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異世界で魔物使いやってます  作者:
永遠の図書館編
252/276

責任を取れ!



 ……とりあえず、ゴーロクさんの誤解だけは解いておこう。



「あの、実はそのゴーレムね、特殊な作り方をされたお陰で意思があるゴーレムなの」


「……貴様の作品だったのか?」


「いや私では無いんだけど」



 「でも」と私はジェムの背中に手を添えて言う。



「この子も同じ作者が作ったゴーレムなんだ」


「そう、ジェム、フラン、つくる、した、ゴーレム!」



 ジェムはえっへん、と胸を張る。



「見ての通り、自分の意思がしっかりあります」


「確かにそのようだな……」



 前髪で目元は見えないが、子供は心底驚いたように、そして感心したように頷きながら建物の残骸から降り、ジェムを覗き込んだ。

 ……下半身の大事な部分隠してるトコ、形状的にタイトスカートっぽいんだよね。だから今の動き凄い不安だったんだけど宙に浮いてる巻物が超自然にカバーしてた。アニメの謎の光か何かかあの巻物。



「しかしこのゴーレムの材質は……宝石、か?あのゴーレムは土だったぞ。土である以上は本が泥で汚れてしまいかねん事に変わりは無い」


「えっと、確かにそうなんだけどゴーロクさんは……あ、ゴーロクさんってそのゴーレムね。ゴーロクさんは結構気を使う人だからその辺はちゃんと気遣ってたはずだよ?」



 私の言葉に、子供は「は?」と眉を顰めたかのような声色を出した。勿論前髪ガードで見えてないけど。



「そうは言うがあのゴーレムはタンクトップにハーフパンツという完全アウトドアな服装だったぞ。ああいう服装の奴は農作業をする者以外、殆ど本の大切さを理解しない輩だろう」



 あー、そういう誤解もあったのか……。



「ゴーロクさんは土だから乾燥に弱くて、すぐに水分を補給出来るようにって事であの服装なの。一応自分の土が付着して床とかが汚れないようにって軍手と長靴を装備してるんだけど……」


「……あの軍手、そういう意図があったのか?完全にアウトドア派な奴、またはゴーレムにそういう格好をさせるのが趣味の作者なのかと思っていたが……」



 そう言って子供は「書籍らの早とちりだったのか……」と少し落ち込んだ声色で言った。



「……すまない、書籍らの早とちりで殺してしまった」



 素直に謝罪した子供に、ヒースが「いや」と首を横に振る。



「ゴーロクはゴーレムだからな。その後作成者のフランが回収して既に蘇生済みだ。気にすんな」


「そうか……良かった」



 子供は安心したように溜め息を吐いた。

 それを確認してから、ロンは煙を吐きながら鱗に覆われたドラゴンの手を上げた。



「では、儂もちと聞きたい事があるのだが」


「ん、ああ、何だ?」


「ゴーロクが襲われたという下級ドラゴンについてだ」



 「少々興味深くてな」とロンはお茶目な笑みを浮かべる。



「ゴーロクが言うには襲って来た下級ドラゴンを仕留めたそうだが、その瞬間インクになったとも言っていた。そしてそのインクがスライムのように襲って来たとも。これは一体どういう事だ?」



 元々好奇心旺盛な生徒が多いニーラクス学園に住んでいたからか、わくわくした様子でロンは子供に問い掛けた。一方問い掛けられた子供は、納得したように「ああ」と頷いて宙でくるくる回っていた巻物を手に取った。

 ……今、巻物が自分からこの子の手に来たように見えたんだけど。ああいや、もしかしたら巻物もこの子の一部なのかな。本だし。



「それは書籍らの一部だ」


「一部?」



 ロンが首を傾げると、子供は再び「ああ」と頷いた。



「現れでよ、幼き純心」



 子供はそう唱えると、巻物の文字などが書かれているだろう部分が光った。そしてそこからするりと何かが飛び出てくる。子供の周りをくるくると飛び回るソレは……、



「……妖精?」


「その通り」



 巻物から飛び出てきたのは妖精だった。一般的に想像するような、ファンシーな服を身に纏った蝶のような羽が背中から生えている小人。



「これは今書籍らが図鑑から具現化させた存在。書籍らの一部。ちなみに書籍らの一部故に個体意識などは無い」


「……ほ、ほほう?」



 どういうこっちゃ。



「つまり、君は自分の本体の一部である図鑑などから、そこに記されている生物を具現化する事が可能、って事かい?」


「そういう事だ」



 ありがとうノア成る程そういう事ね理解したオーケイ!二次元を三次元化するというオタクの憧れ能力って事ねオーライ!

