人外の羞恥心の低さよ
女王に案内されて通されたのは、地下室だった。
地下室の壁と天井は蔦で出来ていて、床は殆どが地面で出来ている。唯一地面じゃないのは中央、植物で出来たベッドのような、はたまた棺のような何かだった。
「これは妹に……フローラに繋がっているんだ。このベッドの根から最低限の栄養を受け取る事で枯れる事無く眠り続けている」
蔦で編まれて花で彩ったようなそのベッドに触れ、女王はうっすらと微笑んだ。
「妹さん、フローラさんって言うんですか?」
「ん、そういえば言ってなかったな。そうだ。しかし嫁になるんだから呼び捨てで良いだろう。フローラもそっちの方が喜ぶはずだ」
「堅苦しいのは好まないのが花人だからな」と女王は笑った。
「しかしミーヤ、言い忘れていた私が言うのも何だが、嫁になる相手の名を聞こうとは思わなかったのか?」
「いや正直言って名前が無いって事が多くって。イースとアレクとローラン以外は私が名付けたんですよ」
「え、僕の場合確かにもじってはいるけど名付けたのはミーヤだよ」
「あ」
そういやそうだった。
いや、正直言ってアレクをアレクって呼ぶのが定着し過ぎて元アレキサンダーだって事を忘れるよね。アレキサンダーだったりアレックスだったりアレクだったりと名前も多いし。今はアレクで固定だけど。
「まあその、魔物は基本的に名前が無いっぽくて、だから名無しが基本なんですよね」
「そうか。そういえばユニコーンも個別の名は無かったな」
「特に不便にも思わなかったから気にした事も無かったが、成る程、そういう感じか」と女王はふむふむと頷いた。
「というかミーヤ、何を入り口付近でまごついている。こっちへ来い」
「あ、近付いて大丈夫なんですね?」
「当然だ」
いやだって何も言ってくれないから花人や木人でも無い私達が近付いて良いのかわかんなかったんだよ。やっぱ花人って獣人みたいに言葉が足りてないトコあるよね。
「ああ、そうそう」
ふと思い出したように女王が言う。
「フローラは今全裸の状態だが問題無いな?」
「大有りですよね!?」
近付こうとする足が止まるわ!
「……何故全裸?」
怪訝そうにそう言ったノアの言葉に同意の意味でコクコクと頷くと、女王は自分が着ているドレスを茶色の細過ぎる指で示した。
「私が着ているドレスは花で作られた物だ。というか基本的に花の国ではそれがメインでな」
「要するに長持ちしないんだ」と女王は言った。
「長持ちしないというのは、枯れるという事か?」
「そういう事だな」
ハイドの言葉を肯定し、女王は「しかし寝ているフローラに新しい服を着せるのは重労働だった」と続ける。
「そして最終的に、そもそも服を着るのは私達を作ったという勇者が服を着るようにと言ったらしいから着る習慣があるだけで、別に羞恥心があるわけでも無いから良いかと判断した。植物だからな」
「だから私達としては問題は無いんだが」と女王はこっちに視線を向けた。
「……そんなに気になるものか?」
「そりゃまあ」
頷くと、女王は「ふむ」と顎に手を当てた。
「まあ考えようによっては夫となるミーヤの発情を促せるという利点がある、という事で良いか悪いかで言ったら「良い」だろう。気にするな」
「男女のアレコレとかも気にして!?」
確かに私女の人も全然守備範囲内だけど!男性陣も居るんだからそこ気にして!
「あー……俺ら、一応壁の方向いとくか?」
「そうだね、そっちの方が色々問題無いだろうし」
「ミーヤ様もそれで良いと思うか?ですか?」
コンとアレクとヒースの配慮に「助かる。ありがとう」とお礼を言うが、
「……我はミーヤ以外に興味が無いから気にならないが」
「儂も正直ハイドに同意だな。番以外に発情はせん」
「同じく」
「俺もハイド達に同意見。ミーヤ以外の全裸に興奮はしないってか出来ないし」
ハイドとロンとパンドラとローランの言葉に頭を抱えた。
……うーん、ロンとパンドラは結構常識人側だと思ってたんだけど、そっか、人外度も高かったか。というか元人間なアレクと人間なヒースが顔背けようとしてるのに、人間のローランは特に興味無しってのもどうよ。いやしかし下心満載で見ようとするよりは、マシ……なの、か……?
