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異世界で魔物使いやってます  作者:
異世界に来ました
35/276

重大な話ならちゃんと説明してよ!



「ミーヤの行動を先回りして、ミーヤが寝床にするだろう場所で休んで待ってた」


「色々と待て」



 上のやり取りは、何してんのという私の問いへの返答である。ちょっとよくわかんない。

 何が起きているのか理解出来ずヘッポコな脳みそが悲鳴を上げた。悲鳴上げるの速くないか私の脳みそよ。とりあえず眉間を揉みつつ狐くんの隣に座る。立ったまま話なんて出来るか!



「えーと、質問はして良いかな?良いよね?」


「ああ、勿論だ!ミーヤは俺の主だからな!」


「はいストップ。主って何?」


「?」



 きょとん、と狐くんは目を丸くした。可愛いけどそれでは誤魔化されんぞ!



「ミーヤは、俺に名前をくれただろう?だから主になったんだ。い、言っておくけど、拒絶されたって付いていくからな!?そりゃ今までは鼻も全然利かなかったけど、今は違うんだからな!狐の嗅覚を舐めるなよ!」


「うん、ちょっと待ってね。別に狐くんが仲間になる事については全然オッケーだし寧ろウェルカムだけど、ちょっと話に付いていけない」



 名前を考えはしたがもしもの話だって言ってなかったっけ君。思わず私の眉間を揉むスピードが上がる。かなり困っているように見えたのか、ハニーが背中を擦ってくれた。ラミィは焚き火の近くで暖を取っているが、尻尾は私の腹に巻きついてるから多分これはラミィなりの励ましなんだと思う。多分。



「ぜ、全然オッケーなんだな!?ウェルカムなんだな!?べ、別に断られてもずっと付いて行ったし、万が一嫌がられたらどうしようって待ってる間に二回くらい泣いたりなんかしてねえけどな!?で、でもミーヤが俺を拒絶しないでいてくれるのは、その、嬉しい…な」



 ツンデレ狐獣人のツンデレからの微笑み入りましたー。おっといかん、今私の脳内が居酒屋の店員みたいになっていたな。未成年だが居酒屋はお姉ちゃんとその友達に連れられて行った事がある。ジュース飲んでポテトとか食べつつお姉ちゃん達の濃い萌え話を聞く時間でしかなかったし、夜遅いからもう行きたく無い。

 少し嫌な記憶を思い出してブルーになっていると、先ほどの自分の発言に気付いたのか狐くんは顔を赤らめた。狐フェイスだし毛でわかんないけど、確実に顔を赤らめていた。



「か、勘違いすんなよ!?俺はただ主に付いて行くっていう!……いや、その、付いて行きたかったし、名前の件もあったし…。とにかく!例え後で拒絶されたって絶対村に帰ったりしねえからな!俺はミーヤに全部を捧げるんだから!」



 待って最後どういう事。今の段階で狐くんに喋らせると話が進まないので、とりあえず手を伸ばして横にある頭を撫でる。座ってたら届く位置って事は足が凄い長いんだな狐くん。私の仲間、私以外スタイル良い子しか居ない気がする。……いつの間にかもう狐くんを仲間認定してたわ。まあ良いか。

 とりあえず、こういう時はさっさと聞いた方が早い。そう判断して私は調理道具などをアイテム袋から取り出してご飯の準備を始めようとしているイースに問いかける。



「イース、説明ください」


「そうねぇ……まず獣人の名付けから説明した方が良いかしらぁ?」



 そう言い、イースは出した調理道具を一旦置いてから一瞬で服装を変えた。違和感すら抱かせない素早さで村からずっとワンピースだった衣装を、少しエッチな女教師へと変えていた。



「それじゃあ説明を開始しまぁす♡」


「お願いしますイース先生!」


「私達も聞きたいですね」


「……ん」


「は!?服…!?ま、魔法ってこんな事まで出来るのか!?」



 約一名混乱しているが、私を混乱させた張本人なので放置する。別に嫌がらせとかじゃ無いアルよー。ただちょっと今はこっちが説明受ける時間だから狐くんへの説明は後で良いかなって思っただけでやんすよー。



