第十三夫人と花人の生態
あの後結局私が書くと異世界人の称号のせいで面倒な事になるかもしれないから、という事でイースが訳して書いてくれた。しっかりとエルフ語である。
本当はロンが「やろうか?」って言ってくれたんだけどね……試しに書いてもらったらエルフの古語だったっていう。どうやらエルフ語は読めるだけで、エルフ語を書こうとするとつい手癖でエルフの古語になっちゃうんだとか。どういう手癖だ。
そんなわけで神様からのレシピをエルフ語で訳して渡し、神様に「ありがとうございました」というメールを返信し、日が暮れる頃に王都に戻って来た、というわけである。
いやー、まさかお土産渡し忘れてたから渡しに行こう!って思っただけなのに気付いたらとんでもねえレベルで濃い一日になったよね。ユグドラシル云々からエルフの里行ってユニコーンに会って花の国行って嫁娶ってユグドラシル復活させて……これが数時間の出来事なんだから恐れ入る。
あ、現在私達は宿屋の借りた部屋に居る。ついさっきフローラと盃を交わしたところでございます。
「私は、皆と共に歩いて行きたい」
「わたくしは……そうね、ミーヤの傍で咲いていたいわ」
「私は、三岡美夜は、皆と共に生きていく」
ってな感じで。
ちなみにフローラ、盃に入った酒は手で飲んでいた。こう、盃に指先を浸して吸収してたって言い方が一番わかりやすいかな。どうやら花人にとっては手足が根らしく、水分を吸収する時は手から吸収するらしい。
「……口は?」
「口は会話用だから何かを含んでも飲み込んだりが出来ないの」
「成る程」
こうやって生態を聞くと本当に植物寄りな種族だよね。エルフは結構人間寄りなんだと気付かされたよ。私からするとエルフは人間七割で植物三割、花人は人間二割で植物八割って感じ。
あと一応酔ったりはしてないかを確認してみたが、フローラはケロリとしていた。根から吸収したなら酔いやすいんじゃ?と思ったけど、多分植物だから酔い難いのかもしれない。細胞とかも植物寄りっぽいもんね。
「さて、それじゃあ……ステータスを確認して良いかな?」
「ええ、勿論」
私の言葉にふわりと花が咲くように微笑みながら、フローラはそう答えた。
……いやまあ、実際髪には色鮮やかな数種類の花がポンポン咲いてるんだけどね。
さておき、私は表示されるフローラのステータスを読み上げる。
名前:フローラ(257)
レベル:42
種族:花人
HP:730
MP:1450
スキル:同調、生命力吸収、花粉
称号:花の姫、愛の花、ロマンチスト、従魔、第十三夫人、愛の加護
うん、スキルと称号がとっても花。めちゃくちゃ花してるねコレ。
そう思っているとヒースが額に手を当てて俯き、深い溜め息を吐いた。
「……257歳って聞いて、うっかり「結構若いんだな」って思っちまった……」
「わかる、わかるぜヒース。500歳未満だと充分若いって感じるようになってるよな俺達」
「海の王様の秘書してたリーブさんなんて568歳だったから充分若いよ!自分まだ16歳だけど!」
「それを言ったらアリスなんてこの器になって数ヶ月ですよ?私は私でまだ1歳ですし」
「マジで!?キラービーは成長早いし寿命短めとは聞いてたけどハニー思ってたより若えな!?」
上からヒース、コン、マリン、ハニー、ローランの順である。
……あー……。
「ヒースと同じく私も年齢読み上げた時に「若いなー」って思ったわ……。いや二百年寝てた事を考えると活動してた年数は二桁だから実際充分に若いと思うけど」
自分の寿命も延びてるもんだからその辺の計算がガバガバになってきたな……まあ、うん、別に良いんだけどね。年齢がどうのこうので何か問題が起こるわけでも無いんだし。
「……でも、フローラ……レベル……42、も、ある……。花の国……敵、居なさそう……なのに……」
「ああ、これ?」
フローラはラミィに「大した事じゃ無いんだけど……」と言ってから苦笑いで答える。
「……栄養を得た分だけ、レベルが上がるの。でもわたくしの場合は愛が栄養源だし、殆ど寝てたでしょう?だから本当はもっと低いレベルなんだけど……他の植物から生命力を奪ったりすると、その分レベルが上がっちゃったりするのよね」
