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異世界で魔物使いやってます  作者:
ユグドラシル編
244/276

眠りのユグドラシル



 気になってメリーじいさんに「キャロルさんって誰ですか?」と聞いてみたが、「まあ二百年以上も昔の事じゃから」と笑顔で手をヒラヒラされてはぐらかされた。聞かれたくないタイプの話なんだろうか。

 まあ聞かれたくない事は私にもあるし記憶から抹消しておこうと判断し、全員でぞろぞろとユグドラシルの元まで移動する。



「まあ……!?」



 改めて間近でユグドラシルを見たフローラが茶色の細過ぎる手で口元を押さえ、驚愕に目を見開いた。



「大変よミーヤ!さっきはしっかり見てなかったから気付けなかったけど、このユグドラシルとっても弱ってるわ!」


「え、そこまで?」


「そこまで!」



 「地面から伝わってくる魔力からするともう少し持つと思ってたのに……これはかなり厳しいわ」とフローラは眉を顰めた。



「……私達にはかなり魔力量が減っているようにしか感じられないが、そんなにも酷い状況なのか?」


「ええ……」



 アルンさんの問いにフローラは真面目な顔で頷いた。



「まあ、わからんでもないな」



 長い顎鬚を撫でながら、ロンがそう呟いて煙を吐いた。



「儂などの上級ドラゴンは殆どが魔力で構築されている。肉体があるというよりも、その多い魔力で巨体を構築しておると言っても過言では無い。そしてユグドラシルは儂らと同じく殆どが魔力で出来ておる存在……人間で例えるなら片腕を持っていかれたくらいの衰弱っぷりだろう」


「そう、その通りよ。寧ろ弱ったら即座に枯れる程ダメージに弱いのに、ここまで持っているのが不思議なくらいの衰弱だわ」


「確かに儂ら上級ドラゴンは傷から魔力が漏れる事が無い故に耐久性も高いが、ユグドラシルは傷が出来るとそこから一気に内包している魔力が放出されてしまうからな……」



 ロンとフローラの会話はよくわからないけど、要するに上級ドラゴンやユグドラシルはアレクと同じでほぼ魂だけの存在に近いって事で良いのかな?もしくはイーさんみたいに魔力が目視化出来る程濃いみたいな……うーんわからん。

 そう思っていると、フローラは私の方を向いて口を開いた。



「ミーヤ、わたくしも一応触って読み取ってみるつもりではあるけど……これだけ衰弱してると、読み取れない可能性も高いわ」


「……そうなの?」


「ええ。魔力消費を抑える為にわたくしがしていたように休眠状態……もしくは、ソレに近い状態になっている可能性が高いもの」



 「ユグドラシルの葉が全て落ちたら終わりだから、流石にそこまでの休眠状態では無いみたいだけど……」と困ったように眉をハの字にするフローラの頭を、私は軽く梳くように撫でる。



「もし休眠に近い状態で読み取れなかったらどうにか起こす方法とかを考えよう。……ごめんけど、読み取るのお願い出来る?」


「わかったわ」



 コクリと頷き、フローラはアルンさんに目配せをした。そしてアルンさんが頷いたのを確認してから、フローラは茶色の細過ぎる手でユグドラシルの根に触れる。

 数秒の間無言でユグドラシルの根に触れていたが、



「……駄目」



 フローラは顔を上げて首を横に振った。



「完全な休眠状態でこそ無いけど、お昼寝してるみたいな状態だわ。わたくしの呼び掛けにも応じてくれないし……せめてもう少しでも活性化させる事が出来れば読み取れると思うんだけど……」


「活性化か……」



 うーん、と私は首を傾げる。



「あの、お聞きしたいのですがエルフにはそういった魔法が存在していたりは」


「無理じゃな」



 ハニーの質問をメリーじいさんはバッサリ切った。



「無理というか……ユグドラシルを主体とした魔法でないとユグドラシルが拒絶し、枯れかねんのじゃ」


「……主体……?」


「あー、何と言ったら良いかのう」



 首を傾げたラミィに、メリーじいさんは困ったように頭を掻いた。



「……つまり、魔法を掛ける側の思い通りに成長させるような魔法だと駄目って事ねぇ?あくまで植物が成長する為の魔力をあげるくらいに留めておかないと拒絶されちゃうってところかしらぁ」



