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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
39/276

ブラッシングと穏やかな時間



「うふふ、ミーヤにはまだ早い話題だったかしらぁ?………まあ、じわじわと何度も繰り返せば…」


「へいイースさん。聞こえてる。不穏な言葉が聞こえてる」


「あらぁ?でもミーヤは同じ言葉を繰り返されたら「そうかな?」って思い始めるのも事実でしょう?」


「あーうん、確かに………じわじわとハーレムを刷り込む気だね!?」


「うふふふふ、どうかしらぁ?さぁ、ステーキが焼けたわよぉ♡」



 ヤバめな事実へのツッコミを華麗に躱された。くそう。でも漂ってくる美味しそうな香りにまあ良いかと意識が揺らぐ。落ち着け私。ここでまあ良いかって思ったら私の負けだぞ!



「ハニーの分は蜂蜜漬けにしたお肉のステーキだからハニーでも食べれるはずよぉ」


「ありがとうございますイース様!」


「ラミィの分は大盛りにしておいたわぁ。卵もトッピングしておいたからぁ」


「……嬉しい…」


「コンの分も大盛りよぉ。ソース系は獣人からすると毛に付いて不愉快かと思って無しにしておいたわぁ」


「助かる!」



 うっわ全員に配慮したステーキとか最高かよ。イース嫁になって。あれ、もう嫁なのか?おっといかんまた揺らいだ!くっ、胃袋を掴まれている分私が不利だが、ここで負けるわけには!



「ミーヤの分には和風のおろしソースよぉ。昔勇者が売ってたやつだから味は問題無いと思うわぁ。食べたかったんでしょう?」


「イース愛してる」



 負けた。いーよいーよどうせ私従魔の皆が居ないと生きていけないだろうし。ハーレムとかもう好きにしてよ。和風のおろしソースがかけられたツーモのステーキめっちゃ美味そう。



「うふふふふ、ミーヤってば食べ物に弱いのねぇ」


「食べ物にってか、美味い食べ物に弱いんだよ。食べ物に対して異様な本気を見せる民族だから」



 日本人って他所の国の食べ物を自国風にアレンジして新しい食べ物作ったりするしね。

 そう続けようとした瞬間、目の前がイースの褐色おっぱいで埋まった。



「もぉ、ミーヤったらぁ♡そんなに私の手料理を美味しいと思ってくれるのぉ?」


「もがががが」


「あら、ごめんなさいねぇ?」


「ぷはっ」



 失った分の空気を必死に肺へと取り込む。あービックリした。



「や、大丈夫…。柔らかかった」


「うふふふふ」



 感想を言ったらイースはやたら色っぽく微笑んだ。目を怪しく光らせるのは止めて。



「………ミーヤ」


「あ、そっか」



 ラミィの呼びかけで、私が号令を掛けないと皆が食べれない事を思い出した。別に好きに食べてくれて良いんだけど、主である私の号令で食べるようにしておいた方が町中では役立つらしい。何でも、魔物使いである私に従っているっていう証の一つだとか。



「それじゃあ……いただきます」



 両手を合わせて私がそう言うと、ハニー達も食べ始めた。うん、私は号令を言うだけで皆もいただきますを言うってわけじゃないんだよね。別に良いけど。



「あむ。……んー!美味しい!和風おろしのお陰でくどく無いし!」



 ステーキって量が多いから後半は肉の脂で気持ち悪くなってくるんだよね。



「……これは甘いので美味しいですね。噛めば噛むほど甘さが染み出てきます」


「………んぐ。ごく。あぐ…」


「!ツーモの肉なのに柔らかいな!?いつもツーモの肉を食う時はもっと硬いのに!」


「弱火でじっくり焼いたものぉ。それとラミィ?そんなに丸呑みばっかりしてたらすぐ無くなっちゃうわよぉ?」


「…ん。気を…つける…」


「そうしなさいねぇ」



 うん、皆も美味しそうに食べてて良い事だ。やっぱイースで料理上手だよね。ステーキ美味い。




 お腹いっぱいステーキと野菜スープを食べ、お風呂を済ませた。お風呂をイースが作り上げた光景にコンはラミィよりもリアクション大きめに驚いていた。やっぱりこれ凄い魔法なんだな。毎日作ってもらってるけど。

