姉視点
書こうか書くまいかで迷ってましたが、コメントでこの伏線覚えてくれていた方がいらっしゃったので後日談。
私のお仲間であろう諸君らよ、聞きたい事がある。
いや正直コレ完全に脳内だからドコの誰に対して話しかけてんだよ感ハンパないけど、どっかの誰かにとーどけって念じるくらいには焦っている。焦ってんのかコレ。いや焦ってんだろうなコレ。
「えーと……た、ただい、まー……?」
でも数ヶ月もの間行方不明だった妹が玄関から普通に帰って来たら誰だってドコかの誰かにヘルプを念じるくらいには動揺すると思う。最早焦りなのか困惑なのかよくわからん。やっべ変な汗出てきた。
「ぶふっ……血縁だからか、独特な思考回路よねぇ」
そしてとびきり問題なのは妹である美夜の後ろに居る人達だよ!つか人ですらねーよ!妹の格好変わってんのが些細な事って思えるレベルで濃いんだよ背後!
何だその褐色肌の美女は!無重力おっぱいかソレは!?触覚生やしてる多腕のお嬢さんはその腕どうなってんの!?んで蛇!蛇!ごめんね玄関狭くって!玄関に全然入りきれてないね!んでケモケモしい青年に真昼間から出没する幽霊ってナニ!?玄関の向こうからこっち覗いてる人達も多数居るし!すぐ後ろに居る人めっちゃ背高いなこっちが首痛めたらどうすんだ!
……というか、見慣れているはずの玄関の向こう側が見覚えの無い光景なのが一番怖いな。玄関の向こうにあるはずのアスファルトの道路は一体どこにいったんだよ。家出か?自分探しの旅か?お前にアスファルトの道路以外の自分なんてねえよ帰って来い。
いや、うん、ごめん嘘。いや違くて。道路にごめんって言ったわけじゃなくて玄関の向こうが明らか異世界という光景なのが一番怖いって言ったのが嘘ね。現状の全てが異常で頭おかしくなりそう。
でもアレだよ、日常が背景にあったらコスプレかなって思うじゃん?でもそれが無いじゃん?つまり非日常なファンタジーじゃん?はいSAN値チェックです固定で10以上の数値減るわこんなん。
「……ちょい待ち」
私は一旦掛けていた眼鏡を外して服で拭く。
ちゃんと眼鏡拭き使え?うっせぇ普段から眼鏡拭き持ってる奴がどんだけ居ると思ってんだ。眼鏡入れだってカバンの中で幅取るから持ってるわけねえだろ。口調に微妙に矛盾が生じてる?ニュアンスとフィーリングさんに嫁入ってもらえばすぐわかるからとっとと籍入れとけよ。
最近首元が大分よれてきた愛用のアニメキャラプリントTシャツで拭き終わった眼鏡を掛け直すが、しかし残念目の前の光景は変化が無かった。
……いや、嬉しいよ?妹が帰って来るのは嬉しいともさ。だが付き添いの方々に普通に困るわ。お前どういう何があればそんな事になれるの?
「え、えーとねお姉ちゃん」
美夜はあわあわと手を動かしつつ、
「その、何言ってんだって思われるかも知れないんだけど、その、端的に言うと異世界行って色々あって、嫁の一人である初代魔王が「そういや俺様の邪眼の力があれば地球に戻る事も出来るぞ?もっとも、俺様達の世界はこっちだから一時的にならだけどな」って事で、結論を言うと一時的に帰還してお姉ちゃんに色々な報告と挨拶をしに来たわけでござんす!」
「お前そういうトコあるよな」
こっちが知らないゲームの説明を情熱のままにする奴みたいな説明をかましてきやがった。美夜本当そういうトコあるよ。宣伝下手くそにも程がある。
だがしかし、帰れと言うわけにもいかない。他の方々も、だ。
「とりあえず事情に関してはまあ……詳しく聞く必要も無いから聞かないけどさ」
「ん?」
私の言い方に引っ掛かりを覚えたのか美夜が首を傾げたが、まあスルーで。
というか行方不明になる前より健康そうなんだよな美夜。何あのツヤサラキューティクル。立ち姿からしても体幹とか鍛わってるっぽいし。
「美夜、他にもお客さん居るんでしょ?うちのリビングあんま広くないし正直汚れてるけど、それでも良いなら上がってもらいな」
「うん!」
とりあえずスリッパ、と思ったがきちんとした来客用のスリッパしかなかった。親しい友人とか普通に裸足で歩くもんなー。
要するにスリッパは二足分しかなかったから数が合わん。申し訳ないが裸足で歩いてもらう事に……っておい。おい。
思わず脳内でツッコんじゃったけどおいコラ。一部。一部のメンバー靴履いてねえじゃんかおい。もふもふな狐青年はそりゃケモケモしてるんだから裸足でもおかしくないけど!けど!つかそれ以前にこう……おかしくない!?
