そういや言ってなかったね
「とりあえずぅ、ここからグレルトーディアまでは沼地を突っ切れば一日半。沼地を迂回するルートなら丸々三日ってトコだなぁ」
「迂回ルートだと時間が倍掛かっちゃうのか…」
「ですがミーヤ様、ミーヤ様は沼地での歩き方に慣れておりません。その上地面を這って移動するラミィと泥が毛に絡み付いたら厄介そうなコンも居ますから……」
「あーそっか、それ考えると迂回ルートしか無理だね。ラミィの下半身数メートルが泥塗れ確定だし、コンもお風呂が大変な事になっちゃうわ。それじゃあ迂回ルートで案内お願いしても良いかな?イース」
「りょうかぁい♡」
朝食を食べながらそんな会話をして、グレルトーディアまでの道のりは少し遠回りな迂回ルートで確定した。町に住んでた私じゃ沼地の歩き方なんてわかんないし、実際ラミィやコンのストレスに繋がりかねないからね。イース達のお陰で野宿は苦じゃないし、別に問題は無い。
「あ、屍喰いカラスの群れ」
「んー……あいつらが食ってるのは俊足シカの死骸だなぁ。狩っとくかぁ?」
「うん」
屍喰いカラスは出来るだけ狩っておいた方が良い魔物だし。
「あ、そうだ。コンの狐火を改めて見たいからコンにお願いしても良い?」
「おう!任せとけ!」
尻尾を振って笑顔で頷いたコンは、ハッと気付いたように慌てて私を指差した。
「べ、別にミーヤに頼りにされて嬉しいとかそんなんじゃねえからな!」
「うん、頼りにしてるよ。その為にも実力を知っておこうと思って」
「そ、そうか!なら仕方ないよな!ミーヤが俺の実力を知りたいなら俺がやるしか無いもんな!」
ツンデレ台詞に対して普通に返しただけのつもりだったんだけど、何故か凄く喜んでくれたらしい。尻尾が残像見えるし耳の先にちょっと火が漏れてる。尻尾の先は目視出来ないけど尻尾の方にも火が漏れてそうだなーとぼんやりした思考で思った。
「じゃあ、屍喰いカラスが夢中で食ってる今の内だよな!」
そう言ったコンが右腕を前に突き出し、
「狐火!」
と魔法を発動させた瞬間。
コンの手から放たれた狐火は、俊足シカを仕留めた時の狐火とはサイズがまったく違っていた。屍喰いカラスは一瞬で灰になり異臭を漂わせ、草原がゆっくりメラメラと燃え始める。
何が起きたかって?前見た時の狐火は一際大きいのでもサッカーボールより一回り大きい…かな?くらいのサイズだった。ちなみに普通のファイヤーボールは野球ボールくらいのサイズ。
そして、今コンが放った狐火は屍喰いカラスの半径1メートル辺りまで焼き尽くす炎の塊だった。
「………え?」
当の本人であるコンも呆然としていて、意図してやったのでは無いらしい。とりあえず鎮火した方が良いよね?あのままだと風で炎が広がって草原が焼け野原になりそうだし。
「水魔法………何が良いんだろう。まあ何でも良いか。水魔法、シャワー」
適当に水魔法を発動させると、燃えている草の上に水の球体が出現した。そこに細かい穴でも開いているのか、如雨露やシャワー、もしくは雨のように燃える草原に水が降り注いだ。ジュウジュウと火が消える音が聞こえなくなると同時に水の球体も消え、草原は無事半径1メートル程度の被害で済んだ。
「……で、コン何したの?」
「何もしてねえよ!……してねえよな?いつもと同じように狐火を放っただけだし…」
「それが問題だったんだろうなぁ」
イースが言うには、
「名無しの時はステータスが五分の一以下になる。が、その状態でもコンは魔法を使えるように魔力を節約したりと無意識に様々な調整をしてたわけだ。それが本来のステータスに戻ったから、同じ方法でやるととんでもない威力になるんだろうなぁ」
との事。
カルピスを薄めて飲むのとカルピスの原液のまま飲むのとでは濃度が全然違うよねって感じなんだろうか。あ、良かったイースがサムズアップした。グーサインが出たって事はこの考え方で合ってるんだろう。
「……今までは薄めた蜜だったのが、薄めていない蜜になったようなものでしょうか?」
「あ、ハニーもその考え?おそろーい」
「ミーヤ様もですか!?お揃いですね!」
いえーいとハイタッチ。
ハニーの言葉を聞いてコンも何となく理解したらしく、手を開いたり閉じたりしながら感覚を思い出しているらしい。ちなみにラミィはよくわかっていないのか首を傾げていたが、最終的にまあ良いかというような表情の後にキリッとした顔になっていた。あれ考えるのを諦めた顔だな。