「普通の花人なら、年齢の分だけレベルも高いんだけど」とフローラは恥ずかしそうに微笑んだ。
「……レベル、高い方が良かった?」
「いや別に?」
少し居心地悪そうにしながらそう聞いてきたフローラに即答し、咲いている花を潰さないように気をつけながらフローラの頭を撫でる。
「そこのロンとパンドラなんて測定不能だからね。レベルなんて低くても高くても問題無いよ」
私の言葉を聞いてフローラが二人の方に視線を向けると、ロンは煙を吐きながら、パンドラは蜂蜜入りのお茶を飲みながらピースをして見せた。うん、二人って結構お茶目なトコあるよね。知ってる。
「それに私としては嫁と一緒に居るのが最重要事項なわけだし。気にする事なんて無いよ」
そう言うと、イースが何か言いたげなニヤニヤした笑みを浮かべた。あれは恐らく「最初はあんなにハーレム計画を却下してたのにねぇ」という顔。いや最終的にそれを認めさせたのはイースの手料理だからね?胃袋掴まれたら屈するよ日本人だもん。
……そういや、何か、気付いたら嫁を完全に受け入れてるな私。あと異世界に来たばかりの頃と比べて女らしさが死んでる気がする。一体何が原因でこんなにも変化したんだ。心当たりが多過ぎて特定出来ん。
まあそれはさておいて、と私はスキルの詳細を読み上げる。
同調
触れた生き物に同調する事で感情などを察するスキル。生命でないと発動しないのでコップなどの無機物から察したりは出来ない。獣人の五感に似ているが、こっちは触れないと察せない。
生命力吸収
栄養が不足している場合自動的に発動するスキル。要するにドレインの一種。基本的に周囲の植物から生命力を奪う。意識的に発動させる事も可能。
花粉
もしその時が来たら愛する人間と営みが行えるようにと勇者が授けたスキル。花粉の時期になると男性器を生やせる。基本的に花人本人の任意。
待って?
「……花粉の詳細が意味わかんないんだけど、あの、フローラ?」
「うん」
「これ、意味わかる?」
「勿論」
勿論なんだ。
特に顔を赤らめたりもせず、きょとんとした顔でフローラは答えた。
「……どういう意味か説明して欲しいんだけど……」
「えっと……」
少し考えるように視線を泳がせてから、説明が纏ったのかフローラはにっこりとした笑顔で「任せて!」と言った。
「まず最初に花人の生態なんだけど、花人には実は性別が無いの」
「無いの!?」
え、でもおっぱいあるよ!?おっきいおっぱいあるよ!?
「……僕みたいに性別が設定されていないタイプの無性別とは違って、イースみたいに男にも女にもなれる、って感じかい?」
「そうね、それが近いと思うわ」
あ、ああ、成る程。
ノアの言葉にフローラが頷いた事で、何となく理解出来たような……いや出来て無いわ。
「うーん……より正確に言うなら、見た目や性格とかの性別はあるけど、生殖的な性別は無いって感じかしら」
「……ほ、ほほーう……?」
駄目だわからん。
まったくわかりませんと全面的に表情に出していると、イースが苦笑しながら「要するに花と同じように両性って事よぉ」と教えてくれた。
「……両性?」
「両性具有って言えばわかるかしらぁ?花っておしべとめしべがあるでしょう?それが両性花よぉ」
あー成る程!ふたなげふんげふん、両性具有ね!お姉ちゃんがソレ系の同人誌に嵌まった時にリビングに何冊か落ちてた事があるから知ってる!
「どうも花人の場合は見た目に性差はあるけどぉ、基本的に全員に女性器が備わってるみたいねぇ。そして花粉の時期に男性器を生やしたりも可能、って感じみたぁい」
「えーっと……つまり期間限定両性具有?」
「そうなるわねぇ」
「ちなみに木人は普通に男女があるみたいよぉ♡」とイースはにっこり微笑んだ。
……つまり、なんだ?基本的に花人は見た目に性差はあれど生殖的には女で、期間限定で両性具有になる事も可能で、木人は普通に男女があって?
よしオッケーわからん!とりあえず花人はふたなりなんだね私覚えた!理解は出来ん!
「よーし称号の詳細見るべー」
「思考放棄したな」
「いやー、僕も正直あんまり理解出来て無いから仕方ないと思うよ?」
ハイドの言葉に苦笑しながらそう言ったアレクに心の中からスタンディングオベーション。だよね、それが普通だよね!
