草原で狩り
朝早くにツギルクの町を出発し、現在草原を歩いております。
ツギルクの町から見て西側にあるこの草原の名前はヴィニー草原と言うらしい。
あちこちにバロメッツが居てのんびりと草を食べてるから少し狩らせてもらった。ハニーは最初うっかり火魔法を使ってしまいバロメッツを燃えカスにしてしまったが、その後はちゃんと風魔法で仕留めてるから問題無し。植物の魔物だからか一気に燃えたんだよねー。見た目羊なのに植物なんだもんな。
「そうねぇ、植物だしもこもこの毛は綿に近いからぁ、すぐ火達磨になるのよねぇ。でも上手に仕留めれば上質な毛が手に入るしぃ、上質な毛は普通よりも高値で売れるわぁ」
「イースって売却値に詳しいよね」
「魔王軍ってぇ、脳筋が多いからどんぶり勘定が多かったのよぉ…。出費も馬鹿にならないしぃ…。結果収入を多くする事でどうにかしたわぁ」
ふっと遠い目をしてイースはどこかを見つめる。いや、見つめて無いな。過去を振り返ってる目だねアレ。というか今の話だとイースが居ないと出費がやばいという事ではなかろうか。魔王軍、金欠になってたりしない?
「金欠になったなら自業自得よぉ。…まあ、今の魔王様は馬鹿じゃないからある程度は計算も出来るでしょうけどねぇ」
…前の魔王様は馬鹿だったんだろうか。
「あ、良いのが居たわよぉ」
「ん?」
「ヴヴ?」
イースが指差す方向を見ると、十匹前後の鹿の群れがあった。
……鹿ってか、鹿の魔物かな?
「あれは俊足シカ。風の魔法で自分達を加速させて捕食者から逃げる魔物よぉ。あと風魔法を蹄に纏わせて食らわせてくる蹴りは人間の皮膚くらいなら裂けるから要注意。仲間意識も強いから一匹仕留めると攻撃してくるわぁ。仕留めるなら群れごと仕留めることぉ」
「おおう…了解です」
「そして俊足シカは角と蹄が良いお値段で売れるから出来るだけ狩っちゃいましょうねぇ。角は加工品に、蹄は薬になるのよぉ」
つまりはレッツハントって事ですね!
…んー、でも相手は素早いんだよね?んでもって近距離も危なそうだし…。
「ハニー、私が俊足シカの群れの動きを止めるから、その間に全部の首を風魔法で落とせる?」
「ヴッヴヴ!」
「ん、良い子!」
ハニーから「まっかせてください!」という意思を感じた。なら大丈夫だろう。
ぐっ、ぐっ、とプールに入る前のように足を伸ばしてから、ダッシュ!出来るだけ近い方が楽なので出来るだけ近づかせてもらうぜ!
草原ゆえに森に比べると走りやすいが、それは相手も同じ。私の走る音に気付いたのか、草を食べていた俊足シカの内一匹が顔を上げて耳をピクピクと動かした。そして私の方に気付き声を、上げるのは良いけど逃げられる前に足止め!!
「氷魔法、スケートリンク!」
地面についた手からパキパキと音を立てて氷が広がり、一瞬で俊足シカ達の足を氷付けにした。完全に氷と足がくっ付いちゃってるから逃げられまい!
……まあ、強い力で抵抗されるとバキッて壊れちゃう代物だけどね。
けれどそうされる前に仕留めさせてもらう!