 今日はラミィと二人っきりのお風呂では無く、ハニーも含めた三人で入った。今まではキラービー姿だったから入れなかったけど、昨日ガルガさんの家で人間姿なら普通にお風呂入れるという事が発覚したのだ。



「ミーヤ様の頭を洗わせていただきますね」


「あはは、ありがとハニー」



 ハニーに頭を洗ってもらったが、凄い上手だった。流石はハニー手際が良い。四つの手が絡まる事無く上手に頭を洗ってくれた。何かあっちにも手の感触があってこっちにも手の感触があってと不思議な感覚だった。鏡も無いから頭部の感触でしかわからないけど、結構凄い体験なんじゃないかなこれ。

 ちなみにラミィは自分の蛇部分を洗うのに時間を掛けていた。私とハニーが洗い終わってもまだ洗ってたから二人がかりで手伝い、前より早い時間で洗い終われた。ハニーの手際めっちゃ良かった。

 ちゃぽん、とラミィの毒術を応用した入浴剤もどき入りのお湯に浸かる。



「あー、良い湯だねえ」


「…ん…♪」


「成る程、入浴剤とはこういったものでしたか…。確かにただのお湯よりも良いですね♪」



 ラミィは顎までお湯に使ってご機嫌だ。お風呂好きだもんね。ハニーは入浴剤もどき初体験だったけど気に入ってくれたらしい。声が弾んでいた。



 充分に温まってから風呂場から出ると、コンと男版のイースが居た。……ん?



「あれ、男版イース久しぶりだね」


「だろぉ?本当は草原でなろうかと思ってたんだが盗賊が居たからなぁ」



 ラミィに乾かしてもらったたばかりの髪をイースの大きな手でうりうりされる。今日はラミィの魔力調整の為に私の髪を乾かしてもらったのだ。ハニーのレクチャーが無かったらちょっと焦げてたかもしれない。

 うりうりとされながら、イースの大きい手の平の感触に安心感を覚える。うん、女版イースも好きだけど男版イースも好きだな。同じイースだけど手の平のサイズが全然違うし。



「で、コンが耳伏せて頭抱えて考え込んでるのは何で?」


「ミーヤ達が風呂に入ってる間に俺が淫魔だって説明したからぁ?」


「そんなにショックなのか…」



 確かに改めてイースを見ると角や羽のある淫魔モードだった。人間モードも淫魔モードも見慣れててどっちにも違和感が無くなってたな。

 すると、私達が出た事にようやく気付いたのかコンが再起動した。



「!ミーヤ!」


「はいよー。どうかした?」


「イースは淫魔だけどミーヤは大丈夫なのか!?だって淫魔って!」


「よしよし落ち着いてー」



 少し混乱しているらしいコンを落ち着けて、イースは大丈夫な淫魔だと説明した。困ってた時に助けてくれたとか、魂を食べても大丈夫だとか、色々教えてくれたとか、その他諸々。



「大体イースが普通の性欲マックスな淫魔だったらさっきのご飯に何か仕込んでるでしょ。もしそうなら私もハニーもラミィも警戒して食べないって。コンの鼻でも危険を感じたりしなかったんでしょ?」


「た、確かに…」



 うーん、と納得したようなしてないような感じで首を傾げるコン。するとイースがコンの首の後ろを掴んで持ち上げた。イースもコンも似たような背丈だからコンが軽々と浮いている。腕力なのか不思議な力なのかどっちだろう。



「じゃ、俺ら風呂入ってくるからぁ」


「は!?一匹で入れる!」


「使い方の説明しないとだろぉ?ミーヤ達にやらせる気かぁ?」


「んなっ!?」



 にまにまとしたイースの言葉にコンは動揺したのか全身の毛を膨らませた。

 ……いや、異性の私達が説明するのと淫魔による説明ってどっちもどっちどころか淫魔による説明の方がやばくね?ただの淫魔じゃなくて自制の利くイースが相手だから言わないけどさ。



「それにコン、毛並みを見る限り獣人用のケア用品使ってねえなぁ?」


「うっ」


「ふぅん、金が足りなかったのかぁ」


「う、ううううるさいな!何で心読めるんだよ!い、いや別に俺のせいでちょっと生活が苦しかったとかそういう事実があったりはしたけど……」


「はいはい、良いからさっさと風呂入るぞぉ。獣人用のケア用品もあるから使い方の説明したいしぃ。ミーヤだってコンのブラッシングしたいよなぁ?」



 え、ブラッシング?



