第十五夫人は本の念
あの後興奮気味の子供をどうにか落ち着かせはしたものの、既に日は暮れ始めていた。そんなわけで永遠の図書館跡地で食事タイムである。
「リオはご飯食べれるの?」
いただきますと言った後にふと気付いてそう問い掛けると、子供ことリオは「微妙だな」と軽く首を横に振った。
結局あの後スマホで再び「図書館 外国語」で検索した結果、「ビブリオテーク」だか「ビブリオテーカ」と出てきた。今度は「ビブリオ」で検索したら外国語の「本」って意味らしい。
というわけでビブリオ……にしようとして、見た目中性的だから名前も中性的な方が良いかな、と思った結果リオに。一発オーケーで一安心した。
「食えん事は無いが必要性が無い。書籍らの巻物の中に標本のように保管する事も可能だが、それは「食事」では無いからな……強いて言うならインクを飲みたい」
「インク」
「インクを取り込んでおくと写本や攻撃がやりやすいんだ。補充しないと書籍らの中にある本のインクを使用する必要もあるのでな」
「成る程ー……」
やっぱりリオってかなり本なんだね。生物的っぽく無いというか。
そう思ってから、私はふとジェムの方を見る。
「?ミーヤ、ジェム、みる、どうかする、した?」
「ああいや、何でも無いよ」
ジェムは肉料理を食べているが、そのお皿に乗っている量は少量だった。
……宝石だからか、あんまり食べたがらないんだよね。どっちかというと食べ物で作られた料理よりも、地面に落ちてる石の方が美味しそうに見えるらしい。一番美味しいのは魔力豊富な魔石らしいけどね。魔力が結晶化した宝石も原材料に使用されてるから相性が良いんだろうか。
そういえばアリスも食事は出来るし美味しいもわかるっぽいけど、食べる量はあくまで普通なんだよね。同じく無機物組でありながら唯一の大食いであるノアの場合は、理由のある大食いなわけだし……うーん難しい。
まあでもジェムの体質的にはそこらの石の方が栄養ありそうだし、ちょっと考えた方が良いかな。ジェムが美味しそうだと思う石を拾ってからクリーン使って綺麗にするとか。それなら食べても問題無いだろうし。
あとは……場所に気をつけるくらいかな。流石に大衆食堂で石食べさせるのは……こう、人間から見ると虐待に見えかねん。例え石を食べている子が明らかに人外だったとしても虐待認定をされかねない。人外が多い魔王国やヒイズルクニでならともかく、ツィツィートガルでは身内しか居ない室内でのみ食べて良しって感じかな。うん、これなら面倒事回避出来そう。
そんな事を考えながらもそもそと肉を食べていると、リオが「イース」と口を開いた。
「料理も食えなくは無いが、インクはないか?」
「あるけどぉ……他にも何か要るかぁ?」
「写本用の白紙」
ブレないリオの言葉に、イースは苦笑気味に「食べ物として、なぁ」と訂正を入れた。
「なら糸か糊」
「了解。インクはコップ使うかぁ?」
「そうだな、大きい瓶ならそのままラッパ飲み出来るが小さい瓶だと飲み難いか……」
真面目な声色で悩みながら、リオは「手持ちのインクはどっちだ?」とイースに問い掛けた。
……いや何この会話。インク飲もうとしてる会話じゃないよねコレ。完全にお酒、もしくはジュースとかの飲み物飲む時の会話だよねコレ。いやまあリオからすると飲み物なわけで……うん、思考を停止させよう。
人間にとっては猫が毛玉吐き出すのも理解は出来ても意味不明なわけだし、うん、そんな感じのアレだろうからね。理解は出来ても共感は出来ん。種族が違うから仕方ないネ。
「とりあえず慣れてないミーヤ達の精神衛生上、コップに入れとくぞぉ」
「ありがとうイース。流石気遣いの人」
思わずイースを拝むと、イースは照れ臭そうに笑いながら「ミーヤ達に会う前はそんな言葉、言われた事も無かったけどなぁ」と言った。いや多分言われてなかっただけで当時から気遣いの人だったと思うよイースは。まあ大前提として人じゃ無いんだけど。
イースがインクを注いだコップを渡すと、リオは「ありがとう」と言って受け取り、飲んだ。
「む、コレは知らないインクだな。しかしかなり状態が良い上に本との相性も良さそうな……」
「へぇ、やっぱりわかるのか。数十年前に作られてぇ、今は本を書く時と言ったらコレ!って扱いされてるインクだからなぁ」