駄目だわからん。よし、思考を放棄しよう。
「とりあえずフローラ本人が羞恥心覚えないかどうかは不明だから、性別が男組は壁の方向いててくれるかな」
「あ、そっかそっちの問題あったか」
意外とすんなり納得し、「りょうかーい」とローランは壁の方を向いてくれた。そしてこの件であまり粘っても意味は無いと判断したのか、ハイド達も壁の方に視線を向けてくれた。うん、ありがとう。
無事男性陣の視線も無くなった事だし、と蔦のベッドに近付くと、ベッドの上には女王に似た女性がすやすやと眠っていた。
……しかし、
「……何か、手と足がベッドに埋まってるように見えるんですが」
「花人の手足は植物で言うところの根だからな」
成る程、そういやさっきベッドの根から栄養確保してるみたいな事言ってたね。自分の根をベッドに埋め込んで、そしてベッドの根を土に埋め込む事で最低限の栄養を補給して……うん、人間にはこれ以上の事はわからん。私生物とかの成績も良くないし。
「それよりもミーヤ、もっと言うべき事はあるだろう夫として。フローラの美しさとか愛らしさとかフローラの全裸に欲情するかどうかとか」
「ラスト要ります!?」
「欲情しないよりは欲情した方が良いだろう。ユニコーンは嫌がるだろうがな」
ああ確かにユニコーンは嫌がりそう。体質的に。
「……とりあえず、私の顔が真っ赤になってるトコから察してください」
「つまりフローラに欲情出来るという事だな?良かった」
良かったで済む事なのか甚だ疑問ですけどね!?姉が妹の夫になる人に対して妹の全裸で興奮するかどうかを気にするっておかしいと思うの!人外相手に言っても人間の感覚視点だから通じない可能性高いだろうから言う気無いけど!
でもフローラが美人なのは確かな事実だ。
眠っていて瞳の色はわからないけど、白い肌に緑の髪。休眠状態だからか髪には一輪たりとも花は咲いてないけれど、耳の部分には耳代わりなのかピンクの花が咲いている。ちなみに顔は女王に似て綺麗系だけど、その寝顔からは可愛い系の雰囲気も漂ってて……うん、美人。
しかし体型云々についての詳しい描写は勘弁して欲しい。結構おっきいおっぱいがぽよんとしてて腰がきゅっとくびれてて太ももはいやらしくない程度にむっちりしてて男性受けしそうなボディですねとしか言えん。これ以上はちょっと、流石に同性の異種族だろうとセクハラになってしまう。
「ではフローラの起こし方だが、フローラに触れて魔力を少し強めに流してやれば起きる。そしてソレはミーヤがやれ」
「え、私ですか?」
「起きる時に夫の魔力を使われた方がフローラもミーヤの魔力に馴染みやすいだろう。どうせ外に出るなら従魔契約をしておかないと植物系の魔物だというカモフラージュは出来んからな。いっそ先に契約してしまうか?」
「いや流石にそれはちょっと!」
「本人の同意無しでやるのはちょっと!」と言うと、女王は「そうか、それならそれで良いが」と頷いた。
……女王、フローラの事を色々気にしてはいるっぽいんだけど、変な所で雑というか大雑把な気が……。それも花人の特徴なんだろうか。
「ええっと……じゃあ、失礼します」
よいしょを身を乗り出して、眠っているフローラの頭を撫でるようにして触れる。そして強めに魔力を流そうとすると、その瞬間に向こうから吸い取られるような感覚があった。あ、コレ身に覚えがある。ノアの時もこんな感じだった。
「…………ん……」
結構多めに魔力を取られたなと思っていると、フローラに動きがあった。
睫毛を震わせてゆっくりと上半身を起こし、ベッドの中に取り込まれていた腕をするりと抜き取って「うう~ん……」と背筋を伸ばした。
「……うん?」
背筋を伸ばす事で意識が覚醒したのか、フローラはすぐ隣に立っていた私をその綺麗なピンク色の瞳に映した。
……女王はキリッとした目だったけどフローラは垂れ目なんだね。
少しの間私を見て「うーん、うん?」と不思議そうにしていたフローラだったが、すぐにその頬は瞳のようなピンク色に染まり、口角は嬉しそうに上がった。
「素敵!」
「うおわっ」
勢いよく抱きつかれ、お腹の辺りにむにゅうとしたおっきいおっぱいの感触が伝わる。
良かったフローラが座ってて。そうじゃなかったら支えきれずに倒れてたかもしれん。というか本当に抱きつかれるのに慣れたな私。全裸女性に抱きつかれてるのに受け止めれるとは。
フローラはぎゅうぎゅうと私に抱き着きながら、「とっても素敵だわ!」と嬉しそうに言った。
「貴女がわたくしを起こしてくれたのね?だってわたくしを起こす時に流れてきた魔力と同じ魔力だもの!やっぱりわたくしが思ってた通り、わたくしを起こしてくれるのは王子様だったのね!」
