何か色々衝撃
本屋でリオの知らない本をオールに聞いて購入し、その後にヒイズルクニ料理屋で遅めの昼食を食べた。
イーグルさんは凄い勢いで魚を食べてた。どうやら奴隷商では筋肉維持の為基本的に肉(しかも少なめ)を与えられていた為、物足りないわ微妙に違うわでちょっぴり不満があったらしい。
「よく食べるねーお客さん。ところで実は廃棄予定の魚のアラとかあるんだけどさ、鍋にしたげるから食べない?無料で良いから」
うん、店員さんも凄い良い人だった。
なんでもバーバヤガでは生ゴミ類を外に放置すると浮浪者や野生動物がゴミを漁っちゃったりするらしい。だから生ゴミは出さないようにしてるらしいんだけど、どうしても出る時は出る。
その処理の手伝いとして、美味しい魚のアラ鍋を御馳走になった。しかもイーグルさんがその味を気に入ったのかガツガツ食べてて、店員さんは更にアラ煮やかぶと煮なんかも出してくれた。お陰で結構な量を食べたのにお値段がかなりお安くてめちゃくちゃありがたかった。
……うん、お金はね、あるんだけどね、どうしても元々の貧乏性がね……。
まあそんな悲しい習性はさておき、食事が終わってからバーバヤガをぐるりと見て回り、
「ヒャッハー!今日は大量だぜ!」
「待てやゴルァアアアアアア!」
「あ、また玉乗り野郎が酒屋から樽掻っ払ってら」
「アイツ毎回毎回樽に乗って足で樽転がしてんの何なんだろうな。今日は樽三つ一気に転がしてっしよ」
「馬鹿なんだろ。お前も高い所よく登ってんじゃねえか」
「あー成る程!……よぉーし喧嘩だな表に出ろやぶっ殺してやっから」
「はっはーこの程度の煽りで怒るだなんてカルシウム足りてないんじゃないでちゅかー?っていっでえテメェ人の脛蹴りやがって!上等だ表に出やがれ!路地裏で拾ったこの短剣の錆にしてやらあ!」
「ああ!?既に錆だらけのんなボロ剣で何が出来るってんだ!?」
「おいそこのお客様共、外で暴れるのは良いがついさっきさり気なく懐に仕舞ったうちの商品を置いてってからにしてもらおうか」
「チッ、バレたか!」
「逃げるぞ相棒!二手に別れてどっちが捕まっても恨みっこ無しだ!」
「ざけんなテメェの方が高級品盗った癖に!店員さーん追うならアイツ!アイツですよー!」
「……最後に良い事を教えてやろう、盗人共」
「あ?アイツ何か言ってね?」
「知るか裏切り者殺すぞ」
「ああ!?テメェこそ殺すぞ!」
「支払わずにうちの商品を持って一定以上遠退いた場合、商品は自動的に爆発する」
「おい、何かカチカチ音聞こえないか……?」
「馬鹿言ってんじゃねえよ、一体ドコから聞こえるって」
……うん、何か、私達の横を走って通り過ぎて行った二人組が黒焦げになって鬼のオーラ背負った店員さんに引き摺られるのを目撃しつつ、私達は宿屋の借りた部屋へと戻って来た。
「おっかえりミーヤ!」
「ただいまー」
扉を開けて早々に飛び付いて来たマリンを受け止めて抱き締め返し、私は室内を見回す。お、よしよし既に全員揃ってるね。
一旦マリンに離れてもらってから私はアイテムポーチからお土産の本を取り出してリオに渡す。
「書籍らはコレを待っていたんだ!ありがとうミーヤ!ああ、やはり新刊は良い……!」
何だかうっとりと表紙を撫で始めたリオの頭を軽くぽんぽんと撫でてから、私は扉の辺りで困ったように硬直しているイーグルさんの広くて大きい背を押して皆に紹介する。
「この人がオオワシ鳥人のイーグルさん。既に奴隷契約は解除済みなんだけど、どうも王城で何かされたらしくて声が出ない」
皆がざわざわする中、ロンとパンドラは「だろうな」というような表情だった。うん、話し合いの時に聞かされてたなら知ってるよね。
「そういうわけでパンドラ、イーグルさんの声治せる?証言はイーグルさん本人から聞きたいし、治せるなら治してあげたい」
そう言うと、パンドラは目を伏せたまま「勿論」と笑った。
「すぐにでも治せるが、どうする?」
「イーグルさん、どうする?」
私が出しゃばる事でも無いしとイーグルさんに確認を取ると、イーグルさんは困ったように視線を彷徨わせた後に頷いた。
……頷いたって事はイエスって事で良いよね?あ、うん、イースとオールが頷いてるから合ってるっぽい。
「じゃあパンドラ、お願い出来る?」
「ああ」
頷き、パンドラが目を開けると、その目は真っ赤な色になっていた。
赤色は確か……憤怒だっけ?
