良い淫魔でした
「…何で死を覚悟してるのかしらぁ?」
「いや、だって、魂…」
現在、命の危機真っ最中です。
角生えたウサギから命を助けてくれて、色々と教えてくれた親切で見た目エッチなお姉さんは本当にエッチな感じのモンスターでした。
私は正座のまま両手を握り締めお祈りのポーズ。痛くない事を祈るばかりだ。
対してお姉さん、不思議そうに私の顔を覗き込みながらふわふわ浮いている。悪魔らしい悪魔の羽は動いて無いのにどうやって飛んでるんだろうアレ。
「ああ、コレ?コレって飾りの羽なのよぉ。淫魔っていうのは実は肉体を持っていないのぉ。だから魔力の流れを操って飛べるのよぉ」
「わあお」
「人間にわかりやすく言うなら、海で泳ぐ感じに近いかしらぁ?」
「成る程ー…ってまた心読まれた!」
「うふふふふ」
にこにこと笑っているが、その笑顔はとてもセクシーって感じだ。
いやあの、語彙力無いから伝わんないかもしれないけど凄いんだよ!エッチなんだよ!笑顔も声も全部!でも納得だよ!淫魔ならそりゃエッチだよね!
「それはちょっと違うわねぇ」
「え?」
「私…というか、淫魔に肉体は無いの。見た目も自由自在なのよぉ。相手の好みの体に変化する特性がある、それが淫魔。だからみぃんな、シちゃうのよねぇ」
「シちゃうって何…言わなくて良いです私未成年なんで!」
私の言葉にお姉さんはにこにこ笑う。あ、この笑顔アレだ。小学生男子の恋愛事情とかでによによするお姉さんの顔だ。わかり辛いだろうけど察してください。
というか何で普通に会話してるんだろう。
え?アレ?魂食われるんだよね私。この世からサヨナラなんだよね?
「ああ、そういう風に誤解してたのねぇ。確かに魂を少しちょうだいとは言ったけどぉ、別に死ぬわけじゃないのよぉ」
またナチュラルに心を読まれた。って、え?
「マジっすか?」
「マジよぉ。それじゃあ淫魔のお姉さんによる、魂のお話を始めまぁす」
「お願いします!」
お願いすると、お姉さんは微笑んで空中に座るような体勢になった。え、空気椅子?あ、いや、海を泳ぐように浮いてるから重力関係無いのか。
空中に座りながら、お姉さんは説明を始める。
「魂を食べるって言うのは、確かに死ぬ事もあるわぁ。でもすこぉしだけなら問題無いのよぉ。そうね、例えばぁ…全速力で走ったとするじゃない?」
「?はい」
「走ったら疲れちゃうでしょう?」
「疲れますね」
「そう、それが魂の消耗なのよぉ。勿論肉体も疲労するけどぉ、疲れると精神をすり減らすって言ったりするでしょう?実際に魂が少し減るのよぉ」
「えっ!?」
それって凄い重要かつヤバい案件じゃないんですかねえお姉さん!?
え、マジで!?つまり体育の授業で毎日魂減ってるの!?やだ死んじゃう!?
「死なないわよぉ。まだ続きがあるから落ち着いてぇ」
「あ、はい…」
「で、魂は頻繁に消耗するのねぇ?でもそれだとすぐに死ぬはずよねぇ?」
「確かに…」
「良い?魂は頻繁に消耗するけど、頻繁に回復もしてるのよぉ。例えばご飯を食べたりぃ、ぐっすり寝たりぃ…つまり、幸せを感じた時かしらねぇ」
「幸せを感じた時…ですか」
「そうよぉ。疲れていても好きな食べ物を食べると動けるようになったり、落ち込んでいても好きな人や物に触れると立ち直ったりぃ。それらが魂の回復なのよぉ」
「成る程ー」
凄い納得出来る説明だ。だよね、魂が消耗し続けてたらお年寄りとか存在しないもんね。
幸せを感じると回復…嬉しい時とかに心がふわって感じがするの、アレが魂の回復なのかな?