 まあ、キャラを具現化してもその具現化したキャラはキャラの精神があるわけじゃなくてこの子の意思で動くラジコンみたいな感じっぽいけどね。現実はいつだってシビア。良いけどね別に私既に素晴らしい嫁達にリアルで囲まれてるから。



「ただしあくまで本に記されている中からの具現化なのでな。故に正体はその存在を記す為に使用されていたインクであり……大丈夫か?」


「ヤー、ヤー、ヤー。オーライ」


「駄目だな」



 診断早いね君。確かに今のは我ながらどうかと思ったけど。



「あー……つまり、妖精を記したページがあるとするだろう?そうすると妖精の生態などを記す為にインクなどが使用される。そして書籍らはそのページに使用されているインクや文字、念などを用いて具現化しているんだ」


「……料理本から食べ物出してもインクの味ですよ、みたいな?」


「そうなるな。というか出した食べ物自体がインクその物だ」



 わーお口内大変。

 いや、でも、うん、何となく理解は出来た。つまりどれだけ姿がリアルだろうが、本質はインクって事なのね。



「ただ、これはハリボテのようなものだからな。ほんの少しの攻撃で容易くインクに戻る。そのゴーレムが倒した下級ドラゴンがインクになったのもそのせいだ」


「あ、そういやゴーロクさん、眉間に一撃入れたらその瞬間インクになったとか言ってたっけ」



 成る程、多分感覚的には水風船みたいな感じなのかな。インクって事は液体だし、うん、しっくりくる。



「そしてそのインクだが」



 そう言い、子供は巻物から針を取り出して妖精を軽く刺した。直後に妖精はパンッと弾けてインクへと戻る。

 ……絵面が酷い。



「これも書籍らの一部であるが故に、書籍らの思い通りに動かす事が出来る」



 「この巻物と同じだな」と言い、子供はピンと立てた人差し指の上にインクの塊を浮かせた。それを見たロンは長い顎鬚を撫でながら、ふむふむと納得したように頷く。



「成る程、そうやってインクを操りゴーロクを殺したのか」


「ああ。ゴーレムは文字を削らない限り死なないと書籍らの中に記されていたからな。何よりゴーレムは場合によっては作成者の命令を聞かずに暴走して暴れ回るという前例もある。一撃必殺しか無いだろうと思って動きを拘束した後に額の文字を削った」



 「……まあ、誤解だったが」と子供は少し気まずそうに顔を下の方に向けた。前髪ガードで見えないけど視線を彷徨わせてる……のかな?



「……少し聞いておきたいんだが、ゴーロクが来たのはどのくらい前だ?」



 目を伏せたままそう問い掛けるパンドラに、子供は答える。



「三十六年と四ヶ月と六日前だな」


「いやもうソレ充分に時効だよね!?」



 私達が魔王国出てからの話かと思いきやまさかの三十六年前!大丈夫だよゴーロクさん普通に元気に働いてるよ!いやまあ当人じゃ無いから気にすんなって断言する事は出来ないけど!

 ……フォローだけは入れとこう。



「あの、ゴーロクさんが死ぬのは割りとしょっちゅうある事っぽいから、本当、あんまり気にしなくても良いと思うよ。私もゴーロクさんが乾燥で死に掛けてるの何回か目撃したし」



 勿論戦犯はイーさんだ。よくゴーロクさん、イーさん、ユラさんで集まってるせいか隣に立ってる……立って?浮いて?まあとにかく一緒に居る事が多い。故に前回の宿泊時に何回かイーさんの熱気によって死に掛けてるゴーロクさんを見かけたのである。時々腕が捥げたりもしてたからね。



「というか宴会の最中に乾燥で死んだの目撃した事もあるし、うん、大丈夫だと思う」


「アイツは湯が張られた風呂に落ちただけで死ぬくらいには死にやすいし、気にしなくて良いと思うぜ」



 あ、やっぱヒースもそう思う?



