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異世界で魔物使いやってます  作者:
バーバヤガ編
271/276

Oh



 数時間後、無事にバーバヤガのほぼ全国民が降伏した。

 ……というか、最初の時点でほぼ全員降伏してたんだよね。ただちょっと収容するのに時間掛かっちゃったというか。



「リオが居なかったらかなりキツかっただろうから、ありがとう」


「書籍らはただ知識を提供しただけだ。気にするな」



 空間拡張魔法に関しての本をアンナさん達に貸してくれたリオにお礼を言うと、魔物達をインクに戻して巻物の中に収納していたリオは気恥ずかしそうにそう言って顔を逸らした。前髪ガードでこっちからは目元が全然見えないけど、視線を逸らしたかったのかな。可愛い。

 よしよしとリオの頭を撫でていると、「いや、しかし助かったのは事実だ」とアンナさんが言った。



「いくらバーバヤガが小国とはいえ、国民のほぼ全員を千にも満たない数の屋敷に収容は普通不可能だ。しかし空間拡張、個室の複製魔法のお陰で私達はとても楽をする事が出来た!」



 私が演説してた時は他の屋敷などで待機していて、それぞれ降伏してきた人達を収容していた王の剣メンバー。収容が終わったからとこっちに移動して来てた全員、特に魔法関係であるアボットとリーンちゃんがアンナさんの意見に同意して深く頷いていた。



「そこまで大した事はしていない」



 そう言ったリオに、アンナさんは「リオからすれば、だろう」と笑った。



「リオが提供してくれた本は千年程前に滅んだとされる空間拡張術式が載っていた。個室の複製魔法は家具ごと複製されるからという事で意図的に抹消された魔法だったし……いやはやまったく!滅んだはずの術式を確認し、それに手を入れ、更に使用する機会に恵まれるとはな!とても素晴らしく、そして助かった!」



 「ミーヤも良い嫁が居るものだ」と笑い、アンナさんは私の背中をバシンと力強く叩いた。



「あはは、良い嫁でしょう。しかも可愛いから最高ですよ」



 笑ってサムズアップして見せると、ニヤッとした笑みを浮かべたアンナさんに「惚気か?」ともう一度強く背中を叩かれた。今のはロンの肉食べてなかったら痛かったぞ。良かった頑丈になってて。



「一先ず収容はどうにか終わりましたケド……こっから事情聴取があるんすよね」



 「はぁ~あ……」とタバサは引き攣り笑いのような苦笑を浮かべた。



「収容だけで数時間だっつーのに、こっからどんだけの人に事情聴取しなきゃなんねーんだか」


「でも前科があるかどうかを確認して、前科があったらもうしないようにって契約書にサインさせる必要があるからねえ」



 「ま、大変なのは事実か」と、ブラッドさんは頭を掻きながらタバサと同じように苦笑いを浮かべる。

 そう、降伏したバーバヤガの人達は捕虜だ。だからといって奴隷にするわけじゃない。前科があるなら契約書にまた同じ罪を犯したりしないようにとサインをさせて、あとは再びバーバヤガ内で解放する、という感じらしい。

 もっともサインをしてもらっても、解放自体はバーバヤガ国王をどうにかしてからなんだけどね。

 だってホラ、今戦争中なわけだし。全然そんな雰囲気は無いけど国と国の戦争真っ最中だし。そういうわけだから、代表でもある国王をどうにかしてからじゃないと捕虜の人達を解放する事は出来ない。



「……それにしても、大丈夫でしょうか」



 心配そうに眉をハの時にしながらセレスがそう言うと、両手を組んで頭の後ろに回しているセインが「まあ確かに心配になるのはわかるぜよー」と頷いた。



「バーバヤガ中の国民が降伏したのは良いけど、王城からは誰一人として降伏した奴出てねえからな」



 ……そう、王城からの降伏者が出てない。だからこそバーバヤガ国民の「ほぼ」全員が降伏、って表現になってしまう。アレクに頼んで王城内にも魔道具仕掛けてもらったから、王城内でもホログラムは発動したはずなんだけど。



