世界人の私で大丈夫?」
と聞いてみる。もし異世界人の主が嫌だったら…悲しいし寂しいけど従魔契約解除なのかな。あ、駄目だ想像するだけで落ち込むわこれ。
しかし、ハニーは首を傾げた。
「ええと…発言が理解出来ません。そもそも、普通にギルドカードを見せてもらった時の称号に異世界人と記されていましたから知ってましたし」
「あれっ?」
そう言われてみるとメリーじいさんの家でギルドカード確認した時ハニーにも見せてたわ。ハニーは驚くどころか不思議そうに首を傾げたまま言う。
「普段から割とそうなんだろうなっていう会話もされてましたから、暗黙の了解かと思ってました」
「ごめんねハニー!ちゃんと言っておくべきだったね!」
「いえ、異世界人だとこちらの人間に知られてしまうとミーヤ様が私達と離れ離れにさせられる可能性があるという事は重々承知しています。だからこそ公言出来なかったという事も」
「確かに異世界人だと王家に囲われる可能性が高いからぁ、従魔と離れ離れになる可能性は低くねぇなぁ」
マジでか。え、凄い嫌だ。従魔以外には絶対言わないでおこう。
「えーと…ラミィは?嫌じゃない?」
「ん…………。…ミーヤ、違う世界…の、人、でも……ラミィ、好き…。置いてかれたら、許さない……けど、一緒、なら………問題、無い…」
「わあ熱烈」
許さないって言った瞬間ちょっと声のトーン低くて怖かったけどそんだけ懐いてくれてるんだとポジティブ変換。つまり異世界人でも問題無いぜって事だよね!
「あー、皆が受け入れてくれて良かったー。うっかり異世界人だって事を言い忘れてたからもしこれで嫌われたらどうしよってちょっと嫌な汗掻いちゃったよ」
「うっかり言い忘れる事なのか?」
「もうすっかり言ってるものだと勘違いしてたんだよ…。そもそも普段から町中でうっかり異世界人だってばれないように会話する癖付いてたし…。でもわかんない事があるとイースがちゃんと説明してくれるからすっかり従魔相手には言ってるものだと脳が勘違いしてた…」
我ながらアホだ。しかもハニーには普通に異世界人の称号見せてたし。あとラミィ相手にも入浴剤とかで私が違う世界出身だって言ってたような気がする。あれ?ばれないように会話する癖実は付いて無いのか?あれ?
「そういえば、俺がミーヤにブラッシングされてた時にイースが「ミーヤの世界」って言ってたな……」
コンが居ても普通に異世界出身って事隠して無かったわ。うっかりハチベエか私は。そんだけ普通に言ってたらそりゃもうとっくに説明してるものだと脳も勘違いするよ。
「ですが、私達相手だから良かったものの他人に生い立ちを聞かれた時は少々厄介ではありませんか?今までは田舎から出てきたばかりだと言っていましたが、詳しく聞かれると粗が見つかってしまいます」
「確かに」
とりあえず田舎から出てきた娘って設定しか無いもんね。あとは両親が死んでて姉が一人。森でやばいところをイースに助けてもらって~ってくらいしか無い。幼少期聞かれたら一発アウトだわ。
どうしようかと考えていると、首を傾げたラミィが私の手元を指差す。
「……ミーヤ、ずっと……持ってる、ソレ、何……?」
「へ?」
持っている物といえば、出しっぱなしにしているスマホくらいだけど。仕舞い忘れて左手に持ちっぱなしだった。充電勿体無いから電源を消し………あ、これ異世界の道具だわ。うっかりしてたけどラミィからしたら見覚えの無い不思議道具だねコレ。うっかりが過ぎないか私。
えーっと……何て説明する?携帯の進化版でパソコンみたいな事も出来る……いや駄目だ!これじゃ何も伝わらない!
「ミーヤの持ってるソレは「スマートフォン」っていう連絡用の魔道具だなぁ。連絡以外にも色々出来る便利道具だが、異世界ではメジャーらしいぜ。基本的にはスマホって呼ばれてるみたいだがなぁ」
頭を抱えて唸っていたら、イースがさらっと説明してくれた。イース流石頼もしい。
すると、その説明を聞いたコンが驚いた様子で立ち上がった。
「スマホ!?勇者が持っているとされる道具で物語では頻繁に出てくるアイテムじゃねえか!?」
「マジで?」
「マジだ!」
マジかよ。これそんなに有名アイテムなの?そう考えているのが伝わったのか、コンは真面目な顔で教えてくれた。
「よく勇者が操作した後に凄いデカイ音の音楽が辺りに響き渡ったりする」
「成る程音楽再生」
威圧感とか相手を驚かせたりとかに使えそう。
しかし、有名アイテムだと困るな。スマホが町中では絶対に出せなくなる。
「うーん、誰かにスマホの事聞かれても「うちの故郷で作られてる道具なんです。よくわかんないけど便利ですよ」でゴリ押ししようと思ってたのに…」
「……即、バレ……?」
「もし言ってたら即バレしてただろうね。ラッキーラッキー」
まあこのスマホは人前で出さないようにすれば良いとして、私の過去を捏造しないと…。
再びそう考え始めようとすると、ハニーが閃いたように四つの手をパンと合わせた。
「寧ろアピールするのは如何でしょう!?」
「アピール?」
凄いナイスアイディア!みたいに良い表情だけど、アピールって何?
