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異世界で魔物使いやってます  作者:
バーバヤガ編
272/276

こんぐらいなら余裕



 邪神召喚に対して私が割りと余裕だったのは、つまりはそういう事だ。

 ホリィが嫁になった直後に、邪神の面がアラームのように赤い点滅をし始めていた。なので装着してみたら、前にも話した邪神曰く、



「ミーヤ様が懸念されている邪神召喚に関して、どうにかしてみせましょうか?私にお任せしてくれれば、ミーヤ様の望む無血での戦争終了も夢ではありませんとも!ええ、ええ、ええ!何せこの私こそがバーバヤガの主神とされる邪神なのですから!」



 ……との事で。

 オールに視線を向けたら頷いてたし、まあ確かに邪神である事は確かだし、と納得した。いやもう驚く程に否定材料が皆無だったし……。



「そうですねえ……バーバヤガの王は私を召喚する事を、どんな妨害があろうとも諦めないでしょう。ですからもういっその事、召喚してもらいましょう。ああ、生け贄を欲したりはしませんから安心してください。別に生け贄無しでも召喚されるくらいの魔力はこっちでも充分賄えますから。面倒だからやらないだけで、私が乗り気なら魔力消費無しでも召喚されるくらいは出来るんですよ」



 「ですが」と邪神は続ける。



「うっかり逃亡されても厄介ですからね。気絶ギリギリまでは魔力をいただくとしましょうか。ああ!適当に国王に夢を見せて「魔法陣を描く時は獣の血を。人間は生け贄として食うから新鮮なままで」とでも言っておきましょう!それならミーヤ様の懸念である人間への被害も最小限に抑えられますからね!」



 それに対して「でもそれって結局召喚はされるって事ですか?」と聞くと、邪神は言った。



「アハ、嫌ですねーえ。まるでそんな、召喚された瞬間に私が世界を混沌に陥れるんじゃないかって思われてるかのようじゃないですか。まあまあまあ、実際そういう事は何度かした事がありますが。ですがご安心ください、今回は致しませんとも。ええ、ええ、ええ!邪神内でも嘘吐きとされる私ですが、ミーヤ様に嘘など吐きませんとも!」



 嘘臭いなとは思ったけど言わないでおいた。



「酷いですねえ、嘘臭いだなんて。私はミーヤ様に対してだけはちゃーんと誠心誠意、正直にお話してますよーお?」



 邪神は心が読めたのを忘れてた。



「……ええ、ええ、ええ。私だって悪さをしない事だってありますとも。そう、例えばミーヤ様と共に居る事が出来るなら、とか」



 さっきまでの楽しげな嘲笑混じりの声色と違って真面目っぽい声色だったのでどういう事かと聞くと、邪神は答えた。



「初代魔王や全知の神が求めたのと同様に、私もミーヤ様の寵愛が欲しいという事ですよ。私は忌まわしくあれと作られた邪神の中でもとびっきりの危険邪神ですが、それはそれ。ミーヤ様が私を受け入れて、そして愛してくれるのであれば、私はミーヤ様に絶対の忠誠を誓いますとも」



 「……それはもう、絶対の。ミーヤ様が受け入れてくれるというのであれば、人間に手出しはしないと誓います」と、邪神は真面目な声色で言った。



「ミーヤ様は平等に均等に、そして充分な愛を渡してくれますからね。ですから、ええ、二十人目の嫁という立ち位置を、私は喜んで求めます。まあ称号は第十九夫人になるのでしょうが」



 「まあまあまあ、要するにハーレムは普通に受け入れているので、その辺りは気にしなくて良いですよ、という事です」と、邪神は私がちょっと気にしていた部分への返答をくれた。



「私からの要求はそう、つまりはミーヤ様の妻にして欲しいという事。妻にしてくださるのであれば、私が人類の敵になる理由も無いという事です」



 笑っているかのような声色でそう言った後、「そうそうそう、それと要求はもう一つ」と邪神はわざとらしく付け足した。



「ミーヤ様から、私に名前を付けてください。適当な名前は持っていますが愛着も特に無いものですからね。ミーヤ様からいただいた名前であれば愛着も持てるでしょうから、是非」