食べたり、遊んだり、寝たり、それら全部が魂の回復にも繋がるのか。オタク趣味を生きるのに必要無いって言う人がいたりするけど、つまりあれって魂を回復させる為のものだったんだな。現実で回復し辛い人種なんだろう、うん。
人生が楽しくないと早死にするし、人生を楽しんでいると長生きする。納得だわー。
「それでぇ、私が言ったのは少しだけ魂を食べさせて欲しいって事なのぉ。肉体を持たない淫魔は魂を食べる事で生きてるのよぉ」
「ふむふむ」
「でもぉ、一人の魂を丸ごと食べたら死んじゃうでしょう?」
「死にますね」
「だから、沢山の人の魂を一舐めずつ、って感じにしてるよのぉ。昔はよく殺しちゃってたんだけどぉ、今は人間とも友好関係結んでるしねぇ」
つまり結んでなくて敵だった頃はヤり放題の食い放題だったわけですね。
「そうよぉ。で、私達が夢の中でいやらしい事をするのも魂の回復の為なのよぉ。…正確には効率良く、かつ多めに魂を食べる為だけどぉ」
「えーっと…どういう事かお聞きしても?」
「私達は触れる事で相手の魂を取り込めるのぉ。でも取り込んだらその分消耗させちゃうじゃない?それって食べる分が減るって事なのよねぇ。だから回復させながら食べた方が安定して一定の量を食べれるようになるでしょう?」
「成る程、魂を回復させる為に相手の好みの女になってエッチな事をして回復させる、と」
「その通りぃ。この姿も貴女の好みの姿でしょ?」
「えっ!?」
くるり、と回って私に全身を確認させたお姉さんの言葉に、私は衝撃を受ける。
いや、え?好みの姿?え?おかしくない?私女ですよ?
「おかしくないわよぉ。基本的にエッチな事じゃなくても、相手が喜ぶ姿に変身するんだからぁ。多分、貴女の場合は淫魔のイメージがこういう女性ってなっちゃってるから、その影響かもしれないわねぇ」
「そういう女性って…」
褐色に銀髪、目がハート、露出過多でアクセジャラジャラ、全体的に色気ムンムンでボンキュッボン。
はい私がイメージするサキュバスって感じ過ぎるよねー!…そっかぁ…相手の好みに変化するなら相手の好みの淫魔がいたらそっちの姿に変化するよね、そうだよね…。
「ちなみに男にもなれるのよぉ」
「マジですか!?」
「マジよぉ。だって肉体が無いんだから性別も無いじゃない?相手の性別と好みに合わせて変わるのよぉ」
「ほへー」
「だからこうすれば、貴女の好みの男にも♡」
「ほわっ!?」
いきなり、お姉さんの体を覆うようにどこからか黒い靄が現れ、お姉さんを包み込んだ。
黒い靄が蠢き、形を変え、その靄が晴れるとお姉さんのいた場所には、
「自由自在に変身出来るのさぁ♡」
ガッシリとした体つきの褐色銀髪イケメンが立っていた。
うわー!うわー!あの、あれだ!アラビアン系だ!イケメンだ!アラビアンな感じの服着てる!筋肉凄ぇ!うっわイケメンだあ!声ひっく!腰に響く!あ、ちゃんと目はそのままハートだ!というか全体的な色彩は変化してない!
