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異世界で魔物使いやってます  作者:
永遠の図書館編
255/276

リーダー視点



 暗殺組織であるスノードロップが王族の下についた。それは良い。それは平和的に終わって何よりだ、と俺は思う。しかし問題があった。



「あー…………」



 ルークがしゃがみ込んで頭を抱えて唸っている。それも仕方ないだろう。

 何故ならスノードロップのメンバーに知っている限りのバーバヤガの情報を教えてもらった結果、ルークの姉、ホリィについても話していたからだ。



「あの件がバーバヤガを見限るキッカケだったな」



 スノードロップの頭であるエマはそう言っていた。



「バーバヤガの王は僕に人攫いを命じたって言っただろ?観光客とか一般人とか……そして、それとは別に、あの王は攫ってくる人間を指定までして攫って来いって言いやがった事があった」



 「誘拐しようとして何言ってんだって思われるかも知れねえけどよ、僕達は誘拐組織じゃ無えんだっつーの」とエマは酷く不愉快そうに舌を出していた。



「バーバヤガのクソ王が指名したのは、バーバヤガ近くにあるツィツィートガルの村。そこに居るらしい「あちこちを巡って人の怪我や病を癒す女」を連れて来い、ってよ。少しの食事と一泊の宿、それが無ければ無償で構わないと言ってあちこちを巡ってるその女こそが、っつってよ」



 それを聞いたロロが「その女こそが、って言うのは?」と質問すると、エマは答えた。



「クソ王が言うには、「勇者こそ失敗したが、この際祭り上げるのは異世界人で無くとも構わん。そのような女が居れば充分に国民を焚きつける事が出来るだろう。神の声を聞く聖女としてな」って事らしい」



 そう言って、エマは忌々しそうに舌打ちして「あのクソ王、胸焼けと胃もたれが同時に襲って来たかと思うくらい不愉快極まりねーぜ、マジで」と吐き捨てていた。

 ……ああ、まったくもって同意見だ。他国の一般市民を誘拐して祭り上げようとは……!その場合、市民を騙したとしてその者にも被害が及ぶ可能性がある。その者が被害者でしかなくても、だ。外道極まりない所業にも程がある!

 そして何より、



「だから気をつけろっつったのにあのお気楽姉さんはもおおおおおおお!」



 その狙われていた女性がルークの姉であるというのも問題だ。

 スノードロップは結局誘拐する事無くバーバヤガを見限ったそうだが、しかしその後ルークの姉であるホリィとは連絡が取れていないらしい。いつもなら移動した先の村から手紙が送られてくるのだが、それすらも無いという。

 恐らく、その王に雇われたスノードロップでは無い誰かに攫われたのだろう。バーバヤガは治安が悪い上に目の前の報酬に飛びつくという国民性だからな……。村の人間がホリィを裏切って王に売ったわけでは無いと祈りたい。



「いっつもいっつも「ホリィさんは結構強いから大丈夫ですって」って言って!確かに強いけど基本魔物相手に強化系魔法掛けて自滅させる戦法だから人間相手だと全然戦えない癖に!あの姉さんは!バーバヤガは魔物より人間に気をつけなきゃいけない場所だってのにあの姉さんは!もう!」



 顔を覆って嘆くルークに、「大丈夫ですか?」と最年少のリーンが慰めに入った。



「あの、ほら、もしかしたらそれを察知して逃げてるかもしれませんよ?」


「リーンの言う通りです。身を隠しているから連絡が取れないのかも……」



 リーンに続いたアーウェルのフォローに、ルークは乾いた笑みを浮かべて言う。



「……姉さん、食べ物に釣られて付いて行くタイプなんだ」


「…………あの、知らない人には食べ物貰っても付いて行くなって」


「俺も両親も必死に叩き込んだけど、あの姉さんはその直後に「だーいじょうぶですって。あ、それよりさっき知らないおじさんが美味しいお肉あるから森に行こうって誘ってきたんですけど、行っても良いですか?」って言うような人だった」