 「ああ、ですが」と邪神は言う。



「私の種族名。種族名は正確には邪神という事になってしまうのですが、そうではなく、本性の方。そちらの名称から少しもじった名前が良いですね」



 つらつらとそう言ってから、邪神は「では」と静かに別れの言葉を告げた。



「それではミーヤ様、私の名前を、どうぞよろしくお願いいたします。ああ、こちらの事は全て私にお任せを。私を信頼して任せてくだされば、全てミーヤ様にとって良い方向に動きますから。ええ、ええ、ええ、最終的にどうなるかはミーヤ様次第ですが、ミーヤ様なら私の要求に答えられると信じていますとも」



 そう言い、あの時の連絡は切れた。邪神の面を付け直してもみょいんみょいんという宇宙的な待機音が聞こえるだけで、結果を言えばいまいち喋るタイミングを掴めなかった私は邪神によって一方的な約束を取り付けられたわけだ。

 まあ別に良いんだけどね。

 他の皆も「まあ邪神くらいなら今更」って感じで普通に受け入れムードだったし、笑ってるイース曰く「愛の加護のお陰でSAN値チェック耐性もあるしねぇ」との事だったし。つまり問題は無い。

 邪神が押し掛け女房しようとしてるのに動揺しなさ過ぎ?はっはっは、今更今更。気にしても腹が減るだけだぞよ。



『アハ、あは、アハハ!まさか本当に貌を合わせる事が出来るだなんて!』



 『とても嬉しい事ですね!』と、頭痛が起こりそうな声で邪神は言った。

 ……うーん、本当にSAN値MAXの称号があって良かったね。無かったらちょっとキツかったかもしれない。愛の加護効果で皆も多少驚いてはいるようだけどSAN値減少は起きてないっぽいし……うん、ニヤ猫に大感謝しとこう。ありがとうニヤ猫。

 しかし、それとは逆にSAN値チェックに失敗したらしいバーバヤガ王は困惑したように叫ぶ。



「な……どういう事だ!?お前を召喚したのは!封印を解いてやったのは我だというのに!何故その侵入者を!敵を歓迎する!?そいつ等はお前が狂気と混乱を持って絶望させた上で死を与えるべき相手だというの」


『邪魔』



 「に」とバーバヤガ王が言い切るが早いか、触手の化け物のような邪神が動いた。否、蠢いた。直後、バーバヤガ王は事切れたかのようにゴトリと重い音を立てて床に転がった。



「……あのー」


『ああ、ああ、ああ、嫌ですねーえまったくもう。人の、そして邪神の会話を遮るような者はそれ相応の対処をされるのは当然というものです。ですがご安心くださいミーヤ様!普段なら内側から化け物が肉を食い破りながら産まれたりなどの呪いを掛けるところですが、ソレはミーヤ様の意向に沿いませんからね。軽く圧を掛けて気絶させただけですよーお』



 『ええ、信じるかどうかはミーヤ様次第ですが』と、笑っているような声色で邪神は蠢きながら言った。



「じゃあ無事な方に一票という事で」


『……私が言うのも何ですが、ミーヤ様って中々に肝が太いですねえ』



 本当に邪神が言うのも何だよ!邪神に肝が太いって言われちゃもう人間の度量超えてるって自覚をせざるを得ないじゃないか!



