助かるけどそれで良いのかバーバヤガ兵
マールさんとエイダさんの二人と情報交換をしたり、今日の報告をしたりして、すっかり夜も更けて日付けが変わったのを確認し、
「よーし、ホリィさん救出作戦行っちゃおうか」
「そうねぇ」
「はーい!」
「ああ」
「うん」
「りょうかーい」
私、イース、アレク、ハイド、ノア、ローランの六人でバーバヤガの王城へと向かう。
いや、うん、本当はもうちょい作戦を練りたかったんだけどね。早めに救出しないとホリィさんどころか全世界がやべえくらいピンチっぽいからという事で、部屋の変更が終了した頃に乗り込もうと決定したのである。
作戦内容?とりあえず行って救出。後はアドリブ。
だってここで重要なのは部屋チェンジだからね!うっかり日付け変わる直前に行って、到着した頃には部屋変え済みですとか嫌だもん。深夜に女性が居る部屋に侵入する事になっちゃうという結果に変わりは無いけど、まあそこは仕方が無い。誘拐軟禁された人の救出という事でそこは大目に見て欲しい。
ちなみに今回メンバーが少数なのは見つかり難くする為という当然の理由があるんだけど、選抜メンバーにもちゃんと理由はある。そう、闇属性の魔力強めのメンバーだ。
本当はヒースも闇の魔力強い……というか闇の魔力しかないんだけど、でもヒースはバーバヤガに良い記憶無いみたいだからね。わざわざトラウマ呼び起こさせる必要も無いだろうという判断でお留守番である。
「すまねえ、です、ます。俺、バーバヤガに居たんだから、こういう時にこそ役立たねぇとなのに……です」
……うん、しょんぼりとしながらそう言ったヒースは可愛かった。思わず「私からすればヒースは縁起が良いし、嫁が待っててくれるってのも嬉しいよ」って言って抱き締めた上で頭わしゃわしゃ撫でちゃったよ。
直後にヒースがへにゃって顔で笑ったのもまた可愛かった。うん、うちの嫁は皆可愛い。
内心で惚気つつ、私は先頭に浮いているアレクに続いていく。イースの認識阻害があるから人の目や監視システムは気にしなくて良いんだけど、それはそれ。だからって堂々と正門から入るわけにもいかない。
そんなわけで、昼間の単独行動中に王城に忍び込んで色んな機密とか抜け穴とかを見つけたらしいアレクが先頭に浮いているというわけである。
……あはは、本当に、マールさん達にアレクが報告した内容中々だったからね。
コレ洩らしたらやべえんじゃねえのって感じの機密とか、やばい取り引きだのの契約書とか持って来てたし。マールさん達ですら引いていた。
……まあ、アレだ。アレクは元領主だったから隠し場所とかわかりやすかったんだろうね、多分。
「あ、ホラここ!ここ!」
そんな事を思い出していたりすると、先頭を浮いていたアレクがそう言って王城の外壁、の下の部分を骨の手で指差した。
見てみると、茂み……に見せかけた草の塊が無造作に置かれている。退かそうとすると、その塊がちょっと汚れていたからか、
「ミーヤ、ソレは汚いから触らない方が良い」
とノアは眉を顰めて言った。
「でもこれを退かさないと」と言う前に、ノアはハイドに頼んで糸でボールのように丸めてもらってから、その塊を蹴飛ばしてくれた。行動が超迅速。
「ありがとう、ノア。ハイドもありがとね」
「ノン、気にしないで。でもどういたしまして」
「ああ、我達は当然の事をしただけだからな。寧ろミーヤの方が、もう少しで良いから気をつけた方が良い。トラップだったらどうするんだ」
あはは、ごもっとも。でもハイドに心配させてしまったようで申し訳ない。
「トラップがあったら先にパンドラが教えておいてくれるだろうし、そうじゃなくてもイースが教えてくれるはず。あとまあ、何かあっても一緒に居てくれる子が居る限りは大丈夫だと思ってるから」
私単独行動すると碌な事が無いからね!でもその代わり、単独行動さえしなければ超平和っていう。
そう思いながら、しゃがんで私に視線を合わせてくれてたハイドの頭をよしよしと撫でると、ハイドは目を細めて大人しく撫でられてくれた。うん、可愛い。
と、抜け穴の確認しないと。
ハイドの頭から手を離して、さっきまで草の塊があった部分に視線を向けると、
「おー、本当に立派な抜け穴が」
王城の外壁の下の部分には、結構なサイズの抜け穴が開いていた。縦の長さは低いけど、その代わり横幅が広い。鏡餅の一番下の段みたいな穴が開いてる。