「……なんというか、他者に聞かれたら凄まじい誤解を受けるような会話だが……まあ、そうだな、ゴーレムだからな。気にしないでおく」



 ……うん、この子やっぱり感性がかなりまともだわ。流石人類の英知詰め合わせ存在。



「はい!」



 そう思っていたら、ジェムがキラキラ輝くグリーントルマリンの手を上げた。サファイヤの爪が太陽の光を反射してめっちゃキラめいてる。



「ジェム、きく、する、したい!」


「ああ、幾らでも聞け。書籍らは本だからな。わからないと言う者に記されている答えを見せてやるのが書籍らだ。そして書籍らは知識を増やそうとする好奇心旺盛さが好きだ」



 子供は口元に笑みを浮かべながらそう言ってから、「本を破こうとするタイプの好奇心旺盛さは敵だがな」と小声で呟いた。うーん感性がとっても本。



「ジェム、きになる、してた、こと、ある」


「何が気になっていた?」


「ここ、としょかん、えいえん。ずっと、しんぴん。でも、しょうめつ。とつぜん。なぜ?」


「書籍らが居た図書館が消滅した理由か」



 「大した事では無いんだがな」と子供は溜め息を吐いた。



「端的に結論から答えるならば、図書館を建てた勇者が掛けた魔法の効果が終了したんだ。それ故の経年劣化、が真相だな」



 魔法の効果が終了してーの……経年劣化?



「魔法の効果って、確か本が汚れたり破けたりもしない防護系の魔法……だっけ?」


「そうだ。というよりは図書館とその図書館の管轄である書籍達には、劣化が弾かれる魔法が掛けられていた」



 「図書館の物となれば効果が及ぶオート仕様だったからな。新刊も勿論その魔法の恩恵に預かれた」と子供は続ける。



「ペンで上書き、これは文字を読めなくする行為だ。読めない本はただのゴミになってしまう。故に弾かれる。飲み物を零す、これも同じく。破こうとする、これも同じく。風呂に落とす、これも同じく。ページを折る、これも同じく。故にそれら全てが弾かれる」



 「まあわかりやすく言うのであれば、本の時間を止める事で「汚れる」というのを弾けるというだけなのだが」と子供は続けた。

 ……いやわかりやすく無いよ。時間が止まってれば干渉不可能とか意味わかんないよ。もうちょっと小学校低学年に教えるみたいに教えて欲しい。



「しかしあくまで時が経つのを先送りにしているだけだったのでな……勇者が掛けた魔法の効力は二千年。そしてその二千年が経過した四百年前、一分一秒一瞬の誤差すらも無く、魔法の効果が消滅し、今まで先送りにしていた劣化がやって来たというわけだ」


「……ほほう」


「…………沢山の客が開店を待っていて、そして開店したから客が飛び込んで来て、しかし店側の許容量を圧倒的に上回っていたが故に崩壊」


「成る程店が図書館で客が時間!」



 あー、成る程成る程何となくわかった。

 今までは老いを弾けたから結構な年齢でも若いままだったけど、それが出来なくなった結果今までのツケがドッと来て一瞬にして老婆越えて白骨化、みたいな感じか。



「れっか、いっき、くる、した。だから、としょかん、しょうめつ?」


「ああ。二千年分の経年劣化だからな。周囲を見ればわかるように、たった四百年でこの有様だ。二千年分のツケだと考えると残骸すら殆ど残さずに消滅するのも当然だ」


「だが、お前は残ったんだなぁ?」



 イースの言葉に、子供は「ああ」と頷いた。



「勇者の作った図書館だった上に魔法まで掛けられていたからな。そして沢山の利用者による複数の強い念。最後に様々な禁書達。これだけの要素が揃っていれば、本達が書籍らという集合体に変じてもおかしくは無いだろう」



