四人目の従魔!そして第三夫人の称号
「従魔契約の時には私の魔力で契約印を付けないといけないんだよね。それで魔力が繋がるし、誘拐とかの予防策にもなるみたい」
「契約印って、イースの胸やハニーの額にあるピンクの花か?」
「そうそれ。私の故郷の代表的な花なんだ。……そういや男だと花は嫌だったりするのかな」
うーむ、男版のイースは普通に似合ってたから失念してたけど、嫌がる子は嫌がりそうかも。ピンク色だし花だもんね。当たり障り無い印のつもりだったんだけど…。
だがコンは別に嫌だったわけでは無いらしく、首を横に振った。
「嫌じゃない。……確かにピンクの花だと男には違和感があるかも知れねえけど、俺は……嬉しい。ミーヤの故郷の花が印なんだろ?……ミーヤに貰う大事な宝物が、凄い大事な宝物になるってだけだ」
「わお」
ふわりと微笑むコンの言葉に思わず私は「乙女ゲーの攻略対象か」と思ってしまった。何かごめん。でも桜を大事な宝物と思ってくれるのは純粋に嬉しいのも事実である。
釣られて笑うと、自分の発言が恥ずかしくなったのかコンは言い訳をし始める。
「あ、か、勘違いすんなよ!?お、俺はただ契約印が恥ずかしい模様じゃなくて安心しただけなんだからな!別にミーヤの故郷の代表的な花の模様を刻んでもらう事でミーヤの心の拠り所の一つになれるんじゃないかとかなんて考えてねえんだからな!!」
健気か。可愛さのあまりコンの頭を撫でる。
「な、撫でられたって別に嬉しくなんて無いんだからな…!」
尻尾が残像見えるレベルで振られてる事には触れないでおこう。
「……ありがとね、コン。よくよく考えると私故郷に帰れないからそう言ってくれると嬉しいよ。まあ従魔全員が私の心の拠り所なんだけどね」
「…?ミーヤ、故郷を追い出されでもしたのか?」
「うーん、ちょっと違うかな。まあ大した事じゃないからそんな不安そうにしなくて良いよ」
異世界転移して地球帰れませんってのは重大な事件だとは思うけど、まあ深く考えても現状が変わらないなら楽しくエンジョイするのが大事だもんね。
「それよりもコンの契約印の位置だよね。コンはどこが良いとかある?」
「印の位置…か」
うーん、とコンは首を傾げて考え始める。時々自分の体を触りつつ、でもしっくり来ないのかまた首を傾げる。イース達の方を見て印の場所を確認したりしながら時間をかけて考え、ようやくしっくり来る位置が決まったらしい。
「右手の甲……でも、良いか?」
「勿論良いよ。そこがしっくり来る?」
「……その、ミーヤ…。手を出してくれ。手の平を上にして水平になるように」
「?」
よくわからないが、多分右手の甲に印を付けたい理由の説明の為だろうから素直に左手の手の平を上に向けて水平に……手相見せるみたいだな、これ。
すると、コンは右手の甲を上にする形でポンと私の手の平に手を置いた。……お手かな?