「そりゃしたいけど。でも獣人にとってブラッシングってめちゃくちゃ大事な事じゃないの?」


「そ、それは、その、ブラッシングってか毛繕いは……親しい奴とするものだし…。べ、別にミーヤにブラッシングされるのが嫌ってわけじゃないからな!?ただブラッシングをすると相手の匂いが俺の体に移るからそれが群れを示す匂いになるっていうか!」



 ああ、成る程。相手の匂いが体に付くから親しい相手としかしないのか。人間にはわかり難いけど、アイドルグループがお揃いの衣装着てるようなものなんだろうか。あれって同じグループだってわかりやすいもんね。



「ほ、他の獣人からしたら俺がミーヤの仲間だって匂いでわかるし、俺も体からミーヤの匂いがしたらミーヤの群れの一員みたいで安心………あ、あああ安心なんてしねえからな!?別に獣人にとって大事な存在に毛繕いしてもらう事は凄い幸せな時間だったりしねえし!ブラッシングしてもらうと健康なままで過ごせるし毛玉も出来ねえしで凄い好調になったりなんかしねえし!」



 うん、相変わらず全部口に出てる。そして勉強になる。確かにブラッシングって飼い主とペットの絆が深まるって聞くもんね。例えが飼い主とペットなのはごめん。他の例えが出てこなかった。

 そういえばペットショップのお姉さんもブラッシングせずに放っておくと抜けた毛や毛先が絡まって毛玉になって、最悪皮膚病になるとか言ってたっけ。やっぱ大事なんだなブラッシング。

 ふむふむと聞いていると、コンは少し落ち込んだように声のトーンを下げて呟いた。



「……それに、毎日してもらわないと調子が整わないから、ミーヤに迷惑かけるし…」


「いやブラッシングさせてもらえるなら全然毎日ブラッシングするけど」



 犬でも猫でも良いからペット飼いたかったけど、お姉ちゃんと二人暮らしだから飼えなかったんだよね!別にアレルギーとかは無いけどお世話にお金がかかるから無理と断言され泣いた記憶が蘇る。

 だからペットショップとかに通い詰めて、飼いもしないのにお店のお姉さんやお兄さん達に色々聞いたんだったな…。犬の散歩の時間帯に公園とかに行って犬を撫でさせて貰いまくったあの時間は楽しかった。

 多種多様な犬達の毛の感触を思い出して意識がトリップしていたが、ふとコンを見ると目をキラキラさせながら尻尾を振っていた。え、何で?その位置気に入った?現在のコンはさっきからずっとイースに片手で首根っこ掴まれて宙ぶらりん状態だったりする。



「ははは、ブラッシングは苦じゃないらしいぜ?じゃ、ミーヤがブラッシングしやすいようにちゃぁんと体洗わないとなぁ?」


「お、おう!……って、別にミーヤがブラッシングしやすいように洗うんじゃねえからな!?ただ俺の健康と衛生の為だからな!?」


「うんうん、わかってるよー」


「本当だからな!?」



 コンはそのまま色々と言い訳を続けていたが、イースにより風呂場へと連行された。イース強い。



「…………ミーヤ」


「ん?」



 ラミィの声に反応し振り向こうとすると、しゅるりとラミィの尾の先っちょが私の左腕に絡んできた。そっちに意識を取られた瞬間、いつの間にか右側に居たラミィがぽすりと私の膝に頭を乗せる。



「えーっと……ラミィ?」


「……膝枕。…ラミィ…も、ミーヤ、引っ付きたい」


「僭越ながら、その、私もミーヤ様に構っていただけると…」


「ハニー?」



 ラミィの言葉に感動していると、ハニーも左側から擦り寄ってきた。すっかりリラックス状態のラミィと違ってそわそわと落ち着かない様子のハニーだが、ハニーから構って欲しい宣言とは珍しい。



「勿論構うよ!」


「きゃっ」



 可愛さのあまりガバッとハニーの頭を抱き締めて、触覚を避けつつ髪の流れに沿って撫でる。私の従魔達がこんなにも可愛い!!



