要するにエサぶら下げときゃ話は早い
セレス達に案を伝えてから、一週間が経過した。
この一週間の間に私達も下準備の為にと結構あちこちに移動したりして動いてたんだけど、認識阻害のお陰で絡まれる事ナッシング。ただしその分色々聞けちゃってブルーにもなった。
……うん、だって、ホラ、聖女失踪かーらーのツィツィートガルに奪われた云々みたいな意味不明理論で本気の戦争準備し始めちゃってるみたいで……。
ツィツィートガル側のそもそもホリィは元々ツィツィートガル国民ですって主張にバーバヤガ国王は一切耳を貸さず、ツィツィートガルを悪役のようにしてバーバヤガ国民達に武器を持たせ、既に戦争開始までのカウントダウンが開始されてしまっているという始末。
まあそれも今日までなんだけどね!
「えー、マイクテスマイクテス、本日もそれなりに良きお日柄でー」
「ミーヤ様、何ですかそれ?」
「んー、作法?」
隣に立つセレスにそう返し、私はマイクの調子を確認する。うん、問題無さげ。
現在私達は、バーバヤガのとある悪徳貴族の屋敷の庭に立っていた。庭にっていうか、軽い即席ステージの上だけどね。
何故悪徳貴族の屋敷に居るのか?それは昨日までの下準備の間にこの屋敷をゲットしたからである。どういう事かと言えば、主にアレクのお陰かな。
端的に言うと、悪徳貴族の悪行の証拠品をゲットし、捕まえ、屋敷などの諸々をこっちで確保。いやだってホラ、これからの事を考えるとねー。場所が要ったからねー。
「それじゃあノア、スイッチお願い」
「了解」
ノアが魔道具のスイッチを入れると共に、空中に複数のホログラムが出現した。それらは全て違う映像を映し出しており、しかし映っている人達の表情は皆同じだった。
そう、これはあちこちに仕掛けた魔道具の効果。スイッチを入れる事でバーバヤガのあちこちに仕掛けたこの魔道具が発動し、こっちの様子を向こうに映し出しているはずだ。
「うん、問題無くこっちの様子が映し出されているね。不具合や誤作動は現段階では一つも無しだ。サイズも小さいし見え難い位置に仕掛けたお陰で、見つける事も出来ていない」
「もっとも、それ以前の問題として殆どが呆けているんだけどね」と言ってオールはくすくすと笑った。うん、確認ありがとうオール。ちゃんと魔道具が問題なく発動しているとわかって一安心だ。
さて、と私は息を吸う。
「えー、初めまして皆様。私はミーヤと申します。そして唐突ではありますが」
私は言う。
「バーバヤガの皆様は、即座にツィツィートガルに降伏してください」
そう告げた瞬間、ホログラムの向こうから怒号が響いた。
「ざっけんなガキィ!」
「誰が降伏なんざするかばーかばーか!やーいツィツィートガルの代表ばーか!」
「さてはバーバヤガに詳しくないなテメェ!バーバヤガ人は反抗するのが大好きなんだよ残念だったな!」
「ツィツィートガルとの戦争は強制だったから全然乗り気じゃなかったが乗り気になった!今乗り気になった!おいお前ら武器は持ったか!?ついでに今飲み干した酒瓶も持って来い!相手の頭でカチ割ってから破片ブッ刺す!」
うん、そういう反応になるだろうなとは思ってたよ。わかった上で言ったからね。
そしてそんな返答を聞いた私は、酷く落胆したように見えるだろうオーバーな動きで「残念です」と告げる。勿論煽る為だ。
「いやー、本当に残念です。大人しく降伏してくれないと、戦争になるではないですか。そして戦争になった場合、被害が出てしまいます。怪我人や死人が出たら、その人自身や親族は酷く悲しみ、落ち込み、恨む事でしょう」
「ですがご安心ください」と、私はパンドラに教わった「最高に煽ったルートの笑顔」を浮かべる。
「ツィツィートガルとしては平和的に戦争を終わらせたいと思っております。ええ、ですからバーバヤガの民を捕虜にした暁には、痛みを伴わない、死を伴わない、けれどそういった負の感情を抱いた親族の方々の胸がスッキリするような事を行わせてもらうつもりです」
「こんな感じで」と言って軽く指をパチンと鳴らす。それと同時にフローラが切り替え用のスイッチを入れ、向こうに映し出されているホログラムの映像が変わる。
……うん、一応ね、確認用にその切り替えた版のホログラム映像、こっちにも映し出されてるんだよね。
顔色を真っ青に変化させているバーバヤガ人達が表示されているホログラムの中に混ざっている異質なホログラムを見ながら、私は乾いた笑みを浮かべる。
「えー、戦った上で捕虜にした場合は、現在表示されている私達の協力者である彼らの中に放り込みます」
ホログラムに表示されているのは、ボディビルダーのようなムキムキマッチョ集団だった。
……うん、えっと、うん、タバサに頼んだら、本当に思ったとおりの協力者を連れてきてくれたんだよね。ちなみに私が指定したのは「相手に嫌がられるの前提、あと大衆に映し出されるの前提というのをわかった上で応じてくれるムキムキマッチョ」である。
要するに、精神的負担を掛ける感じのアレでいこう的な作戦。
だって!漫画とかだと男にダメージ与えるのってこういういかにもな人達からのアプローチじゃん!男に囲まれるの嫌がる描写多いじゃん!