そんなわけではい称号詳細ドン!
花の姫
花の国の王族という証に贈られる称号。この称号を所持していると花人の使用する花魔法の威力が倍以上に強化される。王族オーラのお陰で植物達にも心を開かれやすい。
愛の花
栄養源が愛である花人に贈られる称号。愛に飢えれば枯れ、愛に満たされればとても美しく可憐に咲く。
ロマンチスト
ロマンチックを愛する者に贈られる称号。この場合は小さい女の子が夢見るような理想を好むという感じ。好きな人と一緒に居れるだけでトキメキキュンキュン。
第十三夫人
十三人目の嫁。
……成る程。
「この花の姫って称号のお陰でユグドラシルも話してくれたのかな?」
「そうかもしれないわ」
「正確には感情とかを読み取っただけなんだけどね」とフローラは微笑んだ。
「でもフローラのお陰で助かったのもやっぱり揺らがぬ事実だからね」
笑って「ありがとう」と言うと、室内にぐるるるぅぅ~~~……という唸り声にも似た大きな音が響いた。
「……コン、お腹空いた?」
「…………ごめん」
「邪魔するつもりじゃ無かったんだ……」と、コンは耳と尻尾を伏せながら小さな声でそう言った。
……よくよく考えればもう夜だもんね。それも結構な時間だし。途中でおやつタイムとかも無かったからそりゃお腹も空くか。
「よし、フローラのステータスとかの確認も済んだし下に降りてご飯食べよっか。フローラ、ご飯食べれる?」
「固形物って事?」
そう言って首を傾げたフローラは、「ええ、大丈夫よ」と笑顔で頷いた。
「それは良かった」
「じゃあレッツゴー」と部屋を出て下に降りると、既に中央の大きいテーブルにミーヤ一行用と書かれた紙が置かれていた。
予約した覚えも無いのに予約されている、だと……。
「あ、ミーヤさん!お食事ですか?」
他の席に料理を運び終わったところらしいいつものお姉さんに「はい」と返事をすると、「じゃあお席にどうぞ!」と言って予約席用の紙を回収した。
「注文どうします?メニュー見てから決めますか?」
流石に結構な付き合いなだけはあってお姉さんの私達に対する理解が深くてありがたい。
「とりあえずジュースとお酒を人数分で。あと今日のおすすめ料理を人数分の倍お願いします」
「はーい!いつもありがとうございます!」
そう言ってお姉さんは厨房の方へと向かう。
……ありがたいのはこっちだけどね。ご飯全部美味しいし、いつも沢山食べるのに合わせて食材も準備してくれてるっぽいし。それに他の席と見比べると気持ち大盛りにしてくれてるから本当ありがたい。喜んで客寄せパンダになってみせようぞ。
「先輩先輩!ミーヤさん達が食事に来たのでこっからフルスロットルですよ!頑張りましょう!」
「おう、焦って転んで酒瓶割らねえように気ぃつけろよ後輩」
「忘れてくださいって言ったのに話題に出すなんて酷いです先輩!あとあの酒瓶は空だったからセーフです!」
「割れた破片の危なさは中身があろうが無かろうが変わんねえだろ。第一あん時は俺が支えたから頭打たずに済んだんだろうが。たんこぶ作らずに済んだ事を先輩様に感謝しとけよ」
「感謝しにくいですその言い方!でもありがとうございました!」
「おう、素直でよろしい。んじゃ倉庫行って酒のストックとか予め出しとくぞ。どうせ他の客も釣られて大量に注文し始めるからな」
「はーい!」
……前のやり取りを知ってるからあの二人の会話をつい微笑ましく見守っちゃうな。
いかんいかんと首を振ってあの二人から意識を逸らす。
「今日のミーヤちゃん一行は何本酒瓶を空にするか賭けようぜ!」
「おいおい、馬鹿かよお前は。一日で何十本もの酒瓶を空にするあの一行で賭けれると思ってんのか?45本を空にするに今日の食事代な」
「くっくっく、お前も馬鹿じゃねえかよ。じゃあ俺50本な」
「私30本以上に賭けるわ」
「ずっけぇ!」
「それは無効だろ無効無効!反則過ぎる!」
「チッ、じゃあ76本」
「人数多いしミーヤちゃんを始めとして皆結構飲むからその数でもあり得るのが怖いよな……」
「わかる」
「あ!おいソレ俺の肉!」