「まぁ、何度か繰り返して調整方法を覚えれば良いんじゃねぇかぁ?幸いグレルトーディアまで時間もあるしなぁ」
「…ああ、そうだな。町中でこの威力を出したらまずいし……その、またやらかしたらフォロー頼んで良いか…?」
不安そうに瞳を揺らし、耳を伏せながらそう言ったコンに笑顔で頷く。
「うん、勿論良いよ。私も水魔法の特訓になるし。ハニーとラミィも水魔法の特訓になるから良いよね?」
「はい、私は構いません。手加減を覚えるのは大事な事ですし」
「……ん、ラミィ…も、オッケー…。ラミィ、水魔法……苦手、だから、頑張る……」
「うん、お願いね」
頑張る宣言をしたラミィの頭を撫で、再び出発。屍喰いカラス達は完全に燃えカスになっていたので残っていた魔石だけ頂戴しておいた。ついでに魔物が魔石食べるとステータスが上がったり使えない属性も使えるようになるという事をコンに説明しておいた。
コンの反応は、
「凄いな!?獣人も出来たりすんのか!?」
だった。割とポジティブに受け止めてくれたから安心した。
ちなみに魔石は魔物や魔族の体内にある物で、だからこそ魔物や魔族のみが恩恵に与れるらしい。なので獣人は普通に無理との事。これに関しては少ししょんぼりしていたが、主持ち獣人の称号でステータス上がりやすいという説明をしたら一気に回復して尻尾を振っていた。
夕方、早めに寝床を確保して休憩。今日はコンが結構魔力消費してたから早めに休もうという事になった。私とハニーはまだ大丈夫だけど、苦手な水魔法を頑張って使っていたラミィも少しお疲れ気味だから丁度良かったと言える。
「にしても、一日で結構調整出来るもんなんだね」
「ああ、感覚を掴めさえすれば早かったな」
そう、結構な時間が掛かるんじゃないかと思ったが、コンは一日で火力を操作出来るようになったのだ。最初の方は逆に火力が上がったり、不発になったり、小さい狐火にするのには成功したのに火力がハンパ無い狐火になったりと大変だったが、コツを掴んでからはどんどん威力を自由自在に調整出来るようになってってた。
すると、私達の会話を聞いていたイースが苦笑いしながら言う。
「普通はそう上手くはいかねぇんだけどなぁ?」
「え、そうなの?」
「ラミィを見てみなぁ。慣れない水魔法使ってグッタリしてるだろぉ?勉強苦手な奴に難題を解かせるようなモンだからかなぁり難しいはずなんだが………名無しの時でも魔法が使えるように努力してやってのけた経験があるからかぁ?」
「杵柄ってやつだね!」
でも成る程、だからコンはちょっと疲れたなくらいの疲労度なのにラミィは寝そべってグッタリ状態なのか。ラミィは座っている私の膝に頭を乗せ、グッタリと力を抜いている。完全にお疲れモードだなーと思いつつ労いの意を込めて頭を撫でておく。苦手なのによく頑張りました。私も苦手な授業ってとことん苦手だったから、ラミィも相当キツかっただろうによく頑張ってくれた。えらいえらい。
「……♪…ミーヤ、耳の…後ろ、掻くように、撫でて…」
「ん、こう?」
「………ん…♪」
言われたままに手を動かすと、ラミィは機嫌良さそうに尻尾の先を揺らし始めた。尻尾を揺らす元気が戻ってきたようで何よりだ。
でも苦手な属性だと疲労が激しいのか……メモっておこう。アイテムポーチからスマホを取り出して起動させ、メモ帳機能をポチッとな。スマホなんてすっかり忘れてたんじゃないのかって?描写してないだけでちょくちょくメモ取ってたよ。じゃないと流石に忘れそうだしね。
「イース、属性について教えてもらっても良い?」
「おう、任せとけぇ♡」
そう言い、イースは一瞬にして筋肉の形がわかるピッチピチのTシャツを着たジャージ姿に変身した。男性体育教師の姿だ。前も見たけど本当に性癖狙って来るよねイースって…。
「まず俺のような魔族や魔物はぁ、基本的に光魔法に弱いでぇす。闇は光に弱いからなぁ。だが同時に光も闇に弱いって事も覚えとけよぉ」
「ふむふむ」
「んで火魔法が得意な奴は水魔法や氷魔法が苦手だなぁ。同時に水魔法や氷魔法が得意な奴は火魔法が苦手だったりもするぅ。これは単純に性質が違い過ぎるから理解不能って感覚なんだよなぁ」
成る程、だから火魔法が得意なラミィは水魔法でグッタリだったのか。…ん?