正直言って同性婚が普通に認められてるこっちの世界じゃ効果薄いんじゃと思ってたけど、バーバヤガは異性愛強めだから普通に通じるだろうとの事だった。
「ニーラクス学園関係者でそういう店開いてる人達が結構居るんすよね。ミーヤからの頼みって事でニーラクス学園学園長に一筆書いてもらったらソッコで許可貰えました」
タバサは笑いながらそう言っていた。
我ながらどういう展開でどういう知り合いが協力してくれるかわかんないもんだなと思いつつ、事が終わったらロンの手紙と一緒に学園長宛てにお礼の手紙とリオ作の絶版同人誌の写本を贈ろうと決めた。いや、本当めちゃくちゃ助かったからね。そのくらいはしないとね。
ニーラクス学園関係者がそういう店を開いてる事に関しては特にツッコまない。ジェラードから聞いてた合宿内容からすると全然不思議じゃないもん。普通に納得だわ。
「まあ俺仕事として時々店の様子確認とかに行ってた結果パフォーマンス覚えちゃって、時々急病で欠席した奴が居たりすると助っ人で出たりしてたんすよね。なんで一応そのコネも使えないわけじゃなかったんすけど、それ使うとしばらく働かされそうだったんで。いやー、学園長が「ミーヤには恩があるからな。他にも似たような事をやっている卒業生達に手紙を送っておこう」って言ってくれて助かりましたよ、マジで」
……うん、そう言っていたタバサの言葉はちょっと記憶からデリートしておこうかな。凄え爽やかにとんでもない事を暴露された気がするけど、うん、まあ、大した事じゃないと思いたいから深く考えないでおこう。
さておき、ホログラムに表示されているムキムキマッチョ軍団の中にはちょっと違う人達も混ざっている。酷く嫌そうに叫びながら全身くまなく触られまくっている人達は、
「……ちなみに既に放り込まれているこの方々は、他国でもあくどい事をやらかしていた悪徳貴族の方々です。もし戦いになった上で捕虜になった者が居た場合は、彼らと同じ末路を辿る事を覚悟しておいてください」
ムキムキマッチョ達が表示されているのとは別のホログラムに映し出されている人達は、殆どが戦意を喪失したかのように武器を地面に置いていた。その顔はまるで通夜のよう。
「言っておきますが、ほんのちょっとでも戦った以上は泣いても喚いても容赦せずにこの筋肉の中に放り込みます。汗と青春とその他諸々の香りに満ちてると思いますけど、まあ自己責任って事で。私は責任を負いません」
ホログラムの向こうから、戦意に満ちたさっきとは真逆の、気力が削がれたようなぼそぼそ声が聞こえる。
「……え、どうする?降伏するか?」
「しかねえだろ。俺嫌だぜあんな地獄に放り込まれんの」
「あのミーヤとかいうガキが喋るの再開したら表示消えた!って思ったら右上に小さくまだ映ってるしな……」
「知ってるかお前ら、筋肉って実は超温かいんだぜ。そしてあの映像に映っている湯気を見ろ。俺は降伏すると決めた」
「いやいやいやテメェなんて残酷な事実を伝えやがるんだおい」
「全身筋肉に接触しながら全身を弄られ、そして汗が蒸発して湯気になるような空間に放り込まれる、だと……?あっ無理俺気絶しそう」