足がツララみたいってどういう事だとか、見える膝部分が作り物ってどういう事だとか、足が鱗に覆われてるってどういう事だとか、足がさっきの女の子とは違う感じで鱗に覆われてるのはどういう事だとか、裸足以前に足がキラキラな宝石っぽいっつか全身が宝石っぽいとかどういう事だとか、足は何かで巻いてるけどほぼ全裸じゃねえかどういう事だとか、裸足っつかなんつーか鳥じゃねえかどういう事だとかもう脳内疲れるわ!
ああもうツッコミ疲れた!十時間睡眠取ってからご飯食べた後だけどもっかい寝て良いかな!?お姉ちゃん何かもう疲れたよパトラッシュ!良いよもう後で床拭くよそれで良いんだろ!畜生床をスイスイ掃除するアレのアレあったかな……。
「それはフローリングモップのシートの事かな?」
「そうソレ……」
おい今女神的美しさの金ぴか系美人に心読まれたぞ。何で異世界人が地球人もうろ覚えなアイテムの名前を知ってんだよ。
思わず信じられないものを見る目で美人を見ると、美夜に「まあまあ」と落ち着くようにジェスチャーされた。
「オールはその、ちょっと全知で人知を超えてるんだけど人心がいまいちわからない的な神でして」
「美夜、あんたちょっと見ない間に説明能力死滅した?」
「その感は正直否めないかな」
否めや。そこは否めや。重要だろうが説明能力は。
さて、と私はリビングに通した全員の数を数えて、十人を超えているのを確認したところでお茶を出すという選択肢を放棄した。そんなにコップねえわ。紙コップならあるけど今うちにあるお茶は飲み掛けの大きめペットボトルしかないんだよ。今日の夕方にでもスーパー行こうと思ってたからしゃーない。
つか一般家庭にいきなり訪れた十人以上の客をもてなすとか普通に無理ゲーだわ。いやゲームだったら面白いとは思うよ?ゲームならな!どっこい残念現実だ畜生め!あーあー現実ってやつぁクソゲー代表ー!
とにかく何か、リビング中に散らばっていた物達は腕の多い女の子を筆頭にしてカップメンが出来上がるくらいの時間で片付けられ、家族用ソファがあるだけで座布団なぞは私の部屋に少ししかないというリビングの現状に対し、2メートル越え身長のパンク系ファッションさんが指から出した糸で座る為のソファを作って置いていた。え、何?ビフォーアフターの人?
「えーと、お姉ちゃん、この人達なんだけど……」
そしてお姉ちゃんはこの状況を当然のように受け止めてる妹にもビックリだよ。お前いつスルー検定受けたの?お姉ちゃんもその検定受けたいんだけど。
とにもかくにも私は私ですぐ背後にも設置されてる即席ソファに座る。
うっわ何コレ人を駄目にするソファかな?素晴らしい沈み加減。中にビーズが使用されていないからお子様やわんちゃんの居る家庭でも使えます。やっべつい脳内のテレビショッピングが発動した。
「あっはははは!」
そんな事を遠い目をしながら思っていたら、褐色肌のおっぱいバインバイン系美女が突然笑い出した。えっ何怖い。
「っふ、ふふ、ごめんなさいねぇ?面白くってぇ」
体を震わせて顔のにやけを手で押さえながら、彼女は言う。
「私はイース。ミーヤ……貴女の妹である美夜の嫁になった、淫魔よぉ♡」
おい今の一文に込められた情報量おかしくない?