 俺を含めた王の剣メンバー全員が頭を抱えた。



「……ちなみにその後どうなったんだ?」



 アンナの問いに、ルークは死んだ瞳で答える。



「両親が兵士に通報した結果、そのおっさんが近隣の子供を誘拐してた犯人だったらしくて普通にお縄になりました」


「…………姉は?」


「懲りずに「まあ万が一があっても何とかなりますよー」って笑ってました」



 覇気の無いルークの言葉に、問い掛けた方のデリックがおろおろし始めた。すぐにロロに背中を撫でられて落ち着いていた。獣かお前は。その場合ロロが猛獣使いになるんだろうか。うわ、凄い似合ってるからこそ嫌だ。幼馴染が猛獣と猛獣使いとか凄く困る。



「まあ、幸いなのは姉さんの運がめちゃくちゃ良い事ですかね」


「そうなのか?」



 そう聞くと、ルークは「はい」と頷いた。



「姉さんに害を為そうとすると足首を捻挫したり突き指したりします」


「地味じャねェ?」


「シッ」



 思わず本音を漏らしたらしいオルコットの口を、アボットが笑みを崩さないままで押さえた。よし、よくやったアボット。オルコットの失言が多いのはいつもの事だが、傷心中のルークの心に傷を増やす必要は無いだろうからな。



「他に安心材料は無いの?運が良いだけじゃ……」



 少し眉を顰めながらそう言ったロロに、ルークは「それなら」と答える。



「姉さん、結構押しが強いんですよ。つまりは意外と我が強いって事でもあるので大丈夫だと思います。自分だけに被害が出るようなのにはまったく気付かない人ですが、その分他人に害が出るような事には聡いし、その点でもまだ辛うじて安心は出来ると良いなあ……」


「後半最早願望になっていないか?」



 ギルベルトの言葉に完全同意だ。



「いや、姉さんその辺意外としっかりしてるから、多分、他人に害が出るようなのは断ってると思う……んだけど、口調や態度が結構緩いから、大丈夫かなって……」



 重々しい溜め息を吐いて、ルークは頭を抱えた。

 ……ケイン様は見た目に寄らずぽやっとしているし、セイン様はとにかく目の前の事に夢中になるお方だからな。そして下のセレス様とアラン様のしっかり度を見るに、上が頼り無さそうだと下が苦労人に育つのだろうか。いや、アラン様も今は意外と自由な方ではあるが。

 あ、やばいちょっと不安になってきた。王子三人の自由度の高さにこの国の未来が不安になる。いや、スノードロップの一件で知ったツィツィートガルの国民達の自由度を考えると合ってはいる、のか……?



「ルークの姉も心配だが、聖女とはどういう意味だ?」



 ギルベルトがそう呟くと、「そこまではわかんねえんだよなー」と言ってタバサが王の剣の訓練場に入って来た。



「タバサ」


「どもっす。いやー、今俺らもその件に関して探ってんすけどいまいちわかんねーんすよね」


「いまいち、という事は多少はわかっているのではないのか?」



 アンナの言葉に、タバサは緩くウェーブしている髪を掻きながら「それがビッミョーなんすよねー……」と視線を逸らして苦笑した。



「何か数ヶ月前だかにあったじゃないっすか、バーバヤガの馬鹿王が勇者召喚して戦争だ!とかほざいたやつ」


「ああ、あったな」


「結局あの後音沙汰無いのよね」



 「やっぱり失敗したのかしら」とロロは輝かんばかりに微笑んだ。どうしてお前はこういう時だけ良い笑顔になるんだ。デリックも見惚れるんじゃない。その笑顔の裏には他人を失敗を嘲笑うという意味が込められているぞ。



「そう、調べた結果どうもガチでやってマジで失敗したらしくて、でも戦争の準備はしてたし、あんだけ大口叩いたしって事で引けなくなってるっぽいんすよね」


「バーバヤガで前言撤回すると他人にその立場を食い荒らされると言いますからね。撤回するに出来ないんでしょう」


「あの国、他に良い報酬があった場合のみ前言撤回推奨されてっけどなァ」



 オルコットは酷く嫌そうな顔で「ケッ」と吐き捨てた。



「ただ、その結果こう……人心掌握?の為に、そういう信仰先みたいのが要ると思ったんでしょうね、馬鹿王は」


「そういうの無しで王である自分について来てもらおうとは思わなかったんでしょうか?」


「お、リーン良い質問。それが出来ないから馬鹿なんだよあの国の王は」



 おい止めろタバサ。バーバヤガに関する知識をリーンに与えるな。リーン頭が良いから覚えるだろうが。リーンも「成る程」と納得するのを止めなさい。バーバヤガの事を知っても良い事なんて何も無いぞ。