「本当は色も変化するんだぜ?ただ、お前の中にある理想の淫魔像の色合いが固定されてるんだろうなぁ」
「うわーうわー…えっ!?お姉さん!?じゃないお兄さん!?口調違くないですか!?」
「この姿で女口調なわけないだろ?性格なんかの根っこの部分は残念ながら変化しないが、口調は変えれるからなぁ。口調も勿論、理想通りにってな」
「淫魔すっげぇー…」
私のその言葉に、お兄さんは嬉しそうに…いやうん、セクシーな感じに目を細めてます。色っぽいです。乙女ゲームのキャラにときめく私の前に超絶イケメンがリアルでそんな優しい笑みしてくるとやばいんで勘弁してくだしあ。
「ははは、お前の魂も凄い回復してるなぁ。さっきの女の姿でも回復してたが」
「えっ!?魂見えるんですか!?」
「そりゃあな。人の心を読んだりするのも同じ「淫魔の嗅覚」ってスキルだぜ」
「淫魔の嗅覚?嗅覚なのに見えるんですか?」
「あくまでそういう名称ってだけだからなぁ。美味そうな魂を嗅ぎ分けて見つけたり、魂の状態を確認したり、心を読んで相手の好みを把握して動きやプレイを相手に合わせたり」
「淫魔すっげぇ」
すると再びお兄さんは黒い靄に包まれた。
さっきと同じように靄が蠢き、今度はお姉さんが立っていた。
「こんな感じで、淫魔の姿は自由自在なのよぉ」
「姿ってか、声も口調も完全に違ってて凄いですね」
「うふふ、そぉ?貴女の中にある淫魔はこういう喋り方ってイメージがあるからだと思うわよぉ?」
「うわあ、性癖もろバレって事ですか」
「そうなるわねぇ。ちなみにぃ、淫魔の本当の姿は変身する時に出てるあの黒い靄だったりするのよぉ」
「え!?あの靄!?あ、ああーだからあれが包み込んだりするわけかー…」
「…素直なのねぇ」
私の言葉に、お姉さんは何故か優しく微笑んだ。何だろう、凄い微笑ましい感じで見守られている。
「じゃあ説明も済んだ事だし、魂を舐めても良いかしらぁ?」
「え、あ、は…いやちょっと待って!どんくらい消耗…疲労?するのか聞いて良いですか!?」
「そうねぇ、二時間走るくらい食べれたら嬉しいわぁ」
「二時間…とな…」
どうしよう。私モヤシっ子も良いとこだぞ。むしろモヤシより弱いぞ。確実に尋常じゃないダメージが、
「ちなみに魂を食べると相手の魂の記憶も共有するのでぇ、貴女の世界の知識が私に入って会話がスムーズになりまぁす」
「是非死なない程度に食べて下さい!」
「アハハハハ!やっぱり変わった子ねぇ。それじゃあ、っと」
「ふえっ!?」
何だろう、さっきから私お姉さんに凄い驚かされまくっている気がする。
というか何この格好!?
現在、正座している私の膝に跨る感じでお姉さんが座り、その細くて綺麗でアクセが似合う褐色の両腕が私の首の後ろに回された。
こ、これは漫画で見た事ある恋人が甘えたりするポーズ!!
…恋人が甘えるポーズ、沢山あるからなー。とか考えながらお姉さんの胸元とか甘い香りとかを意識しないようにしていたら、お姉さんの綺麗な顔が凄い至近距離にあった。
「んなっ!?」
「あ、大丈夫よぉ。基本的に接触で食べるだけだからぁ。別に性的な事はしないわぁ」
「にゃ、にゃるほろー」
「それじゃ…」
「んむっ!?」
ぐいっと抱き締められ、私の顔の下半分がお姉さんの豊満なる二つの果実に埋まった。
うわああ良い匂いが…しない!?というか息が出来ない!豊満なる二つの果実は豊満過ぎて空気を吸う隙間が無いぞ!?巨乳で窒息ってガチだったんかい!
私がそんな事を考えて慌てていると、すぐ近くでお姉さんの声がした。
「いただきまぁす♡」
ちゅっ、と音を立てて額にキスをされた瞬間、私の意識は闇へ沈んだ。
………お姉さん、私、二時間走ったら気絶するレベルで貧弱だったみたい…。
淫魔のお姉さんは語尾を延ばす喋り方です。
人間に擬態してた時は語尾延ばしを隠してたけど、あんまり隠しきれてなかったね。