そして続く美夜の嫁らしい男女種族様々な人達の自己紹介を聞き終わり、私は頷く。
「まったくよくわからんけど、まあとにかくうちの妹が凄まじいスケコマシだと言う事はわかった」
「いや、スケコマシというのはスケ、つまり女をこます、口説き落とすという意味だから女相手ならともかく、余達にはあまり当てはまらな」
「そういう注釈は要らん」
目を伏せたイケメンことパンドラが聖女系美人ことオールの頭を叩いた。しかしノーダメージらしく、オールはよくわからないという表情をしていた。
そんな二人に私が構ってもどうしようもないと判断し、私は私で挨拶の為に頭を下げる。
「私は真弥。三岡美夜の姉、三岡真弥と申します」
しっかりと名乗ると、何故か美夜が不思議そうに首を傾げた。
「……あのさ、お姉ちゃん」
「何?」
「何か、思ったより驚かないね。もっとドン引かれるかと思ってた」
「この人生でこれ以上驚く事はねえなってレベルで驚いてるわ。人間って一定超えると感情表現が追いつかないんだよ脳内辞書に刻んでおきな」
「あ、うん、何か身に覚えがある気がする」
あるんかい。
ただまあ、ツッコミこそすれどある程度平常心を保てているのには理由がある。いや理由っつか単純に夢心地なんじゃねえのとか言われたらぐうの音の出ないけど、それとは別に理由があんのよ。
私は「ちょい待ってて」と言って自室に戻り、愛用のタブレットを持ってリビングに戻る。
「美夜」
「うい」
私はタブレットを操作し、適当な返事を返しやがった妹にそのタブレットを渡して「見てみ」と言った。
「…………」
大人しくタブレットを受け取ってそこに表示されているものを確認した美夜は、長い無言の後に「……へい、シスター」とタブレットをこっちに見せた。
「何この「異世界で魔物使いやってます」って小説」
「私が書いた小説」
「だろうね!」
「だって作者名んトコお姉ちゃんの使ってるペンネームだもん!」と叫び、美夜は隣に座っていた褐色肌の男ことニーアに抱きついていた。やだお姉ちゃん妹が嫁(男のような何か)といちゃついてる姿見せ付けられてる?
……矛盾がインフルエンザのようにはびこってやがんな。お帰りください。
「……どゆ事?」
ニーアに抱きついたまま、顔だけをこっちに向けてそう言った美夜に、私は「最初はあんたが行方不明になった晩」と答える。
「家出するような、ってか出来るような性格じゃないから何かあったんじゃないかって思ってハラハラしながらニュースとか見てたのよ」
「そ、それは誠に申し訳ない事を……いや私何一つとして悪く無いとは思うけどさ」
後半小声だったけど聞こえてんぞマイシスター。お姉ちゃんは声優さんを聞き分けれるという駄目絶対音感を持ってるから割りと耳良いんだぞコラ。
さておき、私は続ける。
「で、メンタル的に毒の沼かよって感じで精神力ゴリゴリ削れるじゃん?心労溜まるじゃん?寝落ちるじゃん?そしたら何か森で目覚めた瞬間の美夜が夢に出るじゃん」
「ほわっつ?」
酷く怪訝そうな顔をした美夜に、「いやだからマジでそうなんだって」と私は返す。その顔はこっちの方がしたいわという言葉を飲み込める私はお姉ちゃん。妹の理不尽に耐えてこそのお姉ちゃんだ。ただ後で覚えとけよ。いや別に何かする気も無いけどさ。
「何かこう、寝るじゃん?すると夢の中で美夜がミーヤって名乗りながら嫁増やしていく夢を見るわけよ」
「……ほ、ほっほーう?」
何故二次元キャラの感情はきちんと読み解ける癖にこういう時だけ読解力がたったの5になるんだろうかうちの妹は。ベジタリアンさんにゴミ扱いされるぞ。
「寝る度に見るじゃん?もうコレはうちの妹異世界転移しちゃったわヤッベーってなるじゃん?」
「なるかなあ」
うっせえ実際に異世界転移してた奴が言うんじゃねえ。
「あのね、こっちはかなりメンタル的にやばかったわけなんだよ。わかる?いきなり唯一の肉親と言える妹が失踪するわ、毎晩毎晩妹が異世界で旅してるのを夢に見るわでさ」
それを聞いた幽霊ことアレクが「うわー、それはキツイ」と小声で言った。幽霊が常識人枠とかこのメンバーおかしくない?そこは妹である美夜が常識人枠に収まってて欲しかった。おのれクソゲー名現実。
「そんで心配してくれた歩萌に「実は妹が失踪した日から毎日妹が異世界で旅してる夢を見るんだわ……コレもしやマジで美夜が異世界転移したんかも」って相談したら、凄い優しそうな顔と声で「真弥、精神科行きましょう」って言われたりさ」