「外回りの最中だったりホリィを探してたりで王城の外に出てた兵士とかは普通に降伏してた事を考えると……どう思うですだ?お兄様」


「……そうだな」



 セインに問われたケインさんは、顎に手を当てて思案げに眉を顰めた。



「……少なくとも、王城なら見張りが居るはずだ。……そして自分を優先するバーバヤガ人なら……即座に降伏するはず。……だが……見張りどころか門番すらも降伏してこないのは、おかしい」



 ケインさんがそう言うと、ふとどこからか折り紙で作られた小鳥が飛んできた。

 アディさんが迷い無くその小鳥に手を差し伸べて手の上に小鳥を乗せると、どうやら魔法の効果が切れたらしい。魔力が無くなる気配と共に、小鳥の動きが止まった。

 そんな小鳥の折り紙を開き、アディさんは中に書かれている内容を確認して片眉をピクリと不愉快そうに動かした。



「マールからの報告だが、そもそも王城の周囲に人気が無いそうだ。王城内に気配はあるが、王城の外には見張りが一人も居ないと」



 「そしておかしな音が聞こえるとも書かれている」とアディさんは続けた。



「おかしな音って?」



 ファフニールに抱き上げられながら首を傾げたアランに、アディさんは「言語化が酷く難しい発音らしいが……」と眉間に皺を寄せた。



「にゃる・しゅたん、にゃる・がしゃんな。そんな声が時々聞こえてくるらしい。それとバーバヤガ国王の狂ったような笑い声とかだな」


「待ってその呪文めっちゃアウトじゃない?」


「西の海に居るクトゥルフが仲間の気配に反応しそうだな」



 地球知識があるアランとファフニールの真顔での発言に、アディさんは不思議そうに首を傾げた。

 ああうん、そうね、知らないとそういう反応になるよね。でも地球の一部のオタクの義務教育的な部分あるから……クトゥルフ神話は……。



「え、どうすんの?それって召喚だよね?めちゃくちゃヤバイのを召喚しようとしてるよね?え、止めに行く?間に合う?」


「言っておくがアラン、俺は万が一の時はお前だけを連れてさっさと逃げるぞ」


「俺を置いてかないで一緒に連れてってくれるファニーのそういうトコが大好きだよ!でもまだ致命的な事にはなってないからステイステイ」


「上級ドラゴン相手に随分な態度だな?」


「ぐえっ、ちょ、ファニーごめんってば。だから抱き締める力強めないで俺の内臓出ちゃう。口から内臓出ちゃう。グロ同人みたいになっちゃう」


「……グロといえば、日本人は頭がおかしいと今でも思うぞ。何故マグロの解体ショーは嬉々としてかぶりつきで見るのに、哺乳類の解体はグロいと言うんだ?マグロなんて解体直後に食べたりまでしてる癖に」