 メリーじいさんの心を読んだんだろうイースの説明に、メリーじいさんは「うむ、その通り」と頷いた。



「まあ要するに自然に任せて好きなように育つタイプの魔法なら大丈夫じゃが、形などを思い通りにしようとする魔法の場合は駄目という感じじゃな」



 ああ、トマトとかに箱被せて四角のトマト作るような感じの方法取ると駄目って事ね。私の例えがわかり辛いのはいつもの事だからスルーとして……。



「ちなみにそんな魔法は」


「儂は使えん。エルフは複数の魔力を操って植物を思い通りに動かしたりは出来るが、それは駄目な方じゃしの。頑張っても水魔法で水をやったり光魔法で光合成させたり程度じゃ」


「私も無理だ。エルフからすると植物は手を入れなくても勝手に成長するから、どうしてもこの薬草が今必要なんだという時に成長促進させるような魔法くらいしか……」


「俺は一瞬魔物の足を止める為に草を成長させて結んで引っ掛ける感じの魔法くらいしか使えんぞ。他は攻撃魔法が殆どだからな」



 三人が三人共アウトか。

 ……こういう時にジュース屋台のおっちゃんが居たら助かりそうだなって思ったけど、居ないからどうしようも無いね。あのおっちゃんハーフエルフだし果樹の世話とかで魔法使ってそうだからそういう系の魔法に詳しそうだと思ったんだけど……ううむ。

 とりあえずおっちゃんにヘルプ申請を出すのは案が何も出なかった時の最終手段として……。



「植物主体で活性化を促せるような魔法使えると思うって人挙手してー。ちなみに私は多分無理です」



 だってイメージがどう足掻いても目覚まし時計。自然な目覚めを促さなくてはいけないのに明らかに不自然な強制的過ぎる目覚め。私が学生だったばっかりに、そして目覚まし時計にお世話になっていたばっかりにそんなイメージ以外浮かばないという悲劇。

 私のスキル的にイメージさえあれば魔法使えるんだけどねー……目覚まし時計に十七年間頼り続けてた結果目覚まし時計のイメージが脳裏にこびり付いちゃってる。つまり無理です。



「先に言っておくけどぉ、私も無理よぉ?ユグドラシルは闇の魔力と相性が悪いから少しでも私の魔力を注いだら枯れちゃうわぁ」


「……ラミィ、得意、火……だから……駄目……」


「自分の得意水魔法だけど、水は水でも海水系の魔法が得意!だから止めた方が良いと思う!植物に海水掛けると枯れるから!もしくは歌の音波で振動させる事も出来るけど、自分がうっかり調整ミスしたらユグドラシルの内側の水分破裂させて取り返しのつかない事になるかも!だから自分も無理!」


「枯らすならともかく、活性化させるというのは我も無理だな」


「妾も無理よ。妾の氷魔法じゃ完全に休眠させちゃうと思うし」



 上からイース、ラミィ、マリン、ハイド、アリスの順である。

 うーん……この中で一番植物に優しいのはフローラだろうからね。そんなフローラが率先してやるって言わないって事は丁度良い魔法が無いんだろう。もしくは二百年間寝てた分のブランク。まあ寝起きは眠いから仕方ないとして……相性良さそうな子が殆ど居ないっていうね。

 イースが駄目ならロンかパンドラ……と思い視線を向けるが、



「儂は無理だぞ。殆どが魔力で構築されているのは事実だが、残念な事に魔力の質がかなり違う。儂ら上級ドラゴンの魔力は荒っぽいからな。ユグドラシルのような繊細さの塊のような魔力とは合わん」


「俺様は傲慢の邪眼を使えば出来なくも無いだろうが、俺様の種族とかを思うとな。エルフからすると手を貸してもらいたくは無いだろう。という事でパスだ」



 二人にはそう返された。しかし正論過ぎて何も言えぬ。

 ロンが言う魔力の質の違いっていうのは多分上級ドラゴンが粒あんでユグドラシルがこしあんって感じの違いなんだろう。口溶けが違うというか。そりゃこしあんしか受け付けれん食道に粒あんは突っ込めないよね。

 そしてパンドラの理由は……うん、そういや最初の時のイースとメリーじいさん、ちょっとピリピリしてたもんね。確かエルフは勇者の仲間になる率が高かったから魔族や魔物とはあまり相性が良くないみたいな感じのアレ。そしてパンドラは初代魔王。

 ……エルフ側からすると、複雑な心境になっちゃうよね。既に引退済みとはいえ魔王の力で助かるとか。それにユグドラシル自身が魔王の魔力に拒絶反応を起こさないとも限らないし……うん、止めた方が良い。