「獣人は名前に凄い誇りを持っているっていうのは知ってるわよねぇ?そして名前が無いと五感も身体能力も魔力も殆ど使い物にならなくなっちゃうのでぇ、とんでもなく大事なものでもありまぁす。そしてその重大な名付けですがぁ、基本的に実の親しか付けれませぇん。何故なら名前はとっても大事なものだからでぇす。でも一応、抜け道みたいなのはあるのぉ」



 うんうん、その件を知りたい。



「まあ、抜け道っていうか大事な儀式に近いんだけどぉ…。実の親以外に名前を付けてもらった獣人はぁ、その相手を「主」と認識して一生付き従いまぁす。ミーヤにはわかりにくいかもしれないからぁ、ヒヨコとかの刷り込みに近いって言えばわかるかしらぁ?」


「成る程」



 獣人にとって名前はとんでもなく大事なものだから、それを与えてくれた相手に絶対服従!みたいな感じなんだろうか。それとも親以外に名前を付けてくれた存在こそが主!みたいな感じなのか。

 でも何となく本能的にそうなるって事はわかった。



「そして主を得た獣人は本能的に主に一生付き従うのでぇ、主本人が嫌がってもストーカーのように後をついて行きまぁす。言い方を変えるとどれだけ酷い目に遭わされても健気について行きまぁす。まあ獣人からすれば悪意を持っての行動じゃないのでぇ、特に問題はありませぇん」


「言い方を2パターン言う必要あった?」



 ストーカーのようにって表現が酷い。



「ちなみに名無しの獣人が名前を貰って主を得るとぉ、今まで無かった「自分」と「生きる理由」が一気に出来るので凄いパワーアップしまぁす。何故ならぁ、名無しが名前を得るとその瞬間に普通の獣人と同じステータスになりまぁす。しかも主が居る獣人は主の為に潜在能力を根性で引き出すのでぇ、より凄い事になりまぁす」


「その通りだ!今までは狐なのに全然鼻が利かなかったけど、今はちゃんと鼻が利くようになったからな!夜の暗闇でも普通に見えるし!」



 尻尾をブンブン振りながらの狐くんの言葉に納得した。

 やっぱり狐くん今までは鼻が利いてなかったのか。最初の出会いの時やガルガさんの家に行った時に私達に気付かなかった様子からもしやとは思ってたけど。夜目が利くようになったのは狐が夜行性だからかな?



「じゃあ次は簡単に獣人にとっての「主」の話をしましょうかぁ。主っていうのはぁ、その名の通り主ねぇ。ペットから見た飼い主みたいなものでぇ、獣人にとっては凄い重要なのぉ。獣人が主と認めるって事はぁ、その獣人は主の為なら命すら捧げれるくらい大事に思ってるって事だものぉ」



 ……狐くんが私に全部を捧げるって言ってたのはそういう事か。



「あと覚えておいて欲しいんだけどぉ、基本的に獣人はフレンドリーだけどプライドが結構高かったりもするのでぇ、友人ならともかく主認定は中々してくれませぇん。仮に名前を付けられたとしてもぉ、本人が嫌がれば名付けを拒絶する事も出来ちゃうしねぇ」


「あれ?でも私の時は」


「そう、ミーヤの場合はその子にお願いされた………つまり主になってほしいと言われたようなものねぇ。そしてミーヤは知らなかったとはいえ名前を付けた。という事はぁ?」


「知らない内に凄い大変な事に!?思いっきり成立しちゃってんじゃん!?え、ちょ、狐くん良いの!?私事情何にも知らないで名前付けちゃったよ!?」



 事の重要さを理解して狐くんの肩を掴み揺さぶるが、名無しでは無くなったからか狐くんは動じずに私の両手を掴んで揺さぶるのを止めさせ、静かな声で言う。



「俺は…その、ミーヤが知らないのをわかった上で頼んだから。俺は名無しだけど、ミーヤの傍に居たかった。も、もう成人済みだからいい加減村を出た方が良いと思ってたし!!……それに、ミーヤも俺に名前があればって言ってくれたから」



 狐くんは掴んだ私の両手を宝物を扱うように大きな獣人の手の平で覆った。あ、肉球の感触がする。ちょっとザラッとした触り心地だけどこれ肉球だわ。後で許可貰えたらクリームとか塗らせてもらいたいな。最近イースがハニーの蜂蜜とかからクリーム作って私の手とか足とかに塗ってたし、多分獣人にも使えると思う。