「えっと?」
「………ミーヤの印を付けるなら、ここが良い。ここなら、俺からもすぐ見れるし触れるから。……狐にとって……獣人にとって足はとても大事なものだ。それを預けるこの行為はミーヤへの忠誠の証になる。……その、色々と考えて、ここが一番良いなって…思ったんだ」
「…そっか、ありがとね」
成る程、そういえば肉球も獣にとっては急所だから触られるのを嫌がったりするって聞いた事がある。ガルガさんは普通に頭を撫でてきたりしたけど、多分この行為はフレンドリーな挨拶のキスと夫婦のディープなキスくらいに違うんだろう。もしくは尊敬のキスと騎士の誓いのキス並みに違うんだと思う。
何と言うか、イースもハニーもラミィもこんなに真剣って感じじゃなかったから不思議な感覚だ。背中がむずむずする。
あ、でも今従魔契約するのにとても良い体勢な気がするぞ。
「じゃあ、手の甲に印を付けて良い?」
「ああ!」
「それじゃ…「従魔契約」!」
ぶわりと右手の指先に魔力が集まるのを感じる。ぶわりっていうか、ギュイーンッて感じだけど果たして伝わるんだろうかこの表現。まあとにかく印を刻める状態になったので、私の左手の上に置かれているコンの右手の甲に指先で触れる。
「……凄いな…」
ほぅ、と吐息混じりにコンがそう零した。うん、確かに結構幻想的な光景かも。指先から可視化した魔力の糸がしゅるしゅると花を形作っていくからね。
しゅるん、と指先から糸の排出が終わり印が完全に刻まれた瞬間、魔力を定着させる証として契約印が光る。これで契約成立だ。
「良し、これでコンは私の従魔になったわけだ!」
「あ、そ、そうだな!これからよろしく……なんて言うつもりなんか無えけど!じゃ、じゃなくて、その、そうじゃなくて……」
「うんうん」
少し恥ずかしくなったのか、今は咄嗟にツンデレ台詞を放ったがこのタイミングで言うつもりは無かったらしくもごもごと口篭ってしまった。こういう時のツンデレは先を促してあげれば良いってお姉ちゃんがやってたゲームで知っている。お姉ちゃんのゲーム知識ばっかだな。
とりあえずコンの頭を撫でて気にしてないよアピールをすると少し落ち着いたのか、
「…ま、まだ力のコントロールが完全に利く様になったわけじゃねえから、ちょっと足手纏いになるかもしれねえけど……。よろしくお願いします!」
と頭を下げた。何だろう、ちゃんと言えたね~って感じの……そう、近所のおばちゃんみたいな気持ちになる。微笑ましい。
「うん、こっちこそ新米冒険者だけど、よろしくね」
「おう!」
良い声で返事をしてから、コンは自分の手の甲に刻まれた契約印を愛おしそうに見つめた。何だろう、従魔にとっては契約印ってやっぱり特別な何かを感じるのかな?イースも胸の印をなぞる事があるし、ハニーも人間の姿になってからは時々額の印に触ってたりする。ラミィも腰の印を触って微笑んでる事があるし……従魔にしかわからない何かがあるんだろうか。
「あ、そういえばコンのステータスって見ても良い?」
「?ミーヤは「鑑定」スキル持ちなのか?」
「いや、魔物使いは従魔のステータスが見れるってだけなんだけどね。残念ながら鑑定スキルは持ってない」
鑑定スキル持ちはイースの方だ。ファンタジー世界では必須スキルの鑑定を所持していない雑魚が私である。従魔のステータスだけとはいえ見れて助かったよね、本当に。
「俺は構わない。……名無しの称号とか持ってても、嫌わないか?」
「そんな心配そうに言われても今はもう名無しじゃないんだから気にしなくて良いんじゃない?」
そう言うと不安げな表情をしていたコンは一気に嬉しそうな顔になって尻尾を振り出した。感情が開けっ広げだよね、コンって。あーでもラミィも人食いの称号で嫌われるんじゃないかって不安そうにしてたし、悪い称号持ってると不安になるのかな。
………私の変人の称号って良いのと悪いのどっちなんだろう。グレーって感じでファイナルアンサーだったら良いな。まあ武器屋のレオナルドさんは普通に笑ってたから白よりのグレーだと思う事にしよう。うん。
「んじゃ、「ステータス確認」」
そして表示されたコンのステータスはこうだった。
名前:コン(19)
レベル:25
種族:狐獣人
HP:780
MP:540
スキル:獣人の五感
称号:元名無し、ツンデレ、主持ち獣人、従魔、第三夫人
……レベル25なのにHPもMPも高くない?
まあ獣人の特徴なのかもしれないからスルーして、スキルの詳細表示っと。
獣人の五感
獣人に備わっている鋭い五感。獣人の種類によって嗅覚や聴覚などの五感の一つが飛び抜けて鋭いのも特徴。このスキルがあると五感を十全に使いこなせる。
成る程、コンに凄い合ったスキルだと思う。今まで名前が無かったせいで五感鈍ってたみたいだからお助けスキルって感じだね。
さて、称号の方は?