「いきなりどしたのファニー」


「いや、ふと思い出したから言っただけだ。日本人の感覚は独特だったな、と」


「あー、まあ確かに?」



 何かいちゃいちゃし始めた二人を見ていると、



「やっと戻ってこれた……!」


「はっはっは!町を壊さんようにと国境辺りから擬態したのは失敗だったな!」


「おぶっ」



 背後からデカい二人に抱き締められた。



「お帰り、ハイド、ロン。脅かし役ありがとね」



 そう言って腕を伸ばして二人の頭を撫でると、ハイドは深く息を吐いて私の首に頭を擦り付けた。



「……ああ」


「ははは、中々に楽しめたぞ」



 にこにこな笑顔を浮かべながらそう言ったロンに、私は笑って「そのようで」と返す。



「んじゃ帰還早々で申し訳ないんだけど、全員揃ったし行こうか?」


「そうねぇ」



 くすくすと笑いながら、イースは「遅刻したら拗ねちゃうかもしれないものねぇ?」と言った。



「……拗ねるかな?」


「いや、拗ねる確率は五十分の一程度しかないから大丈夫じゃないか?」



 目を伏せたまま、パンドラはそう言った。



「あ、じゃあそこまで慌てなくても大丈夫っぽい?」


「その代わり拗ねた場合は世界が終わり掛けるが」


「アウトじゃん」



 待ち合わせに遅刻したら世界滅亡とか嫌なんだけど。どんな命懸けのデート?いやまあデートでも無いし正確には待ち合わせともちょっと違う気がするけどね。

 ……ま、遅れるよりは早めが良いか。



「んじゃセレス、私達ちょっとバーバヤガの王城に顔出して来るから」


「え!?」



 大天使さんと事情聴取の指名云々の話をしていたセレスは、酷く驚いた様子で振り向いた。



「ですが、今あの王城は良からぬ事が起きているのでは……」


「うん、知ってるから大丈夫。あと一応手はあるし」


「手?」


「触手かもしれないけど」



 ヘラリと笑ってそう言うと、セレスは不思議そうに首を傾げながらも、納得したように頷いた。



「ミーヤ様ですものね」


「……あの、セレス?私としては深く聞かれないから助かるっちゃ助かるんだけど、その納得の仕方止めない?」


「ですが、他に言い様もありませんわ」



 うぬぬ、ぐうの音も出ねえぜ。

 言い返せずに無言になると、セレスは楽しそうにくすくすと微笑んだ。



「それに、ミーヤ様がそんな風に気を緩ませているという事は、大丈夫という事でしょう?」



 ……んー。



「多分?」


「多分なんすか?」



 私の返答に、タバサが苦笑した。



「種族聞いて無いからねー。でも多分あの種族だと思うから、もし合ってた場合は人を裏切ったりするのが好きな性格だと思う」


「え」


「でも前に一回信じた時、教えてくれた事は本当だったから。なら今回も信じようかなーって」


「……ミーヤって本当、ミーヤっすよね」



 おい待てタバサ。何だその言い方。変な形容詞を作るんじゃないよ。



「ま、俺らじゃどーしよーも出来なさそうなのは察してるんで、後は任せます」


「こちらの方はお任せを」



 笑ってそう言ってくれた二人に、私は頷いて「ん、行って来ます」と言って手を振った。

 そして皆と一緒に悪徳貴族の屋敷の敷地内から出て王城の方に視線を向ければ、王城の周囲に凄まじいまでの魔力が渦巻いているのが魔力感知でわかる。王城の上空なんて雷雲みたいな黒い雲が渦作ってるし。



「……あんま距離無くて良かったね」


「距離があったら、本当に遅刻する可能性がありましたね」


「走っても良いけど、僕達結構種族差でスピードにも差があるからねー。まあ僕は死んでるから走る足も無いんだけど!」


「ジェム、はしる、まだ、にがて。はしる、だったら、ジェム、こまる、した」


「……ん。ラミィ……も、走るの、苦手……」


「私もだ。鳥人は地面を歩くのにはあまり適していないからな。空を飛ぶ分には問題無いが、走るとなると不得手だ」


「ホリィさんも走ったりはちょっと苦手ですねー」


「え、あんだけ逃げる系のスキル持ってんのに?」


「ホリィさんの逃げる系のスキル、殆どが隠れる系なんですよね。やり過ごすと言いますか……つまり走る系じゃ無いんですよ」


「確かに!」



 上から私、ハニー、アレク、ジェム、ラミィ、イーグル、ホリィ、ローラン、もう一回ホリィ、マリンの順である。

 そんな風に会話をしながら歩き、王城に到着した。



「……本当に門番居ないね。昼寝したりしてる見張りすら居ない」



 周囲を見回しながら言うと、オールは「少しでも生け贄を多く確保したかったんだろうね」と静かに言った。



「生け贄が多い方が召喚の成功率が上がるのも事実だけれど……」



 「……ふふ」とオールは微笑んだ。



「あの子は本当、随分と献身的な事だ」


「オールが言う事じゃ無い気がするが、まあそうだな」



 パンドラがオールの言葉に頷いているのを見ながら、私は王城の扉を開けて中に入る。



「……Oh」



 扉の向こうに広がっていたのは、



「にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな!にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな!」