 うっかり私の思考が横に逸れたが、狐くんは続ける。



「俺はミーヤに付いて行きたかった。でも、俺は名無しの役立たずで出来損ないだから。………だから、ミーヤと一緒に居たいなんて言えなかった。…でもミーヤは、俺に名前があればって言ってくれた。ミーヤは獣人に詳しく無いから、意味なんてわかってないのはわかってた。……でも、それでも」



 私の両手を覆う狐くんの両手に力が入ったのがわかる。こうして見ると狐くんは背丈に合うサイズの手なんだな。私の手が完全に見えないから私の手より一回り以上大きいぞこの手。



「…それでも、ミーヤに名前を付けてもらいたかった。ミーヤに主になってもらって、付いて行く大義名分が欲しかった。名前をミーヤに付けてもらえればミーヤは俺の主になるし、俺は役立たずの名無しじゃなくなるから。…………お、俺は別に悪い事をしたとは思ってねえからな!?…思って、ねえ、けど……騙したようなもんだから、それに関しては……悪かった」



 そう言い、狐くんはしょんぼりと耳を伏せて尻尾を垂れ下がらせる。視線も下の方を見たままだ。悪い事をして飼い主に叱られてる犬の動画を思い出してちょっと可愛い。



「いやまあ、何も知らないのに名前付けたの私だし。こっちも悩ませてごめんね、狐くん」


「それ!!」


「え?」



 ガバッと顔を上げて叫ばれるが、それって何?どれ?



「名前!俺はもう狐くんって仮名じゃなくて、ミーヤが付けてくれた名前がちゃんとあるだろ!?……み、ミーヤが呼ぶの嫌なら、仕方ねえけど……」


「あ」



 そっか、狐くんって呼ぶのに慣れちゃってたから忘れてたけど、これは名前じゃなかったね。狐くんじゃなくて、私が考えた名前。



「コン」


「!」


「ごめんごめん、これからはちゃんと名前で呼ぶね。……よろしく、コン」



 もしもの話って言われたから捻りも無い安易な名前だけど、それでこんなに喜んでくれるなら私も嬉しい。耳をピンと立て、顔はキラキラとした笑顔に変わり、尻尾は残像が見えるくらいに振られている姿を見て思わず笑ってしまう。

 すると、狐くん………いや、コンは勢い良く私を抱き締めた。コンの胸に思いっきり私の頬が押し付けられる。コンは普通に服を着てるから伝わってくるのは服の感触だけど、服の向こう側にふかっとした感触としっかりした筋肉の感触も伝わってきた。お買い得セットみたいだ。私の語彙力死んでる。



「~~~~っ!!ああ!勿論だ!俺の全部はミーヤのもの。ミーヤが俺の名前を呼んでくれる限り、それは変わらない。よろしくな、ミーヤ!」


「うん。……コン、ちょっとで良いから手加減して欲しいな。筋肉による、圧迫が…凄い、し、コンの体で…私が完全に、覆われちゃって、息が……」


「わ、悪いミーヤ!」


「ぶはぁっ!」



 すぐにコンが解放してくれたので即行肺に息を取り込む。イースの胸で窒息しかける時は胸の圧が凄すぎて空気の隙間も無いって感じだけど、コンの筋肉ホールドは空気は無くは無いけど少ないからゆっくり窒息するって感じだった。どっちもやばい。



「はぁい、話は終わったわねぇ?」



 手を叩く音の直後、イースの声が聞こえた。イースの声がした方に顔を向けると既にワンピース姿に着替えたイースが居て、すぐ横でハニーとラミィがサンドイッチを食べていた。ハニーはフルーツサンドでラミィは卵サンドだ。話の最中に口を挟まないよう食べさせてたらしい。イースは一体何のプロになりたいんだろう。



「別に何かのプロになる気は無いわよぉ?それよりもぉ、そこの……コン、で良いのよねぇ?」


「ああ」


「じゃあコンにとぉっても良いお話なんだけどぉ…♡」



 怪しく目を光らせるイースのせいで良い話に信用性が無い。詐欺師っぽいんだけど。おっと、目線で黙ってろって言われたので黙りまーす。何も発言してないけど黙りまーす。

 目線をこっちに向けたのは一瞬だけで、イースはすぐにコンの方に向き直って言う。



「貴方、ミーヤの従魔になる気はない?」


「なれるのか!?」



 待って、それ私にとっても重要な話じゃない!?



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