 「実際、ヒイズルクニなどには似たような話もあるからな」と子供は言った。

 ……付喪神とかその辺の話かな、ソレって。確かに強い念があると妖怪になるとか言うもんね。あと百年使った道具には魂が宿るとかも言うし。そう考えると二千年も経過してるんだから当然のように魔物化するだけの地盤は整ってるか。



「でもそうなると本くれって頼むのは無理か?」



 ローランの言葉に、子供は「何故そう思う?」と返した。



「いや、だってその本達はアンタを構築してる大事な細胞みたいなモンなんだろ?俺達はフランからの依頼で命関係の本を探しに来たが、流石に体の一部寄越せっつーのは……ミーヤの気持ちに反するからな」



 あ、私のメンタルの方を気遣ってくれたのか。



「ありがとね」


「え、いや、まあ、ミーヤの事ずっと考えてたからそうかなって思っただけだけどな……?」



 お礼を言って頭を撫でたら、ローランは嬉し恥ずかしそうに赤面しながら視線を泳がせた。可愛い。



「……何やらイチャイチャしているところ悪いが、別に本をやるくらいは問題無いぞ」


「無いの?」



 アリスの言葉に、「無い」と子供は断言する。



「まあ確かに書籍らの中の本を誰かにやるなりして書籍らの元から離すとその分の知識が書籍らから失われるが、客が少なくて暇だった四百年の間に写本をして暇潰しをしていたからな。それでも良いならくれてやる」



 あ、そういやフランさん曰く、写本貰った人も居るとか言ってたっけ。あれってこういう事だったのか。

 子供の言葉に、ハイドが「成る程」と頷いた。



「写本を渡すだけなら問題は無いのか」


「ああ。書籍らを構築しているのは図書館に保管されていたオリジナルだからな。本の本体その物は劣化によって消滅済み故に書籍らから分離させても念でしかなく、物質的に存在しない物でもあるからそっちをやる事は出来んが……物質的に存在している写本なら好きに持っていけ。内容は完璧に写されているから安心して良いぞ」



 確かに張本人だもんね、本の。信頼性は高い。



「じゃあ、えっと……命に関する内容が書かれてる禁書の写本ってある?」


「勿論ある。少し待て」



 そう言って子供は巻物の中に腕を突っ込み、その中から数冊の本を取り出した。



「命に関する禁書……の、写本だ。持って行くと良い」


「ありがとう」



 差し出された禁書の写本をありがたく受け取り、アイテムポーチの中へと仕舞う。よし、これでミッションコンプリート!今晩の酒は美味いぞ!



「ふむ……用件は大体以上か?他にもあるなら答えるが」


「あ、じゃあ」



 私は気になっていた事を聞く。



「前髪捲ってみても良い?」


「ああ…………」



 意味を理解したのか、子供が無言の後に「……あ?」と言うが、遅かった。前髪ガードという鉄壁の向こうを見たいというスカート捲りをしたがるような小学生男子の心が表に出てきていた私は、既に子供の前髪に手を伸ばし済みだった。

 あれだけ鉄壁だったのに意外とサラサラしている前髪を捲ると、



「あ、やっぱ美形」



 パッチリした目が可愛らしい顔だった。ちょっと目の形が本のように長方形っぽい感じはあるけど、普通に美形。知ってた。この世界美形率高いもん。

 まあ露出している肌のきめ細かさから確実に美形だろうなと思ってたけど、うん、顔見てもやっぱり性別わかんないわ。中性的。

 そう思いながら子供の顔をまじまじと見ていると、



「なっ…………ななななななななっ……!?うわわわわわっ!」



 頬どころか耳や首まで真っ赤にして、涙目になった子供は慌てたように私の手を振り払った。



「しょ、書籍らの、書籍らの表紙を……!」



 え、表紙?

 子供は己の身を抱くようにしながら、叫んだ。



「書籍らの表紙を捲った責任を取れ!!」



 ほわっつ!?



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