「そうか、確かにそのくらいのレベルのインクだな」
味でインクの違いがわかるんだろうか。……いや、まあ、人によっちゃ味でワインの違いもわかるって言うし、なら、普通、かな。本だし。
「糸……は後でハイドの糸が合うかどうかを確認するとしてぇ、糊はどうするぅ?直で飲むかぁ?それともスープ皿に入れてスプーン使うかぁ?」
「いや、それは後が大変だろう。直で飲む」
「そうか、助かる」
そう言ってイースは糊が入っているんだろう入れ物をリオに手渡した。リオはリオでそれを受け取り、そのまま口をつけてクピクピと飲んでいる。
……凄ぇ光景。
それにしてもインクや糊とか、鼻が利くコンは大丈夫かなと思って確認してみると、コンはリオから遠い位置に座って食べていた。ああ、うん、自衛大事だよね。
「ジェムもそうだけど、皆色んな食べ方があるのね。ふふ、皆花人とは違う食べ方だから見てて楽しいわ」
そう言いながら笑うフローラは、料理の乗った皿をお腹の前にセットしていた。そしてフローラのお腹がぐっぱりと大口を開け、その中に料理を流し込んでゴクゴクと呑んでいる。
うん、早くも見慣れた光景だね。
そう思いながら私は頷き、前に垂れてきた髪を後ろに払った。いかん、うっかり髪下ろしてるの忘れてた。お風呂上りの髪にソース付いたらシャレにならんぞ。
盃を交わすとかの関係で、食事の前にお風呂を済ませておいたのである。え、リオ?勿論入ってないよ。
「書籍らの中にも防水の本はあるとはいえ、それ以外の大半は水に弱い。書籍らは遠慮しておこう」
って言われたらもう、「そうだね!」としか言えないよね。そりゃ本に水や湿気は天敵だわ。勇者の掛けた魔法も既に効果失ってるっぽいし。
ちなみに今まで雨の日の時なんかは、巻物の外側部分を防水性にして傘のように上の方で留めておく事で濡れないようにしていたらしい。……うん、今周囲を確認しても雨が凌げそうな建物無いもんね。建物っつか屋根が無い。壁も無い。
「……あ、リオ、ちょっと良い?」
「ん?」
インクを一気飲みして「ぷはっ」とコップから口を離してから、リオは「どうした?」と首を傾げた。
「いや、ステータスの確認しても良いかなって。私鑑定スキルは持ってないんだけど、従魔契約した子のステータスは確認出来るから」
「成る程、確かにそれは確認しておいた方が良いな。だが、別に書籍らに許可を取る必要は無いぞ?書籍らの今の持ち主はミーヤだからな」
そう言ってリオは口元をニッと笑みの形にした。
……うーん、電子書籍の話をしてから好感度が物凄い上がった気がする。良い事だけどね。
「それじゃ、失礼して」
「ああ、好きなだけ見ろ」
私はそう言ってくれたリオのステータスを確認する。表示されたステータスはこんな感じだった。
名前:リオ(計測不能)
レベル:158
種族:本
HP:20590
MP:58940
スキル:召喚、変化、吸収
称号:本の化身、永遠の図書館跡地の子供、賊殺し、従魔、第十五夫人、愛の加護
レベルたっか。
「……というか、あれ?リオって何歳?今のリオになったのは四百年前のはずだし、その前の図書館時代でも二千年前だし……」
「年齢、四桁までなら表示されるはずなんだけどな」と首を傾げると、リオは「ああ」と納得したように頷いた。
「恐らく書籍らの中には複数の本が存在しているからだろう。だからといって全ての本の年齢が足し算されたわけでは無いだろうが……中には図書館が設立されるずっと前に作成された本もある。禁書の中には一万年以上昔に作成された本もあるから、そのせいではないか?」
「……リオ、物持ち良いね」
「書籍らと言うより、元の持ち主がきちんと管理していたのだろうがな」
そう言いながらも、リオの口元は嬉しそうに緩んでいた。うん、前髪ガードで目元は見えないままだけど、口元だけでも結構表情の変化はわかるね。声色も充分感情豊かだし。
……色んな人、というか人外と接してきた杵柄かな、この読み取りスキル。リアナさんとか甲冑だったもんね。
「レベル……高い……」
「まあ、わからなくは無いかな。どちらかと言うと僕やアリスみたいな無機物寄りみたいだから魔物に襲われ難いだろうけど、本目当ての賊は居たみたいだからね。それを倒したりを四百年続けてたらレベルも上がるだろうし」