「お前筋肉達磨だろ。頑張れよ。お前が何十人か居るのと同じだと思って頑張ってツィツィートガルに牙を剥け。俺は降伏するけど」
「ふざけんなよ自分が何十人とかそっちの方が地獄じゃねえか!」
「でも降伏してもどうなるかわかんねえぞ」
「死ぬよりマシだろ。あんなトコに放り込まれるとか死でしかない」
「降伏して殺されたらどうすんだよ。まあ死ぬのと死んだ方がマシって二択だったら俺は降伏して死を選ぶけど」
「いっそ逃げるか……?」
「そうだその発想があった!」
「バーバヤガは小国だからな、今からでも頑張ればバーバヤガ外に逃げられる……!」
「降伏も精神的死も嫌なら逃げれば良いんだ!頭良いな俺!」
「テメェ今俺の案パクりやがったな!?」
「馬鹿野郎テメェじゃなくて俺の案だろうが!」
はっはっは、気力が復活したかのように盛り上がってるトコ悪いけど、
「皆様国境側をご覧ください」
策はもう仕掛け済みなんだわ。
私の指示に従って素直にバーバヤガの人達がそれぞれ国境側に視線を向けた瞬間、東西南北から巨大な影が発生した。
「北の海に逃げようとしても海の神が」
バーバヤガの北側の海から姿を現したのは、海の王だ。海の王の背後では今にも波がバーバヤガに襲い掛かりそうな状態で維持されていて、敵対したらバーバヤガは沈むだろうという確信を抱ける程の凄まじい迫力。
「西の海からヒイズルクニに逃げようとしたらクトゥルフが」
バーバヤガの西側、ヒイズルクニとの間にある海から姿を現したのは見るもおぞましく禍々しいタコの化け物。はい、クトゥルフですね。味は美味しいけど見た目はグロい。それがクトゥルフだ。
しかも周辺に銛を持った魚人達もスタンバッてて、ヒイズルクニ側に行こうとしたら即座に死ぬだろうな感がヤバイ。
「南側に逃げようとすれば上級ドラゴンが」
バーバヤガの南側、ツィツィートガルとの国境辺りから姿を現したのは、人型の擬態を解除したロンだ。姿は大きいし、上級ドラゴンだからね。脅かし役にはもってこいという事でお願いした。
ちなみに頼んだ時、ロンはめちゃくちゃ楽しそうに笑ってた。お茶目だからこういう系が好きなのかもね。
「東側に逃げた場合は、闇毒スパイダーが」
バーバヤガの東側、こっち側のツィツィートガルとの国境辺りから姿を現したのは、擬態を解いたハイドだ。怖がられるの前提だから嫌がったらハイドは止めとこうと思ってたんだけど、意外と乗り気だった。
どうも本当の姿状態でも私達が普通に接したりしたもんだから、すっかり自分自身を受け入れる事が出来たらしい。寧ろ自分の見た目の嫌悪感を利用出来るなら全力で利用したい、との事だった。ハイドがメンタル的にタフになってくれて嬉しい。
「そしてそれらの隙を掻い潜って逃亡しようとしても、SランクAランク推奨の魔物達があちこちで待機しています」
東西南北からバーバヤガを囲うように姿を現したのは、下級ドラゴンを始めとした高ランクの魔物達。
これは勿論本物じゃなく、リオの本から召喚してもらった魔物達だ。でもその危険度は折り紙つき。だって倒しても第二ラウンドがあるからね!
