従魔契約の利点
「でも従魔って魔族や魔物じゃないとなれないんじゃないのか?」
「獣人やエルフでも別になれるわよぉ。人間だって奴隷なら従魔になれるものぉ」
「ちょっと待って。私にも説明をプリーズ」
イースの話している内容は魔物使いである私が知っているべき内容だろうにまったくわからない!
「えっとねぇ?基本的に従魔契約はぁ、従魔になる側が許可を出せば契約可能なのよぉ。勿論魔物使いに使役されるって事になるからぁ、基本的にプライドが高い獣人やエルフは絶対にならないけどねぇ。人間だって人間の部下や仲間ならともかくぅ、使役されるのは嫌でしょう?」
「それは嫌だね」
「しかもミーヤは特に条件も付けず契約するけどぉ、殆どのブラック魔物使いは絶対服従の条件なんかを付けるのぉ。絶対服従って事はぁ、命令されたら魔力で操られるようなものだから最悪よぉ?魔物使いが「一分ごとに自分の爪を剥がせ。全て剥がし終えるまで悲鳴も上げるな」って命令したらぁ、気絶する事も出来ずにそれを遂行させられるんだからぁ。悲鳴を上げるなって命令もぉ、契約によって魔力がそれに従うから本当にその間だけ声が出なくなったりするわぁ」
「とんでもなく怖い!!」
「そ、そんな魔物使いもいるのか!?」
思わずコンと手を取り合って震える。内容がとんでもなく怖いしグロイ。残虐とかいう言葉すら超えた何かじゃないかそれ!狂気に狂気を重ねまくったミルフィーユか何かか!?
「あ……。バーバヤガ…の、近く、で…、契約……?で、人間の…女、無理矢理、犯されてた…。首輪付けてた…から、多分、奴隷の女……」
「イース様から教わった話では、奴隷に人権など無いとの事でしたからね。奴隷とはつまり家畜と同等かそれ以下の存在。同じ様に、無理矢理魔物を従魔にして奴隷化させる魔物使いも最近は多いと教わりました。何でも、人と姿が違うからと罪悪感すら持たず生きたまま皮を剥いだりして遊ぶ者も居るそうです」
「やだ何それ怖い」
あとハニーとラミィがとんでもねえ現実を知っててビックリ。私聞いてない。
「まあラミィのはかつての旅路で目撃したものだしぃ、ハニーの話はミーヤが寝てる時に教えたものだからミーヤが知らなくても仕方ないわぁ。………情操教育に悪いかと思って言わないでおいたしぃ」
「イースさんや、私耳良いから小声でも聞こえてる」
確かに情操教育にはとんでもなく悪そうだけどね!
「まあそういうわけでぇ、普通は獣人もエルフも、勿論魔族だって従魔になろうとなんてしないわぁ。そんな扱いされるくらいなら死を選ぶ方が早いものぉ。でも奴隷だとぉ、奴隷契約のせいで拒否権が無いのねぇ?だから時々獣人やエルフの従魔も居るけどぉ、基本的に奴隷だったから拒否権が無かったっていうのが多いわぁ。そのせいもあってより獣人達は従魔…従属を嫌がるようになったりもしてぇ………結果的に前例が年々減っていったって感じかしらぁ」
「そうか、だから獣人が従魔になるって話を聞かなかったのか…」
コンは納得した様子で頷いているが、私にはちょっとした懸念が出来てしまった。
「うーん……」
考える人のポーズで考える。
その話だと、私がコンを従魔にして連れ歩いてたら凄い誤解をされるんじゃないだろうか。確実に奴隷の獣人を従魔にしたブラック魔物使いだと思われそうだ。
しかしその考えを読んだのか、イースが明るい声で問う。
「確かに奴隷獣人を従魔にしたんじゃと誤解はされるかもしれないわぁ。でも付き従っているコン本人がミーヤを慕っている様子を見たらどう思う?」
「主に心酔しろって命令でもされてんのかなって思う」
「ミーヤ様、蜂蜜をお舐め下さい。考えがネガティブになっております」
あーん、と差し出されたスプーンに乗せられた蜂蜜をパクリと口に含んで飲み込む。うむ、甘いのに喉に負担がかかる感じは無く後味スッキリで頭もスッキリした。流石ハニーの蜂蜜。
イースはそのやり取りをくすくすと笑っていたが、すぐにさっきの質問の正解を教えてくれた。
「あのねぇ?確かにそういう命令を下す魔物使いが居ないわけじゃないわぁ。でもそういう事をすると従魔の本心との齟齬が生じてぇ、どこか違和感が出るのよぉ。例えば目に光が無かったりぃ、言葉に意思がまったく乗ってなかったりぃ、意思と繋がっていないせいで体の動きが鈍くなったりぃ。でも、そうじゃないでしょう?」