元名無し
名無しに贈られる名無しの称号の持ち主が名前を入手した際に変質した称号。名無しの称号の場合本来のステータスの五分の一以下に下がってしまうが、元名無しの称号になった時点で本来のステータスへと戻る。この称号があると名無しといじめてきた相手にドヤ顔が出来る。
ツンデレ
ツンデレに贈られる称号。この称号があると他人に誤解されやすくなるが、理解がある相手であれば本心を理解してもらえる。
主持ち獣人
心から慕える主を持つ獣人に贈られる称号。この称号があると主と共に行動すればステータス上昇しやすい。ただし主から嫌悪されたり捨てられたり傍に居られない状況が長く続いたりすると衰弱して死ぬ。
第三夫人
三番目の嫁。
……うん、色々とツッコませろ。
まず元名無しの称号!名無しの称号状態の時はどんだけ悲惨だったんだと言いたいのにラスト!ラストのドヤ顔何なんだよ!それまでは「え、コン今のステータスの五分の一で頑張ってたの…?」って思ってたのに台無しだ!
ツンデレに関してはまあそうですねとしか言えないけど、主持ち獣人の称号貴様は駄目だ!主と共に行動してる間はステータス上昇しやすくなるんだお得~って思ったのに、その後!主から嫌悪されたりその他諸々があると衰弱して死ぬってどういう事だ!あれか!?ペットは飼い主の死を理解して凄い落ち込んで後を追うように弱って死ぬ事もあるからってか!?
そして最後!最後の第三夫人おいお前だお前!何故いきなり第三夫人!?何も話してないよね!?何故第三夫人の称号をゲットしてるんだよ!!
「ど、どうしたミーヤ!?そんなに名無しの称号が酷かったのか!?」
「や、ちが…」
脳内でシャウトしたが、現実世界では無意識で頭を抱えてしまってたらしい。コンに凄い心配させてしまった。
「名無しの称号は元名無しの称号になってたよ。名無しの状態だとステータスが五分の一以下になるけど、元名無しの状態なら本来のステータスに戻るらしくてHPもMPも高かった」
「ほ、本当か!?……あ、い、いや、違うぞ!?ミーヤに名前を貰ったお陰だと思って喜んだりなんてしてねえからな!」
耳と尻尾も正直だけど、それを度外視してもコンの目が正直過ぎるんだよね。瞳の輝きが喜びを隠しきれて無い。
しかし、すぐに私が頭を抱えていた事を思い出したのかその輝きは消え、心配そうな瞳へと変わる。
「……じゃあ、他に何か良く無い称号があったのか…?」
「えーっと……」
第三夫人って称号をゲットしてたよ!ってどんな顔して言えと?でも言わないでいるとコンがどんどん不安になっちゃうだろうし…言うしかないか。
「……第三夫人の称号ゲットしてました」
「何だ、そんな……」
多分、思ってたような悪い称号じゃなくて良かったーって考えたのかコンは少し安心したようだったが、すぐに違和感に気付いたらしく怪訝な表情へと変わる。
「……第三夫人?」
「第三夫人」
「……………何で?」
「それは私が聞きたいかな!」
本当に何でだよ称号この野郎!称号を贈ってんの誰だよ!神か!?神なのか!?ユーモアに溢れ過ぎだろうがよ神様!