しかもここ最近インクをしっかりと飲んでたお陰で結構インクに余裕があるらしく、かなりの量の魔物を出してくれた。これなら逃亡する人を逃がす事も無いだろう。
「命が惜しいなら、逃亡は止めといた方が良いですよ?」
笑顔でそう言うと、ホログラムの向こうの人達は絶望したように座り込み始めた。うん、ごめん。でも一回心折っといた方が話が早いと思って……。
ちなみに海の王にはツィツィートガル経由で協力を頼んで、クトゥルフにはツィツィートガルの諜報係さんにお稲荷様宛ての手紙を持ってってもらって、そこ経由で頼んだ。
無理そうだったら海側はリオに頼もうと思ってたけど、二人とも協力してくれたから良かった。
いや、うん、神様と邪神に協力要請するってどうよとも思うけどさ、ホラ、リオって本じゃん。水場そこまで好きじゃないから、出来ればリオを水場配置にするのは避けたかったんだよね。
だからといって他に水場配置出来るのは空を飛べるロンくらいだったから、うん、本当に二人が来てくれて助かった。これで完璧に隙の無い布陣が完成するからね。
「ですが、今降伏してくれるのであれば、こちらもそれ相応の対応を致します。具体的には筋肉の中に放り込んだりなどせず、敵対しないという契約書にサインをしてもらった上で少しの間個室に閉じ込めるだけです」
「ちなみに」と言って私が再び指を鳴らすと、音と同時にマリンがスイッチを入れ、ホログラムに表示されている画面を切り替える。
今度表示されるのは、
「現在表示されている通り、皆様を閉じ込める個室は元悪徳貴族の屋敷の一室です」
そう、その為の悪徳貴族の屋敷確保だ。牢屋と同じように脱走防止用の色々は仕掛けられているけど、調度品などはそのままになっている。欲に目が眩みがちなバーバヤガ人からすればきっと良いエサのはず。
「一部屋に二人から四人という組み合わせにはなりますが、今なら貴族の屋敷で寝泊りが出来るチャンス!しかも衣食住はきちんと完備!」
衣食住は大事だからね。
とは言っても服は簡素な着替えだけだし、住まいも一室だけだけど。でも食は粗末じゃない、ちゃんとした食べ物提供するから。消費を最低限に抑える為って事で魚料理という名の魚人料理が多いかもしんないけど、まあ味が良い事には変わり無いから我慢してほしい。
「更に、降伏した者には事情聴取の時間が設けられます」
そう言った瞬間に、ヒースが手元にある魔道具を操作した。私から見てバーバヤガの人達が映っているこのホログラムだが、向こうからは私の様子が映っている。けれど今までは私だけを映すように調整されていた。
そしてヒースが操作すると同時にカメラが少し引き、ステージの上に居るメンバーを順番に映し出す。
「……ごきげんよう、皆様。わたくし、ツィツィートガル第四王女、セレスティーヌ・ヴェラ・ベイルと申しますわ」
そう言って綺麗なカーテシーをして見せたセレスに、ホログラムの向こうの男達は息を呑んだ。続いて映されるのは、セレスの背後に立って女性体の姿になっている数人の天使達だ。
大天使と天使が入り混じった彼女達が軽くお辞儀をするのを映してから、カメラはまた違う方向を映す。
「……ツィツィートガル第一王子……ケイン・ゴートン・ベイルだ」
「ツィツィートガル第二王子、セイン・ルイーズ・ベイルだぜよ……だ!」
「ツィツィートガル第三王子、アラン・イブ・ベイル!」
映されたのは、三人の王子達。セインはちょっといつものノリで語尾がおかしくなりかけたけど、背後に居るアディさんの睨みを察したのか言い直していた。手遅れな気もするけど。
……というか私、この三人のフルネーム初めて聞いたな。まあ支障は無かったし別に良いか。
そしてブラッドさん、アディさん、タバサ、ファフニールの四人が無言で軽く頭を下げたのを映してからカメラが私の方に戻って来たのを確認し、私は言う。
「男の場合は第四王女と天使達から、女の場合は三人の王子と四人の付き人から好きな人を指名し、事情聴取を受けれます。ちなみに言ってくだされば男の場合でも王子や付き人を選べるし、女の場合でも姫や天使を選べます」
「王女、天使、王子、付き人。事情聴取とはいえ、こんなメンバーと話せる機会はきっと今後無いと思いますよ」と言ってから、
「ちなみに」
私はカメラでもあるホログラムにニッコリと微笑む。
「このメンバーの近く、めちゃくちゃフローラルかつピュアで爽やかな良い匂いがする」
そう言った瞬間、ホログラムの向こうから……否、バーバヤガの至るところから、
「降伏しまあああああす!」
「降伏する!するわ!降伏するから眼帯のおじ様に事情聴取受けさせてえええええ!」
「天使!俺は天使に事情聴取されたいです!画面右端の金髪ロングでちょっとウェーブしてて巨乳の天使に!」
「強制だわ面倒臭えわ損の方が多そうだわっつー戦争なんざ誰がするかあああ!降伏!降伏でお願いしゃっす!」
「すまんな生まれ故郷バーバヤガよ!俺は目の前の欲に忠実な男でありたい!つまりお前を捨てて天使に釣られますアディオス!」
「ピンク髪で眠たげな目の彼に!彼に事情聴取を受けたいです降伏します!」
「きゃあああああ王子様と会話出来るチャンス!第二王子!第二王子指名させて!中性的かつ大人っぽい美貌の中に見える子供っぽさ!頭イカれたバーバヤガの国王なんかに未練は無い!」
そんな叫びが轟いた。