「ああ?何言ってんだ大皿である以上は両方に食う権利があんだろうが」
「真ん中からそっちがお前の領土で真ん中からこっちが俺の領土!」
「は?いつんな事が決まったよ。太陽が何回沈んだ時にんな事が決まったんだ?あ?」
「ガキかお前は!俺がお前の領土侵したらめっちゃ突っついてくる癖に!」
「当たり前だろ俺の肉なんだから!」
「ああもうこれだから怪我した猛禽類って奴は!ピリピリしてて嫌なんだよ足の怪我は大丈夫か!?」
「おうこの通り鳥人用フォーク持てるくらいには回復したぜ!ご心配どうも!」
「そうかいそりゃ良かった!あとそのフォーク鳥人用じゃなくて子供用だよよく見ろ」
「いやお前がよく見ろ。尖ってる部分のサイズが違うんだよ」
「あ、本当だ」
「……何か、ミーヤちゃんの一行さ、増えてない?」
「ああ、アンタ知らなかったっけ?王の剣のローランさんがミーヤの嫁になって仲間入りしたんだって」
「いやそれは知ってる。五日前にそれ聞いて混乱し過ぎて海に飛び込んで溺れたから」
「何してんのよアンタ」
「そうじゃなくてあの美女居たっけ?って事よ」
「……居なかったと、思う」
「見る限り植物系の魔物か魔族ってトコでしょうね。アルラウネ……にしては扇情的な感じが薄いけど、まあ誘惑とかをミーヤに集中させてたらそんなもんか」
「……ところで今日の集まりの本題」
「そうよアンタ彼氏出来たってマジ!?」
「ふ、大マジよ。五日前に混乱したまま海に飛び込んで溺れた結果魚人が助けてくれたの。そして何かお礼をって言ったら自分を食べてくれって言ってきたから、うちの食料丁度切れてたしと思って頷いたらそれはもう美味しくて美味しくて、気付いたら専業主夫に」
「それもう実録で詳しく書いて出版したら?私買うわよ」
「……じゃないと理解不能……何その展開……」
いや本当にどういう展開?周囲の音を聞き取ってたら凄いラブストーリーが聞こえてきたんだけど。えっ、相手人魚じゃなくて魚人なの?いや、まあ、美味しく食べたんなら相手も嬉しいだろうし良いけど。実際魚人の肉美味しかったしね。
そんな事を考えていると、お酒と料理が運ばれてきた。運んで来てくれたお兄さんに追加の注文をしてから、いただきますと言って食べ始める。
「んー、やっぱり美味しいねここの」
もぐもぐと本日のおすすめらしい鶏肉の照り焼きを食べていると、「じゃあわたくしもソレを食べようかしら」とフローラが自分の分の照り焼きが乗った皿を手に取った。
それを見て、私はふと気付く。
「……そういやフローラ、お酒飲む時に手で飲んでたよね」
「え?ええ、水分は根から吸収するから」
「だよね」
そして口は会話用で飲み込んだり出来ないって言ってなかったっけ。
「……もしや手で食べたり出来るの?」
「ぷふっ!」
笑われてしまった。
「さ、流石に口も無いのに出来ないわ」
ですよねー。
そう思いながら照り焼きを咀嚼していると、フローラは「固形物はお腹で食べるのよ」と言った。
「……お腹?」
「ええ、ほら、こうやって」
そう言ってフローラが鳥の照り焼きが乗った皿をお腹の前に移動させると、フローラのお腹にぐぱあと大きな口が開いた。
予想外の光景に思わず吹き出しそうになった肉をどうにか飲み込んでいると、フローラはそれが当然であるかのように皿を傾けて腹に開いている口に照り焼きを流し込んだ。流し込まれた照り焼きを飲み込んだその口は分厚い舌で口周りを舐め、元通りに消えた。
「……今のは」
ビックリ仰天な光景に呆然としながら問い掛けると、フローラは頬に茶色の細い手を当てて少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「ほら、私達って上の口は会話用じゃない?だからお腹にある下の口で固形物を食べるの。お腹の口には歯が無いように見えるけど、奥の方に沢山の歯があるのよ。それですり潰す事で、固形物も吸収出来るの」
「へぇー……」
成る程、そのヘソはおちょぼ口がヘソのように見えてるだけなのね?
花人には色々性癖を盛り込んだ。




