全知の第十六夫人
あの後、神様は従魔契約を望んだ。いや流石に神相手に、とは思ったけど、陰から見守っていたらしい大天使さんや天使さん達が現れて、
「是非契約をしてさしあげてください」
「頻繁にミーヤ様の様子を見てはこうやって顔を合わすタイミングを計ってたんですよ!」
「私共なら大丈夫ですから」
「今なら天使も付いてくる!」
「正確には天使に命令が可能になるという意味ですので、御心配無く」
と売り込まれては拒否出来なかった。というか天使さん達はその売り込み法で良いのかと聞きたかったけど、うん、まあ良いや。
そんなわけで、神様の右足の甲に契約印が刻まれた。
そして大天使さん達や天使さん達に見送られながら瞬間移動的な何かで宿屋に借りている部屋に戻り、
「……そういや神様全裸だったね」
うっかり意識から除外していた事実を思い出した。
「何か、凄い当然のように全裸だし、性器っぽいの皆無だし、天界っていう幻想的な空間に居たから違和感無かったけど……流石に全裸で人里は出歩けないよね」
「それを言うとリオも中々だが」
「何を言う、ロン。書籍らはきちんと最低限は隠している」
リオの最低限は本気の最低限なんだけど……うん、まあ、隠しているだけマシと言えよう。それに比べて神様の堂々とした姿よ。恥じらえ。そして隠せ。
神様は空気椅子のように宙に座りながら、十字架が浮かんでいる金の瞳を細めて「ふふ」と微笑んだ。
「余は見られて困るような肉体じゃないからね」
「確かに神だし完成されてるしエロい感じも無くて神々しいけど、だからといって全裸がオッケーなわけじゃないから」
「それがオッケーになれば良いのにね。着たい人だけが服を着れば良いのに」
口元に茶色く細い指を当て、むぅ、とフローラは唇を尖らせた。
……そういやフローラは花人だから全裸を見られる事による羞恥心が薄いんだっけ。初対面全裸だったもんね。あれ、そういやジェムもある意味全裸だったぞ?そしてリオはほぼ最低限。何だコレは。アボットの時代が来ているとでも言うのか。来んな。
そう思っていると、ハイドが黒く尖った手を上げた。
「服なら我が作るぞ。男物と女物どっちが良い?」
あー、そっか、神様性別無いっぽいもんね。女物と男物どっちが良いと聞く事になるとは。異世界に来てから常識さんブラックに就職した社畜みたいになっちゃってるね。そりゃ家出もするわ。
「うーん、余は別に何でも良いんだけれど……ああ、でも余の魔力は光が強いからハイドの糸とは相性が悪い。反発して解れやすくなる可能性がある」
「そうか……じゃあどうする?」
「どうしようか」
うーん、と神様とハイドが首を傾げた。
「一応良いのはあるぞ」
はい、と手を上げたパンドラが、私のアイテムポーチを指差した。
「ミーヤが丁度良い服を持っているから、それを着ると良い」
「エルピスか?」
「ああ。全ての選択肢を確認する限り、それが一番相性が良いからな」
「待って当然のように話進めてるけど私心当たり無いよ」
思わずパンドラと神様にそう言うと、アレクが「え?」と首を傾げた。
「……アレク、心当たりある?」
「いや、光の魔力強めで服って言ったらイルザーミラのダンジョンでゲットした聖女のドレスじゃないかなって」
あ。
「……そういえば……そんなの、ゲット、してた……」
「してたね……」
ラミィの呟きに同意して頷く。ゲットしてたわ。
ん?あれ、でもアレって……。
「アレって確か、光属性の人が着ると何かものっそい事になる感じの事書かれてなかったっけ?」
「ものっそいって……」
ノアに苦笑されてしまった。でも本当にものっそい何とかかんとか云々って書かれてた……ような気がするんだよ!