首を傾げるコンにどう説明すれば良いのかと悩んでいると、イースが肉を焼きながらもこっちの話を聞いていたらしい。くすくすと笑いながら説明をし始める。
「あのねぇ?第三夫人っていうのは従魔ハーレムの事よぉ♡」
「従魔ハーレム?」
「そう、ミーヤの従魔によるハーレムよぉ!だって従魔に優先順位が出来たら困るじゃなぁい?だからぁ、今の内にみぃんなミーヤのお嫁さんって事にして立場を平等にしてぇ、ついでにミーヤを口説こうとする邪魔者が居たら奥さんとして牽制するっていう作戦よぉ♡」
どんな作戦だよ。何度聞いても理解不能だが、ハニーもラミィもイースの作戦に賛成してるんだよなー。従魔である以上、命を預けてもらう以上、ちゃんと平等に愛する覚悟なんだけど……。まあこれは私の考えだからね。従魔には従魔の考え方があるんだろう。
だがそれはさておき、流石にコンまで奥さんになる気は無いだろう。男だし。
「じゃ、じゃあ第三夫人の称号を持ってるって事は、俺もミーヤの奥さんなんだな!?」
なんでやねーん。
何故喜ぶ。何故キラキラした瞳で尻尾を振る。男が奥さんという言葉に違和感を抱いてくれ。あと私が女である事と第三夫人って称号に対しても違和感を抱いて欲しい。
「そうよぉ♡ちなみに私はお局様でリーダー役ぅ」
「私は第一夫人です」
「……ラミィ、ミーヤ……の、第二夫人…」
イースは色気滲ませながらもにっこにこの笑顔だし、ハニーは柔らかく微笑んでるし、ラミィはたどたどしい喋り方なのに自慢げに胸を張っている。そしてコンは嬉しそうに尻尾を振っている。何でだ。
「えーと……コン?男が女の嫁……しかも第三夫人だよ?嫌じゃない?嫌だよね?」
嫌って言ってください。そしてこの謎ハーレム制度を終わらせてくれ。
「?優れた種なら伴侶が沢山居るのは当然だろ?寧ろ伴侶が沢山居れば居るほどミーヤが優れてるって事だからな!男女関係無くハーレム入り出来るなんてかなり優れている余裕ある種しかしないから凄い事なんだぞ!」
おおっとそう来たか!
獣独特のハーレム事情みたいな感じで受け止めてしまったらしい。違うんです。現在の私は従魔頼りのヒモ状態なんです。ただの甲斐性無しなんです。
「俺は名無しだったから……一匹のまま死ぬんだと思ってた。伴侶なんて見つかるはずが無いって。……っい、いや!違うぞ!?俺と相性の良い相手が居ないから独り身のままなんだろうなって!別に名無しだから相手が見つかる見つからない以前の問題だったりなんてしな……っ。……した、けど」
「よしよし」
言ってる。全部言ってる。最後もうツンデレじゃなくて普通に認めてるし。
……名無しってつまりは弱い種って扱いだから、子孫残せるチャンスが無かったんだな…。獣のメスって遺伝子が強い種の子供を産みたがるもんね。
少し涙目になったコンを慰める為に頭を撫でると落ち着いたらしい。尻尾を振り出した。
「べ、別に俺は第三夫人になれて喜んだりなんかしてねえからな。ハーレムの末席にすら居る事が出来ない名無しだったからミーヤの嫁の一人になれてめちゃくちゃ嬉しいとか、そんな事はねえんだからな!」
おっとと、まさかのツンデレでハーレム肯定された!しかも拒絶し辛い!これ拒絶したら私が悪者じゃないか!
あーイースが料理する手を緩めないままによによしてる!ハニーもスープを掻き回す作業と調理道具を洗う作業を同時にこなしながらこっち見るの止めなさい!複眼で感情がわかりにくいけどハニーも絶対期待の視線を送ってるでしょ!従魔契約の力で感情が伝わってくるもん!そしてラミィ!ラミィは小声で、
「…許可……。ミーヤ…が、許可、すれば………こっちの、もの」
って言うの止めなさい!口から毒の煙を漏らすのも止めなさい!
あー、もー!
「ハーレム云々はまだ私の覚悟が決まってないから保留だけど、従魔から契約解除の話を持ち出されない限り手放す気無いかんね!まだ責任取れないし色々とアレだけど、嫁を自称するのは自由にどうぞ!!」
ああもう、何を叫んでるんだろうね私は!