「イーグル、少し違和感があるだろうが我慢してくれ」
そう言い、パンドラは手の中にぐにぐにした何かを出現させた。
「ぐにぐに?パンドラ、それ、なに?」
不思議そうに首を傾げたジェムの問いに、パンドラは「ああ」と答える。
「声帯だ」
「声帯とな」
私にはホルモンもどきにしか見えんぞ。いやまあそもそも声帯とかもよく知らんのだけどさ。
「成る程、鳥類の場合は声帯では無く鳴管で声を出すからね。気管の上にある声帯と違って鳴管は気管の下にある。鳥人の場合はまた少々違う作りになっているが、うん、確かに憂鬱の邪眼で劣化させたり直に喉に手を突っ込むよりは、憤怒の邪眼で複製した方がイーグルの精神的にも良いだろう」
オールが何か解説してくれてるみたいだけどまったくわからん。え、鳥って声帯無いの?マジで?インコや九官鳥はあんなに喋るのに?はー、生命って不思議ね。別に思考を放棄なんてしとらんアルよ。
その間にもパンドラは声帯をごそごそとして、何かを取り出した。
「これで良し」
パンドラは目を伏せてイーグルさんの声帯を消したかと思うと、その取り出した何かを握り潰した。
「え、ソレ潰しちゃって良いの?」
思わずといったようにアレクが宙に浮きながらパンドラの手元を覗き込んで言うと、パンドラは「コレが原因だからな」と目を伏せたまま苦笑した。
「イーグル、王城から連れて行かれる時にコレを呑まされただろう」
「…………」
無言で頷くイーグルさんに、パンドラは「もう喋れるはずだぞ」と言った。
「……あ、あ……」
怪訝そうにしながらも声を出したイーグルさんは、本当に自分の声が出た事に対し、「!?」と驚いたように羽で喉に触れた。
「……声が、出せる」
イーグルさんは低めの声で、驚いたようにそう零した。
「だろうな」
パンドラは握り潰した小さい何かを部屋の中のゴミ箱に捨て、「アレは闇の魔石だ」と言った。
「闇の魔石って、何で?」
「正確には闇魔法を刻まれた魔石、だな。音を吸収する術式が刻まれていた。故に喋ろうとしても声が吸収され、発声出来なくされていたんだろう。途中で引っ掛かるように細工もされていたから、無理に喋ろうとすると喉に痛みも走ったんじゃないか?」
「あ、ああ」
パンドラの発言に、イーグルさんは驚きを隠せないような表情で頷いた。
……声は出ないわ話そうとしたら痛み走るわって最悪じゃんね。
「イーグルさん、もう痛みとかは大丈夫ですか?」
「ああ、今までチクチクした痛みがあったんだが、完全に無くなっている。……ありがとう、助かった。感謝する」
そう言って、イーグルさんは目元を緩めた。うん、痛く無いなら良かった。後でパンドラにありがとうしてしっかり褒めよう。
そう思っていると、オールがくすくすと笑いながら「本来は」と話し出す。
「本来は魔道具を使用したかったみたいだけれど、経費削減をしたかったんだろうね。奴隷として売れた分の金をそれに使うわけにはいかないから、って。魔石だなんて相性が悪かったら体内で反発してかなり危険だというのに……まあ、王城の者達は奴隷として売る時まで元気ならそれで良いと考えていたみたいだから、命を奪われなかっただけラッキーだったと言うべきなのかな」
「オール、オブラート」
「ん?別に余は過去の情報からそう言っただけで心は読んでいないよ?」
本気できょとんとしているオールに、私はちょっと頭を抱えた。
うーん、正直に言い過ぎるトコがなー……。実際本当の事だろうし、別に発言自体は悪い事では無いんだけど、わざわざ知りたくはなかったというか。