「あれ、でもハニーも火魔法得意だけど水魔法使っても大丈夫そうだよ?」
「確かに大丈夫ですが……おそらく、私は風魔法も得意だからではないでしょうか?」
「ハニーせいかぁい。風魔法は火や水と相性良いからなぁ。その代わり土魔法とは相性が悪いが」
「あー…」
なんか日本の昔話だかで聞いた事ある。ネズミの親父さんが娘の婿探ししてる話のやつ。風は雲を退かす事が出来るけど、土壁を動かす事は出来ないって話。そりゃ相性悪いわ。
「まぁ、基本的に土は水に弱かったりはするが他の属性には強いからなぁ…」
「水だと泥になるけど火や氷じゃダメージ与えれ無さそうだもんね」
「いや、確か土相手でも火は効くはずだ。本で読んだ」
「そうなの?」
聞くと、コンは頷いて説明してくれた。
「効き目は確かに少ないが、火力強めで土を攻撃しまくれば土の水分が蒸発して乾燥し、ただの砂になるらしい。ゴーレム退治のやり方に載ってた」
「そういや土を焼いて皿作ったりもするっけ」
確かに乾燥した土が動く印象って無いな。ある程度の湿度が無いと泥団子が作れないように、ただの砂だけでは何も出来ないのか。砂魔法なんてのがあったらどうにかなりそうだけどね。
コンの説明に、イースは微笑みながら頷く。
「確かにそういうやり方もあるぜ。だからまぁ、得意分野を極めつつ他のも使えるようになっておくと便利って考えで良いと思う。大体は皿洗いとかを魔法でやってれば出来るようになるけどなぁ」
「ああ、そういやハニーもそれで特訓してたもんね…」
「はい、水と風魔法を同時に使うので特訓にはもってこいでしたよ」
確かに特訓には丁度良いかも。食器類の殆どは木製とはいえ、壊さないように力加減を調整してれば細かい動作も出来るようになるだろうしね。
「あ、それと属性は基本的に七種類だが、勇者は他の属性も使えてたって前に話しただろぉ?」
「ああ、草とか木とか、その時々で名称が変わるという…」
「そうそれぇ。覚えてる限り言うからそれもメモしておけよぉ。役立つかもしれねぇからなぁ」
「成る程」
使い方次第では実際に出来るかもしれないもんね。土魔法の応用で砂魔法とか。メリーじいさんも色んな魔法を使って花を育ててたから、その応用で木魔法とか使えるかもしれない。
「まず木魔法。似たような種類で草魔法や植物魔法って呼び方もあるが、基本的に植物を操ったりする魔法だ。苗を急成長させたりぃ、蔦を伸ばして触手みたいにしたりぃ、新種の花を作成したりだなぁ。前に砂糖とかの調味料系を安定して育てれるようにした勇者が居たって言ったろぉ?」
「言ってたね」
確か金持ちが自分のトコで独占して、品種改良したら品種改悪になって収穫量が減ったりしたんだっけ。そのせいで砂糖や胡椒なんかの値段が高いとか。
「その勇者も植物魔法の使い手でなぁ?砂糖や小麦なんかを収穫までの日数少なめにしたり収穫量を多くしてくれたりと凄い品種改良をしてたんだぜ。死後全部台無しにされたけどなぁ」
「勇者可哀想」
皆の為、そして自分の食の為に頑張って流通させたんだろうに水の泡だな。
メモに植物魔法の説明を入力していく。
「次は歌魔法。闇と風の合成みたいな魔法だったなぁ。場合によって光と風って感じだったが」
「どういう事でしょうか?」
首を傾げたハニーの質問にイースは答える。
「相手を洗脳したりぃ、一時的に混乱状態にする時は闇属性の魔力が混ざってたんだ。逆に味方を強化したり人を癒したりする時は光属性の魔力だったなぁ。風魔法は音を響かせる為の……ミーヤにわかりやすく言うならマイク代わりだな」
「成る程めっちゃわかりやすい」
すると、回復したのか膝の上に寝転がっていたラミィが起き上がって言う。
「……歌魔法……は、歌、に……魔力、込めてた…?」
「お、ラミィせいかぁい。その勇者は歌……もしくは喉かぁ?まあその辺に魔力を込める事で、歌や声に魔法のような効果が出るようにしてたって感じだったぜ」
音ゲームでそういう世界観のゲームありそう。
でも声に魔力を含めてーっていうのならやり方さえば出来るかも?少なくとも何の魔力使って何をしてるのかわからない植物魔法よりは出来そう。
「あと砂魔法ってのもあったなぁ。細かい砂を自在に操ってて凄かったんだぜ。あの勇者は前線の奴等の眼球に砂を貼り付け眼球の水分を奪い取り、それはもう凄まじい被害を出しやがったからよぉっく覚えてる」
「わあやり口がエグい」
「多分土魔法か風魔法のどっちかで砂を操ってたんだろうが……そいつにハニートラップ仕掛けても普通に殺されそうになったから解明出来てねぇんだよなぁ」
溜め息混じりに言ってるけどそれとんでもなくやばい状況だったんじゃない!?