 しばらくラミィに膝枕しつつハニーの頭を撫でてハートを飛ばしていると、イースとコンが風呂から出てきた。イースが両手を軽く叩くと、風呂場は音も無く崩れただの土へと戻った。相変わらず凄い技術だな。



「ミーヤ様、ありがとうございました」


「ん、もう良いの?」


「はい。後輩嫁に場所を譲るのも、先輩嫁の仕事ですから!」



 微笑むハニーの視線の先には、近付きたいけど近付いて良いのかわからないとでも言うような微妙な距離を保った位置でうろうろしているコンが居た。

 はは、確かにコンは自分から譲ってくれって言えないタイプっぽいもんね。ハニー先輩の鑑かよ。



「コン、こっちおいで。ブラッシングするから」


「!お、おう!別に喜んでなんかねえけど、ミーヤがしたいならしょうがないよな!」


「そうそう、私めっちゃコンのブラッシングしたいから。いや本当本気で」



 そう言うと本心からの言葉なのがわかったのか、コンは残像が見えるスピードで尻尾を振りながら私の前に座った。私に背を向ける体勢だ。ちなみに現在のコンは風呂上がりだからか、これからブラッシングをするからなのかわからないが上半身裸である。毛がもふもふでもわかる筋肉が凄い。

 まずは毛並みに沿って頭から首にかけてかな、と思ってアイテムポーチからガルガさんに渡されたブラシを取り出そうとすると、膝に頭を乗せてゆったりしていたラミィが音も無く起き上がって蛇らしいしなやかな動きで私の後ろに回り、まるでおぶさる様に背中から圧し掛かってきた。圧し掛かるっていうか本当におんぶみたいな体勢だけどね。あんまり体重掛けられてないし。ただマシュマロおっぱいの感触がやばい。前方のもふもふ後方のおっぱいって私めちゃくちゃ豪華な状態じゃない?最高じゃない?

 おっといかん雑念が。雑念を振り払ってアイテムポーチからブラシを取り出し、



「!?」


「うおビックリした!え、どうかした?」


「そのブラシ…」



 ブラシを取り出した瞬間にコンが勢い良く後ろを振り向いてブラシを凝視する。え、このブラシが何?ガルガさんが持ってけって言ったブラシだけど何か曰く付きなの?



「俺の使ってたブラシだ…」


「あ、そうなの?」



 嗅ぎ慣れた匂いがしたから驚いて振り向いたのか。曰く付きとかじゃなくて良かったー。



「どうしてミーヤが?」


「村を出る時にガルガさんが持ってけって。よくわかんなかったけどイースが貰っていった方が良いって言うから貰ってきたんだけど、コンのブラシだったんだね」



 ガルガさんはコンの忘れ物を渡して来ただけで、イースが言ってた「願いが叶う」は獣人のブラッシングが出来るよって意味だったのか。納得。



「それに新品のブラシだと、その匂いが体中から匂ってくるせいで落ち着かなくなるらしいぞぉ?」


「そうなのか!?」


「ああ。だからミーヤにブラシを持たせたんだろうなぁ」



 ああ、犬って自分のお気に入りの毛布が洗濯されると落ち込むって聞いた気がする。何で落ち込むのかというと、染み込んだ自分の匂いが消されるかららしい。それと同じ様な感じで、ブラシも慣れたやつじゃないと匂いに慣れてないからブラッシング後に自分の匂いを取り戻そうとその辺に体を擦り付けたりするとか。

 ブラシならイースが持ってそうだけど、匂いとかを考えると確かに慣れたやつの方が良いよね。イースの言葉にコンが驚いたのは、今まで嗅覚が鈍ってたからその匂いの違いを理解してなかったんだろう。多分。ガルガさんはそれをわかった上で私に持たせたのかな?父親の鑑かよ。



「じゃ、始めるよ」


「お、おう!」



 頭から首にかけての毛をブラシで梳く。あ、今気付いたけどコンの毛ちゃんと乾いてるな。乾かすの大変なんじゃないかと思ったけどやっぱあれかな?ぶるぶるって体震わして水分飛ばすあれで乾かしたのかな?