「それで、勇者召喚に失敗したからバーバヤガは姉さんを聖女に祭り上げようとして誘拐を?」


「ホリィ、でしたっけ?やってる行いがバリバリ聖女名乗れる級だし、多分そうじゃないっすかね」



 「そういう実績があると祭り上げやすいわけですし」とタバサは溜め息混じりに言った。



「実際、潜入してる奴等からの報告にそれっぽい目撃報告があるんすよ」


「どんな!?」



 ルークはタバサに詰め寄り、胸倉を掴んで「姉さんは無事なのか!?」と叫んだ。



「はいはい、とりあえず落ち着いてギョーギ良く聞いてくださいねー」


「あだだだだごめんなさい!」



 と思ったら即座に締め上げられた。ルーク、お前、タバサだけは怒らせてはいけないという事を知っていただろうに……。

 タバサは若くしてセレス様に選ばれたくらいには天才だ。どのくらい天才かと言えばとんでもない天才としか言いようが無い。一度見れば何となく理解し、二度見れば大体を理解し、三度見れば覚え、四度見れば応用すら可能になる程の天才性。

 敵になったらとんでもなく危険な為、城内絶対に怒らせてはいけないリストの殿堂入りだ。

 ちなみに城内絶対に怒らせてはいけないリストに他に殿堂入りしているのはブラッドとセイン様とロロとアンナだったりする。最近ファフニールも増えた。

 ……セイン様な……いつも笑ってふざけてるからこそ、怒らせたらどうなるかわからなくて怖いんだよな……。

 しかもツィツィートガルの王族だからより一層怖い。権力じゃなくて、キレた時が。この国の王族はキレると何しでかすかわからんのが怖いんだ。俺にはアディというブレーキに全てを託すしか出来ん。

 謝罪をしたからか、タバサはポイっとルークから手を離した。



「んじゃ続きっすけど、何か結構大丈夫そうみたいっすよ」


「あたた……ど、どんな感じで?」



 タバサは「んーと」と言ってズボンのポケットから、偵察の者から送られて来た資料だろう紙を広げた。



「無理矢理誘拐して「言う事を聞いて聖女の役をしろ!」とか言った国王その他取り巻き達に対し、一切引かずに「普通に嫌ですけど。ホリィさんの事馬鹿にしてます?いますぐ謝らないと光魔法で全身の魔力回路部分を超強化して死ぬか死なないかの境目レベルの高熱に魘されろ」と言って魔法を放ち、国王と取り巻き達に謝罪をさせていた」


「あらやだニコラス、何で私の方を見てるのよ」



 光魔法の使い手は皆こういう我の強い人間なんだろうか。というか魔力回路って確か血管と同じ様な作りだからそれに魔法を掛けるとなるとかなりの技術が必要なはずなんだが。



「しかし国王達は国王達で「聖女が存在している」という状況を作りたかったのか、魔法を解除してもらった後にバーバヤガの一般市民を盾にして恐喝」



 おい国王。何故他国の人間相手に自国の人間を人質に取る。



「そしてホリィを監禁」


「えっ」



 タバサの言葉にルークが顔を青くするが、



「しかし牢屋に入れようとした結果、連れて行こうとした男がホリィに股間を思いっきり蹴り上げられて「きちんとした部屋と寝床と暇潰しと食事とおやつを用意しなかったらその股間は治しません。一生種無しで良いならご自由にどーぞ」と脅され、言われるがままに部屋を用意。バーバヤガ側は辛うじて扉の外に見張り、窓に鉄格子がある部屋に軟禁」