すると、「ふ、っふふ……」と笑い声を漏らしながら、イースが教えてくれた。
「光属性を持っている者が身に纏うとぉ、触れるだけで呪いや悪霊を消し飛ばせる事が出来るようになるドレスよぉ」
「えっ、やだ僕ピンチ!?僕悪い悪霊じゃないよ!?」
そりゃ悪くなかったら悪霊じゃ無いと思う。
慌てたように私の背後に回って首に抱き憑いて来たアレクの頭をよしよしと撫でていると、神様は「ああ、成る程ね」と頷いた。
「それなら大丈夫だよ。人間が着たらその辺りは調整が難しいかもしれないけれど、余は全知を有する神だからね。触れたとしても、ミーヤへの愛という執念で幽霊になった君を無理矢理成仏させたりはしないさ」
言い方。
「あ、それなら安心。あと本質を見て言ってるんだろうけど、普通に名前で呼んだ方が良いよ。その呼び方結構角が立つから」
「そうかい?なら名前で呼ぶ事にしよう」
あ、良かったアレクが結構大人の対応してくれた。そういやアレクって27歳なんだっけ。おおう、改めて考えると結構年上……いや二桁だからわりと近……いやでも十歳違い……よし、思考を止めよう。
とにかく問題は無いようだから、と私はアイテムポーチから聖女のドレスを取り出し、神様に渡した。早速とそれに着替えた神様は、スカートの部分を軽く持ちながらくるんと回る。
「うん、パンドラの言う通り、この服は余と相性が良いね。どうだい、ミーヤ。似合ってる?」
「めっちゃ似合ってる」
私は即答してサムズアップした。
思いっきり首元と肩が出てるし、二の腕に引っ掛けるような感じのデザイン。骨格が男性的だし胸のふくらみも無いからどうだろうと思ったけど、流石は神様。色気はログアウトした状態で美しさだけがログインしている。
骨格が男のせいでくびれらしいくびれが無い神様だけど、ドレスの腰のところには腰を細く、そして足を長く見せるようなデザインがされていた。きちんと女心に配慮してるなこのドレスをデザインした人。
そしてスカート部分だが、ドレスだからか丈は長め。前面がガッツリ開いてるデザインだけど、腰の所から前掛けのように布が垂らされている。そのお陰で前面パッカンというよりは、太ももがチラチラ見えるスリットが入ってるなって感じだ。
神様は骨格こそ男性だけど、肉付きは女性っぽい。だからパッと見ちょっと肩幅広めの女性かな?という感じに仕上がっている。まあ大前提として凄まじい美貌持ってるから多少の体形云々は気にならなそうだけどね。
「あは、それは良かった」
神様は私の返答に微笑み、胸元の十字架を指で弄った。
……ドレスに付いてたネックレスとはいえ、神様が十字架身に付けてるって不思議な感じだなあ。いやまあ瞳孔が十字架の形してるからこれ以上無い程しっくりフィットしてるけど。
「さて、神様の服装も無事にどうにかなったところで……ステータスの確認を」
「ミーヤ、だめ!」
「ジェム?」
ぐいぐいと袖を引っ張られて振り向くと、ジェムが私の袖を掴みながら不満げに頬を膨らませていた。
「かみさま、よめ、なかま!かみさま、よぶ、ちがう!なかま、なまえ、つける、する、して!」
「あ、そっか確かに」
神様は神様だしなって感じだったけど、仲間であり嫁だもんね。いつまでも神様呼びしてちゃ駄目だ。
「それで神様」
「基本的に神としか呼ばれてなかったからそれ以外の固有名詞は無いよ。折角ならミーヤに名付けてもらえると余は嬉しいな」
「了解」
ネーミングセンスとか皆無なのは全知である神様なら知ってるだろうけど、あんなに可愛らしい笑みを見せられては頷くしかない。嫁に弱いな私。
んー、でも名前、名前か……。神様だもんな……。
ゴッドとかその辺はこう……人名的にどうよって感じだからね。人間じゃ無くて神だけどそこはまあまあまあ。ゴッドとかだと私が個人的に呼びにくいし。もっと発音しやすいのが良い。
だとすると……全知……全て知ってる……オールオールベリーベリー頭よろし。あ、駄目だ英語力が無さ過ぎて怪文みたいのが出来てしまった。英語ですら無い。せめて最後まで統一しようぜ私。無理か。無理だよね。ポンコツだもんね。
あ、でもオールってのは良いかも。オールって全てって意味もあるもんね。
「神様、オールって名前はどう?」
神様は輝かしい笑顔でサムズアップした。