……今私、ミカンも鏡餅の段扱いしたような。まあ良いや。現代人的に鏡餅は新年飾りでしかなかとよ。
「んじゃ僕先に中の様子見てくるねー」
「お願い」
「まっかせて!」と言って、アレクは壁を擦り抜けて外壁の向こうへ入って行った。
……不法侵入は幽霊にとって十八番みたいなものだからか、生き生きしてるなあ、アレク。まあ幽霊だから死んでるんだけどさ。おっといかん幽霊ジョークが伝染った。これ生者は使わん方が良い系のジョークだから気を引き締めねば。
と、思っているとすぐにアレクが壁を擦り抜けて戻って来た。
「大丈夫大丈夫、すぐ近くに見張りっぽいのが五人居たけど、全員厨房から盗んできたらしいお酒飲んでベロッベロになってる」
「見張りの意味がねえどころか見張りが盗み働いてどうするよ」
苦笑してそう言ったローランに同意で頷く。犯人が内部に居るにも程がある。見張り全員クロとか呼び出された探偵も呆れるわ。
まあ安全そうなら安心だ、と中に入ろうとして、
「俺先行くから、ミーヤはその後な」
素早い動きでローランが先に中に入った。そして内側から「ほい」と手を差し伸べてくれたので、素直にその手を取るとずるんっと中に引き込んでくれた。
……こんなに可愛くて格好良くて気が利くというのに、何故私より前の出会いは全員駄目人間だったんだろうか。私に出会う為だったと前向き解釈しておこうかな、うん。
さておき、無事王城の敷地内に侵入出来た。アレクの言う通り、すぐ近くには見張りらしき兵士もどきが居るが、
「ばらぼらびゃらびゃらびーぱっぱ!」
「お、まーたコイツ言語失ってら」
「おいテメェそりゃ俺の酒だろうが!ああ!?」
「何言ってやがんだ一緒に厨房からパクったんだからコレは俺の酒だしそれも俺の酒に決まってんだろうが!文句あんなら吐け!吐いて返しやがれ酒を!」
「おめぇーーーらよぉー、なぁーに木に喧嘩売ってんだぁーあー?」
「ああ!?マジだ何だコレ木じゃねえか変わり身の術ってやつか!?狡い手使いやがって!」
「ああん!?木に身代わりさせたのはテメェの方だぶるぼべべべべ」
「あああああ!腹ん中の酒をゲロとして吐けとは言っでねべろぼぼぼぼぼ」
「う、くっせぼろろろろろ」
「あーあー、まぁーたやってごぼぇっ」
「ばんばかばんばんべーやべやっぴゃ!」
……うん、何か五人中四人が吐いてるね。
良かったコンをお留守番させておいて。私達はそれなりに距離あるし風上だから良かったけど、鼻が良いコンだったら貰いゲロるかもしれなかった。危ねえ。
というかあの人達は本当に兵士なんだろうか。いや勤務態度もアレ過ぎるんだけど、格好がもう兵士もどきって感じ。侵入する側としては助かるから良いんだけど、仮にも見張りなんだからせめて一人くらい飲酒しない人を作るくらいはしておけよとは思う。良いけど。侵入楽だから良いけど。
「こっちよぉ」
「はーい」
今度はイースが先導してくれるので、それについて行く。次の目的地はホリィさんの居る部屋だ。日付けが変わった時点でオールに部屋の場所を把握してもらったから間違いは無い。
オールが言うには、今日のホリィさんの軟禁部屋は一階にあるらしい。というかさっきの抜け穴のすぐ近くの部屋である。窓から侵入出来る位置らしいので、内部に侵入とかせずに済んだのはありがたい。
内部とか色々面倒そうなのでマジ勘弁と思ってたから本当助かった。良い位置にシャッフルしてくれてありがとうかつての勇者よ。位置把握面倒臭くなる事しやがってとか思ってごめん。
「……ここがホリィの居る部屋ねぇ」
「……うん、確実にホリィさんが居る部屋だね」
イースが立ち止まって視線を向ける先には、外側に鉄格子が嵌められた窓があった。うーん、とっても牢屋。飾り気の無い鉄格子が中に人を閉じ込めてますよ感強めてるねコレ。
まあそれはさておき、
「ハイド、お願い」
「ああ」
頷き、ハイドは黒く尖った指をカチカチと動かして指先から糸を出す。その糸を操って鉄格子の上部分と下部分に絡ませ、
「……よっ」
という軽い声と共に手をグーにして糸を引っ張り、スパンと綺麗に鉄格子を切った。落ちた鉄格子……というか鉄の棒も、音がしないようにとハイドが張ったハンモック状の蜘蛛の巣によって確保済みである。
「ハイドの糸は強靭だから、ワイヤーのように使えば鉄くらい切れるだろう」と言ったのはオールだったけど、まさかここまで綺麗に切れるとは。凄いなあ、ハイド。