 続く言葉に、すんっと真顔になった。



「……姉さん、多分その時空腹だったんだろうな。腹空かせてるとちょっと攻撃的になる人だから……」


「ちょっと攻撃的になられた結果玉を潰された人には流石に同情を禁じえないね」


「人質の定義を見失うような話だなァ」



 アボットとオルコットの言葉に同意しか出来ない。そもそも人質枠に収まっているのかすらわからないのだが。



「ただ、ここまでは良いんすけどね」



 資料を再びポケットに仕舞い直し、タバサは気だるげに溜め息を吐く。



「城内に侵入して色々偵察してくれてる諜報係曰く、ここんトコ城内がかなーりきな臭い感じになってるぽくってですね」


「……戦争する気という事か?」



 アンナの言葉に、タバサは「それとはちょっと違うっぽいんすよ」と首を横に振った。



「なーんか生け贄?とか邪神とか何とかぶつぶつ言ってるらしいんすよね。国外からの人間や国内の一般市民を誘拐して牢屋に放り込んでるし、牢屋に放り込まれなかった一部は奴隷として売られてるしって感じっぽくて。このまま放置しとくわけにもいかねー感じと言いますか」



 ヘラリと笑いながらそう言うタバサに、俺は言う。



「……それで?俺達にそれを伝えた理由は?」


「流石王の剣、話が早いっすね。単刀直入に言ってバーバヤガに潜入して情報収集とかしてもらいたいんです。諜報係達とは違うトコからの情報も欲しいっつーか」


「無理だ」



 俺は即答した。



「俺達は普通に名も顔も売れているし、そういうの担当であるローランも今は居ない」


「そこを頑張るとか」



 タバサは天才だ。故に俺達にそれを行うのが無理という事もわかっているんだろうが、一応はっきりとした理由が欲しいんだろう。

 食い下がってきたタバサに、俺は言う。



「俺は微妙に幸が薄い」



 悲しい事にこれは事実だ。アンラッキーボーイの称号が無くなったお陰で極端な事こそ起こらなくなったが、しかし微妙に運が悪いのは現在も続いていた。というか昔からだ。貧乏くじを引きやすいと言った方がわかりやすいかもしれないが、とにかく俺は幸が薄い。つまり向いていない。



「そうね、顔や名前が知られてなかったらカモにされそうなところがあるわ」



 眩しい笑顔を浮かべながら酷い事を言うなロロ!言っておくが俺の幸が薄い原因の大半はお前だからな!怖いから言わないけど!



「他にもデリックは戦闘の気配でバーサーカーになるし口数が少なくて情報収集には向かない。ロロは沸点が低い上に見た目が目立つ。アンナは途中で好奇心に釣られて目的を見失う可能性が高い。ルークは姉が捕まって居る事を考えるとボロが出やすい可能性がある」


「あー」



 タバサが納得するように頷くのが悲しい。

 というかコレ、本当に潜入に向いていないなこのメンバー。唯一そういう系が得意なローランもうっかり潜入先の人間に惚れたりすると面倒な事になるし。良かった無事良い人の嫁になってくれて。



「そしてアーウェルとリーンとギルベルトは未成年だからバーバヤガには行かせたくない。オルコットはトラウマがある。最後にアボットだが……前科があるからな。一応監視という名目でこのパーティに所属させているのに、単独で潜入させるわけにはいかない」


「ま、そりゃそうっすよね」



 やはり無理なのはわかっていたのだろう。タバサはヘラヘラとした笑みを浮かべ……と思ったら、「じゃーやっぱあの作戦か」とその顔から笑みを引っ込めた。

 うわ、いつも表情豊かな人間が急に真顔になると怖いな。



「あの作戦とは?」



 問い掛けたギルベルトに、タバサは「やりたくなかった作戦」と答えて嫌そうに眉を顰めた。



「……権力駆使してでも、ミーヤに頼む」


「俺達より目立つだろうあのメンバーは!」



 ローランの後にまた誰か入ったとかいう噂が発生してるくらいだぞ!十人以上の目立つ見た目のメンバーとか潜入する前に気付かれるだろう!



「でも、ミーヤが関わると大体の問題が不思議と丸く収まるんすよ」



 溜め息を吐きながらのタバサの正論に、俺は何も言えなくなった。



次回から最終章!(ただしちょっと長くなる可能性大)

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