「そこに至るまでの思考回路が面白かったから大歓迎」
名前本体では無くその前の思考がメインみたいな扱いされているんですが。というかそれで良いのか。一発オーケーはありがたいけれどそれで良いのかオーケーする理由。
……うん、まあ、名前を考えるまでの大変さが評価されたのじゃろうと思っておこう。
「えーと、それで、オールのステータスって見ても良い?」
「ほぼ見れないと思うけれど、それでも良いなら」
「うん、大丈夫。それは最初から察してる」
だってオール神様だもん。そう思いながら言うと、オールは「それじゃあ、好きにしたまえ」と返してくれた。
……オールって結構気さくな口調だよね。
さておき、私はオールのステータスを表示してステータスを読み上げる。
名前:オール(計測不能)
レベル:計測不能
種族:神
HP:計測不能
MP:計測不能
スキル:神の特権
称号:全能を切り離した全知の神、従魔、第十六夫人、愛の加護
……うん、わかってたけど殆どモザイクと計測不能だわ。まあオール神様だからそりゃ当然なんだけども。他の皆も「だろうな」って感じで頷いている。うん、もう慣れたよね。
そう思っていると、前髪ガードで目元こそ見えないが真顔なんだろうなという声色でリオが言う。
「……全員が全員まるでその結果を当然みたいに受け止めているが、普通はそれだけ不透明だと不安を抱くものではないか?」
「リオ、ふあん?」
「いや、書籍らはただハッキリと表記されていない故に違和感が強いだけだが……」
「気にならないのか?」とリオがジェムに聞くと、ジェムは「べつに!」と胸を張って答えた。
それを見ていたフローラもくすくす笑って会話に混ざる。
「確かにわたくしも最初は驚いたわ。ロンやパンドラのステータスは殆どが見れなかった、って言われたらね。でも別に、だからといって嫌な感じがするわけじゃないもの」
「花人は、そういう内に秘めた感情に聡いから」とフローラはその細くて茶色い手を胸に置いた。
「だからわたくしは、嫁仲間である皆が好きよ」
「まあ、そうだよな」
ローランが手を上げ、「俺もロンとパンドラの後にミーヤの嫁になったけどさ」と混ざる。
「でも、だからこそミーヤは俺の称号を気にしなかったから。俺、自分でもちょっと引くような称号持ってたから不安だったけど、ロンとパンドラのお陰でミーヤの中のやべえ奴判定がガバガバになったらしくて」
「そのお陰で凄い自然に受け入れられたから、俺にとってはありがたい事だったぜ」とローランはへにゃりとした笑みを浮かべた。
……いやまあ、人食いに関しては前例が居たからってのもあると思うよ?ローランの場合そんくらいしかやべえのなかった気もするしね。ん?コレがやべえ奴判定ガバガバって事なんだろうか。
「…………」
「オール、そわそわしてるけどどうかしたの?」
両手の指を遊ばせながら視線を彷徨わせているオールにアリスが不思議そうに問い掛けると、マリンがハッとしたような顔で言う。
「わかった!お腹が空いたとか?」
「いや、余は特に飢餓を感じる事は無いんだけど」
指を遊ばせながら、オールは気恥ずかしそうに笑う。
「「神だから」「人知を超えているから」という理由で受け入れられる事ばかりだったから、神ではなくオールとして、ただのミーヤの従魔兼嫁として当然のように受け入れられるものなんだな、って」
「神という肩書きを前に出さなくても当然のように仲間として受け入れてくれて、普通に接してくれるのが嬉しい」
「それだ」
パンドラの補足にオールは笑顔で頷いた。
……本当は仲が良かったのか、元が同じだから相性が良いのか、人間みたいに過去をねちねち引き摺ったりしないだけなのか……。
「今ミーヤが考えている中では過去を引き摺らないから、が一番正確だと思うよ」
「オール、私やここに居る皆は心読まれるのに慣れてるから全然良いけど、他の人には心の声に返事したりはしちゃ駄目だからね。人によってはめっちゃ嫌がられると思うから」
「そうかい?ふむ、面倒が無くて無駄を短縮出来るから良いと思……ったけれど、人間はそうじゃないのか。その間を楽しみもするのが人間、と。わかった、他の人にはやらないでおくよ」
オールはにっこりと笑ってそう言った。