「大丈夫だったの!?」
「ん、ああ。夢渡りで夢の中に入って仕掛けたからなぁ。夢の中って事は自分の思い通りに出来るって事にすぐ気付かれて危うく象みたいな何かに食われそうになった。やべぇなと思ってすぐ夢から出たお陰でセーフだったけどなぁ」
それ、もしやバクという妖怪じゃないかしら。悪夢扱いされてんじゃん。
んー……まあ、砂魔法も役立ちそうっちゃ役立ちそうだから解明出来たら良いな。敵が多い時にはさっき聞いた作戦も使えそうだし。すいすいっとフリック入力でその情報もメモに書いていく。多少グロイが生きる為の術だしね。
「ちなみにその勇者、デカイ瓢箪の中に砂を仕込んでたぜ」
「世界的に有名な忍者漫画のファンかな?」
あのキャラ良いよね。
「他には電気魔法ってのもあったなぁ。雷魔法か?」
「雷?雷なんて神様しか使えねえんじゃねえか?」
「そのはずなんだが」
コンの疑問に、イースは遠い目をして疲れたような溜め息を吐きつつ答える。
「その勇者が言うには、人体には電気が流れている。つまり人間は雷を使える!俺最強!って事らしい」
「アホかその勇者は」
頭が弱い勇者だったんだろうか。
「その理論で実際使えてたからなぁ。一応ハニトラが成功したから何となくはわかったが」
「わかったんだ」
「ああ。一般的に雷って言ったら神が使うものって印象があるし、何より天から落ちてくるものだから人間が電気を纏うイメージが出来ないってのがある。が、異世界人はそういうイメージが簡単に出来るみたいなんだよなぁ」
「あー」
成る程。確かに異世界人の殆どが日本人なら得意だわ。妄想はソウルメイトレベルで近い存在だからね。電気を纏うイメージも色んな漫画を思い返せば出来そうだもんな。
例えば、こう……全身に静電気を纏うようなイメージで……。
「ミーヤ様!?」
「うわっビックリした!え、どうしたのハニー」
「そ、その……ミーヤ様、光ってます」
「え?」
自分の手を見てみると、黄色い光が集まってバチバチと音を立てていた。ラミィが既に起き上がってたから良かったけど危うく感電の危機。
「………ミーヤが全属性を使えるのは知ってたが…異世界人だからかぁ?」
「…げ、原理さえわかれば私も出来るのかもしれない…。神様に貰った特権魔法とかじゃ無ければ同郷だし考え方も似てるはずだからもしかすると再現が可能なんじゃ……」
とりあえず感電しそうで危ないから電気を消すイメージをすると、体に纏っていた電気はバチッと音を立てて消滅した。あ、そういえば私妄想癖のスキルも持ってたわ。それでイメージさえ合ってれば出来るとか?
うーんと首を傾げていると、コンが顎外れそうなくらい大きな口を開けているのが目に入った。
「……どしたのコン。お腹空いた?」
「み、ミーヤ、お前……」
「うん?」
「お前、異世界人だったのか!?」
あ、そういやまだイース以外にハッキリと明言した事無かったわ。