「ハニー!」
「ヴヴ!ヴヴヴッヴ!!」
ハニーの風魔法によって放たれた幾つもの鋭い風の刃は、氷に動きを止められた俊足シカ達の首だけを綺麗に切り落とした。
「よっしハニーすごーい!最初はそよ風のような風魔法だったのに、こんなに凄い技まで出来るようになったんだね!こっちおいで!」
「ヴッヴー♪」
「よーしよしよーし。ハニー偉いぞー!」
広げた腕の中に飛び込んで来たハニーを受け止め、愛を込めてわしわしと撫でまくる。レベルが3だった頃に比べると別蜂かと思うくらい成長していて私は嬉しい。ハニーの才能とイースの教えと魔石ドーピングのお陰なんだろうな。
……魔石ドーピングって言い方は良く無いな。違う呼び方を考えておこう。
「じゃあ早速俊足シカ達を捌いちゃいましょうかぁ。ミーヤ、足元の氷って溶かしても良いかしらぁ?」
「あ、うん。ごめん忘れてた。やっちゃってー」
「はぁ~い」
イースが軽く指を振ると、一瞬にして地面の氷が溶け水と化した。あ、いっけね氷を少し分厚めにしたから地面がぬかるむか?と思ったけど、イースはそれすら見越していたのか溶けた水は次の一瞬で蒸発した。凄い早業。
無事捌ける状態になった俊足シカをさくさく解体しつつ、イースは尻尾で少し遠い場所を指す。
「あっちには色白雀が居たから解体してる間に狩っちゃってぇ。色白雀を絞った油は美白効果のある化粧品になるのよぉ。あ、特に攻撃性は無いから適当でも狩れると思うわぁ」
「あいあいさー!」
ハートの形をしたイースの尻尾が指した先を見ると、確かに小さいのが沢山地面を啄ばんでいるようだった。…でもこの位置からじゃ見にくいな。
「光魔法、視力強化」
回復や浄化が出来る光魔法は筋肉を一時的に増強したり体の一部を活性化させる事も出来るらしい。なので視力を強化するイメージで光魔法を使ってみる。オリジナル魔法作成のスキルのお陰か無事成功し、小さい粒のようだった色白雀がよく見える。双眼鏡使ってるみたい。
色白雀は羽が白い雀だ。後で聞いたが羽が黒いのは色黒雀というらしい。
それはさておき、ああいう小さいのはすばしっこいという事を私はよく知っている。主に電線の上とかに集まってた日本の雀で知っている。あいつらは素早い。
なので地面をつついている今が絶好のチャンス!空に逃げられたらアウトだもんね!
「んじゃ、そういうわけでぇ…土魔法、針山!」
地面に手をついて魔法を使用すると、イメージ通りに色白雀達は串刺しになった。
何をしたかといえば、土を細い針のように変形させ色白雀達を突き刺したのである。うっかり致命傷にならなくて針抜いて逃げられるのは嫌だったから、視力強化でとてもよく見える視界から全部の色白雀達の脳を狙わせてもらった。日本だったらお見せ出来ない映像になっている。
……まあ、ほら、色白雀は雀サイズだから小さい針で済んだし。一撃必殺で脳を潰したから一羽一本の針でいけたし。最小限の攻撃で済んだから原形を留めたままだし…はたして私は一体何に言い訳をしているんだろう。
「……うん、回収しに行こうか」
「ヴヴヴッ」
光魔法を解除して強化していた視力を戻し、色白雀達の方に近づく。
…うえ、近づいて見てみるとまたグロいなー。やったの私だけど。
嫌々だが仕方なく、色白雀達を土の針から抜いて持つ。ハニーも五羽程確保したらしい。針のままの土は……まあ、雨が降れば勝手に泥になるでしょう。多分。
「イース、色白雀十二羽、ハニーは五羽確保したよー。トータルで十七羽」
「あらぁ、思ったより沢山狩れたのねぇ。色白雀一羽じゃ取れる油も限られるからぁ、多ければ多い程ありがたいわぁ」
やはり美白って大事だよね。女は色白が美しい。
ただまあそれはそれとしてイースのような褐色の肌もまた違った素晴らしさがあるから一概に言えないか。色白も色黒も素敵だけど、やっぱり美人で肌の手入れがされていればそれで良いって気もするし。
「うふふふふ、ミーヤは本当に自分の好きなものに正直よねぇ」
好きなものに正直っていうか、自分の欲に正直っていうか…。
「個人の好きな物はその人の欲でしかないんだから変わらないわよぉ。それよりぃ、俊足シカは解体し終わったけどぉ…その色白雀達の解体は後で良いわねぇ。こっちのアイテム袋に入れておいてぇ」
「はぁ~い」
「ヴヴヴヴ」
「うふふ、解体はミーヤ達が寝ている間にしておくわねぇ」
「ありがとう、イース」
「…どういたしましてぇ♡」
イースのアイテム袋に色白雀を入れつつお礼を言ったら、とても甘い笑顔で微笑まれた。とろけるような笑顔と声ってこういう事を言うんだね。
さて、色白雀は無事アイテム袋に仕舞った。いざ再び歩き出そう!