「成る程なぁ…そう断言しちまうってのも手かぁ…」
ハニーの内心を読んだのだろうイースはうんうんと頷いている。よくわからないけど、良い案って事かな?
「えーっと……説明してくれる?」
そう言うと、ハニーはとても良い笑顔で言う。
「はい!まずですね、ミーヤ様は勇者の末裔なんです!」
「よーしストップ」
一旦ハニーを止めて、私は右手の親指でビッと自分を指差す。
「私と勇者無関係。おーけー?」
「勿論わかっております。ですが、ここは勇者の末裔だと言い切ってしまった方が言い訳が利きます。どうせ勇者は皆死んでおりますし。死人に口無し、と言うのですよね?」
「使用例は間違ってないね」
正確には死人は口出し出来ないから貶めるような事を言ってないけないみたいな意味だって聞いたような気がするけど、まあ間違ってはいない。
「ですので、どの時代の勇者かは明言せずに先祖が勇者とだけ言うのです。異世界の知識を聞かれても先祖から伝わったと言えば良いですし、そのスマホという魔道具も先祖が遺してくれた遺品だと言えば通るのではないでしょうか!」
「え、どうなのイース!?」
話を聞いてると凄い良い考えに聞こえるけど、私自身はこっちの常識が足りてないからイース先生に相談だ!振り向いて問うと、イース先生は頷く。
「いけると思うぜ。割と世界中に勇者の子孫は居るしぃ、人との交流を嫌がって山奥に隠遁する勇者も少なくないからなぁ。政治の色々を嫌がった先祖が伴侶を連れて仲間達と共に山奥へ行って集落を作り、そこで一生を過ごしたって事にすれば大半の問題は片付くなぁ」
「マジでか」
「マジだぜ」
でも確かに私が異世界知識を持ってても勇者の子孫だからで誤魔化せるな。異世界人の血筋かどうかを判別する何かがあっても異世界人本人だから多分大丈夫。異世界人の血の濃度を調べる奴だったら純度高いけどその時は先祖返りですって言い張ろう。
……本当に問題が無くなるな。山奥設定そのままだし、仮想集落出来てるし。しかも勇者の性別を明言してないから誤魔化しやすい。
「異世界の言語とかを読めるからってうっかり読んだとしてもこれなら「先祖代々伝わってるんです」で誤魔化せるぜ。全属性の魔法が使えたりもその恩恵にすれば良いしなぁ」
「めちゃくちゃ助かる。よっしゃ私これからピンチに陥ったら実は勇者の子孫なんですって言おう。出来るだけ言いたくないけど」
「まぁ、元々変人の称号のお陰で変わってる扱いされるからすぐに異世界人だとは思われないだろうがなぁ……対策はあって困らねぇだろぉ?」
「備えあれば憂い無しだね!」
あとは事情をぼかしつつ実際の過去話をすれば良いだけか。両親は自動車の事故でミンチになったらしいけど、話す時は事故で死んだって言えば勝手に崩落事故とかかなって思うだろうし………うん、そうしよう!
あ、でも普通にアーウェルに気付いたら森に居たって言っちゃってたからな…その辺の設定はどうしよう。見切り発車で適当にペラペラ喋ってたせいで面倒な事に。
「気付いたら森に居た云々はアーウェルに話したままで良いんじゃねぇかぁ?」
「というと?」
「天狗の仕業。まぁバーバヤガの向こうにある日本そっくりな国には普通に風を操る魔族として天狗や烏天狗が存在してるからぁ、山の神的な存在って誤魔化した言い方で通した方が良いと思うけどなぁ」
「成る程」
ってか天狗実在するんだ。流石ファンタジー異世界。もしその国行けたら握手とか出来ないかな。出来なくてもスマホで写真撮れたら良いな。
ちなみに私のスマホさんは電波が通じないせいで検索とかネット小説が読めなかったりと不便だが、取った写真を見たり電子書籍を読んだりメモ帳機能は生きてたりと使い道が無いわけではない。
お姉ちゃんが書籍派だから私は電子書籍派だったんだけど、異世界転移をした身からすれば電子書籍派で良かったと思ったよね。普通異世界転移しないけどね!