私服がゴスロリという上級者な歩萌に言われたんだぞこっちは。それ言われた瞬間にこっちはこっちで「そっか!私が精神を病んでる可能性があったのか!」って納得しちゃったしさ。
「……いや、本当それはすんません。というか腐山さんにも申し訳ないなソレ」
「まあ幸い精神科は行かなくて済んだけどね。鏡の保護者さんが探偵らしくって、そのご縁で精神科のお医者さんに知り合いが居たらしくてさ。鏡のお陰で時々カフェとかで話すくらいで済んでる。あとその時に小説として形にしたらって進められたから小説にした」
「それメンタルカウンセリングって言うんじゃないかな」
美夜は小声で「というかあの常にハイテンションな鬼戸さんが気遣うとか相当じゃ……」と呟いた。うっせえよ誰のせいじゃ。
あと鏡は確かにチューバーやってるし常にハイテンションだけど、アレで意外と常識人なんだからな。修羅場中に室内に転がされてるゴミを集めてくれたりするし。紹介してくれた精神医の人も凄いほんわかしてて優しい人だったし。ただ精神医さんが2メートル級の巨人だった事を先に教えてくれなかった事はまだ根に持ってるからなあんにゃろう。
「で、美夜の様子を夢でこう……幽霊ってか思念的な感じで見てるじゃん?ある日イースに声掛けられるじゃん?」
「ほわっつ!?」
「しかもその後イースだけじゃなくロンやパンドラやオール、どころかニーアにまで存在を認識されてたりするじゃん?」
「そうなの!?」
驚いたようにそう聞く美夜に、名前を挙げられたメンバーが頷いた。
「夢という形でこちらの様子を見るだけであって、干渉力は無かったからな。儂らくらいでないと認識は出来なかっただろう。実際、アレクは認識出来ていなかったようだしな」
「うん、初耳」
アレクが頷いた。
「……いや、いやいやいや待って!?でもお姉ちゃんさっきめちゃくちゃ驚いてたよね!?」
「夢だけどもしかしたら現実かもうふふっつって見てたもんがいきなし現実に現れたらそりゃ驚くわ!」
ポケットに入るモンスターがリアルにハローしてきたら誰だって腰抜かすだろうが!こっちからすりゃ大体そんなもんじゃ!
「液晶越しじゃなくリアルだぞリアル!二次元特有のデフォルメもされとらんリアル魔物とか魔物娘とかコスプレにしか見えん人間とかその他諸々!「あっれーおっかしいなーアレって夢じゃ……いや夢は夢でも異世界の様子が云々的かもしれんけどマジに異世界から来るとかマジ?」って脳内現実逃避でバンジーしてもしょうがないでしょ!」
「お姉ちゃんも割りと思考飛びがちなトコあると思う!」
遺伝だよ遺伝!美夜は覚えてないだろうけど両親共わりと思考がジャンプしがち人間だったからね!
「……えー、まあ私の方はそんな感じのアレなわけだけど」
「うん……」
二人して無駄に疲れながら、私は言う。
「……美夜は何しに戻って来たの?別に、地球に戻って来る気は無いんでしょ?」
「うん、嫁と一緒に入れる異世界に居たいし。最近はある程度色んなトコ見て回ったら家とか欲しいねって話してる」
二十代独身、彼氏も居なけりゃ彼女も居ないお姉ちゃんに対して喧嘩売ってんのかなこの妹は。良いもん別に。私の推しは液晶の向こうに百人以上居るし……。
「だからさ」
見た目こそまったく変わっていないが、しかし美夜は数ヶ月前とはまったく違う、大人っぽくなった表情で言う。
「私は私で嫁と一緒に異世界で楽しく過ごすから、気にしないでって、言いに来た」
「あとさよならも言いに」と言った美夜に、私は溜め息を吐いた。
「まあそれに関しては良いけどさー」
「良いの!?」
「こんな大人数の嫁連れて来といて何言ってんの?断らせる気皆無じゃんか。嫁と引き剥がしてでも地球に住めよって言うような鬼姉だとでも思ってたわけ?」
「いや最終的に許可出してもらう気ではいたけど思ったよりあっさり……」
本気で驚いてるらしい美夜に、私は言う。
「あのね、こっちは夢で色々見てんの。美夜が嫁全員を愛してる事から、嫁達は嫁達で美夜を愛してる事とかさ、思いっきし目撃してるわけよ」
「不幸ならともかく、幸せを壊す気は無いよ」と私は言った。
「ただまあさよならは良いけど、その前に全員で写真だけ撮らせて。歩萌達にあの夢マジだったわって証拠の為に見せるから」
合成だろって言われるかもしんないけど、そうなったら松に解析してもらおう。年中小豆色ジャージ着てるけど、松はそういうの得意だしね。
それがわかっているからか、
「りょーかい」
美夜はニッと笑って頷いた。