「まあ大丈夫じゃなくても最悪パンドラに頼むから大丈夫という事で」



 そう言うと、パンドラは「まあ確かにその通りだな」と頷いた。

 うん、まあ、生きてるに一票入れてるからパンドラに蘇生を頼んだりはしないと思うけどね。呼吸ちゃんとしてるのか国王の胸上下してるから死んでは居ないっぽいし。



「それで、えっと」



 私は蠢く触手を見ながら、邪神に言う。



「名前の件だけど」


『ああ、ああ、ああ、待って下さい』



 ギギギという黒板を引っ掻いたような音がBGMとして聞こえそうな、でもガラス越しに聞いているから大丈夫なような不思議な声で、邪神はぬらぬらとした黒い光沢のある触手を私の前に出した。まるで「待った」というハンドジェスチャーのように。



『……少々気が変わりまして』



 ぐにょり、と名状し難い動きで全身を蠢かせながら、邪神は歪な、しかし静かな声色で言う。



『こうして私はミーヤ様の前に本性を、本当の姿をさらけ出したわけですが……』


「うん」


『本当に私を愛せますか?』



 どういうこっちゃと首を傾げると、邪神は己を蠢かせながら頭が痛くなるような、しかし包み込むような柔らかさを感じるような声を脳内に響かせる。



『こんな歪な私を。矛盾を孕んだ……いえ、いえ、いえ。矛盾そのモノのような私を、愛せますか?』



 『私を作った人間でさえ、私に詰め込んだ狂気によって狂いました』と邪神は言う。



『私を全ての者から嫌悪されるように作った作成者は、私を嫌悪して自殺しました。そんな私を、本当に愛せますか?狂気や混乱の中で、正気を失っているならともかく……完全なる正気の中で、こんな私を』



 触手に纏わりついているスライムのような黒々しい粘液からボコボコとあぶくが立ち、SAN値MAXの称号が無かったら見ただけで吐き気を催しただろう何とも言えない霧がエントランスにゆっくりと広がる。

 ……霧ってか正気を失う瘴気って感じ。



『本来ならば見ただけで正気を失う正体の私を!他の邪神達にすら嫌われているこの私を!人に狂気と混乱を振り撒くこんな私を!本当に貴女は!愛して、愛して、愛して、そして受け入れる事が出来ると!?』



 感情と同調しているのか、エントランス内に出現している邪神の体積が増えた。見たまんま言うなら大きくなったとも言えるが、どちらかというと体積が増えた、という感じの圧迫感がある。

 ……圧迫感っていうか、実際に触手の圧で近くの柱が折られたんだけど。アレがこの城の重要な柱で無い事を願うよ。

 さておき、私はすぐ近くを蠢いている触手に手を伸ばし、掴んだ。



『……触れてどうなると?触れたくらいでは愛せるという証拠にはなりません。寧ろ、触れた部分から貴女の本心が私には透けて感じ』


「ん」



 私は右手で掴んだ黒光りするぬめりがある触手に、軽くキスを落とした。



『………………え』



 うーん、不思議な触感。ぐにゅぐにゅしてるけど弾力はあるようで無く、水気の多いスライムのような感触。いや、つきたての餅か?よくわからんけど何かこう、千切れない程度の弾力はありーの、ぐにょんぐにょん柔らかい感じ。

 顔も口もどこにあるんだかよくわからないが、邪神はどうやら呆けているようだった。そんな邪神の、顔はわかんないからとりあえず邪神の方を真っ直ぐに見ながら私は言う。



「ニーア」


『……ニーア?』


「名前、要求してたでしょ」



 いやー、ネーミングセンス無い私だけど頑張ったよ。めちゃくちゃ頑張ったよ。



「最初に電話を取った時の人間の言葉を話さない誰か……っていうか何か相手に、君は「シャンタク鳥」って言ってた。他にも友神は居ないとか何とかってさ。で、クトゥルフ系の邪神だと仮定して、他の邪神が眠っている中でも起きてそうなのはって考えて」



 「私は君が、ニャルラトホテプじゃないかと思った」と私は邪神に告げる。



「で、調べてみたらニャルラトホテプとかナイアーラトテップとか呼び名は色々あるわけで。残念ながらバーバヤガ内ではどんな名前で呼ばれてるのかまではわかんなかったけど、とりあえず私は君がニャルラトホテプという邪神だと決め付けた」