あ、でもこの情報は諜報係の人達に伝えておいた方が良いかな。誘拐、のち奴隷として売却された人を助ける時に大事な情報かもしれないし。ん?とすると知っておいて良かった情報になるのか?駄目だ私ポンコツだからよくわからん。もういっそオールの好きなようにさせるべきかしら。
「とにかくぅ、コレでイーグルは普通に話せるようになったわけよねぇ?」
そう考えていたらイースが両手を叩いて注目を集め、そう言った。
「それじゃあイーグル、王城で聞いた話を教えてくれるかしらぁ?」
「……ああ、わかった」
頷き、イーグルは話し始める。
「まず最初に私が奴隷にされた経緯だが、知っての通り誘拐だ」
あー、やっぱり誘拐されたのか……。
「鳥人は巣立ちした後、自分の理想的な巣を見つけるまであちこちを飛び回る。恐らく、その習性故に狙われたんだろう。鳥人ならば行方不明になっても不審がられないと思ってな」
「うわあ……」
そんな頻繁に外泊してる子なら行方不明になってもすぐには発覚しないみたいな……。
「誘拐された後、私は……その、正直言っても反応に困らせるだけだとは思うが」
少し不安げな顔をしたイーグルさんの背中を擦ると、イーグルさんは少し羽を緩めた様子で言う。
「……私は王城の者に、邪神様への生け贄にする、と言われた」
あ。
「…………そういや、バーバヤガって主神が邪神とか言われてなかったっけ」
「僕達で情報集めついでに通行人の人達に確認を取ってみたら、どうも本当みたいだよ。狂気と混乱と死の神らしいけど、そんなのを主神として崇め奉っているバーバヤガ人の気が知れないね」
そう言い、ノアは呆れたような、疲れたような溜め息を吐いた。
……おおう、それは確かに気が知れない。主神ならせめて豊穣の神とかを据えなさいよ。もしくは勝利とかさ。狂気と混乱と死の邪神が主神の国ってどうよ。
そう思っていると、イーグルさんが困ったように首を傾げた。
「……つまり、アレは内部で気が狂った者がおかしな宗教に嵌まった結果などでは無く、正常な精神状態
で生け贄を準備しようとしていた、という事なのか?」
「……多分?」
あまりの恐ろしさに寒気がしたのか、イーグルさんは全身の羽をふくらませた。わおビッグぬいぐるみみたいにもっふもふ。
……いやいや、可愛らしい見た目にほのぼのしてる場合じゃねえわな。本人はかなり怯えてるし。
「えーと、イーグルさん、もうイーグルさんは安全だから安心して大丈夫ですよ。私達もこれからの被害を出さない為にってここに来てるわけですし」
被害を出さない為にっていうか被害を最小限に抑えたいというか、戦争無血で終わらせて欲しいっていう無理難題な依頼をされてるんだけど。まあ良いよ別に。私の所持してる称号的にあまりに無理なら依頼されないはずだもんね。
……え、つまり何とか出来るって事?うっわプレッシャー。
イーグルさんの気分を落ち着ける為四割、自分の気持ちを落ち着ける為六割でイーグルさんの背中の羽をわしわしと撫でると、イーグルさんは少し気が緩んだのか膨らんでいた羽を落ち着かせた。
「……ところで……生け贄、って……?……何で、イーグル……は、生け贄、されず……に、済んだ、の……?」
ラミィの質問に、イーグルさんは「あ、ああ」と思い出したように続きを話し始める。
「どうやら生け贄には条件があったらしくてな。頭部、両手、両足、両目……他にも条件があったようだが、男の場合はアレ……男性器も条件に必要だったらしい」
「えっ?」
私は思わず首を傾げる。
いや、えっ?男性器?別にいきなり会話にソレが出てくるのは今更動揺もせんけど、えっ?イーグルさん見る限り頭部も両手……というか両翼もあるし両足もあるし両目もあるよ?え?男性器無いの?