「……あ、そっか」
普通に契約で縛って感情を植えつけたりすれば、従魔には何らかの目に見える異変がある。けれどそうでなければ違和感なんて無いからすぐわかる、って事か。
「つまり最初は誤解されるかもしれないけど、コンと私が普通にしてれば勝手に誤解は解ける、と」
「そういう事ぉ♡」
よく出来ました、とイースに頭を撫でられた。こっちの世界来てから本当によく頭を撫でられてるな、私。嬉しいから全然良いんだけど。
「まあそういうわけでぇ、獣人でも獣人本人が従魔になる気さえあれば問題なぁし!って事ぉ。それにぃ、従魔の方がミーヤと魔力で繋がるからただの仲間でいるより色々と便利なのよねぇ」
「便利って?」
「ミーヤのレベルが上がればぁ、従魔とテレパシーが出来るようになるわぁ。これって便利でしょう?」
「確かに便利!」
「あとぉ、普通の仲間よりも従魔でいる方がセットと認識されるわぁ。だってただの仲間だと…そうねぇ、冒険者が二人以上で組んで活動するのをパーティって言うんだけどぉ、それに近い状態よぉ。でもぉ……うーん、どう言ったらわかりやすいかしらぁ?」
イースが首を傾げて悩み始めてしまった。四人全員に伝わるように説明する必要があるせいでとんでもなくお手数かけます。イースに色々と任せっきりだからなぁ…頑張って勉強しなくちゃ。
すると、ラミィが挙手してイースに進言する。
「ラミィ……ご飯、例えれば…わかる……」
「そうね、ご飯の例えはわかりやすいしそれで行きましょう」
あ、それで良いんだ。
脳内でツッコんでしまったが、イースはそのままご飯ネタで説明する事にしたらしい。
「パーティはぁ、パーティって名前のお盆の上にコップとお皿とメイン皿とスプーンとフォークが置いてあるような状態ねぇ。メイン皿がリーダーよぉ。パーティ登録にはリーダーが必須だから覚えておいてねぇ」
「やばい。凄いわかりやすい」
「リーダーと前衛二名、後衛二名という感じですね」
「つまり、パーティの中に居るから纏まってるように見えるだけで根本的には違うって事か?」
「そうよぉ。お盆の上に置いてあればセットに見えるけどぉ、お盆からコップを取ったらそれはもうただのコップ。フリーの冒険者状態ねぇ。パーティ間での信頼関係が強いパーティもあるけどぉ、やっぱり普通のパーティは依頼の成功率を上げる為だけのものだから一体感が薄いわぁ」
ご飯ネタの例えめっちゃ理解しやすい。やっぱりアレかな、ご飯って生きるのに必要だからかイメージし易いってのがあるのかな。
「そして従魔はワンプレートって感じねぇ。魔物使いであるミーヤがワンプレート皿で従魔が料理。ワンプレートに盛られてる料理ってぇ、それぞれ違う料理なのにバランスが取れてるでしょう?それに器が別々って事も無いわぁ。個性を保ちつつも連帯感があり、皿を共有する………そこが従魔になる利点って感じかしらぁ」
「成る程な…!従魔になればミーヤと離れる可能性が無くなるって事か!」
「そういう事ぉ♡普通にパーティを組んでるだけじゃ他のパーティにスカウトされる事もあるしぃ、他の冒険者がパーティに入ろうとしてくる事もあるわぁ。そう考えると魔物使い一人とその他全員従魔って状況の方がフリーで居られるのよねぇ」
「あ、そっかそこ重要だね」
私異世界人だからその辺知られたくないし、あと魔石とかイースの強さとか色々知られると厄介だ。何より一箇所にずっと居続ける気も無いしランク上げにも興味無いからパーティを組むメリットも少ないしね。
こうやって聞くと確かにコンには従魔になってもらえると助かるけど………。
「コンは従魔になるって点に嫌悪感とか無い?」
「?従魔になるって事はミーヤの所有物だよな?俺はミーヤに名前を貰った。だから俺はミーヤに全部を捧げる。嫌悪する理由なんて無いだろ」
「……そっか」
何だか随分と精神的に成長しているように見える。名前とは自分…だっけ。自分が無かったから精神的な成長も出来なくてちょっと子供っぽい感じのままだったのかな?