 そう叫ぶバーバヤガ国王だろう男と、その周囲で気を失っている人達。そして広い空間であるエントランスの床部分には、血で魔法陣らしきモノが描かれていた。

 その血を見て一瞬眉を顰めると、コンがこそっと私に耳打ちしてくれた。



「……あの血は匂いからして魔物の血だな。周囲に倒れてる奴等からは血の匂いがしねえから、あいつらの血を使ったわけじゃねえ。……ちゃんと、人間は傷付けるなって言っといてくれたみたいだな」


「だね」



 私はコンの耳元をこしょこしょと撫でつつ、「やっぱり約束、ちゃんと守ってくれてるんだね」と小声で言った。



「来たな!」



 突然呪文を叫ぶのを止め、バーバヤガ国王は血走った目で私達を見た。



「来たな来たな来たな!我が国を滅ぼそうとする悪人が!」



 ……こーりゃSAN値ゼロかな。国王の座に置いといちゃアカンだろってくらいに発狂してんさるわ。



「だがもう遅い!既に召喚は始まっている!はははははは!さあ姿を現せこのバーバヤガの主神たる邪神よ!その人知を超えた力を持って全てを蹂躙し、この手に世界を掴ませろ!」



 バーバヤガ国王の言う通り、魔法陣は発動している。凄まじい魔力が魔法陣を駆け巡っているのがわかる。

 ……でもなー。



「来る!来るぞ!さあ来い邪神!その身を封じる戒めを解き、姿を現せえぇぇぇえええ!」



 バーバヤガ国王の引っくり返るかのようなその叫びと共に、魔法陣は一際強い、真っ赤な光を放った。



「あーーーーっはっはっはっはっは!これだ!これこそが我らが邪神だ!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」



 狂ったようにバーバヤガ国王は笑う。否、実際狂っているんだろう。召喚された存在を見てしまったから。

 王城のエントランスの殆どを埋める程の大きさ。うじゅるうじゅると音を立てて蠢く触手。その触手は黒い光沢のあるスライムかと思うような粘度の粘液を纏っていて、普通の人間だったらドン引き確定だっただろう。



『アハ』



 口があるのか無いのかわからないソレの声がする。



『あは』



 無邪気な、しかし邪気に塗れた声が響く。



『アッハハハハハハ!』



 エントランス内、もしくは城内全体に響くような大声で、脳内に響くような声で、老婆の引き攣った金切り声のような、しかし子供の楽しげな笑い声のような声で、ソレはわらった。



『言葉を交わすのは四回目ですが、こうして実際にかおを合わせるのは初めてですねえミーヤ様!』



 普通だったら不快感を覚えるだろう声が脳内に響く。でも私はその声にダメージを受けない。



「うん、初めまして」



 見るもおぞましいのだろう邪神に対して普通に笑顔を浮かべながらそう返す私を見て、魔力切れを起こしているらしいバーバヤガ国王は床に座り込んだまま目を見開いた。



『ええ、ええ、ええ、初めまして、ミーヤ様!まさかこの嘘吐きの代表者のような扱いを受ける私の言葉を一度ならず二度までも信じてくれるだなんて……嬉しくて世界を一方的に惨たらしく滅ぼしてしまいそうです!』


「滅ぼさんといてね」


『アハ、冗談ですよーお。ええ、ええ、ええ!夢にも見なかったような幸福な現実だというのに、滅ぼすだなんてありえません!』



 そう脳内におぞましくも嬉しそうな声を響かせるのは、正面に居る邪神……かつてトシロセージュで邪神の面を使用して言葉を交わした事がある、邪神だった。



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