 ……あ、でもコンは火魔法使えるから普通に乾かせるのか。



「ああ、そうだ。コンの魔法の事なんだが」



 思い出したように、イースは言う。



「コン、火魔法と闇魔法の他に水と土と光の属性も持ってたぜ。使えないのは風と氷くらいだなぁ」


「待って凄くない!?」



 衝撃で思わずブラシをかける手を止めてしまったが、すぐにブラッシングを再開してコンの毛を梳きつつイースに問う。



「それって凄い事じゃないの?」


「凄い事だぜ?普通狐獣人は火と闇の属性だけだからなぁ。水と土と光の属性も含めて持ってる狐獣人も居なくは無いが………まあ、珍しいなぁ」



 そりゃ全部で七属性なのに、五属性も使えたら珍しいよ。え、私は全属性可能だろうって?異世界転移してるんだからそのくらいの特典は見逃して欲しい。



「ミーヤにわかりやすく説明するとぉ、普通の狐獣人は妖怪みたいな技しか使えねぇ。狐火とか幻覚って言ったらわかりやすいかぁ?」


「成る程」



 確かに化け狐なら火と幻覚だわ。



「でぇ、珍しい方の狐獣人はミーヤの世界で言うお狐様ってトコだなぁ。神の使いと言われる方。そっちの狐は豊穣の神の使いでもあるんだろぉ?多分その辺と関連してんなぁ」


「豊穣って…ああ、成る程。水は恵みの雨で、土は田畑関係。光は日の光や神関係って感じ?」


「だいせいかぁい。昔勇者が広めたからぁ、その珍しいタイプの狐獣人達の代表はお稲荷様って呼ばれてるぜ。ツィツィートガルから見て、バーバヤガの向こう側にある国に住んでる。ちなみにその国は日本そっくりで勇者達が大歓喜した国でもある♪」


「マジでか」



 米と醤油と味噌が売ってたりするんだろうか。あ、これ売ってるわ。イースがにっこにこの笑顔だから確実に売ってるわ。



「ただぁ、ミーヤからしたら幕末時代とかそれより前の時代みたいな国だからその辺は覚悟しておくようにぃ。大正時代程文化が発達してたりはしねぇからぁ」


「あー、うん、それは何となく察してた」



 ファンタジー世界で日本っぽい国を見つけても、大体戦国時代みたいな文化レベルだもんね。他の町が西洋の中世みたいな感じだからかもしれない。まあファンタジー世界で日本っぽい国が大正時代の文化レベルなんて話はどっかにはあるかもしれないけど私は知らないし、大正風のイメージも湧かないから戦国時代風の方がイメージ通りで丁度良いよね。

 ブラシを動かしていると、脇の近くに毛玉が出来ていたのでゆっくりとほぐす。毛玉ってカットした方が早いけど、相手が怪我する可能性を考えるとほぐした方が良いよね。……いや、相手は話が通じる獣人だし毛玉をカットするのもハサミじゃなくて風魔法だから別に問題は無い、のか…?

 ……まあ良いか。背中側が終わったからそのまま左腕にブラシをかける。



「その国では蛇獣人や狐獣人……まあ割と色んな獣人が人間と共存してたりするぜ。普通の獣人は隣人みたいな扱いでぇ、さっき言った普通よりも沢山の属性を使える獣人達はお偉い様扱いだなぁ」


「あ、お偉い様なんだ」


「ああ。まず国の王が居るだろぉ?んで人間の貴族達ぃ。ここで普通と違うのがぁ、その偉い獣人達は王に使えてるわけじゃねえって点だ」


「違うの?」


「違う。そいつらはぁ……ミーヤにわかるように言うなら「生き神」とか「現人神」みたいな扱いだなぁ。不作の時に畑を見に行って魔法で豊作にしたりぃ、光魔法で病気を治したりぃ。まぁ、感覚的には神社の人って考えれば良いぜ」