嬉しそうにそう言うフローラの緑の髪に様々な花が咲いていくのを見ながら、私は小声で「王子では無い、かな……」としか言えなかった。いやだって私女ですし。王族でも無いわけですし。
「いや、女王である私の妹の夫になるんだ。広義的には王子でも良いだろう」
そんなアバウトに王子名乗れんです。広義的過ぎる。
「しかし小輪のヒマワリに桃にイチゴにピンクのコチョウランに青いバラに赤いバラのつぼみに……アレはチグリジアか。ピンクのナデシコに白のキキョウまで咲くとは……私の想定以上にフローラの好みだったのか?」
待って女王様、小声で言っても聞こえるんだけど今何て?花?花の名前言った?もしやフローラの髪に咲いた花の名前だったりするの?まさかとは思うけど咲いた花の花言葉とかが関係あるとか?駄目だ私花言葉系はあまり詳しく無いせいでまったくわからん。そもそも花の区別もあんまり付かんタイプなんじゃよ私。
「えーっと、フローラ?私は王子様じゃなくて、ミーヤっていう名前の人間でね」
「ミーヤ」
「うふふ、ミーヤ、ミーヤね」と言ってつぼみが綻ぶように微笑み、フローラはより一層力を込めて私の事を抱き締めた。
「あの、フローラ」
「何かしら?」
私を見上げて首を傾げるフローラに、私は言う。
「えっと、私は魔物使いなんだ。それで周りに居る女王以外の人達は全員私の従魔であり嫁であって、そんで今ちょっと色々あって」
「端的に言ってだなフローラ、お前はそこのミーヤに嫁げ」
女王!?ソレ端的に言い過ぎじゃない!?確かに私の言葉がまったく纏ってないのも悪かっただろうけどソレは短く纏め過ぎな気がする!
「ミーヤのお嫁さんになれるの!?」
わあ嬉しそう。
「……フローラとしては良いの?その、私嫁がいっぱい居るんだけど」
「ミーヤは奥さんが沢山居たらわたくしの事を愛してくれないの?」
「いや全力で愛するけど」
「なら問題無いわ」
無いんだ……。
何かもう、日本人的な考えでちょっと戸惑う私の方がおかしいんじゃないかって気になってくるよね。
「でも、その、事情的にフローラには私の従魔になってもらう必要があって」
「良いわよ?」
「良いの!?」
「お姉様が許可を出してるなら大丈夫だと思うもの」
にこにこと笑っているフローラの表情に嘘偽りはまったく無く、そして心配してる様子も皆無だった。
「……それに、ミーヤの愛はとっても心地良いわ。起こす時の魔力だって優しかったし。心配する必要なんて何も無い事くらい、わかるのよ」
「花人はそういうの、聡いんだから」とフローラはくすくす微笑んだ。
……そうね、獣人もわりとそんな感じだったもんね。なら花人もそんな感じだよね。うん、理解した。人間的には理解出来ない何かで理解してるんだろうという事を理解した。オッケー思考放棄だな任せろ。
「プロポーズは無事に終わったみたいで何よりだけどぉ……ミーヤもフローラもぉ、もう少し自分達の様子を顧みたらどうかしらぁ?」
「え?」
イースの言葉に何かあったっけとフローラを見る。フローラはきょとんとした顔で見上げていて……そしてそこで、フローラが未だ全裸であった事を思い出した。
「そうだ服!服着て!?私ってばその事すっかり忘れてハグしてたよ!」
抱き締められたからって普通に抱き返してたけどもうちょい早く気付けや私!そりゃ背中に直に触れるって言うよりも長い髪に触れてたって感じだったから忘れてても仕方ないけど!ああもうこのポンコツ頭め!一度に一つまでしか覚えとれんのかこの頭は!
しかしフローラはそんな私を見てもきょとんとした表情のままだった。
「確かに服が無くなってるけど……植物だものね。長い間寝てたら枯れるのは仕方が無いわ」
「いや、あの、恥ずかしいとか」
「どうして?」
そうね普通植物は服着ないもんね服着てる方が違和感だよね!でも外の世界では全裸は基本的にアウトなんですよ社会的に!
「仕方ないわねぇ」
私の様子を見てイースは眉を下げて微笑み、フローラに話し掛ける。
「改めて始めましてぇ、フローラ。私は貴女の嫁仲間のイースよぉ。……とりあえずぅ、ミーヤの好きそうなデザインを教えてあげるからそういう服に着替えなぁい?」
イースの誘いに、フローラは満面の笑みで髪から花を零しながら「着替えるわ!」と返答した。
本当は全裸で眠ってる上にキスしないと目覚めない設定のつもりでしたが、キスでの目覚めはノアでやったし……と全裸だけが採用に。植物系女性を脱がしたくなるのは皆共通のはず。