困惑している私に、オールが「ああ、違う違う」と手を横に振った。
「ミーヤを含めて一部不思議に思っているようだけれど、鳥人の場合は無い方が普通なんだ。外見上鳥のオスには生殖器が無くて、あっても水鳥系くらい。けれど子種自体はちゃんとある。要するに性器が女性器の形に似ていて、そこから子種が出る作りになっているって事さ。生殖行動自体に問題は無い」
……そういや鳥飼ってる人の実録漫画読んだ時、その辺の描写無かったな。そうか、鳥ってそういう作りになってるんだ。
ペットショップの店員さんに犬猫の話はよく聞いてたけど、鳥については詳しくなかったんだね、私……いや普通そんな話題は出さねえわな。私知らなくて正常。
イーグルさんは少し気まずそうに咳払いをしてから、
「まあ、そういう事だ。お陰で私は生け贄にされずに済んだ」
と続けた。
「……だが、私が言えるのはこのくらいだ。王城内の牢屋に入れられはしたが、何故かあの王城は日が変わると同時に部屋の場所が変わっていてな。他の牢屋に誰が捕らわれているかまではわからない」
「あ、ああー……」
勇者の呪いが……。
「では、ホリィという名に聞き覚えは?もしくは聖女でも良いのですが、それらに関連した情報はないでしょうか」
納得してしまった私と違い、ハニーは冷静にそう問い掛けた。そしてその問いに対し、イーグルさんは「……聖女なら、聞き覚えがある」と答えた。
「私を奴隷商に売った兵士達が話していた。確か、「あの女は大人しく聖女にはならない」とか、「王様はいっそ邪神召喚の為の生け贄にしようかと考え始めている」だとか……くらいだな」
「いやソレ充分過ぎる程に重要な情報だと思う」
「そうか?」と首を傾げるイーグルさんに頷いてから、私はオールに確認を取る。
「オール、イーグルさんがされそうになった生け贄とホリィさんがされそうになってる生け贄って」
「タイプは全然違うよ」
やはり把握しているのか、オールは言う。
「イーグルがされそうになった生け贄は邪神の食事用だね。ご機嫌取りのようなものさ。そしてホリィがされそうになっている生け贄だが、これはホリィの命や肉体、魔力全てを犠牲にする事で邪神を召喚しようとしているんだ。バーバヤガの王はどうやら、「邪神さえ召喚出来ればこっちのものだ」と思っているようだね」
「人知を超えていれば人間に勝てるだなんて、人知を超えたモノを思い通りに操れるはずも無いだろうに。愚かな程無知な王だ」とオールは笑った。
……綺麗な顔で結構ずけずけ言うよね、オール。別に言われてるのバーバヤガの王だから良いけど。
「にしても、そっか。ホリィさんどころか全世界がかなりのピンチだよね、ソレって」
バーバヤガの主神って混乱と狂気と死の邪神なんでしょ?そんなん召喚されたら普通に大事件だわ。歴史に残るわ。というか歴史が残るかどうかすらわからん級にやばいっていうね。勇者呼べ勇者。
むーん、でもそうなるとホリィさん救出は即座に行った方が良いよね。様子見してたら世界終わりましたとか洒落にならん。
じゃあ救出の為に作戦会議……をしようにも、イーグルさんを巻き込むわけにはいかないか。既に無関係なのに巻きこまれまくってるわけだしね。奴隷契約も解消されたんだし、声も戻ったし、そして聞きたい情報も聞けたし。ならもう解放してあげるべきだろう。
「イーグルさん」
「?」
既に癖になってしまったのかイーグルさんは不思議そうに首を傾げた。
そんなイーグルさんに端的にこれ以上巻き込むわけにはいかないという事と、協力してくれてありがとうございますって事と、一応移動用に資金居るようでしたら渡しますよという事を伝えると、
「何を言っているんだ、ミーヤ?」
イーグルさんは首を傾げ、ふ、と目を細めて笑った。
「私はミーヤと共に居ると決めたんだ。離れるはずが無いだろう?」
「え?」
「?」
二人して首を傾げると、ロンが煙を吐きながら「あー」と呟く。
「もしやミーヤ、イーグルに優しくしたか?何か物をあげたりとか」
「心当たりは布くらいだけど……」
「奴隷から解放してくれたし、食事もくれた。声も取り戻させてくれたぞ」
イーグルの返答に、ロンはさっきより多めに煙を吐き出しながら「あーー」と顔の皺を深くして笑った。
「成る程、刷り込まれたか」
何ソレ。