「これで良いか?」
「うん、ありがとねハイド」
「……ああ」
よしよしと撫でると、ハイドは嬉しそうに微笑みながらそう頷いた。あー可愛い。
しかしここで嫁といちゃいちゃして夜が明けても困るし、とすぐにハイドの頭から手を離して、私は鉄格子が無くなった窓をコンコンとノックする。
「すみませーん」
……うん、あの、誘拐軟禁されてる人が居る部屋に対して行う行為じゃ無いのは重々承知なんだけど、パンドラが言うにはね、先に声を掛けておかないと不審者と誤解されるからって。
エルピスで未来を把握出来るパンドラが言うなら殆どの確率でそうなるっぽいから、その辺はしっかりと。誤解はされたくないであります。
すると、
「はいはい、ちゃんと起きてますよ。寝てたりなんてしませんよ?」
そんな声と共に、窓の向こう、つまり内側にあったカーテンがシャッと開けられた。
「……あれ?」
窓の向こうできょとんとした顔をしているのは、サイドだけが長く、後ろ髪は短くカットされている金髪の女性だ。バシバシな睫毛に覆われた青い瞳のその人は、私達を見て不思議そうに首を傾げた。
「えーと……どちら様ですかね?何だかバーバヤガ人っぽくない感じですけど」
着ているドレスのヒラヒラした袖が邪魔なのか、袖を手で押さえながらその人は言った。
「あ、私はミーヤです。ツィツィートガルの王族からの依頼で、ホリィさんの救出に来ました」
「王族から?」
怪訝そうな表情を見せたその人は、「……あ、もしかしてルークですかね」と呟いて納得したように頷いた。
「はい、確かにホリィさん本人ですよ。何だかご迷惑をお掛けしたみたいで申し訳ないですねー」
「あ、いえいえ、大変だったのはホリィさんだと思うので」
「そこまで大変でもなかったですよ?」
笑顔でそう言うホリィさんには、確かに大変そうだったって感じは無い。それは良い事、なんだけど、
「えーと……あの、ホリィさん」
「はい?」
「窓、開けてくれませんか?」
ホリィさん全然窓開けてくれない。そこ開けてくれないとどうにもならんのだけど。
しかし、ホリィさんは溜め息を吐きつつ「実はですね」と言う。
「この窓、接着剤でカッチカチに閉じられちゃってるんですよ」
「接着剤」
「鉄格子はミーヤがどうにかしてくれたみたいですが、窓が開かないのではホリィさんには何とも……。ホリィさん、攻撃力低いですから」
タバサから色々聞いた身としては「嘘吐け」って言いたいけれど、まあ人には得意不得意があるもんね。対人戦はプロでも、人以外に攻撃する方法がわからない的な感じかもしれないし。
「それじゃあ開けますんで、ちょっと下がってもらえますか?」
「あ、はいはい、了解です」
素直に下がってくれたホリィさんにお礼を言いつつ、私はアイテムポーチからとあるアイテムを取り出す。鍵だ。
でもただの鍵では無く、「伝説のマスターキー」というアイテムである。どんな鍵だろうと、鍵穴にコレを突っ込めば即座にオーブンザドアする凄い代物。
ただしコレ、説明文的に鍵穴が無いと使えないんじゃと思いきや、
「いや、閉まっている扉に向かって回せばそれだけで開くよ」
オールが言うには、そのくらい余裕な代物らしい。ただちょっと流石にやばいだろうという事で、作成者が微妙にぼかした説明文に改造したんだとか何とか。
……そんなレアアイテム、ダンジョンの宝箱から出てくんなよ。助かるけど。
まあ、うん、そんなわけで、私は伝説のマスターキーを窓に向け、回す。するとカチリと音がして、接着剤?何ソレ。というような滑らかな動きで窓が開いた。
開いたのを見たホリィさんが、驚いたように窓に触れる。
「おお!ホリィさん実は「物理で割ったりするんですかね?」とか思ってたんですが、何か凄いですねミーヤ!というか今他の人達に気付きましたけど結構変わった面子揃ってますね!」
「あっはっは」
いやもう、本当、まったくもって正論過ぎる。でもいつもはもっと大所帯だし、見た目もかなり変わってるから。今日のメンバーはかなり常識寄りなんですよ。最近じゃ本当、旅芸人名乗ろうか悩むレベルの面子だから。
まあそんな事は良いか。と、私はホリィさんに言う。
「それじゃあホリィさん、逃げましょう」
「あ、その前にゆっくりお話とかしません?中にお茶とかありますし」
この人結構なマイペースだな。