気付けば日が暮れかけてました。
いやーうっかり魔物ハントに精を出し過ぎて夕方になってたよね。日が暮れた後はちょっと面倒な魔物も増えるから、ささっと近くを見渡して丁度良い木があるところで一休み。今日はここで野宿かな。
少し赤っぽい丸太にどっこいしょーと腰掛けて力を抜く。あー、今日も歩いたなー。日本じゃ一日中草原を歩くなんて経験した事ないよ。
そもそも日本じゃ森を歩いた事も無かったけどね。
私は森ガールでは無いタイプのガールである。
「それじゃあご飯にしましょうかぁ。俊足シカの肉は煮込んでぇ…バロメッツの肉はそのまま焼こうかしらねぇ。草食ヘビの卵もまだあるからこれは俊足シカと一緒に煮込んじゃいましょうかぁ」
「うわ、めっちゃくちゃ美味しそう」
「ヴヴヴヴ?」
「ハニーにはイチゴのジャムねぇ」
「ヴッヴー♡」
無駄の無い動きで作られていく料理達に私の腹はぐーぐー鳴る。あ、いかん涎出てきた。無意識に垂れていた涎を袖で拭う。
「ミーヤ、バロメッツの焼肉ならすぐだけど煮込みの方はまだ時間がかかるわよぉ?その前にお風呂入っちゃう?」
「んー、いや、お腹空いててお風呂入るには気合が足りない」
「あははは!」
笑われてしまった。でもお風呂に入る時って気合がいるよね?もしくは覚悟。頭洗って体洗ってその他諸々…でもお湯には浸かりたいしさっぱりしたい!でもちょっとめんどいし時間の経過が!ってならない?私だけ?
「仕方ないわねぇ。腹ペコさんなミーヤの為に闇魔法で煮込んじゃうわぁ」
「あ、そういえば闇魔法は発酵させたりも出来るんだっけ」
「発酵も出来るけどぉ、これはどちらかと言えば時間の経過かしらぁ?闇魔法には老化の呪いとかもあるのよぉ。それの応用で鍋の中だけ時間を数倍早くしてるのぉ」
「闇魔法凄い」
「ヴー」
そんな便利な応用方法があったら畑の食べ物を幾らでも早送りして数日で収穫出来るじゃないか。もしくは逆に時間を戻す事も可能なのかな。
「可能だけど時間を進めるよりも時間を巻き戻す方が調整し難いのよねぇ。生き物に使うとうっかり母親の腹の中に居た頃まで戻しちゃう時もあるわぁ」
「闇魔法が恐れられる理由がわかった気がする」
「うふふ、基本的におぞましければ大体闇魔法よぉ?例えば火の魔法でもぉ、それで出来た火傷はジリジリと対象者の肉体を侵食しやがて全身に火傷が広がり死ぬ、みたいなのだったらそれは火魔法ではなく闇魔法と認識されるわぁ。だから結構闇魔法って範囲が広いのよねぇ」
「そういえば人道に反してるのは大体闇魔法って言ってたね」
そう考えると老化させるのも危険だし時間の早送りも危険。なんか納得。
「ちなみにミーヤがやってた光魔法での視力強化だけどぉ、あれの応用で他人に凄い筋力強化の魔法をかけると相手が死ぬと思うから気をつけてねぇ」
「何ソレ怖い!どういう事!?」
「あれってつまり肉体を無理矢理強化してるって事でしょぉ?ある程度なら大丈夫だけどぉ、やり過ぎにはそれ相応の反動があるわぁ。筋力を普通に高めるだけなら筋肉痛かそれ以下ってレベルでしょうけどぉ、尋常じゃない筋力の強化をしたらいきなり増えた筋力に肉体が耐えられなくなってあちこちの筋繊維がぶっちぶちに切れて大変な事になるでしょうねぇ」
「超怖い。節度を守って身体強化・弱って感じにしとく」
「そうしておいた方が良いわぁ」
くすくすと笑いながらそう言ったイースは、どうやらシカ肉とヘビ卵が煮込み終わったらしく鍋の蓋を開けてぐるぐるとかき混ぜた。ふわりと良い香りが漂ってきて私の腹がまたぐうと鳴った。
いつもの事ながら多少の気恥ずかしさを覚えつつ、イースがよそってくれたお椀を受け取ろうと軽く腰を上げた瞬間、
「……む?」
座っている丸太が動いたような気がした。
いや、気がするじゃない。動いてる。うねうねと動き出したその赤っぽい丸太と思っていたものは、よく見ると赤い鱗がビッシリと生えた何かだった。
「ああ、言うの忘れてたけどミーヤが座ってるそれ、生きてるわよぉ」
イースが言い終わるより前に、髪の長い女の上半身が私の目に映った。