あー、成る程。進行形で他の人が考えてる事もわかるのが全知って言ってたもんね。だから喋ってる途中で相手の反応がわかるっていう理由もあって喋るのが得意じゃ無いのか。まあ確かにいつでもリアルタイムで反応がわかっちゃうと話し難くはあるよね。
…………。
「オール、一応言っておくけど、他の人の枠の中にはエルフや魔物も入ってるからね?」
「ああ、人間以外だと獣人や鳥人の事だけかと思っていたけれど、そっちもか。……文化的生活をする知的生命体にはやらない、っていう感じかな」
「うん、そんな感じで」
あっぶねえやっぱり「人」以外なら返事オッケーって認識だったか。良かった念の為言っておいて。そう思って胸を撫で下ろしていると、すすすとロンがオールに近寄って小声で耳打ちをする。
「オール、時々儂が指定した人達の内心を儂だけにちょろっと教えてはくれぬか?ほれ、相手に返事をするので無ければ良いだろう?」
「ふむ、そこから学園の生徒に手紙で伝えて本を作ってもらおうというのはロンだけに留まっていない気もするけれど、ロンはそれを望んでいるんだね。本人達に余が心を読んでいるという事が伝わらなければ良いのだから、うん、わかったよ」
「話が早いな、オール」
おいそこ聞こえてんぞ何を裏取引してんの。取引かどうかもわからんけど。
……まあ、本人達に返事したりするんでなければ良いか。生徒からすればネタはありがたいし、本を買う側も嬉しいし、本が増えるとリオも喜ぶし……うん、正に公式に隠れて二次創作をするオタクとしか言えん。
というか本題を忘れ掛けてたけど、今はオールのステータスを見てたんだよ。そう思い、私はオールのスキルの詳細を読み上げる。
神の特権
この世の全てを生み出した神にのみ許される特権。思うがままの現象などを起こせるスキル。ただし全能を切り離した為、誰かにちょっとした能力を与えたり、都合の良い方へ運命を転がす程度しか出来ない。
いや充分だろ。
「コレ、全知全能時代どんなレベルのスキルだったの?」
「家が欲しいと願う人間が居たら、その人間の要望全てに合わせた家が出現するくらいだったかな」
凄ぇ。
「全能を切り離してからは小手先で出来るような事しか出来なくなったけれどね」
照れるように笑うトコかはわかんないし正直そのレベルで小手先かいとかツッコミたいけど可愛いから良いや。
次に私は称号の詳細を読み上げる。
全能を切り離した全知の神
元は全知全能の神という称号だったが、全能を切り離した事で変化した。過去と今の全てを知る事が出来る。ただしオートなので調整不可能。もし人間だったら許容量を超えて脳が物理的に破裂する級の情報を常に受信している。
第十六夫人
十六番目の嫁。ちょっと意味がわからない。
称号に!色々とトンデモな称号があったりする癖に!そんな称号に意味がわからんと言われただと!?どうしよう怒るよりも先にまず「わかる!」って同意しそうになる!
「過去と今の全てってのは?」
「察しの通り。全能と共に未来を知る能力も切り捨てたからな。それが俺様のエルピスだ」
「成る程な」
パンドラの返答に、ふんふん、とコンは頷いた。
「しかし、オールのスキルがあれば助かるな」
ロンは煙を吐きながらニヤリと笑った。それに対し、イースも「そうねぇ」と頷く。
「私とぉ、ロンとぉ、パンドラ。この三人が認識阻害を使えるからぁ、バーバヤガで別行動するなら三組に分かれるしかないと思ってたものねぇ」
「流石にここまで目立つメンバーでバーバヤガに入って情報収集するわけにはいかないしぃ」とイースは溜め息を吐いた。
ああ、やっぱり認識阻害は使う気だったんだ。まあそうだよね。目立ち過ぎる組は宿屋で留守番してた方が良いとか言ったけど、よくよく考えたらそこに行くまでどうすんねんって話しだし。
ローランも同意するかのように「うんうん」と頷いた。
「一応俺は単独でも動けるだろうけど、それはそれって感じだしな。組み分けであんまり大勢だとそれはそれで目ぇ付けられそうだ」
「そうねぇ」
「まぁ、とりあえずぅ」とイースは手を叩いて皆の視線を集め、にっこりと笑った。
「過去と今と未来の全てを利用してぇ、今起き掛けてる戦争を無血で終結させる方法を話し合いましょうかぁ♡」
今何か、「攻略法と裏技とその他諸々全力で駆使して最短ルート走るぞ」って副音声が聞こえたような。