 困った時のイース、ロン、パンドラが駄目となると……と目元を押さえていると、少し気まずそうにしながらコンが控えめに手を上げた。



「あー……俺、ヒイズルクニで賢兼に神使の技教わったから……出来ると思う」


「え、マジで!?」


「マジだ。教わった中に、草木を生い茂らせる「弥生」ってのがあるから……多分、出来るんじゃねえかな」



 そう言ってから、コンは「……つっても」と下を向いて呟く。



「本当に出来るとは限らねえし俺も出来るかわかんねえし出来るか出来ないかで言ったら出来るだろうけど不安は不安だしあんまり試したりもしてねえしつか言っちまうとこの技使ったのはファフニールの時の縁結びくらいでしか使ってねえから正直成功するかどうかも確証が」


「はい落ち着けー」


「う、わ、ちょっ!?」



 久々にネガティブスイッチが入っちゃったらしいコンの頭を背伸びして掴んでわしゃわしゃと掻き回すように撫でる。コンってツンデレだけど素直で、その上でネガティブが潜んでるっていうね。

 まあでもお姉ちゃんのお友達に熱血系ネガティブって感じの人居たし、コンは私の愛する嫁だし。なら思いっきり撫でて、私も居るから心配すんなって全力で伝えるだけだ。鼻が利くからこうやって撫でて匂い付ければ安心もしやすいだろうしで一石二鳥。



「コン、いけそうならお願い。成功するしない以前に私達じゃ出来ないし」


「…………それは、そうだけどよ」


「パンドラー」



 もごもごと口篭るコンを見て、私はパンドラに声を掛ける。それだけで意図を察してくれたのか、パンドラは目を伏せたまま笑顔で「成功する未来の確率が一番高いから心配は無いぞ」と答えてくれた。



「だって」


「……パンドラがそう言うなら仕方ねえな!もし失敗してミーヤに迷惑が掛かったらどうしようなんて別にちょっとしか考えてねえけど、パンドラがそう言うなら大丈夫って事だしな!」



 良かったコン復活した。さっきまで垂れてた尻尾が元気に振られてる事から察するに、もう大丈夫だろう。最後に「うん、お願いね」と言ってコンの頭を軽く撫でると、コンは「任せとけ!」と牙を見せて笑った。



「うむ、よくわからんが儂らじゃ出来んしよろしく頼むぞ」


「おう」



 メリーじいさんの言葉に頷き、コンはすぅっと息を吸って喉に魔力を集め始めた。



「……伸びろ、弥生」



 魔力が練り込まれたその言葉が放たれた直後、ユグドラシルの葉が目に見えて変化した。具体的にはざわざわと音を立ててより鮮やかで色の濃い緑へと変化した。



「あ、起きた!凄いわコン!」


「俺が凄いっつーかヒイズルクニの神使の技が凄いんだと思うけど……まあ、どうも」



 照れ臭そうに爪で頬を掻きながらそう言うコンに私も「ありがとね」と言って、コンの首辺りを軽く掻くように撫でる。



「ぐるるるるぅ……」



 目を細めて擦り寄ってくるコンを可愛いなあと思いながら撫でつつ、私はフローラに「どう?」と聞いてみる。



「うん……」



 フローラは根に触れながら、困ったように眉根を寄せた。



「魔力が足りなくて苦しいって。本当なら五十年に一度あるはずの補給がここ二百年も貰えてなくて、どんどん内包してた魔力が失われててとても苦しいって言ってるわ」


「補給?」



 補給って何だろうと思ってメリーじいさんとアルンさんとギルベルトの方を見てみるが、アルンさんは少し考えてから困ったように首を横に振った。ギルベルトは「知らん」と一刀両断だった。せめて考える素振りを見せろ。

 しかし、メリーじいさんには心当たりがあるらしい。「あー……」と呻き声を漏らしながら額に手を当てている。



「……メリーじいさん?」


「父上、知っているのですか?」


「あー、まあ、知っているというか何というか……のう。まあ端的に言うとこの里の長がやるべきアレな感じのアレなんじゃが……」



 目を逸らしながら言うメリーじいさんに、アルンさんが「は?」と額に青筋を浮かべた。



「父上、私はユグドラシルへの補給などという仕事は聞いていませんが」


「わかっとるからそんな目で見るな。儂だって困っとるんじゃから。あとアルンは知っておるじゃろうが、儂は当時の長の娘の婿に……つまり入り婿じゃったから……」


「それが何ですか」



 アルンさんから冷たい視線を向けられたメリーじいさんは気まずそうに、そして少し悲しそうな目をしながら口を開く。



「……儂がそれを教わる前に、妻であるキャロルが死んでしまったからのう……」



 ……だから言いたく無さそうにはぐらかしたのか。



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