「めっちゃ納得した」



 成る程、神社の人か。それはわかりやすい。政治とはまた違った偉い人だもんね。本当にそうなのかは知らないけど多分違うんじゃないかな。違うって事にしとこう。

 でも本当にわかりやすい。確かに神頼みするもんね日本人。病気治癒を神社にお祈りするし、昔は不作だったら生け贄捧げたりしたらしいし。



「ちなみにぃ、その神社系獣人が魔法を使うと豊作になりやすいが、それ以外の獣人や人間が魔法を使っても豊作になる事は無かったりしまぁす」


「そうなの!?」


「そう。多分相性とかもあるんだろうしぃ、血筋とかにそういう称号があるのかもしれねぇなぁ」


「へー……」



 あれ?それだと五属性も使えるコンも神社系獣人なのか?

 ……………まあコン捨て子だったし、考えなくて良いか。コンはガルガさんの息子で私の従魔。それがハッキリしてれば他はどうでも良いや。色んな属性使えて便利ーくらいに考えておこう。

 そもそもイースも光魔法以外使えるし、ハニーもラミィも魔石ドーピングで得意属性以外の属性も使えるようになってるから今更だよね。よっしゃ解決!



「コン、背中と両腕終わったからこっち向いて。胸側やるね」


「ああ」



 よいしょと向き直ってくれたコンの顔は何だか凄く穏やかな表情になっていた。穏やかってか、これ眠い時の顔じゃね?ブラッシングを嫌がってないのはありがたいけどね。さっきから私とイースの会話に口を挟んでこなかったのは眠気と戦ってたからなんだろうか。

 とりあえず胸元の一際もっふもふな毛からブラシで梳いていく。あー幸せ。



「………?」



 ふと、コンは耳をピクンと動かして辺りの音を探るような動きを見せた。

 ん?何か音した?草と風の音しかしてないように聞こえるけど。ハニーもラミィも特に気にしていないようだし、イースもうっすらと笑っているだけだ。イースのうっすらと浮かべた笑みエロいな。流石淫魔。

 けれど本当にコンには何が聞こえたんだろう?と思いながらブラシを動かしていると、コンが突然立ち上がった。梳いてる途中だったせいでブラシが胸元に引っ掛かって宙ぶらりんになってるのにはツッコミを入れた方が良いんだろうか。



「聞こえる…」


「何が?」


「この声は……親父の遠吠えだ」


「遠吠え?」



 遠吠えってあれだよね?犬がめっちゃデカイ声でアオーンって鳴くやつ。消防車のサイレンに反応して辺りから一斉に聞こえてくるやつだ。耳を澄まして聞いてみるが、やっぱり何も聞こえない。風の音だよねこれ。

 すると、コンはコルヴィネッラの方を向きながら大きく息を吸い、



「クヤアアアァァァァァァァン」



 と遠吠えを上げた。おおう、狐の遠吠え初めて見た。でもせめて胸元に引っ掛かったブラシを取ってから遠吠え上げた方が格好良かったんじゃないかな。

 満足したのか、コンは再び向かい合う形で私の正面に座った。胸元に引っ掛かったままのブラシを手に取ると、引っ掛かっていた事に今気付いたらしい。コンは少し恥ずかしいのか目を逸らした。可愛い。



「ガルガさんからコン宛てのメッセージだったの?」



 遠吠えって連絡手段だって聞いた事あるんだよね。



「ああ。………主が見つかって良かったなってのと、幸せになれよって」



 そう言って、コンはへにゃりと嬉しそうに笑った。本当に良い親父さんだな、ガルガさんは。



「んで?コンは何て返したの?」


「ミーヤの仲間になれたし、既に俺は最高に幸せだ。……って」


「そっか。そりゃあ嬉しい」



 ブラッシング効果も相まってか、コンのツンデレは発揮されなかった。うんうん、良い事だ。ツンデレも美味しいけど、幸せそうな顔で幸せだって言ってもらえるのはやっぱり嬉しいからね。

 そして、ブラッシングが終わる頃には夜もすっかり更けていた。



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