そう思いながら、コンが従魔契約に拒絶を示さなかった事に安心して微笑むと、コンは毛をぶわっと膨らませて叫んだ。
「か、勘違いすんなよ!?別にミーヤから貰った名前に加えてミーヤの従魔っていう大事にしたい宝物が増えたなんて思ってねえんだからな!ただ従魔になった方が得だから従魔になるだけなんだからな!」
「あ、うん」
………どうやら、コンのツンデレは通常運転だったらしい。
まあツンデレはわかりやすいから助かるよね、うん。と一人納得しているとイースが手を叩いて注目を集めてから言う。
「はぁい、それじゃあご飯作っちゃうからぁ、ミーヤとコンは従魔契約しちゃいなさいねぇ。あ、ハニーも料理手伝ってくれるぅ?」
「はい、勿論です」
「ラミィ……は…?」
「ラミィは焼くだけのお肉とかを任せても良いかしらぁ?火魔法の訓練にもなるわよぉ」
「やる…!」
「味見はして良いからつまみ食いはしないでねぇ?」
「………ん」
ラミィの三白眼が不満げに細められた。つまみ食いする気満々だったんだね…。
ちなみにラミィの目は瞳孔が鋭い三白眼。ハニーは複眼。コンは狐のようにシュッとした細目だが、感情に合わせて犬っぽく丸い目になるから可愛い。イースはご存知の通り目の奥にハートが浮かんでいる赤みがかった紫の瞳だ。
おっと、と思い出してアイテムポーチから肉を取り出す。
「イース、コンがくれたお肉使って。折角だし食べたい。コンの歓迎にも丁度良いし」
「!」
私の言葉にコンが耳をピコンと動かし、尻尾がパタパタと軽快に振られた。
「あらぁ……ツーモの肉ねぇ?ふぅん…」
イースは少し含みのある言い方だったが、肉を受け取って状態を確認すると満足そうに微笑んだ。
「ちゃんと臭み抜きがされてるから問題無いわぁ。ツーモは土の魔法を使うからぁ、ちょっと肉が土臭かったりするのぉ。狩ってすぐに臭み抜きをしないと土の味がしちゃうしぃ、今から臭み抜きをする事になったら時間がかかるから安心したわぁ」
「あ、だから見定めてたんだ」
「そうよぉ。ミーヤは土臭いステーキなんて食べたいと思う?」
「思わないね!」
「でしょう?匂いって大事よねぇ」
そう言ってイースはツーモの肉の調理に取り掛かった。ステーキって言ってたから楽しみだ。個人的には和風のおろしソースが良いけど異世界だから無理かな。まあソース無くてもイースの料理なら美味しいだろうから良いか。
「さて!イース達が料理してる間に従魔契約しちゃおうか!」
「お、おう!」
じゃ、まずは契約印の位置を考えないとね!