「ああ、その通りだ。それに加えて書籍らの中の一部には、特殊な作りだったからかレベルの概念がある本も存在していたからな。その恩恵もあるだろう」
「本にレベルあるとか俺初めて聞いたんだけど」
上からラミィ、ノア、リオ、ローランの順である。うん、私も本にレベルがあるとか初めて聞いた。
……というか、うん、えっと、種族欄のトコの本って表示はそのまんま過ぎてツッコむにツッコめないからスルーとして……。
「じゃあ、スキルの詳細確認するね」
私はスキルの詳細を読み上げる。
召喚
召喚が可能なスキル。ただし己を構築している本に関係するモノのみの限定的スキル。召喚したい対象が描写されている部分のインクを使用して召喚する為、召喚されたモノはインクで構築される。元がインクなので掠り傷でもインクに戻る。
変化
己の肉体を変化させるスキル。この場合は体の一部を巻物に変えたり、全身を一冊の本に変化させる事などが可能。身に纏っている巻物や周囲に浮かしている巻物も体の一部。
吸収
物質を吸収するスキル。飲んだインクを体内に吸収して保管したりが可能。体の一部である巻物の中に物質を保管する事も可能。そうやって保管した場合、アイテム袋と同等に出し入れが出来る。ただし死体なら標本として保管可能だが、生き物は保管不可能。
あの召喚ってスキルだったんだ。
「というか、体の一部を巻物にって?」
「こんな感じだな」
そう言って、リオは右手を解くように巻物へと変化させた。う、うわあ巻物と腕の部分の境目がよくわからない。
「何か凄いね……」
腕と巻物の境目部分に変化は無いのに、巻物部分は未だしゅるしゅると伸びている。あ、これ腕の物質的な構築の量的な何とかかんとかが関係してるとかは無いんだ。内部に仕舞われてる分だけ伸ばせるのかな?
何となく巻物を手に取って触れてみると、うん、普通に巻物。触感がとっても紙。そう考えるとリオの頬とかは普通に人間の肌みたいな柔からさだったし……元が念な分、無機物組でも結構レアな感じなのかもしれない。人間と関わり深かったわけだしね。
「……ミーヤ、もう戻して良いだろうか。少しくすぐったい」
「あ、ごめん。というかこの状態でも感覚あるんだね」
「ほんの少しだがな。触れられた感覚くらいしか書籍らにはわからん」
リオは腕を人型の腕に戻しながら、「本だからなのか、破られても痛みは感じない」と当然のように続けた。
うーむ……触感はあるけど痛覚は無い、みたいな感じなんだろうか。無機物組って触感はあるけど痛覚無しっていうのがメジャーなのかな?リアナさんも鎧ボディだから痛覚は無さそうだしね。
……いや、そもそも普通は無機物が仲間になったり知り合いに居たりはしないか。常識さんってばちょくちょく私の内部から家出するから危ないんだよね。私の常識度は君に掛かっているというのに。……重圧が重過ぎて家出癖が付いちゃったんだろうか。
「それじゃ、次は称号の詳細を確認するね」
私は表示された称号の詳細を読み上げる。
本の化身
生き残りたいと思った本達による強い念から生まれた集合体に贈られた称号。故に見た目こそ人間寄りだが、その本質は本寄り。
永遠の図書館跡地の子供
永遠の図書館跡地に出るという子供という噂によって贈られた称号。都市伝説扱いで実体化度にちょっぴりの補正。
賊殺し
賊を殺す者に贈られる称号。この称号を所持していると、相手が外道な賊であればある程攻撃のダメージにボーナスが入る。ただしこの称号を所持していると賊に距離を取られる。
第十五夫人
十五番目の嫁。夫どんだけ甲斐性あんの?
甲斐性については私が聞きたいわ!正直自信無いからね私!頑張ってるけど!夫として頑張ってはいるけど実績があるかは知らんからな私!
「……うん、なんというか、リオってやっぱ本なんだね」
「?勿論、書籍らは紛うことなき本だ」
「正確には本の念だがな」と訂正を入れたリオに、とりあえず本って事はブレないから本って認識で良いんだな、と私は判断した。難しいのよくわからんぜよ。
永遠の図書館編が終われば……終われば本格的に最終章が始まる……!多分確実に長くなるけど!