 そう、決め付けだ。バーバヤガ内の神話とかを漁っても、邪神としか名称は出てこなかった。

 リオの所有してる本にも載ってないし、邪神の正体を知ってるだろうオールとパンドラはによによ笑いながら「これはミーヤが見つけるべき事だから」って言って見守ってるだけだったしね。

 まあでも本当にまずかったら教えてくれるだろうから、私の仮定が当たってるんだろう、と思う事にした。そうでも思わんとプレッシャーで潰れるわ。



「というわけで、ニャルラトホテプとナイアーラトテップからニーアって名前を考えてみた」



 「ど?」と首を傾げて聞くと、邪神は無言のままゴギャリという鳥肌が立つような音を響かせながら、捻れ始めた。



『……まったくまったくまったく、本当に異端も異端で異端な異世界人ですねーえ、ミーヤ様は』



 くぐもったような声でそう言い、邪神の変化が終わった。



「…………だからこそ、私はそんなミーヤ様の寵愛が欲しいとおもったわけですけどね」



 そこに立っていたのは、褐色肌の男だった。

 身長はコンやアリスと同じくらいの高身長で、オールバックにしてある長い黒髪。ストレートに見えるが、下の方はまるで触手のようにウェーブしている。

 白い長袖のシャツに黒いベストを重ね、黒いズボンと黒い靴。首にはシンプルなリボンタイを付けているその褐色肌の男の顔は、見るからに人外だった。

 パーツこそは人間と同じに見えるが、本来なら白目の部分が黒く塗り潰されている目をしていた。耳もエルフ程では無いとはいえ、イースやフェレイアさんと同じように耳の先だけが少し尖っている。



「まったく、まったく、まったく……」



 男はコツコツと足音を鳴らして私に近付き、黒色に縁取られた赤い瞳で私の顔を覗き込みながら薄く微笑み、私の口元を褐色の指で拭った。



「上級ドラゴンの血肉のお陰で内臓ごと強化されていたから良かったものの、普通の人間だったら私の体液を経口摂取した時点で人間を辞めてましたよーお?」



 にんまりとした三日月のような笑みを浮かべながら言われた言葉に、私は反射的に「わお」と漏らした。



「……それにしても、本当……まったくと言って良い程に、私に対しての嫌悪感を覚えていませんでしたねえ。まさかあの姿のままで正気の相手にキスをされるだなんて、初体験ですよ」


「あっはー。まあ今更あんくらいじゃ怯まんよ」



 うっかり修羅場を潜り抜け過ぎたよね。異世界来たばっかの私だったら気絶してただろうけど、残念今の私は色々経験した末に色んなハードルがめちゃくちゃ低くなっている。



「で、名前はニーアでオッケー?」


「勿論」



 口元に笑みを浮かべながら目を細め、「見事大正解でしたよーお、ミーヤ様」と男……ニーアは言った。

 ……うーん、私がニーアの本性全然平気だった理由、多分ニーアがそんだけ好意的に接してくれるからじゃないかなあ。

 オール曰く、好意には好意で返すのが私らしいし。好意しかない相手なら、そりゃ好意を返す以外に選択肢無いよね。



「普通は私を見て、そんな悠長な事は言ってられないはずなんですけどねーえ」



 「アハ」と笑い、ニーアはエントランス内に倒れているバーバヤガ国王を始めとした王城関係者の人達を見回した。



「それでは、全員縛り上げましょうか?」


「そうねぇ」



 一部を除いて邪神姿のニーアに少し驚いて硬直してたらしい皆が気を緩ませたのを確認して、平気だった規格外メンバーの一人であるイースが頷いた。



「先に全員捕らえておいた方がぁ、事情聴取で疲れてるだろうセレス達に楽をさせてあげれるものねぇ」



 「だね」と頷き、私は警戒状態を解除したハイドに彼らの捕縛を頼んだ。



最初は割りと普通のファンタジーを目指して、かつキャラを濃くし過ぎず普通の主人公にする予定だったんですよ。

……あっれー?(素のニャルラトホテプにキスするミーヤを見ながら)

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